第15話 委員長の待ち受け(ギャルside)

「ちょっと待って、いったん落ち着こう」


 慌ててトイレへ駆け込み、鏡に映る自分にそう言い聞かせる。


 さっき、一瞬、ちらっとだけ、委員長のスマホの待ち受けが見えた。


「あれ、どう考えても、昨日の私だよね?」


 昨日はなんだか浮かれていて、配信をする時間はなかったけれどお気に入りの洋服を着た。

 委員長に、可愛い服が似合うと言われたから。


「私だって気づいて……はいない、よね?」


 気づいていれば、さすがにもっと気をつけるなり、私に直接言うなりしていただろう。

 でも委員長はそうじゃない。

 だからまだ委員長は、私がいちごだとは気づいていないのだ。


「どうしよう……」


 コスプレをするなら、いつものようにいちごになろうと思っていた。

 いちごは配信者といってもフォロワー数はかなり少ないし、知っている人はいないだろうと。


 だから私がウィッグをかぶってコスプレをしても、いちごだ、なんて思われないはず。


 そう思っていたけど……。


「絶対、委員長にはバレるよね?」


 スマホの待ち受けにしているのだから、委員長は相当いちごが好きなはずだ。


「ちょっと待って、じゃあ、LINEのアイコンとプロフィール画像も……?」


 委員長は結構本気で、いちごちゃんが好きってこと?


 配信や画像はいつも加工を通している。

 とはいえ、全くの別人になれているかは怪しい。


 声とか喋り方だって変えてるけど、でも……。


 委員長にバレたらどうなるんだろう?

 委員長はみんなに言いふらしたりはしない。それは確かだ。


 いちごが私だって分かったら、がっかりするのかな?

 それとも、いちごが近くにいて嬉しいのかな?


「分かんない、けど……でも、やだな」


 もし今私がいちごだとバレてしまったら、きっと、委員長は私のことをいちごとして見るようになってしまう。


 天野翼っていう一人の人間じゃなくて、いちごっていう可愛い偶像として。


 それは嫌だ。

 だってそうなってしまったら、私は私として、委員長と関係を築けなくなってしまうから。


「うん、よし、教室戻ろう。コスプレもウィッグは使わずに地毛で、可愛くしつつも雰囲気はいつもと変えて……」


 脳内でいろいろとシュミレーションをし、大きく深呼吸する。


 よし、大丈夫。

 ちゃんと、私がいちごだって隠せるはず。





「お待たせ、委員長」


 ちら、と教室の時計を見る。もうすぐ、朝のホームルームが始まる時間だ。


「大丈夫?」

「あ、えっと、大丈夫! お腹痛くなっちゃったんだけど、トイレ行ったら治った!」

「そう、よかった」


 委員長が薄く微笑む。

 その顔をじっと観察してみた。


 委員長って何気に綺麗な顔してない?

 パーツ配置のバランスがいいし、鼻とか綺麗だし……。


 眼鏡の度ってどのくらいなんだろう?

 外したら、がらっと印象が変わったりする?


 委員長のコスプレ、どんどん楽しみになってきたな。


 委員長オタク気質があって、その上私のオタクだなんて、ちょっと前まで知らなかった。

 たぶんまだ、委員長にはいろんな面がある。


 文化祭を通じて、それが分かるといいな。


「それより、なんかいいのあった?」

「うん。これとかどうかな」


 委員長が見せてくれたのは悪魔のコスプレだ。

 私が見せた天使のコスプレとは対になる。


 それにしても委員長って、白い服好きなのかな。


 待ち受けにしてたいちごも白いワンピースだし、私が見せた中だと天使のコスプレが好きっぽいし……。


 そういえば、ストロベリーナイトさんも、白い服が特に好きだよね?


 いやいや、まさか、ううん、さすがにそんなはずはない。

 委員長が私の一番の古参オタクだなんて、そんなの、さすがにないよね?

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