半年前の約束

涼風 透葉

また同じ場所で。



一つのノートを持って

夢の中で出会った君へ。


伝えたい事ー。






テストの前日。

私は勉強に追われていた、ペンを持ったままうとうとしてノートにぐるぐる書きながら

机に突っ伏して眠りについた……





夢の中である男の子に出会った

名前も声も知らない。

でも。とある場所で吸い込まれるような笑顔に目を奪われた。何も知らない君はただ笑いかけてくれた。ぼやっとした意識の中で

君は私のノートに文字を書く……





そこで私の夢は終わった。




目を覚ますと窓から光が入ってきていた

朝かと思い学校に行く準備をする

椅子から立ち上がりふとノートの文字が目に入った







『また同じ場所で』






男の子らしいような字でそう書かれていた






「同じ場所……」





そう呟いて机の上の筆記用具と゛ノート゛を

リュックに入れて家を出た。




駅に向かっている途中、

ゆっくり囁くような低音が響いた





聞いた事のない、でも、聞こえた方向に目を向けてみる、自分の名前を呼ばれた訳じゃないのに何故か自然と後ろを向いていた




「っ!?」




正直私はぼやっとしてて覚えてなかったけど

君を見た瞬間私は確信した…




あの吸い込まれる笑顔が私の目を引いた




ぼやけるする夢の中で彼が文字を綴ったノートをリュックから取り出す…




やっぱり夢じゃなかったの、?




君は一歩づつ私の元に来て



「また会えて嬉しいよ」



彼は笑顔でそう言った。





それは現実なのか幻覚なのか分からなかった



どちらも夢なのかもしれない。






それが高校3年冬の出来事だー。





……




高校3年の夏。



新学期。新しいクラスになり出席番号を確かめて席に着く



私はどちらかと言えば教室の隅で一人で読書をするタイプ…って思われてる人間だ




そう見せて話しかけずらくしている

人と関わるのは苦手だし、何より楽だから。





でもそんな私を一瞬にして消し去る人が現れた







「ねぇ?君さ!!」



新学期そうそうコミ力高いやつが隣になってしまった…




「わたし、ですか?」




「うん!名前教えてよ!

俺、倉木湊っ!よろしく」



テンポが早くて軽い……




「私は赤坂です…よろしくお願いします」




同級生と話したのは久しぶりかもしれない。


そう感じるほどに私は学校に馴染めていなかった、毎日通って休んだことなんかないのに一人だけ空気のようで二年間ずっとそうだった




「下の名前は?」



「ゆめか、赤坂夢叶です…」



「綺麗な名前。いいじゃん!

改めてよろしくなゆめか!」



「よろしくね。倉木くん」




名前呼びかぁ、こんなにかっこいい人だったら他の人に目付けられそう…せめて私は苗字呼びで、




「なんでだよ!普通そこは湊だろ!」



なんとビックリマークが多いだろう…


話してて文字がずらずらと並ぶ度にビックリマークがついているように聞こえる。




「じゃあ、湊、くん……」



「まぁそれでいいや!

あのさ、課題やった?新学期提出の」




「うん、」







ああ、結局湊くんもあの人たちと同じでー。


「じゃあさ!見せ合いっこしねぇ?

