8.魔物暴走


 冒険者一団の目的、それは魔物暴走スタンピードが発生し、それに対処が必要になり集まったという事だった。


==========魔物暴走==========

 魔物暴走とは森などの住処を追われた、もしくは襲われた魔物達が恐怖で暴走し、群れなして大移動する事である。

 発生した場合は定住場所を見つけるまで何日間も移動しつづけるという。

 途中で村などがあった場合はそこへ冒険者を送り込んで退治、撃退、もしくは方向をそらしたりなどする。

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 そして今回はこのライリー村が通り道にあり、街から冒険者一団がやってきたようだった。


 ただ今回は魔物暴走の規模に対し集まった冒険者の数が足りず、村人や旅人からも募集を掛けていた。

 活躍に応じて報酬が出るという事だったので2人にとっては渡りに船で、直ぐに参加を決めた。


 魔物暴走で出てくる魔物は強い魔物は基本的におらず、弱くて数が多い魔物が多い、そのため、魔物によっては腕が立つ村人でもある程度役に立つ。

 とはいえ前線には立たず、後方で控えて漏れた魔物を倒すだけなのだが。


「よし、俺たちも参加するぞ」


「だね、到着予定は明日昼前らしいから丁度良い時間だね」


「ちょっと申し込んでくる」


「いや、僕も行くよ、心配だし」


「んー、じゃあ護衛頼む」


 声を掛けられたり、ちょっかいを出されないようにレオは基本的にフレデリクの傍にいるよう心がけていて、それはフレデリクも理解していた。

 それでも声は掛けられるし、ちょっかいを掛けてくる者は後を絶たないのだが。


「よう、レオにフレデリカ、お前らも参加するのか」


「ああ、報酬も出るっていうし、レオの腕試しに丁度良いだろうって思ってな」


「別にフレデリカまで出る必要はねえだろう、杖持ってるのは見た事あるけどよ……もしかして加護で攻撃出来るスキル持ってるのか?」


 このおっさんはマッケンナ、特訓を見物していて声を掛けてきて、それから食堂でもよく話し掛けてきてくれて、仲良くなっている。

 若い頃は剣を握っていたとかで若くて剣を熱心に振るうレオに興味が湧いたらしい。


 始めの自己紹介の時にレオと同様にフレデリクをフレデリカと聞き間違えて、訂正してもそのままフレデリカと呼び続けて、フレデリクも訂正させるのを諦めた。


「いや、攻撃出来るスキルは発現してない、だけど【身体強化】があるし、俺がいないと何かと心配だからな」


「ふーん、ま、フレデリカが心配なのも分かるけどよ、無理すんなよ。お前が怪我でもしたらレオが悲しむぜ」


「俺だってレオが怪我したら悲しむよ」


「そういう事じゃあねえんだけどな、まあいいや」


「マッケンナは参加しないのか?強かったんだろ?」


「気が向いたらな」


 そう言い残しマッケンナは去っていった。


「相変わらず変わったおっさんだな」


「マッケンナは良い人だよ、それに凄く強い」


「ああ、それは感覚が鈍った俺でも感じる、相当強いだろうな、勿体ねえ」


 魔物暴走の討伐参加受付まで行くと、そこには女性冒険者が受け付けをしていた。


「あら、可愛いお二人さんね、討伐参加するの?」


「ああ、俺達2人ペアで参加する。俺はフレデリクでこいつはレオ」


「はいはい、フレデリカにレオね」


 また間違われた、しかしフレデリクはもう言い直す事はしなかった、マッケンナや他の人達で分かった事だが間違えたところで何も問題は無いし、一々言い直す事は面倒だと思ったからだ。


「若いあなた達には大事な事を伝えるわ、倒す必要はないの、村に被害を出さない事が大事、ね。それにあなた達は冒険者じゃない、危なくなったら逃げても良いんだから。本当は逃げられると困るんだけどね」


 真面目な顔を崩し、最後はちょっとお茶目に受付の女性はそう言った。

 気負いすぎないように気を使ってくれたんだろうか。


「はい、分かりました」


「うん、素直でよろしい、フレデリカも無理しないようにね」


「ああ、分かってる」


「じゃあ明日、門の前でね」


 受け付けの女性と別れ、そのまま宿に戻った。


◇◆◇


 翌日、門の前に沢山の冒険者とフレデリクとレオや何人かの村人に旅人の姿があった。

 総勢50人程度はいるだろうか、これだけいれば魔物暴走は対処出来そうな気がする。


 一際立派な出で立ちの冒険者が1人、壇上に立って挨拶をした。


「おはよう諸君、私はBランク冒険者のニールだ。今回の魔物暴走鎮圧の総指揮を任されている。諸君は此処にいるCランク冒険者の元に振り分けて配置する。それぞれ隊長の指示に従うように」


