18.パーティのお誘い


「群れからはぐれたソーンバッファローが10体ほど村の近くに定住しちゃってて、村人や通行人を襲っているので討伐して欲しいって依頼が来てるんだって。で、それを受けようと思うんだけどね」


 4人で机を囲み、目的地、クエスト内容、行動予定を話し合っていた。

 そして今はリディアが今回のクエスト内容をフレデリカ達に説明している。


 リディアが連れてきたのは以前魔物暴走の時に一緒だった弓使いだった。

 彼はマチアスといってリディアが所属するパーティーメンバーの1人で、年齢は22才、身長は177cmとレオより少しだけ高い。

 リディアとマチアスは共にCランク目前のDランク冒険者で今回のクエスト達成後に2人そろって昇格試験を受ける予定でいる。


 ソーンバッファロー10体ともなると本来Eランク冒険者が相手をするには危険な魔物だが、魔物暴走の時にも相手をしているしレオとフレデリカの実力なら大丈夫だとリディアとマチアスが太鼓判を押した。


 レオは難色を示していたが昨日のクエストで自信を付けたフレデリカはそういう事なら、と返事をした。


「分かった、俺とレオも参加する。出発はいつ頃だ?」


 フレデリカの問いに弓使いのマチアスが応える。


「そうだな、昼前には。馬で移動して目的地の村には明日中に着く予定だ、お前らの馬はリディアが用意するから安心しろ」


「わかった」


 一旦解散となり、出発の準備をする。

 

◇◆◇


 街を出て合流し、リディアを先頭としてフレデリカ&レオ、マチアスの順に3頭の馬で進む。

 この街に来た時のようなゆっくりとした歩みでは無く、全力ではないが少し駆けるような速度で。


 フレデリカとレオは一緒に乗っているのだが、相変わらずフレデリカが手綱を握り、譲ろうとしない。

 仕方なくレオは後ろからフレデリカのお腹に手を回して掴むような形になっている。


 レオに掴まれる事をなんとも思わなかった前回と違い、フレデリカはなんとも言えない高揚感が湧いているに気付く。

 薄手の生地から手の感触が服越しでもハッキリと分かり、その手の熱すらも伝わって来ているように感じられる。

 そして馬が駆けている為に、フレデリカもレオの前傾になり、それはレオがフレデリカを上から覆い被さるようになり、存在をより身近に感じ、呼吸音が耳のそばで聞こえる

 レオと会話すると、耳元で囁かれているように感じ、それは普段の言葉のやり取りとは違う脳髄に響きを与えてきて、ある種の気持ち良さがあった。


「ねえ、フレデリカ」


「ん、な、なんだ?」


「帰りは僕に手綱を握らせてよ、フレデリカばっかりずるいよ」


「えー、しょうがねえな、……まあ偶にはゆずってやってもいいぜ、帰りは交代な」


「本当に!?……ありがとうフレデリカ」


 耳元で囁かれ、ゾクリとして脳髄に響く。


「レオ!耳元で囁くな!」


 2人のやり取りを後ろから眺めるマチアスはため息をついてぼやいた。


「イチャイチャしやがって……羨ましいなおい」


 聞こえていたら否定したであろうそのぼやきは、幸いな事に前方を駆ける2人の耳には届かなかった。


◇◆◇


 日が沈みだす頃、野宿の場所を決めて4人は野宿と晩ご飯の準備を始める。


 道中、魔物や賊に遭遇しなかった事もあり、想定より進んでいて、このまま行けば明日の午前中には村に到着しそうだとマチアスは言う。

 

 雑談でリディアの所属するパーティの事を色々と聞くと、リディアがサブリーダーである事を知らされ、2人は驚いた。

 

「サブリーダーって、僕らと暫く一緒だったけど大丈夫だったの?」


 パーティのサブリーダーともあろう者が冒険者でもない若者2人と何日も一緒にいて、馬まで貸出したりしているのだ、よっぽど暇か、何かしら理由が無いとしない事だろう。


「それはね……正直に言っちゃうけど、最初はレオをパーティーにスカウトするか見定める為に一緒だったんだよね」


「え!?僕ですか?」


「気付いてないかも知れないけど、魔物暴走でのレオの活躍は本当に凄かったんだよ、それにスキルも。他にもパーティーに欲しいっていう人達もいたくらいに。ま、先に唾つけたのは私だけどね、魔物暴走の時に受付やってて良かったって思ったわ」


「ねえ、俺は?」


「フレデリカは……ゴメン!!最初は余り評価してなかったんだ。でもそこのマチアスがね、フレデリカも一緒に誘うべきだ、あいつも凄い戦力になる!って言って聞かなくて」


「ああ、【身体強化】を受けた俺ならその凄さは身に沁みてるからな。最初はリディアや他の連中にも若い女の子が欲しいだけだのなんだの言われたよ。【白の防壁】も発現してて効果も強いらしいから俺の目に狂いは無かったってわけだ」


