第33話 海の日の思い出

私達はガル君の背中に2人乗りして、一度9層まで走り、そこから転移陣を利用して41層の海フィールドに来た。

海って、ダンジョンの中の海のことかあ…。

じゃあ…デートじゃないか…。


「着いた!」

「うぇっぷ…」


ガル君の背中は物凄く揺れた。


「大丈夫か?セイがいれば、スキルの効果で揺れなくできるんだけどな…まあ、少しの間だから耐えてくれ」

「うっぷ…」

「じゃあ、このまま魔物を狩りに行くぞ!」

「うえ!?わ、私も一緒に行くんですか!?」

「当たり前だろ。何のために連れてきたと思ってんだ。ガル、GO!」


ガル君は私達を乗せたまま、海に向かって突っ込んだ。

そして、そのまま水面を走り始めた。


「み、水の上を走ってる!?凄い!」

「早速来たぞ!」

「な、何ですかアレ!?馬?魚?」

「ケルピーだ!」


『ケルピー』という魔物は、馬の身体に魚の尾が着いた化け物だった。

こちらへ向かって凄い速さで泳いでくる。


「放電!」

「HIHIIIIIIIIIIIN!?」


ケルピーはライさんの電撃で動きを止められ、続けて撃たれたガル君の水ビームで消滅した。

つっよ…。


「出た、魔石だ!引き寄せを使ってくれ!」

「引き寄せ!」


海に落ちかけた魔石を『引き寄せ』で回収。


「よっし、思った通りだ!海はドロップアイテムの回収が面倒だったけど、これならバンバン回収できるぞ!」

「ああ…」


魔石の回収要員として連れてこられたのかぁ。




ガル君に乗って海フィールドを駆け回り、私が何度目かの吐き気を催した頃、42層行きの階段に着いた。

階段で一休みして、また海へ。


「あ、また何か来ましたよ!」


今度の魔物は大きなトビウオの群れだった。


「来た!こいつを待ってたんだ!」


魔物の名前は『ガチトビウオ』。

通常のトビウオより身体が大きく、羽も大きい。

普通に空も飛べるらしい。

閉じない真ん丸の目が私達を睨みつけながら、海面を跳ねて飛んでくる。

怖っ。


「放電!!」

「GARU!!」


しかし、ライさんの電撃とガル君の水ビームで、トビウオ達は全滅。


「引き寄せ!」


今回は魔石が一気に十数個も集まった。


「大漁だ!」


42層の魔石は1つ9千円前後らしい。

ケルピーの分も含めると、既に10万円以上も稼いだことになる。


「す、凄い…」

「何言ってんだ、凄いのはお前の能力だろ」

「そ、そうですかね…?」

「そういえば決めてなかったけど、魔石の取り分は半々でいいか?」

「え、私も貰っていいんですか!?」

「そりゃあもちろん。全部持ってったら俺クソ野郎じゃん」


半分ってことは…、


(既に5万円貰えるの確定ってこと!?)


何て太っ腹なんだ…。

下層探索者のライさんには5万円なんて大した金額じゃないのかもしれないけど、一般高校生の私には大金だ。


「まだまだ狩るぞ!ちゃんと掴まってろよ!」

「は、はい!」


私はライさんの背中に抱き付いた。

ライさんの背中は大きかった。

男の人の背中って感じだ。


「…あ、あの!」

「どうした?」

「あの、私…」


ザッパーン!

と大きな水飛沫を上げて、海の中から角の生えた巨大魚が出てきた。

それで、私の話は遮られた。


「ダイイッカクか!あいつも狩るぞ!しっかり掴まってろ!」

「あ、はい!」




下層の魔物はどれも大きかった。

聞いてみたら、平均で3mぐらいはあるらしい。


「雷弾!!」

「GARU!!」

「OOOOOOOOOOON!?」


そんな怪物達を、ライさんとガル君は難なく狩っていく。


(かっこいい…)


強くて優しくて頼りになる年上のイケメン。

しかも、でっかい狼に乗っている。


(こんなの誰だって好きになっちゃうよ!)


『引き寄せ』で魔石を回収すると、ライさんが振り向いて言った。


「さっき何か言いかけなかったか?」

「うえ!?あ、えっと…」


さっきは勢い余って何かを言おうとしていた。

何かというのは、つまり、告白的なあれだ。

でも、ダイイッカクに水を差されて、時間が空いてしまった今は…、


(む、無理…!)


言えない!

よく考えたら昨日会ったばかりだし!


