11.リディアの楽しみ


 今日からリディアと同行し、街に向かう予定となっている。

 リディアから同行する話が出た際に、女性の基礎知識を教えて貰いたいフレデリカは渡りに船と了承したがその時レオは乗り気では無かった。

 しかしその後にニールやカラムとのやりとりから、もっと世間や街を知る事や冒険者を知る必要を感じるようになり、今ではリディアの同行に反対はしていない。


 宿のチェックアウトを済ませて主人に分かれを告げ、7時前に村の門前に行くとリディアがいて、2頭の馬を従えていた。


「お?時間ぴったりだね、おはよう!」


 リディアが朝の挨拶をし、フレデリカとレオに手を振って迎える。


 リディアの年齢は19才。

 身長は167cm、女性としては大きいほうである、黒と青が混じったようなネイビーブルーの髪色にポニーテールをしており、背中までの長さはありそうだ。

 胸はフレデリカほどではないが十分に大きく、そして美人であり、若い大人の色気を纏い、人目を引く。

 その陽気さと気さくさからか、冒険者集団でも人気の存在に見えた。

 そして実力もあり、Cランク間近なDランク冒険者。


「よろしくお願いします、リディア」


「リディア、今日からよろしく」


「うん、今日から暫くご厄介になるよ、2人共よろしくね」


 リディアと握手を交わし、言葉を交わす。


「この馬は?」


「良いところに気がついたねフレデリカ、ちょっと冒険者仲間に言って借りてきた。移動は馬のほうが何かと便利だしね」


「でも2頭なんだけど?」


「借りたのは1頭だけ。レオとフレデリカは2人で1頭ね、丁度良いんじゃない?あ、そういえば2人共馬には乗れる?騎士志望って聞いたから乗れるって思い込んじゃってたけど」


