19.魔物討伐


 翌日、ラーラグナ村が見えてきて、丁度こちらから向かう街道のそばの平原にソーンバッファローが確かに10数体程度いるのが見える。

 そのまま進むとソーンバッファローと鉢合わせになりそうなので大きく迂回して反対側からラーラグナ村へ入り、馬を降りて村人に村長へ依頼の件で面通しを頼むと、直ぐに村長自らが両手を広げて出迎えられた。


「おお、冒険者殿、ラーラグナ村へようこそ。ソーンバッファローの討伐をしていただけるとの事、村人にも通行人にも被害も出ていて困っております、是非ともお願いします。我らも多少ではありますが協力しますぞ」


 適度に丁寧に、そして村からも協力する姿勢を見せる、この村長は中々やるようだ、と判断したマチアスが前に出て対応する。


「私はこのパーティーのリーダー、Dランク冒険者のマチアスです。お気持ちは感謝します、ですが我々だけで討伐しますので、ご協力をお願いする事といえば、村からは出ずに我々を見守っていてくださればそれで十分です」


「ほう、マチアス殿、それは心強いお言葉。……ところで他の方々は違う場所に伏せてあるのですかな?まさかこの4人で討伐とは行きますまい」


 何も事情を知らない者が見れば、Dランク冒険者はいいとして、若い女2名と若い男1名の頼りなく見えるパーティだった。

 村長が訝しがるのも無理はない事である。

 それでもマチアスは堂々と応える。


「いいえ、我々4名だけです、これで十分ですよ、ご心配なく」


 しかし納得出来ない村長は尋ねる。


「……後ろの方の冒険者ランクを確認させて頂いても?」


「良いですよ。こちらがリディア、Dランク冒険者です。こう見えて前衛で剣を振るう強者です。そして後ろの2人、レオとフレデリカはEランクでまだ駆け出しですが──」


「Eランクの駆け出し冒険者!?それが2人も!マチアス殿、あなた方を疑うわけでは無いがとても村の皆を納得させられますまい。他の……皆が納得出来うる冒険者にお願いは出来なかったのですか?」


 村長自身がマチアス達を疑っているし、村の皆の納得、と出汁に使って文句を言っている。

 しかしそれは村長の立場からすれば当たり前の事だった、一般的にEランクの駆け出し冒険者は下手をすればそこらの村人と変わらない強さだ、4人中半分の2人がそれではとてもソーンバッファローを討伐出来るとは思えない。そんな連中に村の未来を託す気になどならないだろう。しごく当然の反応だった。


 マチアスとリディアがCランクであればまだ良かったのだろうが、まだDランク冒険者でそこまでの説得力は無い。


「黙って聞いてりゃ適当ぬかしやがって!お前らに何が分かる!レオの強さを舐めんなよ!」


 レオが侮辱されたと感じたフレデリカは激昂し、村長に食ってかかる。


「お前は黙ってろフレデリカ」


「フレデリカ!落ち着いて!」


 直ぐにマチアスに手で制され、レオには後ろから止められてフレデリカは村長を睨むだけに留まった。


「フレデリカが失礼しました。村長がご心配なさる事ももっともです。ですが、我々だけで討伐出来ると信じています、この2人の実力も相当なものです。そうですね……今日一日だけ様子を見ていただいて、村長が駄目だと判断されたら別の冒険者に変わっていただきましょう。それでよろしいですか?」


 それを聞いた村長は渋々納得したようだった。


「……分かりました、ここはマチアス殿の顔に免じて今日一日だけ様子を見ましょう。ですが!駄目だと判断したら早朝から代わりを呼んできてもらいますぞ」


「ご納得していただきありがとうございます。では早速討伐に向かいますのでこれで失礼します」


 フレデリカ達4人は村の外へ向かった。


◇◆◇


 村の外に出るとフレデリカは堰を切ったように文句を言い始めた。


「なんだよあいつ!レオの強さも知らねぇで!Eランクってだけでそこまで言われなきゃいけねえのかよ!納得出来ねえ!」


「まあまあフレデリカ、村長さんの言う事ももっともだよ、それに僕はなんとも思ってないし、ね?」


 レオがそう言ってなだめてもおさまらないフレデリカだった。


「なんでレオは平然としてんだよ!弱いって思われたんだぜ!Eランクだからって!」


「でもさ、思い出してよ、僕もフレデリカも少し前までは冒険者なんて大嫌いだったでしょ?忘れちゃった?冒険者なんて信用出来ないって言ってたんだよ」


 あくまで優しくフレデリカを諭すレオ、そう、少し前まではレオもフレデリカも村にいた時に会ったEランク冒険者一人のせいで冒険者全体が嫌いだったのだ、信用出来ないと思っていた。

