第4話 いちごちゃんの秘密②(ギャルside)
「みんな、いちごちゃんだよ〜!」
満面の笑みを作り、スマホのカメラに向かって手を振る。
コメント欄を見るために、横には大きめのタブレットを設置済みだ。
「今日もいちごに会いにきてくれてありがとう!」
こんばんは、とか、いちごちゃん可愛いよ、なんてコメントが流れる。
それに安心しつつ、私はいつも通りの挨拶を続けた。
「苺の国のお姫様、みんなに癒しを届けるいちごちゃんだよ!」
何を言っているんだ? と冷静な部分で考えないわけじゃない。
でも、好きなお洋服を着て、いつもと違うキャラクターになるのは楽しい。
「今日の服はね〜、こんな感じ!」
立ち上がって、その場で一周まわる。
せっかくの可愛い服はちゃんと見せたい。
私が配信を始めたのは去年、高校一年生の時だ。
バイト代で初めてロリータ服を買って、その勢いで配信も始めた。
昔からロリータ服に興味はあったものの、中学生のお小遣いでは買えなかったのだ。
親にねだれるような裕福な家庭でもない。
初めて買ったワンピースは、今でもお気に入りだ。三万五千円くらいして、バイト代の大半が飛んでいったけれど。
「今日もみんなとお話ししていこうかなって。いちごちゃんに聞いてほしいことある?」
『今日のお洋服どこのなの?』
『今日も可愛い!』
『仕事辛かった慰めて』
いろんなコメントが画面を流れていく。
「このお洋服はね、アンジェリックメルティーってブランドの! 原宿で買ったよ。お仕事、今日も頑張って偉いね! いちごが褒めてあげる!」
スマホに近寄って、頭をよしよしする真似をする。
『ありがとういちごちゃん! 元気出た!』
さっきと同じ人からのコメントだ。そして、ただのコメントじゃない。
500円のスパチャ付きコメント。
サイトを利用しているから、スパチャが全額私のお金になるわけじゃない。
7割だ。つまり、500円のスパチャなら350円。
「わ! けんけんさん、スパチャありがとう!」
配信を見てくれる人の中でも、スパチャをくれる人は稀だ。
だから、大切にしないと。
お金のために配信を始めたわけではないけれど、金銭的にはかなり助かる。
それに、お金を払ってくれるほど好きでいてくれているんだと思うと、単純に嬉しい。
『いちごちゃん、私も褒めて。今日も勉強頑張ったよ!』
5000円のスパチャ付きメッセージだ。
「わあ! ストロベリーナイトさん、いつもありがとう!」
大袈裟なほどの笑顔で礼を言う。5000円なんてかなりの大金だ。
アイドルでもなんでもない私にこんなにスパチャをくれるのは、一人しかいない。
ストロベリーナイトさん。
フォロー数1の、私のためだけのアカウント。
配信は欠かさず見てくれるし、SNSに写真をアップロードした時もすぐに反応をくれる。
「ストロベリーナイトさん、今日もお疲れ様! いつも勉強頑張って偉いね。いちご、ストロベリーナイトさんのこと、いつも応援してるよ!」
スパチャ額に見合った対応をする。当たり前のことだ。
それに、ストロベリーナイトさんには本当に感謝している。
配信初心者の時から熱心に応援してくれてるの、この人だけだもん。
「でも、無理は禁物だよ? 疲れたら、いちごちゃんが癒してあげるからね!」
先ほどと同じように、よしよし、と頭を撫でる真似をする。
『ありがとういちごちゃん、私まだ生きていけます』
「まだとかじゃなくて、ずーっとだよ? いちご、ストロベリーナイトさんがいなくなっちゃったら泣いちゃう!」
『本当にありがとう……』
今度は1000円のスパチャ。
ありがたいけれど、少しだけ心配になる。
コメントからして学生っぽいけど……大学生なのかな? お金もあるみたいだし。
ストロベリーナイトさんって、どんな人なんだろう?
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