 レオは少し安堵した、今日は寝不足だったから歩き続けるのは少しキツいと思っていたからだ。

 騎乗に関しては騎士志望であったレオもフレデリカもしっかり練習していて問題無く、その点でも安心出来た。


「ああ、俺達は2人共騎乗は余裕だよ、なあレオ?」


「あ、うん、そうだね、フレデリカは本当に騎乗が上手だったよね」


「おう、まかしとけ」


「それなら大丈夫そうだね、それじゃあ馬でのんびり行こうか」


 リディアは颯爽と騎乗し、フレデリカ達を待つ。

 レオとフレデリカは馬を前にして、話し合っていた。


「まあ体格的にレオが後ろだよな、俺が後ろだと前が見えん」


「そうだね、じゃあ手綱はフレデリクが握ってよ」


「フレデリカ、な。そうだな、手綱は持つ……よし、それじゃ先に乗るぞ」


 身長が20センチ以上下がり、筋力も衰えたフレデリカは勝手が違い馬に騎乗するのに手こずっていた。

 なんとかレオの手を借りて騎乗する、そしてレオが慣れた手付きで後ろに騎乗した。


「やべえ、流石にちょっと凹むわ、騎乗にこんなに苦労するなんて」


「まあまあ、フレデリカならコツを掴んで馴れればきっと上手く乗れるようになるよ」


「そ、そうだな!リディア、お待たせ」


「じゃあ、適当に休憩しながら行こうか」


 動き始めた瞬間、レオは後ろに倒れそうになった。

 鐙はフレデリカが使用していて、手綱も無く、バランスを取る事やタイミングを図るのが難しい。

 仕方なくフレデリカに相談する。


「ねえフレデリカ、このままだとバランス悪くてさ、その……手綱かフレデリカに掴まって良い?」


「あ?手綱は俺がやるからやだ。レオは俺に掴まっててくれ」


 フレデリカは騎乗の主導権を譲りたくないようだった。

 本当は体格が大きい後ろの人間が手綱をもったほうが安定はするのだが。


「あー、うん、分かった……」


 レオは恐る恐るフレデリカのお腹に手を回し、掴まり、少し被さるような姿勢になる。

 柔らかいお腹の感触とフレデリカの匂いにレオの脳裏には昨日の記憶が蘇る。

 頭を左右に振り、煩悩を振り払う。


「……なんかちょっとくすぐったいな、レオ、安定したか?」


「うん、なんとか大丈夫」


 リディアはそんな2人のやりとりを微笑ましく眺めていた。


◇◆◇


 正午を回った頃、水場で少しの休憩を取る。

 水を補給し、馬を休ませる。


 2人はリディアに冒険者になってどんな依頼を受けたか、どんな事が大変だったかなど、道中からずっとそんな話ばかりを尋ねている。

 2人の好奇心は刺激され、もっと、もっと!と話をせがまれる事態に。


 そしてリディアも2人の事を聞いた。

 フレデリカとレオはリディアには呪いを解くための情報なんかを含めて、今後も色々と話しを聞く為に、フレデリカの事情を話しておこうと決めていた。


「え!?じゃあフレデリカは本当にフレデリクで、元々男だったの!?」


「そういう事」


「なるほどね、だからなんだか綺麗な見た目なのに言葉遣いが残念だったり、俺とか言う変わった娘だったのね。それに2人は距離が近いしてっきり付き合ってるのかと思ってた、とっくに男女の関係だとばっかり」


「だ、男女の関係!?そんなこと有るわけないだろ!男同士だぞ!!」


「そ、そうだよ、まだそういう関係じゃないよ!」


 顔を真っ赤にして憤慨するフレデリカと、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに反論するレオ、それは同じ真っ赤な顔でも全く意味が違う事を理解出来ないリディアでは無かった。

 そりゃあこんなに綺麗になっちゃうとね、なんて思いながら。


「ごめんごめん、でもそんな呪いがあるなんてね。街には呪いを扱うところもあるから覗いて見るといいよ」


 その後、移動を再開する際にフレデリカはリディアにお願いして同乗する事になった。

 そして無事に女性として基礎知識や注意点なんかを教えて貰い、街についたら色々そういうお店も含めて案内して貰う事を約束した。

 フレデリカにとっても、何時までかは分からないが女の身体と付き合っていくに当たって、事情を知る、頼れる女性の友人を作る必要があったので、それは非常に嬉しい事だった。

 その様は元気な妹に優しく教える姉のごとく、仲の良い姉妹のようにレオには見えたのだった。


 3人は平野の街道を進んでいるため、魔物の襲撃は暫くなさそうだ。

 ただ、リディアが言うにはもう暫く先、街にある程度近づく頃には魔物ではなく、盗賊が増えてくるので油断は禁物との事だった。


 1日目の晩、3人交代で見張りをし、その日は特に何事も無く夜が明けた。


◇◆◇


 2日目、その日は暑く、フレデリカ達とリディアはお昼すぎに木陰で休憩を取っていた。


「あっついなあ、何処かで水浴びでもしたいぜ」


「そういえば、もう少し先に行くと良い場所があるから、そこまで頑張って行こうか」


 その良い場所とやらへ向かう事へ。街道から少しそれて小さな林を抜けるとそこには小さな滝があり、水浴びするには丁度良い深さと水の綺麗な水場があった。


「おおー!良いじゃん此処!水浴びするにはピッタリの場所だ」


「凄いね、水も綺麗で補給も出来そうだし、涼むのにも良い感じだね」


「でしょ?こんな日にはこういう場所で落ち着きたいよね」


 馬から降り、荷物も下ろしてレオは水質を確かめる。

 振り返るとフレデリカは服を脱ぎ始めていた。


「レオ!早く一緒に水浴びしようぜ!」


「え!?い、いや僕は周りを見張ってるから……リディアと水浴びしなよ……」


 レオは真っ赤になって顔をそらし、リディアに矛先を転じる。

 話を振られたリディアもどうしようか悩んだ。

 やっぱりレオはフレデリカを女の子として扱っていて、恥ずかしがって一緒に水浴びは出来ないみたいだ。

 それにこの2日間でのフレデリカの様子だと、どうやらまだまだ男としての意識が強いみたいで、今みたいに平然とレオと一緒に水浴びしようとするし、これから先が思いやられそうだ。