 それと同じ事だ、確かにレオは一般的なEランクと比較すると桁違いに強い、しかしそれを知らない人から見れば駆け出しEランクを信用しろという方が無理がある。Eランクという肩書で判断されるものなのだ。


「う……いや、確かにそうだったけどよ……。でもだからって!」


 レオはフレデリカの手を両手に取り、落ち着かせるように優しく言う。


「良いんだよ、僕らがまだEランクなのは事実だし、村長さんも村の事を思うと心配になる気持ちは分かるよ。それにね、僕は村長に色々言われるより、フレデリカが僕の為に怒ってくれた事のほうが何倍も嬉しかったんだよ。ありがとう、フレデリカ」


 その言葉を聞いたフレデリカは顔を真っ赤にした。


「は!?ちげぇよ!……そりゃあれだ……親友がバカにされるのは俺がバカにされるのと変わらないからだ!それが気に食わなかっただけだ、そういうつもりはねえから!」


「そうだね、そういう事にしとくね」


「は!?レオお前、信用してねえな!違うから、自分の為だからな!」


「うん、ありがとう」


「はーーーー!!!!???違うが??」


 いつまで経っても終わらなそうな2人を見かねたマチアスが声を掛ける。


「おい、お前らいつまでイチャイチャしてんだ、さっさと行くぞ!」


「イチャイチャしてねぇって!」

「してないですよ!」


「いい加減にしろ!行くぞ!」


 先を歩くマチアスとリディア。

 半ばキレ気味のマチアスと並んで、それとは対照的に楽しそうな笑みを零すリディアだった。


◇◆◇


「本当は色々と調査したかったがしょうがない、とっととやるとするか」


 リディアとレオを前衛に、マチアスとフレデリカは後衛としてソーンバッファローに近づいていく。

 幸いな事にある程度固まっているため、横や後方から襲われる心配は無さそうだ。


 作戦は至ってシンプルなものだった。

 フレデリカの【身体強化】を4人に掛け、そのまま近づき、ソーンバッファローがこちらに攻撃を仕掛けてきたらまずは遠距離攻撃で数を減らして、そのまま近接もそれぞれスキルを使って倒していく。

 10数体全部で攻撃を仕掛けてくる事は無いだろうし、それで余裕で対処出来る。

 つまり、正面からの力押し、それが出来るだけの力の差がある、とマチアスは考えていた。


 注意点としては基本的に正面に立たない事、頭の近くを攻撃しない事、これは共に鋭く範囲の広い角に当たらないためだった。


 ソーンバッファロー討伐の証は角の枝部分。ただし全て同一箇所で揃える事。

 これは1体の角で何体分に見せかける事が出来ないようにである。


 ソーンバッファローは正確には13体おり、その距離が50mほどになり、そろそろかという頃合いだった。


「フレデリカ、【身体強化】を頼む」


 マチアスの言葉を受け、4人に【身体強化】を掛ける。

 そして4人の全身が光り輝くと直ぐ様にソーンバッファロー達が突進を仕掛けけてきた。

 雪崩れるように横に広がり、ある程度の横幅を維持して13体全てで突進してきたのである。


「中央を狙い撃て!」


 横幅が広く、回避が難しいと判断したマチアスは中央部に攻撃を集中させ、風穴を空ける事とした。

 マチアスの合図で自身は【剛石矢ごうせきや】、レオは【火炎】リディアは【水穿孔】で隊列の中央部に攻撃を仕掛ける。

 特に【身体強化】で強化された【剛石矢】の威力は凄まじく、正面から角を砕き、2体の体を貫通させた。

 中央付近の4頭は倒れ、中央部の層は薄くなった、しかし勢いは止まらず、回避スペースも出来なかった。


 それは突進を回避出来ない状況だった。

 ソーンバッファローが横に並び、隊列を作って横幅がある事で横に回り込んでの回避や攻撃も出来ず、大きく横に回り込むほどの余裕も無く、正面から突進を受けるしかなかった。

