12.呪い


 街についたらやりたい事。


 呪いを扱うお店にいって解呪してもらうか情報を貰う。

 冒険者ギルドに登録する。

 宿を取って拠点にする。

 リディアと一緒に服を買ってレオを驚かす。


 これ絶対お金が足りない。最低でも呪いだけはなんとかならないものか。

 理想は街に着いたら呪いを解いて男に戻り、そして冒険者登録してランクを上げてそれから騎士見習いになる事、そして騎士だ。

 レオと2人ならきっと出来るのに、あぁ早く男に戻りてえ、そう思うフレデリカだった。


◇◆◇


 街への旅は順調に進み、2日目が終わり、3日目と結局何事も無くエメリー街へ着く。


「まさか3日間何も起きないなんてね、珍しい事もあるんだね」


 そうリディアは言う、確かにライリー村からエメリー街まで何事も起きない事は珍しい事だった。運が良いと言って良い。


「一回くらいは魔物か盗賊あたりに襲われるのは覚悟してたのにな、ちょっと肩透かしだったな」


「そんな事ないよフレデリカ、何も無いのが1番だよ」


「ま、そりゃそうだけどな」


「いつもこのくらい平和だと護衛依頼も無くなってそれはそれで困るんだけどね、……なんてね」


「そうか、そういう考え方もあるのか……」


 神妙に考え込むレオを放っておき、フレデリカは街の外観をまじまじと眺めていた。

 自分のいたロッジ村やライリー村とは全く違う、石で出来た高い外壁が街を囲い、外敵の侵入を妨げ、人の出入りを制限するする事で街を守る。

 それは村にある木で出来た柵とは比べ物にならない、外敵には威圧感を、中に住む者には安心感を与える物だった。


 街への入り口、門前で門番に身分証の提出を求められる。

 リディアは身分証を持っているがまだDランク冒険者のため、他人に街に招き入れるような権限は無い。

 街への出入りは身分証、無ければ通行料の支払いで通過する事ができる。


 フレデリカとレオの2人は通行料の支払いをし、軽い身体検査を済ませた後、門をくぐる。


「まずは呪いを扱う店に行きたい、そこで呪いが解ければ色々解決するし」


 フレデリカはそう提案した、確かにここで呪いが解けて男に戻れれば、この後冒険者をするにしても男で出来るし、戦い方もガラリと変わるだろう。

 それにそもそも旅の目的でもある。


「良いよ、それじゃ行こうか」


 周りをキョロキョロと見回しいかにも御上りさんという2人を連れて、リディアは呪いを扱うお店へと向かった。


◇◆◇


 ロイツ商店、それが呪いを扱うお店の名前だった。

 店構えは一見普通の雑貨屋か何かの店構えのように見える。


「ここがそのお店、ぱっと見だとそんな感じしないでしょ?でも入ると全然違うんだよね」


 そう言ってリディアはお店の扉を開けて店内に入る。


 一歩踏み入れたそこは表の雰囲気とガラリと変わり、オドロオドロしく、薬品の匂いと何かよく分からない違和感のある匂いに包まれていた。


「……いらっしゃい」


 フードを被り、あまり愛想の無い眼鏡を掛けた女性が声を掛けてくる、しかし声をかけただけでそっぽを向き、何やら本を読んでいる。


「あの、呪い関連でちょっとお聞きしたい事がありまして、良いですか?」


「……何だい?」


 興味無さげに本から顔を上げる女性、顔を見る限りは20代後半、そのように感じる。


「実は呪いに掛かった子がいて、それを解呪出来ないかと」


「ほう、それはどんな呪いなんだい?」


 少し興味が湧いたのか、先ほどとは明らかに違う態度に変化した。


「はい、この娘何ですけど……」


「俺は元々男で、呪いを受けて女になった、その呪いを解いて男に戻りたい、何とかする方法を知らないか」


 その女性はフレデリカを見て、その話を聞いてパァッと一瞬顔が明るく、そして直ぐに嬉しそうな気味の悪い、ニタニタとした顔に変化した。


「ほう!ほう!男から女に!そんな話は聞いた事が無いねえ!本当なら非常に面白い話だけどね、証拠は何かあるのかい?」


 男から女になった証拠、それは村にいれば兎も角、ここには何も無かった。

 しかしむしろそれが普通の反応で、あっさり信じたリディアが変わっていると言っても過言ではない。

 リディアの場合はその方が面白いと思ったのかも知れないが。


