第6章【46層】水狼無双

第26話 海フィールド

それからの探索はトントン拍子に進んだ。

31層〜35層は雪フィールド。

寒さに強いガルには得意フィールドだったので、半月ほどで踏破した。




36層〜40層は沼フィールド。

ここでも『水操り』持ちのガルが無双した。

見知らぬ探索者の仇討ちをしたり。

上層で若い探索者を助けたり。

装備を新調したり。

ビッグトロールを倒したり。

色々やったけれど、それでも踏破にかかった時間は1〜2ヶ月程度だった。




そうして、私達は41層の海フィールドにやって来た。

南国のビーチのような砂浜からのスタートだ。


「ここからは海の上を進んでいくんだよな。またガルに乗って進む感じか」

「そうだね。本当はね、ここで水魔法を使うとイルカみたいな魔物がやってくるらしいよ」

「イルカ?」

「そのイルカが引いてきた小舟に乗って探索していくんだって」

「何それ楽しそう」


私もちょっと興味あるけど、うちにはガルがいるので、イルカは不要だ。

2人でガルの背に乗ると、ガルは海に入って行き、海面を走り出した。

なお、私が『騎乗』スキルを獲得したことで、乗り心地は改善されている。

酔ったり吐いたりする心配はもう無い。


「早速出たぞ!大ナマズだ!」

「海なのにナマズ?」


41層で最初に遭遇したのは、茶色い身体に黄色い線が入った魚系の魔物。

外見的にはナマズだが、下層の、それも41層の魔物なので、全長は2m近い化け物ナマズだ。


「ナマズと言うよりは、ゴンズイかな?」

「何それ」

「GUGUGUGUGU!!」


化けナマズはこちらに気付くと、身体をうねらせてその場で跳び始めた。

何をしているのかと思ったら、ジャンプの衝撃で高波が出来ていった。


「津波攻撃かよ!?」

「ガル、逃げて!」


私の指示で、ガルが走り出す。

しかし、逃げるどころか、ガルは津波の方へと突撃して行った。


「「ガル!?」」


10mくらいの高波。

最早壁である。

そんな大波にガルは自分から突っ込んだ。

上に乗っている私達はガルにしがみ付くことしかできない。

ザッパァン!

