15.服選び


「確認だけどレオの好みの女の子の格好で驚かす、で良いのよね?」


「……あー、うん、そのつもりだったんだけど……やっぱ止めようかな」


「え?なんで?あんなに乗り気だったのに、レオなら絶対驚くと思うよー」


「いやでも、なんか……その……」


「あー、もしかして今になって恥ずかしくなったとか言わないでしょうね?駄目だよそんなの、男らしくないよー」


「!?──いや!何言ってんだよ!男に二言は無い!着てやらぁ!!」


「うんうん、それでこそ男の子!それにさ、レオも驚くし、きっと褒めて、喜んでくれると思うよ」


「え……そうか、喜んでくれるか……」


 レオが褒めて、喜んでくれる。

 それは先ほどの冒険者ギルドの余韻が残っている今のフレデリカにとって、自然と頬が緩み、気付かず気分が高揚する事だった。


「大船に乗ったつもりでお姉さんに任せなさい!」


 そう言って振り返り、頬を少し赤らめるフレデリカを見てほくそ笑むリディアであった。


 女性用の衣服屋に入ると、そこは先ほどの武器防具屋の無骨さとはまるで違う煌びやかな、鮮やかな色合いの衣服や冒険者用の装備、アクセサリーなどが所狭しとあった。


 余りにも違う世界を見せつけられたフレデリカはハタと気付く。


「おいリディア、俺そんなにお金持ってねえぞ」


「大丈夫大丈夫、ちゃんと予算内で収まるように選ぶから。じゃあレオの好みを聞きましょうか」


 レオの好みを聞き出し、服を物色するリディア。

 フレデリカはと言うと女性服売り場という場所に対し、場違い感と気恥ずかしさを感じて、ただリディアの後ろを恥ずかしそうに付いていくだけだった。


 それは側から見ると美人姉妹の姉が、初めて衣服店に来て恥ずかしがっている妹を連れ回しているように見えた。

 実際のところは、捕らえられた姫君と、それをどう美味しく料理しようかと舌なめずりしながら考える捕食者なのだが。


「こんな所かな、そこの更衣室で着替えてみて、下着はコレ、上着は2種類見繕ってみたから、コレとコレね」


 抱えた衣服をフレデリカに渡し、更衣室に押し込むリディア。


「え?下着も変えんの!?」


「当たり前でしょ、こういうのは下着から変えないと意味が無いでしょ」


「それにこの下着、お尻丸見えじゃん!こんなん無理!」


「何言ってんの、それじゃないと下着の線が見えちゃうわよ、それでも良いの?」


「え?何それ、リディアは俺に何を着せるつもりだ」


「レオの好みでしょ、間違ってないわよ」


 フレデリカが渋々お尻丸出しのまるでTバックのような白の下着を履き、白のブラに手をつける。さっき付け方は聞いたが実際につけるとなると勝手が違う。


「うう……この俺がこんな……こんな下着をつけるなんて……」


 更衣室でしゃがみ込み顔を覆って悲しみに浸っていると、リディアが覗き込んできた。


「どうしたの静かになっちゃって?あ!ちゃんと着けてるじゃない。サイズは大丈夫?」


「……うん、大丈夫。なあ、本当にこんなの着るのか……?」


「大丈夫大丈夫、すぐに慣れるって」


 リディアはそう言って問答無用と直ぐにカーテンを閉じた。


「……慣れたくねえ……」


 フレデリカは愚痴りながらも上着を取り出した。


 まずは1着目、肩の部分で分割された肩出しブラウスのような物、しかしそれは胸部分がぱっくり開いており、肩と胸の谷間が露出している物であった。

 その上に胸下部分までの紺色のワンピース、そのロングスカートは足首近くまである。

 ワンピースの上部が胸までしかない事と下着近くまであるサイドの深いスリットを除けばまるで聖職者を思わせる質素さと清楚さであった。

 ただその生地は薄く、肌に張り付くような物で、身体のラインがクッキリ浮かび上がり、特に太ももからお尻、くびれから胸までのラインは美しく、そのスタイルの良さが生かされていた。