「証拠は無いけど本当なんだって!俺はフレデリク!男なんだよ!」


 その必死さを感じ取った女性はため息をつき、やれやれと言った風に応える。


「分かったよ、その勢いに免じて少しは信じてやる、そうだね、まずは呪いに掛かっているか調べてやろう」


 女性は裏手に行き、小さい水晶玉とそれよりサイズの大きい水晶玉を持って戻ってきた。


「さあ、フレデリクだったかい?これを持ってみな」


 小さい水晶玉をフレデリカに手渡す、すると即座に水晶玉に反応が起こり、虹色に輝き、真っ二つに割れた。


「──え!?」


 驚くフレデリカを尻目に女性は目を輝かせ大いに喜んだ。


「これは素晴らしいね!確かにアンタは呪いに掛かっているようだ。それにこんな強大な呪いは見た事も無い!」


「強大な……呪い……」


「興味深いけどうちにはこのレベルの呪いをなんとかする物は無いね、いや、国中探しても見つからないかも知れない、そういうレベルの呪いさ」


 フレデリカは絶望的な言葉を聞いて眼の前が真っ暗になるように感じた。

 もう男に戻れない、それが現実的に、ハッキリと、目の前に突き付けられた。

 一生女で過ごす心構えなんて当然出来ていないし、するつもりも無かった、だけどどうしたら良いのか、希望も何も無いとは思わなかった。


「何か……何か方法は無いのか!何とかする方法は!」


「落ち着かんか小娘、いや、小僧、少し呪いを調べさせて貰うよ、何か分かるかも知れないからね、手を出しな」


「た、頼む!」


 藁にもすがる思いで手を出すと今度はもう一つの大きな水晶玉の上に置かれた。

 すると水晶玉の中に白い光と白いモヤのような物が映っているのが見える。

 フレデリカとレオにはそれに見覚えが有った、少し形は違うがそれは祠で会った白い影、白い光は杖、そのようにも見えた。


「これはこれは……小僧、この呪いは最上級の白の加護を持つ者から受けた呪いだね。しかも呪いだけじゃない、祝福もある。一体なんだいこりゃあ……こんなものは──」


 水晶玉から目を離さずブツブツと独り言を続けていた女性は突然ピタリと独り言を止めてフレデリカを見た。


「小娘、この呪いは反対系統で同じ力を持つ者でしか解けない。そしてそれは黒の加護といって、非常に希少な、極々稀な加護を持つ者で更に最上級で無ければならない。存在する可能性は無いと言っても過言では無い」


 無言のフレデリカを指差し女性は続ける。


「小娘、お金はあるのかい?人の伝手は?あんたの影響力は?全て持っているとして、それらを全て行使しても見つかるかどうか、それくらい希少な存在だ、生半可な決意じゃあ無理だ、それでも探すかい?」


 今の自分、それは村を出て、まだ何も成し遂げていない、お金も、伝手も何も無い、有るのは親友のレオだけ、そういう立場だった。

 それでも男に戻りたい、そう思った。


「何も……無い、でも!なんとしても男に戻りたい!」


 それは女性には駄々をこねる子供のように映った。

 

「話にならないね、それじゃあそうさね、まずは冒険者になって名を上げてみな、そうしたら少しヒントをくれてやるよ。今のアンタに何を言っても無意味だろうからね」


「……分かった。必ず名を上げてまた来る」


「期待はしないよ。それと、本当は割った水晶玉の代金を頂くところだが、今日は良いものを見せて貰ったからタダにしてやろう」


「ああ……ありがとう」


 決意を新たに名を上げるとは言ったものの、その道のりは険しく、そして男に戻る事のハードルの高さからフレデリカの意気は上がらずそのまま店を出た。


 この店に来て分かった事と言えば、最上級の白の加護による呪いであるという事、お陰で解呪の難易度は相当に高く、何時までか分からないがかなりの時間を女のままで過ごさなければいけないという事。


 いっそ女のままでも、という思いが掠めるが頭を振って否定する。

 いいや、俺は男だ。だからきっと男に戻って見せる。


 それに名を上げればヒントをくれるとも言っていた、それはつまり何かしら情報があるという事だ。

 だからきっと男に戻れる、そう思わないとやってられない!


 フレデリカは大きく息を吸い込み、深く溜め息を吐いた。

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