13.冒険者ギルド
3人は店を出て、フレデリカは深い溜め息をついた。
「こうなったらしょうがない、冒険者になってランクを上げて、名を上げてやるかあ!」
フレデリカは元気にそう宣言した。
レオはそれが空元気である事は理解していた、だけどその希望に向かって、空気が重くならないようにフレデリカなりに気を使っている事は分かる、だから合わせる。
「そうだね、じゃあまずは冒険者ギルドに行こうか、リディア、案内してよ!」
「うんうん、そうこなくちゃね、じゃあ行こうか」
リディアに冒険者ギルドに案内して貰い、中に入る。
フロアは食堂と酒場のエリアと冒険者受け付け、それに依頼掲示板のような場所があった。
リディアの後ろについてギルドに入ると直ぐにリディアに声がかかる。
「おうリディア!ライリー村の魔物暴走は楽勝だったらしいな、しかも大怪我人は奇跡が起こったとかで完治したってのはマジなのかよ?」
フレデリカとレオはドキッとする、その奇跡とは多分、フレデリカが行使した【治癒】の事だ。
「私は見てないのよね、騒ぎになってて調べてるとか、何か分かったの?」
「いーやまだだ、【治癒】にしちゃあ効果と光が強すぎるってんでまだ調査中らしい」
ホッと胸を撫で下ろす2人。
リディアは挨拶を交わし、受け付けへ向かう。
2人はリディアに付いて行って受け付けへ。
「ジーナ、この2人の冒険者登録をお願い、ニールかカラムから何か聞いてない?」
「あー、カラムからは聞いてるかな、見込みがありそうな若者をリディアが連れてくるって。それがそこの2人?」
「そうそう、この2人、はい、あいさつ」
「レオです!ロッジ村出身です。剣に自信があります、それに読み書きと算術も出来ます。まず目標はCランクです、よろしくお願いします!」
「フレデリカ、レオと同じくロッジ村出身。読み書き算術はレオと同じくらい。えーと、白の加護を持ってて【身体強化】を使います。目標は名を上げて有名になる事。よろしくお願いします」
「うんうん、可愛いコンビだね、私はジーナ。読み書き出来るならこの登録書を読んで書いてね」
ジーナは2人に登録書を渡す。
2人は登録書を受け取り、読んで理解し、名前などの必要事項を書いた。
「お、はやーい、どれどれ……うん、ちゃんと読めるみたいだし、書くのも大丈夫そうだね。ついでに簡単な算術もやってみて。はいこれ」
次にジーナは2人に算数の問題を書いた用紙を渡して解かせた。
2人には簡単な、足し算引き算だったので満点だった。
「おおー、これに後は教養と強さがあればランクが上がるのは早いかもね。さすがカラムやニール、それにリディアが見込んでるだけあるわね。これリディアも直ぐに抜かれたりして」
「流石に簡単に追いつかれると凹むわ、それにまだまだ経験が足りないわよ」
「経験かー、確かにそうね。2人共、いくら優秀でも経験不足で命を落とす事なんてざらにあるから本当に注意してね」
はい!と元気に応えるレオと神妙な顔でコクリと頷くフレデリカ。
「それじゃあ2人には冒険者ギルド登録証をお渡しします、身分証でもあるから無くさないようにね」
それは皮のネックレスに鉄の板が付いてそれにランクと名前が掘ってあるもの。
フレデリカとレオはそれを受け取り、冒険者になった事を実感し、そこに書いてある文字を見て、すぐにランクを上げてみせると意気込むのだった。
リディアとジーナが少し言葉を交わした後、フレデリカ達に声を掛ける。
「ちょっと用事が出来ちゃったから席を外すね、レオ達はそこら辺に座って待ってて。えーと、2人なら大丈夫だと思うけど余り騒ぎを大きくしないようにね」
そんな不穏な事を言い残しリディアは階段を上がっていった。
「騒ぎを大きくって、リディアは俺達が騒ぎを起こすとでも思ってるのか?心外だな」
「大丈夫だと思う、とも言ってくれたから、念の為だと思うよ」
2人はその辺の空いている席に座り、リディアを待つ事にした。
◇◆◇
周りを見回すと村の酒場ほど無秩序な様子は無い、流石に冒険者ギルドの受付を前にして騒ぐ者は少ないのだろう。
冒険者ギルドはあぶれた者の受け皿としても、職業斡旋所としての側面もあった。
Dランクに上がる為には簡単な読み書きを必須にしたり、その上のクラスなら教養も求めるのはその為だ。
冒険者など一生涯出来る仕事では無い、怪我をしたり、年齢による衰えやそもそも戦闘の実力が伴わなくて続けられなくなる者は多い、その時、ただの荒くれ者であればどうしようも出来ない状況だが、Dランク以上であれば読み書きが出来るため、仕事を見つけやすくなる。