 リディアに声を掛けておかしな所がないか確認すると、全てが完璧だから後はフレデリカのガニ股を治すだけと言われてしまう。

 リディアはさらに、これだから下着のラインが浮き出るようなものは履けないのだ!と力説した。


 もう1着、そちらは先ほどと違い、黒基調のコルセットスカートだった。

 ただし、上部は胸を持ち上げ乗せる形になっており、フレデリカが動く度にタプタプと乳房が揺れる様が見える有様であり、スカートも膝上丈でヒラヒラと舞うような軽さだった。

 こちらは先ほどと違い、短いスカートからちらちらと見える太ももとコルセットで閉めたウエスト、そして持ち上げてボリュームアップした胸が強調される服だった。


「どっちも凄く似合ってて可愛い!どっちが良いかなー、フレデリカはどっちが良い?」


「ええ……これ選ぶの?まじで?」


「そうだよ?だってレオは、肩と胸と太ももが好きなんでしょ?どっちもカバーしてると思うし、凄くアピール出来てるよ」


 フレデリカとしてはどちらも嫌だと感じた、しかしリディアにコーディネートをお願いした手前、嫌だと言えなかった。


 更衣室の鏡を見て考える。

 確かにこれが自分じゃなければレオにオススメしたいと思う、だけどこれは自分だ。フレデリク、お前の姿なんだぞ、いやしかし、レオに見てもらうなら……と、男としての意識とレオに見せるという意識で争い、葛藤していた。


 更衣室の鏡の前で、自分の姿を見て頭を抱え、また鏡を見て頭を抱える、という事を何度か繰り返し、やはり断りたいという思いのほうが強くなった。

 レオに見せるにしてもコレはハードルが高すぎる気がする、それに冒険者用の装備じゃ無さそうだ、そうだ、それを言い訳にして別の物にして貰おう、そう決めて、リディアに振り向いた。


「リディア、これ冒険者用の装備じゃないだろ?流石に危ないんじゃないか?」


「ああ、これね、両方ともちゃんと冒険者用装備だから、今ままで着てるのより遥かに安全だから安心して」


 フレデリカの退路は絶たれた。

 もう覚悟を決めてどちらか選ぶしか無い。

 そうなると……流石にミニスカートはまだ恥ずかしいのでワンピースタイプの物に決めた。

  

「おっけー、じゃあ残った服は預かるね。ここで待ってて。今からそれで移動するから」


 リディアは店員に話をし、服を買う事、そのまま店を出る事を伝えて、タグなどを外して貰い購入した。


「じゃあフレデリカ、8銀貨ね。あとコレ、替えの下着なんかは此処に入ってるから」


 袋の中身を見ると、替えの下着類と一緒にさっき選ばなかった方の服が入っていた。


「ん?リディア、残した服が有るけど」


「ああ、それね、私からの冒険者になった記念プレゼント、受け取ってね」


「え!?そりゃ悪ぃよ」


「いいからいいから、先輩からの好意は素直に受け取っておくものよ」


「んー、じゃあまあ、ありがたく?貰うけどさ、ありがとう」


「どーいたしまして。さあ、レオが待ってるだろうから急ごうか」


「あ、そうだった。大分時間経っちゃってるな」


 フレデリカとリディアは少しだけ早足で待ち合わせ場所のカフェへ向かった。


◇◆◇


 待ち合わせ場所のカフェでレオはぼんやりとフレデリカ達を待っていた。

 女性の買い物は長いと父親が愚痴っているのを聞いた事はあるが、フレデリカは元男だし早く戻ってくると予想していた、しかし実際は想像より長く、コップの中は空になっていて、時間を潰すのも飽きてきていた。


 それにしても遅い、こんなに遅い理由は多分リディアが引っ張り回しているんだろうと思い、戻ってきた時はきっとフレデリカがリディアの荷物を沢山持たされれているんじゃないか、そんな風に思っていた。