と音を立てて水の壁とぶつかり…


「…あれ?」


しかし、予想していたような衝撃は無かった。

見れば、海水は私達を避けて落ちていった。


「水操りの効果…かな?」

「マジかよ、すげえな…」


ほぼ濡れることもなく大波を突破。

大波の向こうには、呆けた顔でポカンとしている化けナマズがいた。


「あいつもまさか正面突破してくるとは思わなかっただろうな」

「私も思わなかった」

「俺も」


ガルはそのまま、真っ直ぐに化けナマズへと近付いていく。


「あ、ガル、待って!ゴンズイなら毒を持ってるかも!直接触っちゃダメ!」

「なら、俺がやる!雷弾!剛力!くたばれオラァ!!」




大波攻撃には驚いたけれど、近付いてしまえば化けナマズは弱かった。

大きくてのろいから、攻撃は当て放題。

もし電気ナマズだったら『雷弾』が効かなかったかもしれないが、特にそんなこともなく、普通に電撃で痺れていた。

痺れているところをライがなます斬りにしたら、そのうち倒れて魔石へと変わった。


「おっと!」


海に落ちかけた魔石を慌ててキャッチする。

化けナマズの魔石は大きくて、野球ボールくらいのサイズ感だった。


「危なかったな。この階層の魔石なら1個9,000円くらいだろ?」

「無くしてたら大損だったね」


もし落としていたら、海に沈んで、回収は困難だっただろう。


「遠距離攻撃で倒すと、魔石を回収できないかもしれない」

「セイの転送で何とかならないか?」

「できるけど、毎回魔力3使うよ。それに、転送も5m以内じゃないと使えないし」

「うーん、そうかあ…やっぱ下層はフィールドが1番の敵だなあ」




次に遭遇したのは、41層のボス魔物だった。


「リバイバルスライムだ!」


『リバイバルスライム』は一見ただのスライム。

しかし、よく見ると、体の中に『核』が無いことが分かる。

急所である『核』が無いということは、物理攻撃は無効ということだ。


「魔法で一気に消し飛ばすしかないってことだな」

「ガル、いけそう?」

「GARU!!」


ガルは『水流砲』を放ち、リバイバルスライムに直撃させた。


「やったか!?」


と思ったが、吹き飛ばされたリバイバルスライムはすぐに再生した。


「ダメか!やっぱ水系に水魔法じゃダメージにならない!」


反撃に『水弾』が飛んでくる。

それをガルは華麗に避けていく。

回避はガルに任せて大丈夫そう。

今のうちに私とライで作戦会議をする。


「ガルがダメなら、俺の雷弾しかないな」

「リバイバルスライムは水に浸かれば瞬時に身体を再生できる。攻撃するなら1度の攻撃で全身を吹き飛ばさないといけないけど、雷弾は一度に何発撃てる?」

「2発か、頑張っても3発が限界。その後は一呼吸挟まないと撃てない」

「となると…外せないから、隙を突いて攻撃するしかないね。ビッグトロールの時と同じ作戦でいこう」




まず、ガルが敵の周囲を走り回って撹乱。

隙を見て、ライだけが空中に張った『バリア』の上に移動。

敵の注意が完全にこちらに向いたら、


「雷弾!雷弾!雷弾!」


ライが『雷弾』を3連射。

攻撃のために飛び上がっていたリバイバルスライムは回避できず、『雷弾』は全弾命中した。

リバイバルスライムの身体は蒸発して消滅し、半分ほどまで小さくなった。


「足りてない!」

「やっぱ3発じゃ無理だ!」


リバイバルスライムが海に落ちていく。

残った身体が水に着けば、また元通りに回復してしまう。


「バリア!」


それを、私が『バリア』を張って阻止した。

海画のすぐ上に展開した『バリア』にリバイバルスライムが落ちる。

水には未だ接触していない。


「ライ!」

「んんんんん、雷弾!雷弾!」


残り半分のリバイバルスライムは追加の『雷弾』2発で消し飛んだ。




リバイバルスライムを倒すと、レベルが上がった。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ライ

レベル:46(+1)

体 力:80(+2)

攻撃力:80(+2)

防御力:80(+2)

素早さ:80(+2)

魔 力:50

 運 :10

S P :0(-8)

スキル:剛力、破壊、雷弾、呼吸、投擲、帯電、放電、乱打、修復

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:セイラ

レベル:46(+1)

体 力:70

攻撃力:30

防御力:100

素早さ:65

魔 力:90(+8)

 運 :15

S P :0(-8)

スキル:テイム、バリア、ヒール、転送、不動心、指揮、進化、騎乗、浄化

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ガル

レベル:46(+1)

体 力:90

攻撃力:84(+4)

防御力:60

素早さ:100(+3)

魔 力:40

 運 :20

S P :0(-7)