 当然受ければ無傷ではすまず、当たりどころが悪ければ死ぬかも知れない。


 まさか回避出来ないように、こんな風に攻撃を仕掛けてくるとは。

 作戦の失敗に気付いたマチアスは後悔した、舐めていなければ、ちゃんと事前調査する時間が与えられていれば、色々と思い浮かぶが今更どうしようも出来ない。


 その時、フレデリカが声を上げた。


「みんな!俺のそばに来てくれ!」


 フレデリカが前に踏み出し、3人の中央で【白の防壁】を張る。

 そして光り輝き透明な防壁が出現した。


「無茶だ!いくら強くても【白の防壁】じゃあ限度がある!」


 マチアスが悲鳴を上げるがレオがフォローする。


「フレデリカの防壁なら大丈夫です!信じて下さい!」


 フェロウシャスボアより体重は軽く突進力が弱いとはいえ、鋭い角を真正面から受けるのは危険である。

 一般的な【白の防壁】の強度ならひとたまりもない、いくら効果が強いと聞いていても、そんなものを正面から受けて、とても無事でいられるとはマチアスには思えなかった。


 リディアはフレデリカが【白の防壁】でフェロウシャスボア2体の突進を正面から受けた話を聞いていて、その防壁の強度を知りたかった、むしろこんなに早くそれを知れる日が来て、怖さより心が弾む事が上回っていた。


 フレデリカには確信があった、9体全ての突進を受けるわけじゃなく、正面の数体だけならばいけるはずだ、と。


 そして数秒の後、突進が通り過ぎた後に残るのはフレデリカ達であった。

 透明な防壁の前には角が折れ、気絶して倒れたソーンバッファローが3体おり、フレデリカ達は全くの無傷な状態だった。


「止めを刺します!」


 レオは声を掛け、倒れているソーンバッファローに止めを刺す。

 遅れてリディアも止めを刺し、マチアスはUターンして戻ってくるソーンバッファローに目を向けた。


 残りは6体、今度こそ先程と同じ様にやれば難なく回避も出来るだろう、しかしフレデリカの防壁があればやり方を変えて今回の突進で全て倒せるとマチアスは踏んだ。


「リディア!レオ!今度は端から削って真ん中だけ残すぞ!フレデリカ!残った奴は防壁で対処を頼む!」


「おう!任しとけ!」


 嬉しそうに応えるフレデリカ。

 支援しか出来ず、ただ見守り邪魔にならないように、歯がゆい思いをするしかなかった今までと違い、戦闘で頼りにされ、敵の対処を任される事が嬉しかった。


 そして、レオ達が端からソーンバッファローを削り、フレデリカの防壁で防御して気絶させる。

 全員無事でソーンバッファローの殲滅を達成した。


「やったねフレデリカ!お疲れ様」


 止めを刺したレオは満面の笑みを浮かべてフレデリカを労い、ハイタッチを交わす。


「フレデリカ、お前さんが居なかったら被害は甚大だっただろう、助かった。俺も反省しないとな」


「凄かったねフレデリカの【白の防壁】は、確かにこれならフェロウシャスボア2体の突進も無傷で跳ね返しても不思議じゃないよ、やったね」


 マチアスもリディアも口々にフレデリカを労い、褒め称える。


「いや、まだまだだ、結局止めを刺す必要があるから一人じゃ何も出来ないのは変わりない」


 フレデリカは名を上げなければいけない、この程度で良い気になっていてはいけない、と気を引き締める。

 それにスキルを上手く活用すれば今回みたいに攻防一体のように使う事も出来る。

 一人では難しい事でもレオと一緒ならきっと上手くやっていける、2人で名を上げてみせる!と意気込むフレデリカであった。


「良い心がけだ、この調子ならCランクまで早いかもな」


「こんなところで立ち止まってられないからな!」


「これなら村長さんも認めざるを得ないよね」


 依頼は達成した、今更村長に認められる必要などないがフレデリカとしてはレオを侮辱されたままにしておく気は無かった。

 この戦いを見ていれば、レオの強さも分かったはずだ、マチアスやリディアと同等の強さはあると。


「そーだ!ちゃんと討伐もしたし、レオを侮辱した事を謝って貰わないとな!」


「別に村長さんに謝って貰わなくていいよ、僕は気にしてないからさ」


「いーや、ダメだ!俺の気がすまねえ!」


「おいおい、面倒事を起こさないでくれよ、頼むぜ」


「それは村長の態度次第だな」


 相変わらずなフレデリカの態度にマチアスはボリボリと頭をかきながらポツリと呟いた。


「……ったく、負けん気の強い娘だ、レオは愛されてんな」


 その呟きはフレデリカの耳に届いてしまった。


「あ!?愛ぃぃ!!そ、そんなんじゃねーよ!!親友だからだ!」


「ああ、はいはい、すまんすまん、別に茶化すつもりはねえよ、ただ羨ましいと思っただけだ」


 興奮するフレデリカを宥めつつレオを見ると恥ずかしがってる姿が見える。

 全く、青くて良いねぇ、と心から思うマチアスであった。


======================================

気に入っていただけましたら星やレビューや応援をお願いします。

応援されるととても嬉しく、感想が貰えた時は舞い上がって喜びます。

モチベーションにも繋がってとてもありがたいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る