さらに上のランクならさらに教養もあるので、それこそ引く手数多だ。
そしてDランクにすら上がれない者は村に帰ったり、街でなんとか仕事を探したり、それも出来ない者は賊になる。
だからEランク冒険者は信用されないし、扱いも良くないのだ。
賊討伐の依頼で向かった先は元Eランク冒険者だった、なんてのは良くある話。
遅かれ早かれ努力もしない輩はそうなる運命だったのだ。
さて、他の酒場ほど無秩序では無いが騒がしい連中というのはいるもので、荒くれ者に毛が生えたような男が4人、フレデリカ達に近づいてくる。
フレデリカも馴れたもので、またかという顔をする。
レオは何か起きたら直ぐに対応出来るようにする。
「お前らリディアの知り合いか?実力も無いガキが上手く取り入りやがったなあ。っておい、こっちの金髪は良さそうじゃねえか、おい兄ちゃん、悪いけど少し借りてくぜ」
なんでこう、この手の連中は言う事が変わらないのだろうか。
フレデリカはそう思いながらも呆れ顔で応える。
「お前らじゃあレオの足元にも及ばねえよ、早く退散しな」
フレデリカの煽り文句も同レベルであった。
レオはやれやれと立ち上がり、声を掛けた男を正面から睨む。
「生意気だなこの女は、ちゃんと躾けとけよ。まあ俺が今から代わりに躾けといてやるから感謝しな。あー、安心しろ、ちゃんと明日になったら返すからよ。おまけをつけてな!」
言うなり背後から別の男がレオに棒状の何かで殴り掛かる。
察知したレオは反転し棒状のそれ、鞘に収まったままの剣を受け流し、バランスを崩した所を蹴倒し手を踏んで剣を手放させる。
もう一人が鞘付き剣でレオに殴り掛かる、それと同じタイミングで声を掛けてきたリーダーらしき男はフレデリカの腕を取りレオから距離を取る。
「離せッ!!」
レオは殴りかかってきた男をねじ伏せるとフレデリカに振り向いた。
リーダーの男と残るもう一人の男はレオから5~6歩の距離におり、リーダーの男がフレデリカを捕まえていた。
「おいおい、やけに強えガキだな、2人もやりやがった。だが残念、ここまでだ。大人しくしねえとこの女がどうなるかな?」
フレデリカの両手を持ち上げ、ナイフをフレデリカに突きつけた。
「しかしこいつ、やけに綺麗な顔してんな、気に入ったぜ。おい!明日返すと言ったがありゃ無しだ、こいつは俺がいただく。安心しろ、飽きたら売り飛ばしてやるから買って返せ」
ギャハハと笑う2人、そしてリーダーの男はフレデリカの頬をベロリと舐めた。
「「!!」」
フレデリカは最初何をされたか理解出来なかった。
それを、"男に頬を舐められた"のだと理解した瞬間、全身に寒気と猛烈な気持ち悪さと恐怖を感じた。
そしてレオは既に動いていた。
素早く踏み込み距離を詰め、リーダーの男の顎をかち上げ、そのままナイフを持つ手首を叩きナイフを落とさせた。
顎を打たれ、崩れ落ちるリーダーの男からフレデリカを片手で抱き寄せ、取り返す。
リーダーの男はそのまま倒れピクリともしない。
もう一人の男はその場を動く事も出来ず、レオの蹴りをくらい、その場でうずくまった。
◇◆◇
周りで見守っていた冒険者達から拍手が起こる。
一人、レオの前に出てきた男がいた。
「やるじゃないか、流石にここで拉致まがいは懲らしめようと思ったがそれも要らなかったな。俺はアントニオ、Cランク冒険者だ、君は?」
「レオ、さっき冒険者になったばかりのEランクです」
「なるほど君が噂の新人か。確かに強いな、カラムの言った通りだ」
「カラムを知ってるんですか?」
「あいつと俺は親友だからな、同郷でEランクからの腐れ縁ってやつだ。それで、あいつが言うんだ。近々強くて有望な新人が来る、楽しみだ。ってな」
「カラムがそんな事を……それは素直に嬉しいですね」
「んで実際に今、この目で実力の一端を見たわけだ、中々のものだった。確かに有望な新人だ、すでにDランク上位の実力というのも頷ける」
「ありがとうございます、でもさっきはちょっと気が立っちゃって、余り手加減出来ませんでした」
「なるほどね、そういえばそこのお嬢さんは大丈夫かい?」
レオが腕の中のフレデリカを見ると、それは肩を震わせ、レオに縋って泣いているように感じた。
「フレデリカ……すみません、少し2人にしてもらってもいいですか?」
「ああ、分かった」
空気を読んだアントニオは絡んできた男達を捕まえて離れ、祝福の輪を解いてレオ達との距離を取らせた。
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