33.聖女認定
謁見の間の扉が開き、レイフ・エメリー伯爵を先頭にフレデリカ、レオが続いて入る。
両側に貴族が並び立ち、最奥の少し高い場所にアルバート王が玉座に座っている。
奥へ進むとヒソヒソと声が耳に入る。
「あれが聖女か」「やけに美人だな本当に聖女なのか?」「隣の若い男はなんだ」「どーせ大した事ないだろう」など、ネガティブな意見が多い。
まあ良い、フレデリカ様が力を見せればすぐに黙るだろうとレイフは思うのだった。
アルバート王の御前で3人、頭を垂れる。
「よく来た、わしがプログレイス国王、アルバート・グリーブスである。エメリー伯、そしてその方ら、面をあげよ」
気怠そうなその言葉で顔を上げ、アルバート王を見る。
王冠を被り、年の頃は40代後半といったところ、内臓がやられているのだろうか、目元は窪み、疲れが見え、声には張りが無く、淀んだ金色の髪と蓄えられたヒゲは年齢よりくたびれて見える。
「うむ、今日は聖女として相応しい者が見つかったと聞いておる、詳細を伝えよ」
「はい、本日はお時間を頂きありがとうございます。我がエメリー街でこの聖女フレデリカを見出しました。その力は素晴らしく、欠損した身体を再生させ、病気を治し、活力をもたらすそのスキルは既存の【治癒】や【浄化】を超えるものであります。私の知る限りにおいては効果を確認出来なかった者はおりません」
レイフがアルバート王だけで無く、この謁見の間全ての者に聞かせるようにフレデリカの能力を説く。
だがアルバート王は特に興味も無さそうに言った。
「ふむ、それが本当であれば非常に頼もしいのであるがな、フレデリカよ、その力を証明してみせよ」
まさかアルバート王自ら力の証明を求めてくるとは、レイフ達は周りの高位貴族達によって引き伸ばしされると思っていたのでこれは想定外ではあったが、強引に力を行使するより大義名分を得ているほうがやりやすいのは言うまでもない。
驚いたのは高位貴族達も同様であった、まさか直ぐに力を行使せよと王が命令するとは思わなかったからだ。
ザワつき、引き伸ばしのため王へ意見を述べようとする迄の間に、フレデリカは即座に反応した。
「アルバート王、私がエメリー伯爵から紹介のありましたフレデリカと申します。今から癒やしの力を行使させていただきます」
言い終わると杖を構え、制止を掛けられる前に【聖女の癒やし】を発動させた。
まず杖が光を放ち、フレデリカが眩しく光り、その光がアルバート王へと、そしてフレデリカを中心として貴族全員を光で包み、それぞれの身体が光輝き出した。
傷が再生し、病気が癒え、活力が溢れてくる、それを受けた者は否が応でもフレデリカの力を実感するのであった。
そしてフレデリカも回復させた人数や症状に応じた消耗をしていた。
しかし、やはり欠損などの再生と比べると病気などを中心とした今回は明らかに消耗が少なかった、とはいえ対象人数が多く、20人近い事もあり、立っていられず、意識が朦朧としていた。
光り輝いている最中、レオが直ぐ様駆け寄り恋人繋ぎで手を握り回復に努める、レオのプレゼントである指輪を通じていつもより回復効果が上がっているのを感じた、その為意識はすぐにハッキリと戻り、生気を取り戻した、それは想定外の回復効果増強であった。
フレデリカはあえてレオの手を離し、しゃがみ込んで消耗しているように見せかけた。
その一連の行動は貴族達には光の中で眩しく、またフレデリカも大きな光で包まれているために外からは見えなかった。
光が収まり始めた頃、騒ぎが起こっていた。
傷や病気などが癒え、活力に溢れたのだ、特に年老いた貴族は若返ったようにすら感じたかも知れない。
感動に打ち震えた貴族がフレデリカに駆け寄ろうとしたその時だった。
「静まれ!王の御前であるぞ!」
レイフ・エメリー伯爵の一喝で時間が止まったかのようにシン…と静寂が訪れた。
「アルバート王、これが我らの聖女の力になります。ご覧いただけたかと思います、どうでしょうか」
王は頷いた、先程までとは違う活気漲る表情で、その顔は生気に溢れ、赤みが差してまるで別人のような凛々しい顔になっていた。
「うむ!その力はまさに聖女たるに相応しい!わしもすっかり体調が良くなった、身体に抱え込んだものが全て吹き飛んだように感じておる、それに元気が溢れてしまいそうな有り様じゃ。他の者はどのような具合か、述べて見よ」
王は他の貴族達がどのようになったのか、感じたのか、尋ねた。
そして王が聖女たるに相応しいと言ってしまったので正当な理由なく反対意見は述べにくくなった。
「は、僭越ながら私めが」
そう言って話し始めたのはハロルド・ピアース公爵だった。
ハロルドは年老いており、年齢は60を超えて隠居が囁かれていた。
「聖女フレデリカ様、私はハロルド・ピアースと申します。若い頃の無理が祟り、腰が曲がって杖無しでは歩けませんでした、また体内に複数の病魔が潜み、毎日が苦痛の連続でした。しかし、聖女様の癒やしを受けて、このように杖無しで立ち、体内も浄化されたように感じます、またここ何年と感じた事のない活気に溢れており、まるで若返ったかのようです。フレデリカ様、あなたこそ聖女です、感謝いたします」
それはつい先程まで腰が曲がり杖をついたヨボヨボの老人とは思えなかった。
