王道笑劇のヴォルフガング！！！〜大狼と現代ダンジョンを86/100層まで〜

第32話 布教

私の名前は小夏正子。

しょうもない話から『品川ダンジョン』に潜ることになった私は、何だかんだ色々あった結果、偶然出会った先輩探索者のライさんに指導を受けることになった。

「長い武器って、私でも使えるんですかね？」

「まあ、棒なら使えるだろ。流石に」

「棒かぁ…あんまり強くなさそうだなと思って、ナイフにしたんですけど…」

「ゴブリンなら普通に倒せる。俺の相方も使ってるしな。それに棒は安いぞ。1本数千円ってところだ」

「数千円かぁ…」

確かに、長剣（1万円〜）とかに比べれば安い。

ただ…。

「このナイフ、ほぼ未使用なんですけど、クーリングオフとかって利きますかね…？」

「無理」

ダンジョンの武器屋さんにクーリングオフ制度はないらしい。

こういう理由で一々対応していたら武器屋さんが大変だからだろう。

「言っても、そのナイフだって数千円くらいだろ？」

「高校生の数千円はそこそこ重いんですよ…」

私は別に、本格的に探索者として生きていくつもりはない。

その前提で考えると、ナイフも買って棒も買うというのは、かなり痛い出費だ。

話しているうちに武器屋さんに着いた。

ライさんと一緒に武器を物色する（ガル君は後方で待機）。

といっても、品揃えはそんなに大したことはない。

ここで売っているのは新人探索者向けの装備ばかりだからだ。

「お！ちゃんと斧もあるな。斧とかはどうだ？」

「いや、いいです…高いし…」

「小さめの手斧なら1本数千円だぞ」

「今は長い武器を探しにきたはずじゃ…？」

「…そうだった」

長めの斧は安くても8千円はする。

流石に買えないよ。

「く、布教失敗か…」

「それに、斧って重そうだし…」

自分で言うのもなんだけど、私の筋力は弱々だ。

腕立て伏せとか無理だし。

重い武器なんか絶対上手く振れないと思う。

「…まあ、そこそこ重めの武器ではある。あ、こっちの50cmくらいのやつならいけんじゃね？」

「いや、いいです…」

「斧はダメージ出るぞー」

「えっと、そんなに斧好きなんですか？」

「斧ってさ…かっこいいと思わないか？」

「いや、別に…」

ガーン！

という効果音が聞こえてきそうな表情で、ライさんは固まった。

そんなにショックだったのか…。

でも、正直かっこよさなら長剣とかの方が上じゃないかな…。

「そういえば、セイもあんまり斧トークには乗ってくれない…もしかして、斧ってそんなに人気無いのか…？」

セイって誰だろう？

ライさんの相方っていう人かな？

「えっと、じゃあ、この4尺棒を…」

「待った！斧の良さは使えば分かる！金は俺が持つから斧にしよう！」

「ええ！？」

それで私達は斧を購入して、ダンジョンに戻った。

本当は斧なんか使うつもりなかったけど、お金が浮くのであれば、私的にはそれが1番良かった。

「重…これ、どうやって使えばいいんですか？」

「思いっきりぶん回せ」

「ええ…」

「小回りの効く武器じゃないからな。でも、重心が前の方にあるから、思いっきり振れば遠心力も合わさって相当な威力が出る。重くて振れない問題については、レベルを上げて攻撃力が上がれば筋力も上がるので解決するはずだ」