 どうやら50人を10人毎5部隊に分け、前衛は近接冒険者、撃ち漏らしは後衛の後衛冒険者と村人と旅人が処理となるようだ。

 そしてフレデリク達の隊長はCランク冒険者のカラム。

 Cランク冒険者だけあって、そこらの冒険者とは違う雰囲気を纏っている。


 フレデリクの目を引いたのは昨日受け付けをしていた女性が同じ隊にいた事だった。

 しかもその女性は前衛で剣を振るう格好をしているように見える。

 

 この世界でも力は男のほうが強く、鍛えた男には女がいくら鍛えても敵わない、それが常識だった。

 しかしそこにいる女性は冒険者で、前衛をしている。埋められない筋力の差、それをどうしているか、フレデリクにはそれが気になって仕方がなかった。


 カラム隊長の配置指示が終わり、配置につく、その頃にはもうすでに魔物暴走の姿がハッキリ見える距離にいた。


◇◆◇


 200体規模の魔物暴走、規模としてはそれなりの規模で、50人程度の冒険者がいれば基本的に対応出来る数とされる。

 今回の目的は鎮圧、つまり撃退もしくは殲滅が目標だ。

 とはいえ村の方向からそれた魔物を追いかけてまで倒すような事はしない。


 魔物暴走の対応にはEランク冒険者は基本参加出来ない、まだまだ無頼漢として扱われるランクであるEランク冒険者は魔物暴走の際に逃げ出す事が多く、村を守るという点に置いて信用も実力も伴わない事が多いからだ。


 しかし今回は冒険者の参加人数そのものが足りなく、村人や旅人も含めて50人である。

 苦戦を強いられる事は予想出来た。


 魔物暴走はひと塊で移動しているわけでは無く、種族で集団を作り、複数の集団で移動してる。

 あくまで移住先を探すのが目的である為だ。

 だから移住先を見つけた集団から魔物暴走から離脱する。

 そして規模は小さくなり、最終的に魔物暴走は消滅する。


 複数の集団で移動している事は待ち受ける人間側からするとありがたい話で、集団を凌げば少しの休憩と再編成の猶予が与えられる事になる。


 フレデリク達が所属しているのは第3部隊、通称カラム隊。

 フレデリクとレオ以外は全て冒険者で自分達と2人の冒険者が後衛を任されている

 1人は杖を持っている事から攻撃系スキル持ちなのだろう。

 もう1人は弓を持っていて、弓技のスキルだと予想出来る。

 前衛6人に後衛4人の編成だ。


 魔物の第一波が前線に到達する。

 それは鋭い棘が付いた鹿のような角を頭に持ち、身体は猛牛を思わせるがっしりした体躯をした、ソーンバッファローだった。

 正面から剣で撃ち合うには相性が悪そうに思えた。


 フレデリクは【身体強化】を後衛の2人とレオに掛ける。

 2人はそのまま遠距離からスキルと弓技を放ち、レオも【火炎】を放ち数を削る。

 その効果の大きさに2人の冒険者は驚き、フレデリクを見る。

 フレデリクはサムズアップで返してみせた。


 後衛の働きのお陰か、殆ど被害も無く、カラム隊は第一波を殲滅させた。


「ねえフレデリカ、さっきの【身体強化】はあなたがやったの?」


 前衛から受け付けをしていた女性がやって来て、尋ねてきた。


「そうだけど、えーと……」


「あ、ごめんね、私はリディア、青の加護を持ってて、【肉体強化】も持ってる、フレデリカは白の加護よね?」


「ああ、白の加護を持つ、確かに【身体強化】は俺がやった」


「凄い効果ね!後衛の弓技を使うのは私の知り合いなんだけどあそこまで強力になるなんて初めて見たわ」


 効果が強いのは杖のお陰だけど。

 フレデリクはそう思ったが口にはしなかった。

 そんな事よりフレデリクは気になっていた事を聞きたかった。


「リディア、聞きたい事が」


「ん?なあに?」


「俺の知る限りでは女は男に力が敵わない、だけどリディアを見た限り男にも負けないほど力があるようだった、それは何故?」


「それはね、さっき言った【肉体強化】のお陰、これは女性専用に発動するスキルで、男と同様かそれ以上の力を得られるのよ、まあ発動する人は少ないんだけどね」


 その情報は今のフレデリクには喉から手が出るほどに欲しいものだった。

 そのスキルが欲しい!それさえあればレオの足を引っ張らなくて済む!そう思った。


「でもね、【肉体強化】は成人の儀式でしか発動しないスキルでもあるのよ、当然女性にしか、ね」


 成人の儀式の時に、女性にしか発動しない、それを聞いたフレデリクは落胆した。

 その時はそもそも男で、発動なんてするわけが無かった。


「……ああ、うん、リディア、ありがとう、そんなスキルがあるなんて知らなかった」


「いえいえ、そろそろ戻るね、また後でね、フレデリカ、レオ」


「また後で」


「フレデリク、気を落とさないで、僕が君を守るから」


「え?……お、おう。……頼む」


「任せて!」


 レオも頼もしくなったものだ、いや、自分が頼りないだけか?

