第27話 超得意フィールド

翌日も『品川ダンジョン』42層へ潜った。

そして、1つ極めて有用な情報が判明する。


「海フィールドだと電撃の通りがいい!」

「濡れている分、導電率が高くなっているみたいだね」


水辺の魔物に電撃はかなり有効。

ガルの『水操り』も有効であるため、海フィールドは私達にとって超得意フィールドと言ってよさそうだ。


「いいこと思い付いた!水が電気をよく通すなら、敵を狙うよりも海に電気流せばいいんじゃね?検証しよう!」

「え、待って!」

「放電!」

「GARU!?」


海に向けて『放電』を放ったら、海に接しているガルにも電気が流れてきた。

痺れたガルは体勢を崩し、上に乗っていた私達も海に投げ出された。


「ぷはっ!ヒール!」


私はガルに回復魔法を使った。

危うく感電→溺れる→全滅という大惨事になるところだった。

ライには本気で怒っておいた。


「ライはスキルの空撃ち禁止!」

「はい…」




それは初め、1つの巨大な影に見えた。


「前方から魚影!」

「かなりデカいぞ!10mクラスだ!」

「いや、あれは…ガチトビウオの群れ!」


『ガチトビウオ』は完全な飛行能力を獲得したトビウオの魔物だ。

体長は1m強。

この階層では最小かつ最弱の魔物。

だが、十数体で群れをなして襲いかかってくる。


「スイミーかよ!」


水中からの攻撃も厄介だが、空を飛ばれたらもっと面倒くさい。


「ライ、水面に電撃!」

「え?でも、また俺達も感電しちゃうんじゃ…」

「ガル、ジャンプ!」

「おお、跳べばいいのか。そりゃそうだ。雷弾!」


自分達が海に接していない時なら、海に電撃を流すのは有効。

海水は電気の伝導率が高いので、特に今回のように複数の魔物を一網打尽にするには向いている。

倒せなくてもいい。

痺れてくれれば、空は飛べなくなるだろう。


「ガル、海面に向けて水流砲!」

「GARU!!」


『水流砲』で海面を弾く。

感電して浮いてきていたガチトビウオ達は、その衝撃で吹き飛んでいった。




「ああー!魔石が海に沈んでいくー!!」

「転送!転送!…流石に全部回収するのは無理だね」


『転送』によって5個の魔石を回収したが、それ以外の十数個の魔石は海に沈んでしまった。


「もったいねえー!」

「まあ、5分で45,000円稼いだと思えば、十分でしょ」

「うーん…そう言われると、そうかもしれないけど…」

「あ、しかも、今のでレベル上がったみたい」

「マジ?昨日46レベに上がったばっかなのに?」

「一度に大量に倒したからだろうね」

「…これ、もうガチトビウオの群れを狩ってるだけでいいんじゃね?」

「一理ある」


10分で4.5万円の収入なら、時給換算27万円。

ガチトビウオの魔石だけで御殿が建てられそうだ。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ライ

レベル:47(+1)

体 力:82(+2)

攻撃力:82(+2)

防御力:82(+2)

素早さ:81(+1)

魔 力:47/50

 運 :10

S P :0(-7)

スキル:剛力、破壊、雷弾、呼吸、投擲、帯電、放電、乱打、修復

ーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーー

名 前:セイラ

レベル:47(+1)

体 力:70

攻撃力:30

防御力:100

素早さ:70(+5)

魔 力:72/92(+2)

 運 :15

S P :0(-7)

スキル:テイム、バリア、ヒール、転送、不動心、指揮、進化、騎乗、浄化

ーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーー

名 前:ガル

レベル:47(+1)

体 力:90

攻撃力:90(+6)

防御力:60

素早さ:100

魔 力:41(+1)

 運 :20

S P :0(-7)