「それまでは？」

「気合いで頑張る！」

「こ、根性論…」

大丈夫かな…この人が師匠で…。

「いたぞ、ゴブリンだ」

地下1層に戻ってすぐ、ゴブリンを発見。

私は買ったばかりの中型斧を両手で握った。

サバイバルナイフよりは重いけど、全く振れないほど重くはない。

「さっきも言ったけど、思いっきりぶん回すのがコツだ。外したら意味ないから、十分引き付けてからやるように」

「で、でも、刃が付いてるのって先っぽの15cmくらいのとこだけですよね…？」

「大丈夫だ。ゴブリンなんか棒の部分で殴っても倒せる。問題ない」

言われてみれば、そうか…。

「じゃあ、頑張って」

「は、はい」

私は覚悟を決めて、ゴブリンに近付いて行った。

「う、うああああああ！！」

「GOBU！？」

ゴブリンは私の接近に気付くのが遅れて、ビックリして棒立ちになった。

（今だ！）

思いきり斧を振りかぶって、フルスイング！

「GOBYU…！？」

斧はゴブリンの頭に突き刺さり、すぐにゴブリンを消滅させた。

「あ、や、やった！」

「ナイスー！初討伐おめでとう！」

ゴブリンを倒したら、レベルも上がった。

レベルアップも初めての経験だ。

ーーーーーーーーーーーーー

名　前：小夏　正子

レベル：2（+1）

体　力：7

攻撃力：6

防御力：6

素早さ：7

魔　力：0

　運　：10

S　P　：10（+10）

スキル：

●装備

・中型斧…攻撃力+2

・オーバーサイズマウンテンパーカー黒…防御力+0

・キャップ黒…防御力+0

年齢：15歳

性別：女

髪型：ショートポニテ

髪色：明るい茶色

身長：147cm

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「このSP（ステータスポイント）って、どういう割り振りにしたらいいんですか？」

「万能型が良いらしいけど、今は攻撃力優先でいいだろ」

「全部攻撃力ですか？防御力とかは？」

「1層探索に防御力なんか必要ない。ゴブリンとスライムしか出ないからな。いや、防御力6は流石にまずいか…？まあ、とりあえず攻撃力と体力に5ptずつでいいんじゃないかな」

