25.気持ちの変化
翌朝、男性組と女性組が食堂で顔を合わせる。
フレデリカは昨夜の事を思い返し、朝から気が重く、レオと顔を合わせたくなかった。
メンバーが座ってるテーブルに座るがレオと目を合わせられなくて、視線を逸してしまう。
早々に食事を済ませて席を立とうとするとレオが声を掛けてきた。
「フレデリカ、何処か調子でも悪いの?」
レオは優しい、いつも俺を見てくれている、今だって1人で勝手に気が重くなってて目を合わせられないだけの俺を気遣ってくれている。
ずっとこうだったのだろう、俺が気付かなかっただけで。
「あ、ああ、大丈夫、なんでもない。ちょっとボーッとしてただけだ」
適当にはぐらかし、席を立つ。
「そう?なら良いけど、でも調子が悪くなったら直ぐに言ってね」
「ん、さんきゅー」
俺は1人では何も出来なくて、ずっとレオの足を引っ張っている。
そしてそれが分かっても、レオと離れたくない。
図々しくて我が儘な自分が嫌になる、情けない、だけど、それは本心だ。
だから今この瞬間にもレオの隣に立つ、其処は俺の場所だとばかりに。
するとレオが手を差し出してきた、まるで手を繋ごうとでも言うように。
ドクンと心臓が高鳴る、ただレオに手を差し出されただけで、まだ手も繋いでいないというのに。
昨日の夜に気付いてしまったからだろうか、だから余計に手を繋ぐという今までは特に、……いや、少しだけ心臓の鼓動が早くなる行為に、さらに緊張感を感じてしまうようになっている。
「……」
フレデリカは黙ってレオの手を握ると、今までより強い生気の活性化を感じた。
今まで何度も手を繋いで来た時とは比較にならない程に。
パーティ参加時にメンバーとは一通り握手をしていて、その時は全くそれを感じなかった。
その時に初めてレオとだけの特別な現象だと気付いた。
フレデリカはその時は何も感じなかったが今は違う、それはレオのとの間だけで起き、まるで自分のレオへの想いに比例するかのように強くなり、活力がみなぎる。それが嬉しく感じる。
思わず避けていたはずのレオを見上げる、するとレオも驚いた顔でフレデリカを見ていた。
レオも初めての感覚に驚いていたのだった。
調子の悪そうなフレデリカを見かねて手を差し出したが、今までは手を繋ぐと少しの生気の減少を、活力の減少を感じていた。
しかし今回は違う、手を繋ぐと疲労などは無く、逆に活力が増している。
こんな事は初めてだ、これならいつまででも手を繋いでいられる。
「なんだか僕も元気になれたよ、初めての感覚だ」
レオは握っている手を眺めそう言った。
その言葉にフレデリカは驚く、まさか自分の想いが自分だけでなくレオにも良い影響を与えたのだろうか、だとすれば凄く嬉しい事だ、どんな形でもレオの力になれれば、自分が隣にいる意味が見出だせる。
「昨日何かあった?」
「いや、何もないよ」
フレデリカは首を横に振り否定する、もちろん嘘だ。
言えるわけが無い、俺の気持ちなんて、レオへの想いに気付いてしまったなんて。
俺達が冒険者になった理由も村を出た理由も、全ては男に戻るという目的がなければ今此処には居ない。
だから俺がもしこの気持ちを言ってしまったら、気付かれてしまったら、全ては終わってしまう、全てが無駄になってしまう。
それにレオからすれば、迷惑、そして気持ち悪い事この上ないだろう。
親友だからと優しく、見守って、助けていたやつが、そんな気持ちで自分を見ていたなんて、そんな気持ちで接されていたなんて知ったら、一緒に冒険どころか友達すら、いや、見たくもないだろう。
だって俺は、本当は男、そう、身体は女でも男なのだから。
だから俺はこの気持ちを隠す、レオにだけは気付かれてはいけない。
今まで通り振る舞い、隣に立つ。それだけで十分に幸せじゃないか。
俺が男に戻るまで、それまではレオの隣を独占したい。
◇◆◇
見つめ合い、2人の世界に入っていたところへ、パンッ!と手を叩く音が鳴り響く。
「おい!そろそろクエストに出発するぞ!」
リーダーのフェルナンドである。
2人は我に返り、手を離す。
「レオ、お前なあ、今からクエストだってのにイチャイチャすんなよ」
「そうだよフレデリカちゃん、気持ちは分かるけど少し我慢しようね」
それぞれマチアスとエリザに注意され、照れ笑いで誤魔化す2人だった。
そして出発、フェルナンドの見込みでは10数体であれば統率しているのはオークコマンダーだろうという事で、それならこのメンバーで大丈夫だろうと見ていた。
目的地に着き、アーロンが偵察をすると、ボロ小屋がいくつかあり、そこがオーク達の住処のようだった。
正確な数字は分からないがやはり13~15体程度の数だろうと推測された。