俺漢字ミスったりしてる気がするんだよ〜」




「え、いや、えっと、、」



思いがけない言葉に私は硬直してしまった




「あ〜わりぃ、ゆめかにいい事ないよな」



「ううん、いいよ」



私がそう言うと湊くんはパッと明るくなって

私に笑顔を向けた。彼に最初に向けてもらったとびきりの笑顔。目が合った時のことは忘れられないー




……




「ちょっと湊くん、ここも、こことか」




「んぁ?あーここは゛厚い゛だろ」



「外が、あついは゛暑い゛だよ」



ドヤ顔する湊くんに書いて教えると

わー!その手もあったかー。っと

ありがとう。と言って直していた






それから少しして新しい担任の先生が来た



恒例かのように、名前と好きなものなど

その場で立って言う名の自己紹介が始まった




私は最初の方で名前だけを言って座った



湊くんならチャラいこと言うんだろう

とか思っていると私の予想とは全く別だった




「倉木湊です。よろしく。」



そう言って座った、私と話してる時と声のトーンも顔の表情も違った



自己紹介も始業式も終わり、帰りの支度をしていると……





「なぁゆめかぁ一緒に帰らね?」



「え、うん」




これは湊くんの優しさなのだろうか、

ただ単純に誘ってくれているのだろうか、


それが分からないまま私たちは昇降口を出た





「湊くん…?」



どうしても気になったことがある私は

湊くんに初めて、高校生になって初めて人に声をかけた



「どうした、?」



「どうして、私に声をかけてくれたの?」







「俺は夢の中で君に出会った。」






ぽつりと湊くんがそう言った



覚えていない。知らない。

そういう次元じゃなく分からない。



まず、湊くんの夢なら私は見れない。

知らなくて当然だ。



「夢の中で居た人が突然隣の席いたら気になってさ、」



「そーだったんだね」



ただ気になっただけ。それで私に声をかけてくれた、





沈黙の中2人で人通りの少ない道で駅まで向かっていた。



上を見上げると空が綺麗で横を見ると

湊くんも上を空をそれより遠くを見ている気がした









「……半年」








「え、?」



声を押し殺したような低く掠れた声が聞こえた






「俺があと生きられるのは半年だ。」





突然の告白に驚きを隠せず何も言えなくなってしまった




「そんな顔するな笑」



「……ごめんね、」




「なんで謝ってんだよ笑

俺が勝手に呟いただけだよ。」




私はどうゆう反応するのが正解だったのだろうか




「聞き流すつもりで話聞いてくれるか?」



私は俯いてうん。とだけ言った




「生まれつき心臓病で18まで生きられないかもしれないとずっと言われてきた。

でも、今日をちゃんと迎えられたんだ。」




その言葉に私はハッとする…



「今日誕生日なの、?」



「ああ、でも、一昨日。

病院に行ったら先生にあと半年もつかどうか

そう言われたんだ」



こういう時なんて言ってあげるべきなのかな

私にかけてあげられる言葉があるのかな




「誕生日おめでとう。」



「ありがと」



私に言えるのはこれだけかもしれない


他に言葉をかけてあげられるのなら

私はなんだって言ってあげたい。





「ねぇゆめか、」



さっきとは違って声が明るくなったほっと安心する





「駅まで競争しねぇ?笑」




「しょうがない!いいよ」




本当は走らない方がいいのかもしれない。


なるべく無理しない方がいいのかもしれない。



それでも湊くん自身がそう言うならと乗って上げようと思った




「ゆめか最高っ!早く着いた方が相手のお願い聞くってことで、よーいどん!」




わ、湊くん本気だ、




そんな彼を見て可愛いと思ってしまう




負けずに私も全力で走る。


でもなかなか湊くんを追い越せない





そのまま駅に到着した



もちろん私の負け。





「よっし!俺の勝ち〜

じゃあ俺に着いてきて。」




「湊くん、勝つ自信しかなかったでしょ、」




「え?ばれた?笑

俺一か月前までサッカー部のエースやってたんだぜ?」




いじわるだ、そんなの勝てるわけない。


教室の端っこにいる私とは訳が違う




でも、吹っ切れたような湊くんの顔を見て安心した




着いてきて。と言われて電車に揺られて人が少ない田舎のようなところに着いた




何もお互いに話さずに歩いていくと浜辺に着いた







「ゆめか。俺とずっと…卒業するまでに学校に通ってほしい。」






消え入りそうな低い声でそう呟いた



夕方の夕日が綺麗に映る海に被る湊くんは

輝いていてかっこいい。




まだ少しの時間しか一緒に居ないけど答えは決まってる。少し意地悪してみようかな



「湊くんもう゛着いてきて゛っていうお願いは叶えたよ?」




「おれは、お願いとは言ってないよ」



てへっと笑う湊くんはかわいい。



「うん笑そうだね。一緒に通おう」



「約束だよ。」




私たちは小指を結んで約束をした





最寄り駅が同じ。


でも待ち合わせ場所は駅じゃなく二人が別れる道、何も無いけど朝はドラマのように日差しが綺麗な場所。






「今日はありがとう。

これからもよろしくな!またね」



湊くんは手を振って分かれ道を歩いていく後ろ姿を見て私も帰路についた……




「またね」


そう呟いて。






翌日…



靴を履いてつま先を音を鳴らして家を出た



あの場所に向かう…まだ彼は来ていなかった




「ゆめか」



振り向くと湊くんが手を振って立っていた



ネクタイを緩く着崩した制服。





「おはよう」



「はよー!」



朝から元気が良くてほっとする




二人で歩き出す。



「ねぇ湊くん、教室では話さないようにしよう」



「え、なんで?」



「湊くんがかっこいいから…周りの視線が怖いの、」



なんでこんな奴と……なんて思われなくない


湊くんは普通に友達と過ごしていて欲しい


だから……




「ゆめかがそう言うなら。じゃあ帰りは一緒がいい!」



「いいの?」



「おう」



「じゃあそうする」




やった!と喜ぶ湊くんはいつも可愛い