「え、えーと、あ、あの…す…す…」

「す?」

「す…好きな女性のタイプとかありますか…」

「背が高くて、頭が良くて、髪の長い女」

「…」


…全部無いや。

こうして、私の夏の日の恋は終わった。




その後、30分ほど海の魔物を狩ったところで、私達は地上へ戻った。

換金した魔石代を折半して、私達は別れた。

今日だけで10万円超の収入だ。

だけど、そんな10万円分の喜びよりも、始まる前に終わった恋の悲しさの方が大きかった。




翌日は火曜日で、日中は学校があった。


「もうすぐ夏休みだねー」

「…そだね」

「…ショーコ、あんた3連休中に何かあった?死んだ魚みたいな目してるけど…」

「…誰がガチトビウオじゃい…」

「言ってない言ってない」


学校が終わるなり、急いでダンジョンに向かってみたけど、その時には既に夕方で、ライさん達には会えなかった。


(早い時間に探索してるみたいだったからなあ…)


学校のあるうちは会うことは難しそうだ。

でも、もう少ししたら夏休み。

夏休みになれば好きな時間にダンジョンに潜れるようになる。

そうすれば、ライさん達にもまた会えるかもしれない。




そう思っていたのだが、夏休みになると探索者の数は急増。

中々目当ての人物と会うことはできない状況になってしまった。


(ガル君は目立つからすぐ見つかると思ったのに…もしかして、夏休み中は活動時間変えてる?)


何日か粘ったけど会えなくて、


「君、いつも1人だけど、もしかしてソロ?良かったら僕らのパーティーに入らない?」


そのうち私が別のパーティーから勧誘を受けて、ライさん達とはそれっきり。




それから1週間くらいが経って、


「きゃあ!」

「ユキ!?」


私の加入したパーティーは2層のボス魔物のオークと戦っていた。


「引き寄せ!」


オークに吹き飛ばされた仲間のユキちゃんを助けるため、私はオークの右足に『引き寄せ』を使った。


「BUMO!?」


オークは右足を引かれてバランスを崩し、転倒。

そこへ村上君と秋野君が突撃していって、オークを攻撃。

ボコボコにしたら、オークは消滅した。


「やった!」

「ユキちゃん大丈夫!?」

「大丈夫じゃないー、頭打ったー!」


良かった、大丈夫そうだ。


「オーク結構強かったな」

「小夏の引き寄せが無かったら危なかったぞ」

「ショーコ、ありがとー」


私の入ったパーティーはメンバー全員高校生で、全員初心者探索者だった。

加入当初は私のレベルが1番高かったけど、オークと戦う前に全員5レベに上げたので、今は全員横ばいだ。


「別に、大したことしてないよ」

「謙虚ー」

「実際、小夏が1番強いよなあ」

「レベル同じなのにな。スキルの使い方が上手いのか?」

「そ、そんなことないと思うけど…」

「謙虚ー」


でも、もし皆んなと差があるとしたら、それは高レベル探索者に指導を受けたことがあるかどうかの差だと思う。


(あの海の日から、もう2週間か…)


あれ以来、ライさんにもガル君にも一度も会えていない。

恋愛的な望みは全く無さそうだったけど、もう1回くらいは会って話しがしたいな…。




オーク戦を終えて、その日は引き上げることになった。


「明日からは3層行こうぜ!」

「えー、明日も探索ー?たまには遊びに行ったりしたいー」

「その遊ぶ金が無いんでしょうが!」


4人で地上を目指して『品川ダンジョン』1層を歩いていると、階段の方からざわめき声が聞こえてきた。


「何だ?」

「うお、何かでっかい狼いるぞ!」


その狼には見覚えがあった。

忘れもしない、ガル君だ!

そして、ガル君の隣には金髪に柄シャツの男性がいる。


「ライさ…」


声をかけようとして、私の動きは止まった。

ライさんとガル君の横に、もう1人誰かがいた。

知らない人だ。

背が高くて、頭が良さそうで、長い金髪の綺麗な女性…。


「ん?」

「ライ、どうかした?」

「何か今、誰かに呼ばれたような…」


私は咄嗟にパーティーメンバーの後ろに隠れた。


「うわ、小夏、急にどうした!?」


ライさん達には見つからなかったようで、すぐに階段を上って帰っていった。


「うーん、気のせいだったっぽい」

「もしかして、浮気?」

「んなわけ」

「ガル、ちょっと臭い嗅いでみて」

「違うって。ガルで浮気チェックすんのやめて?」


ライさんと女の人はとても仲が良さそうだった。

多分、あの人がガル君の飼い主の『セイ』という人なんだろう。


「う、うえーん…」

「ど、どうしたのショーコ!?」

「急にどうした!?」

「何で泣いてるんだ?何かあったのか?」

「し、失恋したぁ…」

「今急に!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

●小夏ショーコ

…本当はヒロインになるはずだったけど、ストーリー変更の結果モブになった女。もう出番はない。供養

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