第12話 コスプレ衣装(ギャルside)
「ね、翼、文化祭のコスプレ衣装ってもう決めた?」
昼休みになった途端、愛梨沙がそう話しかけてきた。
最近は休み時間になるとすぐ彼氏のところへ行っていたのに、珍しい。
「まだだけど。愛梨沙はもう決めたの?」
コスプレ喫茶をやる、ということは話し合いで決まった。
しかし、まだ詳細が決まったわけじゃない。
コスプレをする人数やメンバーも未定である。
「私はねー、ナースとか! どうかなって。似合いそうだって言われたし」
「……彼氏に?」
「そう!」
そうかなあ? なんて言いつつ、愛梨沙はにこにこと笑っている。
どうやら、まんざらでもないらしい。
「うん、まあ、似合うんじゃない?」
「ちょっと! 適当すぎ!」
「いや、だって、私の意見聞きたいわけじゃないんでしょ?」
「でも話は聞いてほしい!」
正直で分かりやすい返事だ。
私が黙っていると、どれがいいかな? と通販サイトのお気に入り画面を見せられる。
丈の短いいかにもコスプレ用のナース服から、本物の看護師が着ていそうなナース服まである。
「そういえば、翼は何にするかもう決めたの?」
「いや、全然、決めてない」
コスプレをしたくないわけではない。というか、むしろしたい。
私は可愛い服が大好きなのだ。
でも、いちごとしてじゃなくて、天野翼としてコスプレするって思うと、なかなか決められないんだよね……。
「男装とかは?」
「え?」
「翼、背高いし、髪短いし。結構似合うと思うけど」
「男装か……」
目を閉じて想像してみる。興味がない、ってわけじゃない。
だけど……。
私、可愛くて、女の子っぽい服が好きなんだよね。
そういうの、あんまり私らしくないのかもしれないけど。
「それか、セクシー系とかは? 女教師とかみたいな!」
「うーん……」
やっぱり普段の私のイメージって、私が好きな可愛いとは違うんだ。
別に、それが嫌ってわけじゃないし、そういうイメージにのっかっちゃうのもありだと思う。
「どうしよっかな〜」
なんとなく横を向いた瞬間、委員長と目が合った。
いつも通り、すぐに逸らされてしまったけれど。
「……あの」
委員長の声は小さかったけれど、はっきりと聞こえた。
私も愛梨沙も話をやめて委員長の方を向く。
実行委員を通じて、委員長とは普通に喋るようになった。
でも、愛梨沙と話している時に話しかけられたのは初めてだ。
「ごめん、うるさかった?」
「いえ、そうじゃなくてその、私……」
委員長は少しだけきょろきょろした後、覚悟を決めたように深く頷いた。
「天野さんには、もっと可愛らしいコスプレが似合うと思うんだけど」
「……え?」
「コスプレなら髪はウィッグでどうとでもなるし、ショートだって可愛い服は似合うと思う。
ヘアアレンジができなくてもカチューシャとかヘッドドレスをつけたら可愛くなるし。
金髪っていう要素を活かすなら、アリスとかもありだし、普通に天野さんは顔が可愛いから甘ロリ系も……」
そこまで言って、委員長は急に話すのをやめた。
そして、一気に委員長の顔が真っ赤になる。
え!? なに、今の、オタク特有の早口みたいなやつ……。
それに委員長、ヘッドドレスとか、甘ロリとか言ってたよね?
そういう言葉って、ロリータ好きじゃない人も分かるんだっけ?
「委員長、めっちゃ喋るね!」
おかしくてたまらない、とでも言うように愛梨沙が大声で笑う。
そのせいで、委員長は教室中の視線を集めてしまった。
どうしよう、委員長、こういうの苦手なんじゃないのかな。
私、何か言うべき?
悩んでいると、委員長が勢いよく立ち上がった。
「と、とにかく私は、天野さんには可愛い系のコスプレが似合うと思う! それだけ!」
委員長は真っ赤な顔で叫ぶと、そのまま教室を出て行ってしまった。
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