その変わり様に他の貴族達も、王も驚くしかなかった。そしてこれほどまでに説得力のある事は無い。
何か文句をつけようにも、アルバート王とピアース公爵にまで気に入られた者をここで敵に回す事は愚かな行為であった。
◇◆◇
「ところで、聖女フレデリカ様はどうなされた、具合が優れないのではないですか?」
しゃがみ込むフレデリカを気遣って、ハロルドは声を掛けた。
アルバート王も気になった様子でエメリー伯爵に声を掛ける。
「エメリー伯よ、聖女はどうしたのだ」
レイフは待ってましたとばかりに解説を始めた。
「はい、聖女様のこの強い力にも一つだけ問題点がありまして、見ていただければ分かりますようにその規模や症状の度合いによって聖女様自身が消耗してしまう事があります。しかしご安心下さい、古くからの文献などにも有るように聖女が心を許した聖騎士がそばにいればそれも回復が可能です。そして、こちらが聖騎士候補のレオ殿になります」
レオが姿勢を正し、一歩前に出て自己紹介をする。
「アルバート王、お初にお目にかかります。レオと申します。私であれば、いえ、私でなければ聖女フレデリカを癒やす事は出来ません。今からそれをご覧にいれましょう」
そう言って振り返り、腰を落としてフレデリカの両手を握る。
すると銀の指輪が淡い光を放ちはじめ、それはいかにも回復効果を表しているように見えた。
今しゃがみ込んでいるのは演技ではあるのだが、手を握る事で生気が流れ込み、活力が溢れるのは事実である、フレデリカも活力が漲り、ゆっくりと立ち上がる。
「ありがとう、レオ」
聖女モードの口調で一声だけ発し、アルバート王を見る。
「このように聖女フレデリカ様が心を許した者の接触によってのみ聖女を癒やす事が可能となっております。そしてこのレオは剣にも優れており教養もあり、聖女のそばにいるだけの資格は十分です。よってこのレオを聖騎士候補として推薦したいと思います」
「ふむ、レオを聖騎士に、聖女フレデリカはそれで良いのだな?」
「はい、お、私の聖騎士はレオを置いて他にありません」
瞳に強い意思を込めて、王を見据えて断言した。
王は頷き
「うむ、分かった。まずは聖女フレデリカを正式に聖女と認定するとしよう、この後に聖女認定の儀式を行う。聖騎士についてもレオを聖騎士とする、そちらについては追って連絡する。聖女に聖騎士よ、下がって良いぞ。聖女フレデリカよ、感謝する」
◇◆◇
こうしてフレデリカは晴れて聖女として、聖女認定の儀式が行われた。
それを反対する者はおらず、全会一致だったという。
ただし、聖騎士については一悶着あり、レオを聖騎士にする事は決まったがそれとは別に聖女親衛隊を創設する事になった。
聖女も聖騎士も全てエメリー伯爵の手柄という事や、今後の聖女の活動において全く関与出来ない事を貴族達が難色を示したのだ。
そしてその親衛隊に自分たちの息子を参加させて、聖女陣営に入り、あわよくば聖女と親しくなり、聖騎士になり、自分の領地へ聖女を招き入れたいという思惑だった。
こうなってしまった以上、今後は聖女利権の奪い合いが発生するからフレデリカもレオも気を付けるように、とレイフは忠告するのだった。
聖女認定の儀式から既に10日経ってやっと、聖騎士認定の儀式が行われる事となった。
聖女フレデリカが聖騎士レオを直接認定する、という儀式である。
認定後、続けざまに聖女親衛隊の結成が行われる事となっていた、それは聖騎士と同様にフレデリカが7名の親衛隊を直接認定する形であり、形式上は聖騎士の方が立場は上になるものの聖女の下につく組織となる、つまり聖騎士と同様にフレデリカの指示・命令によって動くと言う事である。
親衛隊の貴族の息子連中は始めは聖女とはいえどこぞの村娘の下につく事を嫌がり、愚痴っていたのだが、フレデリカと顔を合わせてすぐ態度が豹変し、好意の度合いは様々であったが皆一様にフレデリカを気に入り、良い意味でも悪い意味でもやる気に満ちていた。
フレデリカからすれば迷惑そのものだったが。
民衆への御披露目式が間近に控えており、それまでは公に力を使う事を禁じられていた、それゆえ聖女親衛隊の面々はまだフレデリカの力を目の当たりにしておらず、ただフレデリカの容姿と所作、物腰などの見た目だけで判断されている事も快く思わない原因の一つだった。
かと言って、力を見てから気に入られてもそれはそれで扱いに困るとフレデリカは思っていた。
そしてフレデリカは思っていた。
ここまで成り行きで来てしまったけど、聖女と聖騎士になる事できっと有名になる、それも自分達が想像していた以上の存在へと、そうなれば名を上げるという目標が達成され、男に戻るという目的に明確に進む事が出来る。
以前であればそれは嬉しいはずであったが、今となっては男に戻るという事はこの関係を終わらせる事になる。
だからその件には触れないでいた、あくまでも男に戻るという目的で俺達は動いているけど、それを口にしたくない、そういう心情だった。
そしてそれは、レオも全く同じ気持ちであった。
そして、民衆への御披露目式の前日となった。
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