スキル:爪撃、鋼の牙、身体強化、風除け、柔軟、危機感知、進化、水操り、水流砲

ーーーーーーーーーーーーー


トビウオ御殿は魅力的な案だったが、私達は先へ進むことにした。

理由は、目視できる範囲に小島があったからである。

43層行き階段のある離れ小島だ。




階段を降りると、砂浜に出た。


「陸だー!しかも、広い!」

「そうだね。じゃあ、海行こうか」


海フィールドはどこまで進んでも海フィールド。

陸地も所々にあるけれど、先人達の探索の結果、何も無いことが分かっている。

44層行き階段もこの海の先だ。


「結局、海かあ…ん?何かいるぞ」


見れば、浜辺に2体のイルカがやってきていた。


「あ!もしかして、アレが水魔法で寄ってくるっていうイルカなんじゃないか?」

「違う。あれは多分、イタズライルカ。全然別の魔物だから注意して」

「そうなのか…何で分かるんだ?」

「だって、まだ水魔法使ってないし」

「納得しました」


『イタズライルカ』は人に害なす普通の魔物だ。

船を引いてきてくれるイルカとは違い、普通に探索者を攻撃してくる。


「「QUIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!」」

「バリア!バリア!」


イタズライルカ達が放ってきた水の弾を『バリア』で防ぐ。

その間に、ライとガルは走っていった。


「あ、逃げんな!雷弾!」


接近を察知し、イタズライルカ達は瞬時に逃げ出した。

『雷弾』は当たらず、海に落ち、海水を通しての感電もしなかったようだ。

どうやら、素早さが高めの魔物らしい。


「二手に分かれた!どうする!?」

「左に行ったイルカを追おう!ガル!」


敵の素早さは高いが、うちのガルだって足は速い。

ガルに騎乗し、上から電撃を放てば、きっと追いつける。

私達はガルに乗って海に出た。


「っ!バリア!」


左のイルカを追って行ったら、右から水魔法が飛んできた。

右に逃げたイタズライルカが戻ってきて、攻撃してきたのだ。


「あんの野郎!雷弾!」


こちらが攻撃すると、イタズライルカはまたすぐに逃げ出した。

ヒット&アウェイ…というよりはイタズラか。

私達をおちょくって楽しんでいるみたいだ。


「無視して左を追うよ!」

「くそっ!絶対後でぶっ飛ばす!」


右のイルカは30mくらい先に留まり、海面から半分顔を出して、私達の様子を伺っている。


(バリア、バリア)


私はコッソリ海中に『バリア』を張った。

左に向かってガルが進み出すと、案の定、右のイルカは私達の方へ向かってきた。

ガツン!