 

 そして自分、身体は女の子だけど心は男の子と一緒に水浴びかあ……。

 うーん……まあ良いか、これから色々と教えなくちゃいけないんだからコレくらい。と吹っ切れた。


「よし、それじゃあ一緒に水浴びしましょうか、ちょっと待っててね。レオは見張りお願いね、覗いちゃ駄目よ」


「はい!それじゃ見張りしてきます!」


 レオはさっさと水場を離れていった。


 これですんなり行くかと思いきや、今度はフレデリカが慌てる番だった。


「いやいや!リディアと一緒なんて不味いって!」


 そう言ってフレデリカは顔を隠す。

 男の意識のフレデリカは、女性と一緒に水浴びをする事を恥ずかしいと思っているようだった、今は男の身体ではなく、女の身体なのだが。


「何言ってんの、レオと一緒のほうが不味いでしょ。それに同じ女同士なんだから恥ずかしくないでしょ」


「リディアこそ何言ってんだ、俺は男だぞ!呪いを解いたら男なんだぞ!」


「でも今は女なんでしょ?いいからホラ、顔を隠してないで身体を洗って、ついでに髪も洗っちゃおう!」


 フレデリカはタオルを取り出し、フレデリカに近づいた。


「ちょ!マジでやめろって!やめて!」


「観念しなさい!」


 リディアは逃げようとするフレデリカを捕まえて、身体をタオルで優しく拭き洗い始めた。

 するとようやく観念したのかフレデリカは大人しくなって、素直に洗われている。


 リディアはフレデリカの肌や髪を見てため息をついた。


「凄く綺麗な肌よね、これも呪いの影響なのかしら、それに髪の手入れは何もしてないのよね?それなのにこの髪質と艶なんて、私にも呪いをかけて欲しいと思っちゃう」


「でも身体はちゃんと丁寧に洗わないと駄目よ、女の子なんだから、臭い女の子とか男でも嫌でしょ?」


「それは確かにそうだけど、面倒臭いじゃん」


 この感覚のままだと折角の磨けば光る、いや既に光りを放っていて、さら強く光り輝く素材が薄汚れたものになって台無しにしてしまうだろう。

 それは勿体ない、という強い思いがリディアに湧いて、なんとか自分磨きをするように説得を試みる。


「例えばフレデリカには理想の女の子像とか無いの?それをイメージしてみたら良いんじゃないかな」


「うーん、理想の女の子ねえ……考えた事も無いなあ」


「無いかあ、うーん……そうね、だったらレオの理想の女の子像は?それでもいいんじゃない?イメージは大事だよ」


「あー、それなら知ってる、レオのやつあれで女好きだからな、ムッツリってやつだ、よくこういう女の子が良いなあ、なんて話を聞いたもんだ」


 それだ!嬉しそうに反応するリディア、むしろその方が面白そうだと判断すると畳み掛ける。


「良いじゃない!それを目指してみよう!街についたらそれっぽい格好なんかしてみたらどう?」


「えー、でもなあ」


「きっとレオもびっくりするし、面白い反応すると思う、驚かせて見たくない?」


「驚かせる、か、確かにそれは面白そうだ!それで揶揄うのはありだな……じゃあさ、そういう服を探すの手伝ってよ」


「もちろん!楽しみだね。その為にもまずは身体は出来るだけ綺麗にするよう心がけないとね」


 リディアは完全に面白がっていた、反応を楽しんでいた、そしてこれから先の2人は期待出来そうだと思っていた。

もちろん、戦力としてではなく、リディアを楽しませるという意味でだが。


◇◆◇


「じゃあ今度は私を洗ってね、はい」


 フレデリカにタオルを渡すとくるりと背を向けて座る。

 洗われる分には大人しくしてれば済むが洗うのはそういうわけにはいかない。


「え!?え?まじ?」


「当たり前でしょ、洗ってもらってそれで終わりとか思ってないよね?」


「……確かにそうだけどさぁ……確認だけど俺に見られても良いんだね?」


「うん、……良いよ、優しく、丁寧にね」