言われた通りにSPを割り振って、探索を再開。

「お、今度はスライムか」

「あの水の塊みたいな奴ですか？」

「そう。スライムは体内の『核』が弱点だ。見える？液体の中の石ころみたいなやつだ。ゴブリンよりも素早いけど、攻撃力は全然ないから、ビビらず行け」

今回も先手を取るため、コッソリと近付いて行く。

「や、やあっ！」

全く気付かれずに背後に立てたので、斧を振り下ろすと、また一撃でスライムは消滅した。

「ナイスー！中々、斧使いの才能があるぞ！」

「そうですか…？」

さっきも今も、不意打ちで勝てただけのような気がするけど…。

その後も討伐は順調に進んだ。

そして、1時間ほど経過した頃、私は3レベに上がった。

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名　前：小夏　正子

レベル：3（+1）

体　力：12

攻撃力：14（+3）

防御力：10（+4）

素早さ：10（+3）

魔　力：0

　運　：10

S　P　：0（-10）

スキル：

ーーーーーーーーーーーーーー

「3レベに上がったらもう大丈夫だな」

「もしかして、もう行っちゃうんですか？」

「いい加減帰らないとな。病人を長く1人にしたくないし」

「そうですか…」

「他の探索者も増えてきたし、俺達が見てなくても大丈夫だろ」

そう言い残して、ライさん達は行ってしまった。

少し寂しかったけど、仕方がない。

私は1人で魔物退治を続けた。

ライさんの言う通り、もうゴブリンにもスライムにも負けなかった。

（でも、やっぱり1人で戦うのは寂しいな…）

それからも1人で魔物を狩り続け、夜になる前に家へ帰った。

翌日は月曜日。

しかし、今日は海の日だから休みだった。

私はまた朝早くからダンジョンに潜り、1層に降りて辺りを見回した。

祝日だからか、既に何人かの探索者がいた。

（ライさんとガル君は…いないか…）

また2人に会えないかと思って早めに来たんだけど、私の目論見は外れた。

ちょっと残念だったけど、気を取り直して魔物を狩り始める。

2時間くらい経った頃、私のレベルは4に上がった。

ーーーーーーーーーーーーー

名　前：小夏　正子

レベル：4（+1）

体　力：12

攻撃力：14

防御力：10

素早さ：10

魔　力：0

　運　：10

S　P　：10（+10）

スキル：引き寄せ

ーーーーーーーーーーーーーー

「あ、スキル覚えた！」

スキルは大体5レベで覚えると聞いていたけど、4レベでも覚えることはあるらしい。

「引き寄せ…って何だろ？引き寄せ！」

使ってみたが、特に何も起こらなかった。

「あれ？スキルってどうやって使えばいいんだろ？」

途方に暮れていると、階段の方からざわめきが聞こえてきた。

何だろうと思ったら、階段から巨大な狼が現れた。

「あ、ライさん！ガル君！」

「おー。今日も朝から探索か。頑張ってんな」

「はい！レベルも4に上がりました！」

「へー、マジで頑張ってるな！」

「え、えへへ」

ライさんもガル君も大きくて、初めは怖そうに見えたけど、実際は凄く優しかった。

あと、顔も結構かっこいい。

「あ、そうだ。私、スキルを覚えたんですけど、使い方が分からなくて」

「何てスキル？」

「引き寄せっていうんですけど」

「ごめん、知らねえわ…ネットで調べよう」

調べてみたら、以下の通りだった。

引き寄せ：念じることで対象を引き寄せる能力。有効範囲10m

「あ、そういえば、さっきは何を引き寄せたいか意識してなかったかも」

私は足元の砂利を意識して『引き寄せ』を使ってみた。

「引き寄せ！あ、できた！」

砂利は結構な勢いで私の右手の中に飛び込んできた。

「おお、結構使えそうな能力だな」

「そうですか？」

物を引き寄せるだけの能力なんて、大して強くなさそうだと思ったけど…。

「まず、投げたナイフを回収して再利用みたいな使い方ができるな」

「ああ、なるほど」

死蔵していたサバイバルナイフに使い道ができた。

でも、今日は使うつもりなかったから、サバイバルナイフ持ってきてないけど…。

「あとは魔物にも使えるかどうかで話変わるな。ちょっとガルに使ってみてくれ」

「え、いいんですか？」

「多分、大丈夫だろ」

「じゃあ…引き寄せ！」

しかし、ガル君は微動だにしなかった。

「ダメそうか？」

「うーん、でも、何となく反応はあるような…」

ガル君は大きいから動かせないのかも？

そう思って、今度はライさんにも使ってみた。

「引き寄せ！」

「うおっ！？」

「きゃっ！」

急に引っ張られたライさんは、体勢を崩して私の方へ倒れ込んできた。

小柄な私ではライさんを支えられず、2人で一緒になって倒れた。

「悪い、大丈夫か？」

「は、はい」

ライさんに押し倒されて（正確には私が押し倒させたんだけど…）、私達は思いがけず密着してしまった。

私が下になって、上にライさんが覆い被さるような格好だ。

ライさんの顔がすぐ近くに迫り、私の心臓は早鐘を打った。

「人に使えるってことは魔物にも使えるな。ただ、抵抗しようと思えばできそうだったから、ガルみたいなデカい魔物には効果薄いかも…って聞いてるか？」

「は、はい！いいえ！」

「それは、どっちだ…？」

起き上がってからも胸の高鳴りが中々止まらなかった。

異性とあんなに密着したのは私の人生では初だ。

しかも、相手は年上のイケメンだ。

（ど、どうしよう！ライさんの顔直視できないかも！）

「本当に大丈夫か？さっきからずっと下向いてるけど…」

「だ、大丈夫です！」

「そうか？まあいいか。とりあえず、ゴブリン相手にでもスキル使ってみようぜ」

「わ、分かりました！」

私は手で顔を仰いで、火照った頭を冷まそうとした。

「あ、ゴブリンいた」

ゴブリンを見ていたら、急に冷静さが戻ってきた。

今は美形は目に毒。

いつもは気持ち悪いなと思うゴブリンも、今だけは実家のトイレのような安心感を与えてくれた。

「じゃあ、有効射程の10mまで近付いて、スキルを使ってみてくれ」

「はい！」

大きな声で返事をしたら、ゴブリンに気付かれた。

でも、向こうから走って10m圏内に近付いてきてくれたので、結果的に良かった。

「引き寄せ！」

「GOBU！？」

10mくらいまで近付いたところで『引き寄せ』を発動。

ゴブリンは急に引っ張られてバランスを崩し、前のめりになって倒れた。

「チャンスだ！」

「えい！！」

「GOBU！？」

倒れたゴブリンに容赦なく斧を振り下ろす。

その一撃で戦いは終わった。

「これ…思ったよりも使えるかも…」

「良いな。小型の魔物にはガン刺さりだ。でも、距離が近過ぎると俺の時みたいに巻き込まれて自分も倒れたりしそうだから、使い所は注意だな」

「さ、さっきみたいに…」

思い出したら、また顔が熱くなってきた。

「あ！良いこと思い付いた！」

「うえ、な、何ですか？」

「ちょっとガルに乗ってくれ。それで、海まで行こう！」

「え、えー！！？」

そ、それって、もしかして、ででででっデートってことお！？