「なるほどな……それにしても酷いなリディアは」


「本当にゴメンね、でも一緒にいたらレオとフレデリカは一緒にいてこそで、2人共欲しい!ってなったのよ、本当に心からね」


「へー、まあそういう事なら許してやるか」


「……まあここまで話しちゃったら言うしかないよね。──そういうわけだから、私達のパーティー"明けの明星"に入らない?」


 パーティーへのお誘いを受け、フレデリカが何か言うより早くレオが応えた。


「折角のお誘いは凄く嬉しいです、だけどこのクエストが終わって街に戻るまで、考える時間を下さい」


 すっかり受ける気でいたフレデリカは驚いてレオを見、快い返事が貰えるとばかり思っていたリディアとマチアスは信じられないという表情でレオを見た。

 そのレオの表情は冗談を言っているようには見えず、本気である事が3人にも分かった。


「まあレオがそう言うなら俺も保留にするしかねえな、わりぃなリディア」


「……こういう事を直ぐに決めろって言うのも難しい話だししょうがない、ちょっと残念だけどね。うん、待つよ」


「そうだな、まだ振られたわけじゃない、まあ振られても俺達はしつこく勧誘するけど」


 レオはすみませんとリディアたちに伝え、フレデリカにも謝った。


「フレデリカ、勝手に決めてゴメン」


「良いよ気にすんな、俺とレオの仲だろ。レオの意見を尊重するぜ」


 その後も雰囲気が悪くなるような事にはならず、何事も無かったかのように接してくれてレオは安心した。


◇◆◇


 その日の晩は4交代で見張りをし、3番目のレオの番の時にそれは起きた。


 人間と思われる人影が近づいてくるのを感知したレオはすぐに近くにいるフレデリカを起こし、続けてリディアとマチアスに声を掛けた。


 気配を探ると7~9人ほどだろうか、それなりの人数のようだ。

 強さのほどは分からないが自分にも感知される程度だ、そこまで手強い賊じゃないだろうと予想する。


 起きたマチアスが弓に矢を番えつつ気配を探った。


「8人って所か、よく気付いたなレオ、流石だ」


 レオとリディアが前に出て構える。

 すると正面から6人の盗賊が姿を表した。


「ほー、よく気付いたな、ガキがやるじゃねえか。悪い事は言わねえ、金目の物と女と食料を置いていけばお前は見逃してやってもいいぜ」


 賊の首領らしき者がそう言いながら近づいてくる。

 レオ達の背後に2人の賊の気配がする、伏せておいて奇襲を掛ける気なのだろう。


「へっ!つべこべ言わずに掛かってこいよ!怖いのか!」


 フレデリカは挑発しつつ【身体強化】を全員に掛ける。

 4人の身体が光り輝き、辺りを照らす。

 盗賊の配置、装備などがハッキリと分かり、盗賊はその眩しさに一瞬怯んだ。


「今だ!」


 マチアスの合図と同時にレオとリディアはそれぞれ【火炎】と【水穿孔すいせんこう】で盗賊を撃つ。

 マチアスは緑の加護【蔦縛りつたしばり】でもって首領らしき男に矢を放ち、命中させて縛り付ける。


 【蔦縛り】緑の加護のスキルで命中すると矢から蔦が生え、対象を縛り、根を下ろしてその場に縛り付ける

 【水穿孔】青の加護のスキルで高水圧の水を螺旋状に回転させて飛ばし、対象を貫くスキルとなる。


 首領は縛り付けて無力化し、2人はそれぞれスキルで倒して、残り3人と背後に隠れている2人となった。


「レオ!行くよ!」


 首領が無力化させられて驚き怯んでいる盗賊に対し、リディアのその掛け声と共にレオとリディアは前に飛び出し残った盗賊達を斬り伏せた。

 リディアが1人、レオが1人斬った後、リディアはそのままもう1人に斬りかかり、レオは背後に隠れている2人の盗賊に向かって駆けた。


 背後の木の影に隠れていた盗賊の1人を倒した時点で、もう1人隠れていた盗賊は逃げ出していた。

 しかしそれはマチアスが弓で背後から仕留めた。


 無事に首領を除く7人の盗賊をあっさりと倒したフレデリカ達、首領はその一部始終を見せられて怯えていた。


「悪かった!見逃してくれ!有り金は全てやる!頼む!もうあんたらには手を出さないと誓う!頼むよ!俺は元冒険者なんだ、仲間のよしみで頼む!」


「……お前らみたいなのと一緒にすんな、反吐が出る」


 マチアスはそのまま首領を始末した。



「レオも凄いがあらためてフレデリカの【身体強化】は凄いな。まるで自分の身体じゃないみたいに感じるぜ」


「私も初めて【身体強化】を掛けてもらったけど本当に凄いのね、確かにマチアスがあれだけ言うのも分かるわ」


「うん、僕もフレデリカの【身体強化】には何度も助けられてるよ。僕の強さの半分はフレデリカのお陰じゃないかな、いつもありがとう」


 皆が褒めて持ち上げるのをこそばゆいと思ったフレデリカがレオに反論する。


「それはなレオ、お前がやられたら俺が困るからだ。俺の為にも強くなって貰わないとな、コレくらい当たり前の事だ、気にすんな」


「全くもうフレデリカは~恥ずかしがらなくても良いのに」


「なッ!ちがッ!そんなんじゃねえ!」


「そうなのフレデリカ?」


「バカッ!レオもリディアの言う事なんか真に受けんな!違うって言ってんだろ!」


 フレデリカの顔を真っ赤にしての反論には全く説得力が無く、リディアもマチアスもその微笑ましい光景を見守っていた。

 ただその心情は真反対のようであったが。

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