「QUIII!?」

「かかった!ライ、後方20m先の海に雷弾!ガルはジャンプ!」

「え!?ら、雷弾!」

「QUIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!?」


感電したイルカが海面に顔を出し、悲鳴を上げる。


「ガル、GO!」

「GARU!!」


空中に出した『バリア』を蹴って、感電して動けないイルカにガルが飛びかかった。

『爪撃』を直撃させると、イタズライルカは断末魔の叫びと共に消滅した。


「おお、やったぜ!でも、何がどうなったんだ?」

「それより、もう1体は…」


左に行ったイタズライルカは、仲間がやられたのを見て本格的に逃げていった。


「逃げられたか」

「逃げられたね」


まあ、1体は倒せたので、良しとしておこう。




43層の海を本格的に探索し始めたら、突然海中から水柱が吹き上がった。


「悪魔クジラ!…の潮吹き!」

「でっっっかぁ!?」


『悪魔クジラ』は全長30mの超巨大魔物。

青緑色のシロナガスクジラのような外見だが、口には鋭い牙が並んでいて、巨大な鮫かシャチのようにも見える。

海面に浮上してくる際、大量の水が押し除けられて大波ができた。

私達は空中に張った『バリア』へと避難した。


「今まで見た中で1番デカいな」

「とりあえず、雷弾撃ってみてくれる?」

「効くか…?雷弾!」

「BUOOOOOOOOOOOOOO!?」

「あ、効いたわ」


悪魔クジラは43層のボス。

推奨討伐レベルは47。

つまり、適正レベルだ。


「不用意に近付いて巨体に巻き込まれるのは嫌だから、空から遠距離攻撃で攻めよう。ライが攻撃担当、防御は私とガルに任せて」

「了解。的がデカいし、斧投擲やっていいか?」

「いいよ」

「やったぜ!投擲!!」


悪魔クジラは大きいので、斧を避けられる心配はほとんどない。

身体に突き刺さったところで『転送』で回収すれば武器を紛失せず一方的に斬り付けることが可能だった。


「雷弾!投擲!」

「転送!」

「雷弾!投擲!」

「転送!バリア!」

「雷弾!投擲!」

「転送!」


途中、水魔法による反撃もあったが、ガルの『水操り』と私の『バリア』で全て防いだ。

何度か繰り返して、悪魔クジラは力尽きた。


「何か、見掛け倒しだったな…」

「どれだけ巨大でもステータスは47レベ相当だからね」


リーチの長さと、副産物の大波にさえ気を付ければ、的が大きい分むしろ楽な相手だった。


「もしかして、海フィールドで空中に逃げられるのって、チートなのでは?」

「そうかも。あ、レアドロップだ!」


悪魔クジラが消滅すると、魔石の代わりに別の物がドロップした。

悪魔クジラの尻尾だ。


「転送!…できない!?重量オーバーみたい!」


悪魔クジラの尻尾は海に落ち、沈んでいった。


「せっかくのレアドロップが!」

「取りに行こう!ガル!」


『転送』が無理なら、直接取りに行くしかない。

私達はガルに乗ったまま、海の中へ突入した。

『水操り』のおかげで、ガルは泳ぎも得意。

尻尾にはすぐに追い付き、ライが『剛力』を使って海面まで引き上げた。




悪魔クジラの尻尾は大きく、横幅は10m近かった。

これを持ったままの探索は不可能なので、その日は引き上げることにした。


「セイ、これ、もの凄く運びづらい…」


大き過ぎるクジラの尻尾はバッグには収まらない。

水に浮かして、ライが端っこを引っ張って運ぶことにしたのだが、大き過ぎて逆側からどんどん沈んでいく。


「半分に切っちゃおうか」

「そうしよう。どの道、このままの大きさだと階段も通れないだろうし」


半分に切り、多少運びやすくして、ライが2つまとめて引っ張って、階段のある砂浜まで戻った。


「階段の大きさ的に3mくらいまでしか入らないから、更に何分割かしよう」

「今が5mくらいのサイズだから、もう半分にして4つに分ければいけるか」

「あと、クジラの尾の付け根の肉は最高級食材らしいから、そこだけ別に切り分けたい」


最終的に尾羽を4分割、肉を2分割の計6分割にし、それらをまとめて縄で縛って、ライが担いで持って帰った。




「わ、凄い!何ですかこれ、でっかい魚のヒレ?」

「43層の悪魔クジラのレアドロップです」

「こっちが尻尾で、こっちが付け根の肉ね」


地上1階受付まで持っていくと、ちょっとした騒ぎになった。


「よく回収できましたね。多分、初回収品です!」

「おお、高く売れそうな予感!」

「いくらくらいになりそうですか?」

「下層のボス魔物の肉ですからね…正確には査定待ちですけど、この大きさなら100万円は下らないかと!」

「「「「「おおー!」」」」」


たまたま受付にいた探索者達も100万と聞いて湧き返った。


「すげえな!」

「レアドロ1発で100万かあ」

「日給100万…」

「夢しかないな…」

「俺ももうちょい先の階層まで冒険してみるか…」

「おたく、今何層?」

「15層」

「あ、結構行ってる感じなんすね…」

「階層マウント失敗してんのださw」

「う、うるせえうるせえ!」

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