第5話 花粉症って認めたくない。

「ぶえっくしょい!」


 花粉の季節である。雪国とはいえ、最近は暖冬だ。そのおかげか、早い時期に花粉が飛ぶ。両親の車が真っ白になるほどだ。黄砂との違いはわからない。どのみち目と鼻にくるから、違いなんてないんじゃないかと真奈美は思っていた。


「風邪か。うつすなよ」

「違う。花粉」

「あー、最近かゆいよな」


 鼻をかんでいるとあらぬ誤解を雄大に与えていた。風邪ひいてたら学校来ませんと言うと、確かにと頷いている。


「薬は飲んでないのか」

「負けず嫌いで飲んでなかったけど、そろそろ飲もうと思います」

「お前のその変な負けず嫌いは何だ」


 真奈美は変なところで負けず嫌いなのであった。


「今度の土日に薬局行こうかな」

「帰りに寄ってけ。学校の近くに薬局あるだろ」

「めんどい」

「ティッシュの山を作る前に薬を買え」

「うっす」


 机の横にはすでにティッシュがこんもり入ったビニール袋がすでにあった。お菓子袋とは逆サイドにあるので、雄大からは見えていない。ボックスティッシュを消費していることを雄大は気づいていなかった。


「マスク持ってたら鼻栓するんだけどな」

「この前やってただろ」

「なんでバレた」

「思いっきり声が違うんだよ。わかるわ」


 数日前にも同じように鼻が大変なことがあった。その時は丁度マスクを持っていたので、誰もわからんだろうと鼻栓をしていたのだ。同じ放送部の仲間からは即バレていたが、雄大は何も言わなかったのでバレてないと思っていた。思いっきりバレていた。


「よりによって今日の放送は私が担当だし、つら」

「マジか。良く聞いておくわ」

「なぜそういうこと言うの? 緊張して噛むぞ」

「笑ってやるよ」


 真奈美は「こいつ鬼か?」と思った。


「次から授業中に寝てても起こさねぇぞ」

「やめろください。お前が起こしてくれるから先生が見逃してるところあるんだからな」

「感謝せよ」

「感謝してる感謝してる」

「心がこもってねぇ~!」


 また鼻が垂れてきた。鼻をかみ、ティッシュ入れになっているゴミ袋につっこんだ。そこでようやくゴミ袋の存在に気付いたらしい。雄大が「こいつマジか……」と白い目をしている。


「お前、今日の帰りに絶対薬局いけよ」

「わかってらい」

「明日確認するからな」

「お前は私のパパか」

「お前みたいな娘が居てたまるか」


 時計を見て、次の授業の準備をする。次は現国だ。真奈美は静かに絶望した。順番的に、音読が回ってくるからだ。鼻がつらいときに音読はつらい。音読する前に鼻をかもうと決心する。


「真奈美、音読の順番回ってくんじゃん」

「知ってる。かなしみ」

「どんまい」

「雄大は今日回ってこなさそうだからいいよね」


 教科書と辞書とノートを用意していると、隣から「あ」とマヌケな声が聞こえてくる。


「辞書忘れたわ」

「ドンマイ」

「今日使うか?」

「使うって言ってた気がする」

「マジか。ちょっと隣のクラス行ってくるわ」

「いってーら」


 のっそりと立ち上がった雄大は猫背気味に歩いて行った。時計を確認すると、授業開始まであと5分程度だ。さっと借りてすぐに戻ってくれば問題ないだろう。前回のノートを確認しつつ、教師が来るのを待った。


 ちなみに、雄大は現国の教師と一緒に戻ってきた。廊下で盛り上がっていたらしい。現行犯されたんだなぁと真奈美は哀れに思った。こういったネタも現国の教師はネタにして弄ってくることを知っているからである。

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