第34話 深層転移事件

8月になった。

世間的には夏休みシーズンだが、俺達は相変わらず火山フィールドの攻略に勤しんでいた。


「火の鳥だ!」


『火の鳥』は48層のボス。

推奨討伐レベルは54。

全身炎で、『核』も無し。

物理攻撃完全無効の厄介な魔物だ。


「雷弾!」


斧では斬れないので、魔法スキルで攻撃する。

だが、敵は空を飛ぶ上、素早さも高く、中々攻撃が当たらない。


(ガルは相変わらずヘバってる…それでも、切り札はガルの水流砲だ)


無駄撃ちはさせられない。

どうにか足止めだけでもしないと。


「放電!」


短射程ながら広範囲に電気をばら撒ける『放電』を撃ってみる。

が、ダメ。

火の鳥は高く飛び上がって電撃の範囲外に逃れた。


「空を飛ぶ魔物は本当に面倒だな!」

「ライ、もう1度電撃をお願い」

「え、でも多分当たんないぞ」

「いいから」

「雷弾!」


勢いをつけて降下してきた火の鳥に向けて、セイの指示通りに『雷弾』を放った。

しかし、範囲攻撃でもない『雷弾』では軽く身を翻しただけで簡単に避けられた。


「転送!」


そこへセイが『転送』を使用。

火の鳥の目の前に何かを飛ばした。


(あれは、ペットボトルか?)


ガル用の水道水入り2Lペットボトル5本が宙を舞った。

火の鳥は急に出現したペットボトルを避けられず、自身の炎でプラスチック容器を焼き切ってしまった。

そして、大量の水を頭から被った。


「PIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!?」

「動きが止まった!」

「ガル、水流砲!」

「GARU!!!」




火の鳥を倒したらレベルが上がった。


「やった!レベルアップなんていつぶりだ?」

「半年振りくらいかな?」


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ライ

レベル:55(+1)

体 力:89(+1)

攻撃力:89(+2)

防御力:89(+2)

素早さ:88(+2)

魔 力:50

 運 :10

S P :0(-7)

スキル:剛力、破壊、雷弾、呼吸、投擲、帯電、放電、乱打、修復、蓄電、豪雷

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:セイラ

レベル:55(+1)

体 力:75(+4)

攻撃力:40

防御力:100

素早さ:75(+4)

魔 力:100

 運 :15

S P :0(-8)

スキル:テイム、バリア、ヒール、転送、不動心、指揮、進化、騎乗、浄化、誘惑、フォグ

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ガル

レベル:55(+1)

体 力:100

攻撃力:90

防御力:69(+7)

素早さ:100

魔 力:50

 運 :20

S P :0(-7)

スキル:爪撃、鋼の牙、身体強化、風除け、柔軟、危機感知、進化、水操り、水流砲、2段ジャンプ、水刃

ーーーーーーーーーーーーー


「これでやーっと49層へいけるようになったな」

「長かったね。新しいスキルも久しぶりだし」


早速新スキルを試したいところだったが、ガルが限界だったので今日は撤収することにした。

スキル検証は後日改めて。

階層を戻っていって、2層の草原に着くなり、全員で頭から水を被った。


「あー暑かった…」

「浄化!」


セイのスキルで水や汗を飛ばす。

それでようやく一息付けるようになった。


「あとは49層の攻略と50層ボス部屋だけか」

「それが大変なんだけどね…。50層ボスの地竜は推奨討伐レベル60。まだ5レベも上げなきゃいけないから」


1レベ上げるのに半年かかった俺達である。

ここから5レベって、一体何年かかるんだ?

計算すらしたくないな…。


「ま、今日は48層クリアを喜ぼう」

「そうだね。半年振りの進展だし、何か高いもの頼もうか?」

「高いものと言ったらやっぱ寿司でしょ!」




ダンジョンから出た俺達は家路を急いだ。

外は8月の炎天下の夕方。

せっかく『浄化』で汗を飛ばしたのに、また汗だくになってしまった。

家に着いたら、まずはシャワーだ。


「先にシャワー浴びてて。その間にお寿司頼んでおくから」


お言葉に甘えて先に汗を流し、さっさと済ませてセイと交代。

寿司は既に頼んであって、到着待ちの状態だった。

テーブルには食器も用意してあって…暇だ。

ガルにちょっかいでも出すか…。


「ガルー!今日は寿司だぞー!」


寝転がっていたガルのモコモコした腹に顔面からダイブ!


「GARURURURURU…!!」


めっちゃ唸られた。

歯を剥き出しにして、明らかにキレている。

前に2人で散歩に行ったことで絆が深まったかと思ったが、気のせいだったようだ。


(いや待てよ?確か犬猫はお腹が弱点らしい)


…ってセイが前に言ってた。


(それなら、腹が嫌で唸っただけかもしれない)


今度はガルのお腹ではなく、背中に手を伸ばしてみたところ、後ろ脚で蹴られた。




「さっぱりしたー」


少ししてセイが風呂から出てきた。

更に30分くらいして寿司も届き、夕食。

食後はもう特に用事も無かったので、ダラダラとして過ごした。

ソファに身を沈めながらスマホをいじっていたところ、Xwitterで気になるトレンドを見つけた。



日本のトレンド

12.深層転移



(何だこれ?)