それから毎日朝学校に一緒に行って

教室では話さず。一緒に帰るという日々が続いた







季節は冬。



沢山休日に遊んだりもした。



水族館、動物園、遊園地そういうんじゃなくて、海や町をお散歩したり目的を決めずにぶらぶら歩くだけ、公園で座って話すだけ。


お互いのことをたわいもない話ばかり、

この半年…沢山色々なことがあった。




湊くんは毎日欠かさず学校に来て、

私たちは毎日待ち合わせ場所に集合する。




でも、最近は胸を押さえたり咳き込んだり

体育を休んだり保健室を利用することが多い



それでも一緒に行かなかったことも帰らなかったこともなかった




一週間後は余命宣告をされている日。



そんなことを感じとれないような素振りにびっくりする




今隣で沈黙の中イルミネーションを眺める湊くんは私に話しかけた。



「俺怖いんだ。」



死ぬのが、それはみんな怖い

恐れていない人は居ないと思う




「もう一緒に学校に行けなくなるのが。」




「…え?」




「まだ沢山話していたいし一緒にいたい」




「私もだよ。大丈夫湊くんなら大丈夫だよ」




何の責任もない大丈夫という言葉は

1番彼を傷つけてしまうのだろうか……




「ゆめかはさ、夢とか見た事ある?」



「あんまり見た事ないかな。

はっきり覚えてる夢とかないもん」



「じゃあぐっすり眠れてるんだね笑」



「普段呑気なのもあるかも」



そんな話で笑い合う…私はこの時間が好き




「湊くんは?」



「俺はほぼ毎日のように見るかな」



「眠りが浅いんだね…」



自分がそう言ったのに考えたら悲しくなってしまった




「そんな顔しないでよ」



「ん、ごめん」



「大丈夫だよ。」



湊くんの優しくて暖かい声が聞こえた







ライトアップされた街中を歩いて家に帰る



湊くんは入院だとかせずただ通院するだけ。



もう彼には時間が無いお互いそれに気づいている



それでも最後まで生きようと、ただ゛普通゛の生活を送っている




その次もまた次の日もいつものように待ち合わせ場所に行く…





「そういえば、金曜日ゆめか誕生日じゃん!」




今日は火曜日。



湊くんは気にしてないでも余命道理になってしまえば金曜日が……




やめよう、こんな考え方。




「うん!そうだね」




明るくそう答えた





日が経つのが早く金曜日。



彼は笑顔で゛待ち合わせ場所゛に来た




「誕生日おめでとう」



半年前私が湊くんに言った言葉。



「ありがとう」



いつものように学校に向かう



……



そして同じように帰路に着く



別れ道。別れてしまう道。





「夢叶。じゃあね」





その言葉は私の心に響いた。





「湊。またね」






またねって言ってほしくて

歩き出す湊に返してみる








「すきだよ」







振り向いて彼は私にとびきりの笑顔を見せた





「私もだよ…」




今までずっと、泣きそうだった。



まだ泣いちゃいけない



歩きを止めない彼を追いかける





「すきだよ、湊」





後ろから湊を抱きしめる



こっちを向いて私の頭に手を置いた




「ゆめか、またね」




彼はもう振り返ることなくその背中を私は消えるまで見ていた。




……





次の日の朝。

土曜日のお昼。




突然電話がかかってきた。



『倉木 湊』



初めての電話でも私は分かってた、



恐る恐る電話に出る。




泣くことを抑える声が聞こえた


この声は湊くんのお母さんだ



一度家にお邪魔したことがある…




「夢叶ちゃん…」



「はい、」







「――――――――」







何も言わずに電話を切った。



今の私は傷つけてしまいそうだから。








君はいつ私に出会ったんだろう

どんな夢を見てどんな私を見てどんな話をしたんだろう



半年前。



『俺は夢の中で君に出会った。』



そう言っていた、最後まで知ることは出来なかったけどいつか私が君の元に行った時。

教えてもらわなきゃね。









月曜日私は学校に、待ち合わせ場所に行かなかった。



家に閉じこもって何もせず声を押し殺して

叫ぶことすら出来ず涙を流した…





一週間休んでずっと考えた

私がするべきこと……





『約束だよ』




ふと思い出した、何気なく毎日通っていたけど約束……




私は果たさなきゃ行けない。



『俺とずっと…卒業するまでに学校に通ってほしい。』



行かなきゃ!待ち合わせ場所に。






その日の朝から私は学校に行った。




待ち合わせ場所には誰もいない




彼はいつも必ず一分遅刻していた

何となく一分そこで止まって学校に向かった




教室に入るとみんなが私の元に来た




「夢叶ちゃんおはよ!」

「赤坂さん〜!」

「夢叶さんおはよう」

「赤坂おはよ!」




このクラスになって彼以外に関わってこなかった関わろうとしなかった……



でも私が思っていたより遥かにみんな暖かかった



知ってたんだ、仲が良かったこと。毎日一緒に登下校していたこと。彼には触れず私を挨拶で励ましてくれる。







「みんなおはよう!」







誰とも話して来なかった私が

声を張ってみんなに挨拶をする




きっと私は彼に変えられたんだと気づく








また同じ場所で会おうね。









冬のある日。


テストの前日不思議な夢を見た



初めて見た夢。彼は笑っていた。








……








卒業証書授与式。



写真を撮ったり手紙を渡し合う人を見ながら私は帰路に着いた。





私たちの待ち合わせ場所に花を置く





「卒業おめでとう。」




まだ気温が低い三月。



゛サザンカ゛の花を添えて。




また会えますように。







思い出の場所で、また同じ場所で―。


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半年前の約束 涼風 透葉 @suzukaze0405

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