オークコマンダーの姿は見えなかったのが他のオークの動きから中心部の小屋の中にいるのだろうと考えられる。
幸いな事に村から女性が連れ去られたりはしておらず、人質は居ないはずなので好きに暴れられると思っていた。
しかし偵察してみると、村人ではないが旅の者と思われる女性の声が聞こえ、少なくとも2人3人は囚われているようだった。
となると話は変わってくる、オークコマンダークラスが居ると人質を盾にする事を考え付き、実行してくる、そうなると厄介だ。
だからまずは人質の救出を先に行い、その後オークの討伐をこなすという流れになる。
時間も掛かるし、オークに準備をする時間を与えてしまうが仕方が無い。
「作戦はこうだ。まずは全員で人質の居る小屋まで向かう。救出した後はそこに、リディア、マチアス、エリザを残して他の4人はそのまま周辺のオークを討伐しながら中心部へ向かいオークコマンダーを討伐する。そして残ったオークを掃討してクエスト完了とする」
作戦は決まった。
まずはフレデリカが【身体強化】を全員に掛ける。
そしてフェルナンドの合図と共に行動を開始したパーティ一同は人質のいる小屋まで真っ直ぐ突き進む。
見張りのオークを倒し、リディアが小屋を覗くとそこには3人の女性がいた。
そこにいたオークも倒し、女性を救出するとそのまま、フェルナンド、アーロン、フレデリカ、レオの4人は中心部へと向かう。
マチアスは小屋から弓で援護しつつ、小屋へ集まってくるオークをリディアが相手し、エリザが【緑の防壁】で守り、【
騒ぎに中心部の小屋から体躯の大きなオークが姿を現した。
それはオークコマンダーではなく、オークキングであった。
「なんでこの規模の集団でオークキングが居るんだよ!」
思わず叫んだアーロンだったが、叫んでも状況が変わるわけではない。
他のオークとは比較にならない膂力、なまくらな剣など通さない筋肉の鎧、そして圧倒的なタフネス。手にする獲物は何人も同時に薙ぎ払えるほどの厚みと幅、長さをもった大剣であった。
どれもオークの範疇を大きく超えた、まさにオークの王様であった。
「幸いオークの数は少ないんだ、まずは数を減らすぞ!俺がキングの気を引く!雑魚は任せた!」
最終的に4対1の状況にしたいと考えたフェルナンドの指示にレオとアーロン、フェルナンドとフレデリカの二手に分かれて動く。
フェルナンドは黄の加護を受け、槍技【
槍と大きな盾を持ち、パーティでは先頭で敵を引き付ける役割をこなしている。
【雷】をキングに当てるが大したダメージは無いようだ、しかし気を引く事は出来た。
フェルナンドの槍の間合いより僅かにだがオークキングの大剣の間合いの方が長そうだ。
そして槍で受けようものなら一撃と持たずに槍は折れ、身体毎ひしゃげる事が予想出来る。
自慢の盾も衝撃は吸収できそうに無いし、何度も受ければ盾毎壊れるだろう。
オークキングの動きは想像より早く、フェルナンドは間合いを詰められた。
そしてオークキングの大剣が上から迫る、フレデリカが後ろで【白の防壁】を張るがどこまで持つか、覚悟を決めて盾を上に構え、衝撃を待つ。
しかし衝撃は来なかった。
防壁によってオークキングの攻撃を受け止めていた。
マチアスやリディアから想像を超える強い効果と聞いていたがここまで強いとは。
しかしそんな事を噛み締める時間も無く、防壁で阻まれた事によってオークキングは激昂し、更に何度も防壁を叩きつける。
フレデリカはいつまでも防壁が保たない事を悟った、このまま叩き続けられれば何分と保たないだろう。
「このままだと防壁が保たない!攻撃の手を緩めさせてくれ!」
「お、おう!」
フレデリカの声にフェルナンドは我に返り、無防備なオークキングの足を【豪雷槍】で払うように攻撃する。
しかし攻撃が当たってもオークキングはびくともせず、まるで効いていないかのようだった。
フレデリカがオークキングの気を引いている間に周りのオークをレオとアーロンの2人で片付けていた。
通常Dランク冒険者なら2人で1体ずつ対処していくものなのだが、レオはCランクのリディアと同等の腕を持ち、更にフレデリカの【身体強化】を受けているため、【火焔剣】で一刀のもとに切り伏せていく。
しかしその剣筋はいつもより荒く、力づくである事がフレデリカが見れば分かった事だろう。
レオには見えていた、オークキングに防戦一方となって、防壁で防ぎ続けていた事を、そのままだと防壁も破られるだろうという事も。
だから早く片付けようと焦っていたのだ。
しかしオークの数が想定されていた数より多く、時間がかかる事を覚悟しなければいけなかった。
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