見てみると、Utubeで放送中のダンジョン配信の話だった。


「うわ…」

「どうかした?」


これは…あんまり見ない方がいいやつかもしれない。


「…何か、新人ダンジョン配信者が深層行きの転移罠踏んで、ヤバいことになってるらしい」

「深層?それなら『百鬼夜行』が55層までは行ってるよね?」

「いや、それよりも、更に深いっぽい」


リンクから動画に飛んだら、揺れる画面に薄暗い洞窟の壁面が映っていた。

チャンネル名は『3ch』。


「…どういう状況?」

「分からん」


【現在の視聴者数:5284人】


途中から見始めたので状況が分からない。

ただ、コメント欄にも同じことを言っている人が結構いた。


〈今北産業〉

〈これ何の配信?〉

〈説明プリーズ〉

〈新人探索者が転移罠踏む。未踏域っぽい階層に飛ぶ。それで今キングオークにお持ち帰りされてる〉


「キングオーク!」

「魔物に捕まってるから、洞窟の壁しか映せてないんだ」


〈キングオークってマジ?〉

〈未踏域って何?〉


『未踏域』とはダンジョンの中で誰も踏み入れたことのない階層を指す。

『品川ダンジョン』で言えば地下56層以降だ。

そして、誰も行ったことがないということは、誰も助けに行けないということでもある。


〈4んでるの?〉

〈咄嗟にし/んだ振りしたところを捕まえられたから、多分まだ生きてる〉

〈キングオークってアメリカの最強探索者パーティー半壊させたアイツ?〉

〈ソイツ〉

〈ドイツ〉

〈コイツ〉


「キングオークって、確かアレだろ。強過ぎて推奨討伐レベル不明な奴」


『キングオーク』は過去一度だけ討伐された魔物だ。

アメリカの最強探索者パーティー『DDD』が倒したのだが、その際『DDD』もパーティーを半壊させられ、現在は活動を休止している。

『DDD』の動画で見たキングオークは、外見的には全身金色の牛人間だった。

オークジェネラルのような武装はしておらず、軽装。

体高も2m強といったところ。

深層クラスの魔物にしては大きくない。

しかし、恐ろしく強い、らしい。


「多分70レベ前後だろう、と言われているけど…」

「70レベか…」


現在の日本の最強パーティーは武蔵さん達の『百鬼夜行』。

レベルは全員64。

キングオークには届かない。




配信を見ているうちに、フィールドが洞窟から水辺に切り替わった。

これは地底湖フィールドか?


『GISYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』


(恐らくキングオークが)バシャバシャ音を立てながら水辺を進むと、湖の中から巨大な魔物が飛び出してきた。

それは『魚のような蛇のような魔物』だった。

大き過ぎて画面に収まりきっていないが、湖から出ている部分だけでも4〜5mくらいはありそう。

胴も太くて、人間1人くらいなら余裕で丸呑みにできそうだった。


『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』

『GISYAAAAAAAAAA!?』


しかし、その『魚のような蛇のような魔物』はキングオークの右ストレートでワンパンKOされた。


〈キングオークtueeeeeeeeeeeee!!〉

〈やっば!!〉

〈うおおおおお!!〉

〈大怪獣バトルや!〉


巨大魚蛇が消滅すると、大きな肉塊がドロップした。

キングオークはレアドロップっぽいその肉塊を拾って、何事もなかったかのようにまた歩き始めた。

そして、地底湖の先にあった大きな滝の、滝壺の近くに建っている一軒のあばら屋に入っていった。


「キングオークの家か?」

「未踏域に家?誰が建てたんだろう…」

「まさかキングオークが?」

「分からないけど、知能は高そう」


石造りの狭いあばら屋の中には、部屋が2つあった。

1つ目の部屋には物はほとんど無く、壁に大きな斧が立て掛けられているだけだった。

そして、もう1つの奥の部屋には魔物の肉や骨が散乱していた。


〈汚い〉

〈結構グロ〉

〈食糧庫?〉


お持ち帰りされたダンジョン配信者は食糧庫らしき部屋にポイ捨てされた。

キングオークが前の部屋に戻ると、配信者が起きてきた。


〈お、生きてた!〉

〈本当に死んだふりだったんやな〉


その配信者は茶髪のウルフカットで、男のようにも女のようにも見える中性的な外見をしていた。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:サン

レベル:10

体 力:21

攻撃力:25

守備力:10

素早さ:30

魔 力:1/3

 運 :24

S P :0

スキル:バウンド、透視


●装備

・ゴブリンダガー:攻撃力+3

・安い服:防御力+0

・安いズボン:防御力+0

・安い上着:防御力+0

・スニーカー:素早さ+0

・ナップザック:お茶、菓子パン


年齢:17歳

性別:非公開

髪型:ウルフカット

髪色:茶色

身長:170cm

ーーーーーーーーーーーーーー


そして、サンというダンジョン配信者は言った。


『隙を見て逃げます。何か良いアイデアあればください』




サンはコメント欄に脱出案を募ったが、良案は出てこなかった。


〈このレベルじゃどうしようもない〉

〈キングオークは推定討伐レベル70〉

〈無理ゲー過ぎる〉

〈てか運高過ぎだろ〉

〈運24は草w〉

〈草に草生やすな〉

〈配信者だからってふざけ過ぎ〉

〈自業自得〉

〈死ね〉


心無いコメントが大量に流れてきて、サンという子は泣きそうになっていた。

それを見て、セイも辛そうにしていた。


「…見るのやめるか?」

「やめない。私達なら、何か気付くことがあるかもしれないし」

「そうだな」


これでも俺達は日本2位のパーティーだ。

クソコメしかできない連中よりは役に立つコメントが打てる…かもしれない。

今のところは、何も思い浮かんでないけど…。

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