 やはりリディアも女の子である、意識が男のフレデリカに吹っ切れたつもりでいたけど躊躇してしまった。

 それはごく当たり前の事で、自然な事だった。

 そしてそれも、これからの楽しみを思えば、あらためて吹っ切れた。


 フレデリカは自分以外で始めての若い女性の裸を目の当たりにし、少し興奮し、緊張しながらも洗い始めた。

 しかし違和感を感じた。

 始めはリディアの裸を見て、少しだけ興奮したがそれも薄れ、殆ど興奮せず、男のはずの自分が女の裸を見ても興奮しない、という事それ事態に気付かなかった。

 段々と洗い進める内にやっと異変に気付いた。

 背中や腕などの身体の感触、胸の柔らかさ、どれをとっても男の時ならもっと興奮していたはずである。


 今はそれを見ても、触っても、余り興奮せず、まるで同性の身体を洗っているような感覚であった。

 身体だけみればまさに同性ではあるのだが、意識は男である、男のはずである。

 しかし、若く綺麗な女性の身体に興奮しないなんて、どうしてしまったのか。


 フレデリカはまっとうな男の子だった、つまり女の子に性的興奮を覚え、同性には興奮しない男であった。

 それが呪いを受け女の子になった時に、男の時と同様に同性には興奮しなくなったのだろうか。

 それともこれも呪いだろうか。


 何が原因か分からないが、この事実はフレデリカにはショックだった。

 女に興奮しない、それはつまり、男に興奮するという事では無いだろうか!?


 意識は変わらず男である、そのはずだ。

 その意識のまま男に興奮するなんてそれはまさに地獄、そう思えてならなかった。


◇◆◇


 お互いに身体を洗い終わり、衣服を着直してフレデリカはレオを呼んだ。

 レオが戻ってきて、見張りの交代を伝えるフレデリカ。


 水場から離れて一緒に周囲を警戒するリディアに尋ねる。

 それは女の感覚として、とても大事な事だった。


「なあリディア、リディアは男の身体を見たらやっぱり興奮するのか?」


 思わずブフッと吹き出すリディア、突然の質問に唖然としてフレデリカを見る。


「えーと、どういう意味?」


「いや……男が女の裸で興奮するように、女も男に興奮するのかと思って……」


 リディアは理解した。

 そうか、フレデリカはレオの身体に性的興奮を覚えて、それで戸惑っているんだ、と。

 だが実際のフレデリカはそうではない、まだ興奮はしないのだ。


 しかし勘違いして理解してしまったリディアは背中を押すつもりで、助け舟を出すつもりで話しだした。


「そうね、するわよ興奮。私の場合はやっぱり胸筋ね、それに腹筋も、男の逞しさを体現してるように感じるし、特に胸筋は私が鍛えてもあんなに綺麗になれないし、やっぱり憧れる。良い胸筋をみたらジーッと眺めちゃうくらい好きね」


「そ、そうなんだ……」


 思っていたよりリディアが乗り気なのでまだそれが理解出来ないフレデリカは少し引いた。


「まあでも男はみんなおっぱいとか好きだけど女の場合は男の好きな場所とかって結構違うからね、まあ言われてみれば理解できるのもあるけど」


「なるほど、じゃあやっぱり女の人も男に興奮するんだな、安心した」


「……で、レオの何処に興奮するの?教えてよ」


「な!?いや!まだ興奮しないって!するわけないだろ!」


「え!?そうなの?なーんだ、それじゃあ話しすぎたなあ、あ、でも興奮するのはおかしな事じゃないから安心してね、するようになるのが楽しみだね」


「いやしねえから!する予定もないから!」


「分かんないよー、レオだってこれからどんどん立派になるし、いつしても不思議じゃないよ」


「何騒いでんの2人とも……」


「「!?!?なんでもない!!」」


 想定外に早く戻ってきたレオの一言に思わずハモって応えるフレデリカとリディアであった。


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