 今更だった、ゴブリンからもフォレストウルフからだって文字通り命がけで守ってくれたじゃないか。

 でも君を守るなんて言葉にされて、以前のような不甲斐なさは感じなくて、柄にも無く少し嬉しい自分がいる。

 いやいや、これは親友としての言葉だ、そうに違いない、決して女扱いじゃない。

 それに今度は今までみたいに守られるだけじゃない、俺もレオを助ける番だ。


「来るぞ!」


 レオの背中を叩き、気合を入れる。



 第二波、第三波は強い魔物ではなかったため、フレデリクはレオにのみ【身体強化】を掛けた。

 使用回数に限りがあるので毎回全員に掛けるわけにはいかないのだ。

 その考えは冒険者であれば理解されるものであった。


 第四波、オークの集団と、それとは別にハードボアと呼ばれる蛇の集団だった。

 オークの集団は別の隊が対処し、カラム隊はハードボアの対処をする事に。


 ハードボア、動きが機敏な癖に硬い鱗と強く鋭い牙を持つ、物理攻撃が聞きにくい魔物。


 カラム隊長は黄の加護のため、風のスキルでは相性が悪く、実力が発揮出来ないでいた。


 しかしリディアは青の加護、そしてスキルは【氷凍剣】という、氷を剣に纏わせ、切った物を凍らせるもので、ハードボアは氷と炎が弱点とされ、氷で動きを鈍らせる事が非常に効果的だった。

 そして炎に弱いという事はレオの強化された【火炎】も文字通り火を吹いた。

 さらにレオは前線に上がり、【火焔剣】でリディアと一緒に大車輪の活躍をした。


「太刀筋はしっかりしてるし、受け答えも問題無い、それに読み書きも出来るなら冒険者としてすぐにDランクまで行けるんじゃないか」


 カラム隊長の太鼓判までもらったレオはご満悦だった。


「はい、騎士を目指していたので、読み書きも算術も覚えました。今度街に行ったら冒険者を始めるつもりです」


「はは、いいね、気に入った、街で会ったら声を掛けてくれ」


 今度はリディアが声を掛けてきた。

 

「凄いじゃないレオ!【火炎】に【火焔剣】まで使えるなんて、それにカラム隊長も言ってたけど、しっかりした太刀筋で驚いたよ」


「いえ、これは全てフレデリ……カのお陰です。フレデリカが居たからここまで強くなれました」


「ふーん、なるほどねー、やっぱりそういう仲なんだ」


「あっ、いえ、そういう意味じゃあ……」


「あっはは、フレデリカー!ちょっと来てー」


 フレデリクを呼んでどうするつもりだろう、変な事を言わないだろうか、レオは心配だった。


「レオとフレデリカはこの村を出たら街で冒険者になるつもり?」


「はい、そのつもりです」


「ああ」


「リディアお姉さんね、君達の事が気に入っちゃった、暫く付いていきたいな、良いでしょ?」


 フレデリクとレオは驚きを隠せなかった、まさか同行したいなんて言われるとは思わなかったからだ。


 しかしフレデリクは思うところがあって、女性の信頼出来る同行者が欲しいと思っていた。

 フレデリクは妹がいたので拙い知識ながらも女性特有のものがある事は知っていた、だけどどうなるのか、どうすれば良いのかの知識は全く無かった。 

 だから女性同行者に基礎知識を教えて貰って、対処出来るようにしたい、そう考えていた。


 そういう意味ではフレデリクにとって渡りに船の提案であった。


「いやそれは──」


「本当に!?リディアが一緒なら心強い!こちらこそよろしく!」


 レオが断りかけたところへ、フレデリクが被せてOKを出した。

 レオはまさかフレデリクがOKするとは思わず驚いた様子でフレデリクを見る。


「こちらこそ!さあ、次が最後だからね、気合入れて行こう!」


 リディアが声を掛け、カラム隊長が指示を出し、第五波に対処した。


 カラム隊は最後まで大きな怪我人も出さず、無事に鎮圧が完了した。

 それはレオとフレデリクの力が想像以上に大きく、他の隊より戦力が充実していた証であった。

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