 レオはバックラーと剣を取り出し、装備し、もう何度目かになるつけ心地や柄の握り心地などを確かめた。

 レオは片手でも扱える重さの両手剣を持ち、いざという時に手が空くように盾は腕に付けるバックラータイプにし、鎧については皮製のものを購入した。

 これは不測の事態に陥った時にフレデリカを抱えて逃げる事が出来るように自身は軽めの装備で、かつ片手が空くように心がけた装備だった。


 今度危険な状態になったら、その時はフレデリカを庇って死ぬのでは無く、フレデリカと一緒に逃げる、逃げさえすればフレデリカが何とかしてくれる、そんな希望と強い思いがレオの方針を決めさせた。


 レオがそんな事を考えていると不意に後ろから声を掛けられる。

 目を瞑り集中していたレオは反応が遅れ、目を開けると周りの客が自分の後ろを見ていた。

 何事かと後ろを振り向くと、そこには美の女神かと見まごうような綺麗な女性が立っていた。


「よう、やっと気付いたか、お待たせ、レオ」


 その姿に声が出ないレオはただじっとフレデリカを見つめるだけだった。


「……おう、じっと見てないで何か言えよ、恥ずかしいだろ……」


「えっと……フレデリカ……見違えた……うん、凄く、凄く綺麗だ」


「!?バッ!バカ!見惚れてるじゃねえよ!……その、なんだ、驚いたか?」


 レオは立ち上がり、フレデリカの全身を、足元から頭まで見て、改めて言った。


「なんでこんな格好を……いや、今はそんな事良いか。……うん、凄く似合ってる、驚いた。本当に、美の女神かと思ったくらい綺麗だ、フレデリカ」


 それを聞いたフレデリカは直ぐに顔を真っ赤にし、顔の火照りで湯気が出そうだった。

 頬が緩み、レオと視線が合わせられない、褒められて、綺麗だと言われて、しかも女神とまで言われてしまうなんて、自分の想像を遥かに上回る褒め言葉を貰い、自覚無く心が跳ね回り、心臓の鼓動がやたらうるさく、レオに褒められる事がこんなに嬉しいだなんて思わなかった。


 レオはレオで必死だった。

 視線が勝手に胸元へ吸い寄せられるのを我慢していた。

 他の部位を見ないように、恥ずかしがっていて最上の可愛さを見せる顔をじっと見ていたが、それを見ていると庇護欲が掻き立てられて、抱きしめたくなる衝動を必死に抑えていた。

 努めて冷静になるよう、邪な考えにならないよう、必死に理性を働かせていた。


「あ、えーと……あ、ありがとよ。その……なんだ……レオが喜んでくれたなら、着た甲斐があったってもんだ……」


「え?もしかして僕の為に?……うん、凄く嬉しい。ありがとうフレデリカ」


「バ!バカ!……ただの気まぐれだ、気にすんな」


 2人が纏う空気が甘酸っぱいものに変化する。

 初々しさ一杯の2人には周りのギャラリーもホッコリしていた。


 フレデリカの頬の緩みは止まらなかったが、もう1人、頬の緩みが止まらない人物が居た。

 リディアである。


 これほどまでに思惑どおり、いやそれ以上の成果が出ると思わなかった。

 今回のフレデリカの買い物、8銀貨で済むはずも無かった、トータルで30銀貨以上掛かったのだ、しかしそれも惜しくない、それほどの成果であった。

 この光景を最前列で見る事が出来るなど、他の何者にも代えがたい、そう感じていた。


 そしてこの装備は敵意に対し防壁が貼られるという代物であり、防具としてもそこそこ優秀な物であった。

 しっかりした防具を選ぶ、腐ってもプロであった。


 余談ではあるが、もっと高い鎧になると露出が多くても強力な防壁が展開され、軽さと防御の両立がされているものが出てくる。

 いわゆるビキニアーマーなどは強力な防壁と軽さに加えて浄化能力、さらに疑似フェロモンでオス型の魔物を挑発し、前衛として非常に優秀な装備となる。

 ちなみに男性用ビキニアーマーも存在し、それは対象がメス型の魔物に変わる代物である。

 ただしどちらも量産品ではないため数が少なく非常に高価で着ている者は少ない。


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