スキル:爪撃、鋼の牙、身体強化、風除け、柔軟、危機感知、進化、水操り、水流砲

ーーーーーーーーーーーー


探索を再開してしばらくすると、岩礁が見えてきた。

岩礁に上がると、岩陰に42層へと続く階段があった。

丁度レベルも上がっていたので、そのまま42層へ降りていく。


「思ってたよりサクサクだな」

「初日で1層目クリアしちゃったね」

「海フィールドって難所って言ってなかったっけ?」

「やっぱり、ガルの存在が大きいよね。舟が要らないのもあるけど、海に棲む水系魔物の攻撃をほぼ無効化できるのが強過ぎる」

「何か…海フィールドも余裕な気がしてきたな!」

「フラグみたいなこと言うのやめて?」




階段を降りると、大岩に空いた狭い穴の中に出た。

穴の外はすぐ海になっている。


「あ、ここかあ。『ダンジョンの不思議まとめ動画』で見たことあるわ」

「岩の大きさと階段の長さが絶対に釣り合っていない、ってやつね」

「それそれ」


私もその手の動画は結構見た。

探索者になる前はそこそこ興味を引かれたけれど、探索者になってみると、まあ、ダンジョンだから…で納得してしまうようになった。


「しかし、また海かあ…」

「45層までは海だねえ」

「もう既に陸地が恋しくなってきた」

「私も」


海へ降りて、大岩を右に回り、走り出す。

目指す場所は、(大岩の穴を北側として)南東方向に進んだ先にある離れ小島だ。

そこに43層行きの階段があるらしい。


「ん?何か聞こえないか?」


海上を走っていると、不意に歌声が聞こえてきた。


「これは…セイレーンの歌声!錯乱効果があるから聞いちゃダメ!」


私は慌ててガルの耳を塞いだ。

ライもすぐに自分の耳を塞いだ。

しかし、耳栓だけで『セイレーン』の歌を完全に防ぐことはできなかった。


「うっ…頭が、クラクラする!?」


感覚が狂って、海に落ちそうになる。

地面が揺れているような感じもある…と思ったら、これは実際にガルの身体が揺れていた。


(まずい、ガルにも効いてる!)


ガルが倒れたら、私達は全滅だ!




「ヒール!ヒール!…いた!右斜め前、30m先にセイレーン!」


『ヒール』をかけると、2人は少しだけ持ち直した。

『セイレーン』は魚顔の半裸の女で、海面にプカプカと浮かんでいる。


「うう…何でセイだけ無事なんだ?防御力か?それとも『不動心』スキルの効果?」

「それより、セイレーンに雷弾を!歌を止めないと!」

「雷…弾!」


ライの放った『雷弾』はセイレーンの遥か手前に落ちた。

バシャン!

バリバリ!


「AAAAAAAAAA?」


歌声は止まらない。

ただ、雑音が気になったのか、セイレーンの注意はこちらに向いた。


「AAAAAAAAAA!」


セイレーンは顔だけ海から出し、歌い続けながらこちらへ泳いでくる。

距離が近くなるにつれて、歌声の錯乱効果は強まった。


「うっ…雷弾!」


『雷弾』はまたしても明後日の方向へ飛んでいった。

セイレーンは薄笑いを浮かべ、私達から2mほどの位置にまで近寄ってきた。

ガルの足元も覚束なくなり、いよいよ転覆寸前だ。


「バリア!」

「AAAA…ABA!?」


勝ったと思って油断して迫ってきたセイレーンは、私が海中に張った『バリア』に追突した。

『バリア』は無色で半透明だから、海中に仕込めば見えない。


「…はっ、歌声が止まった!放電!」

「GYAAA!?」


『放電』は短射程ながら広範囲に電撃を流すスキルだ。

『雷弾』よりも低威力なので、セイレーンも大してダメージを受けていないだろうが、痺れている間は歌うことはできないはず。


「ガル、水流砲!」

「GARU!!」


水のビームがセイレーンに直撃。

体勢が大きく崩れた。

そこへ、ライが大斧を思いっきり投げ付けた。


「投擲!!!」

「ABE…!?」


大斧はセイレーンの頭を叩き割った。

その一撃でセイレーンは消滅し、すぐに魔石がドロップした。


「転送!転送!」


5m以内だったので、魔石と斧を『転送』で回収。


「あ、危なかった…」

「本当にね…」

「誰だよ、海フィールド余裕笑とか言ってた奴…俺です」

「私も、ガルなら転覆の心配は無いと思い込んでた…油断大敵だね」

「本当にな…」


結構危なかったので、その日の探索はそこまでにして、私達は来た道を引き返して帰った。

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