第25話 クソ強狼

3人で『品川ダンジョン管理センター』に行くと、めちゃくちゃ目立った。

主にガルが。


「何だあのでけえ狼は!?」

「こえええ!!」

「デカすぎんだろ…」

「えっと、それ、もしかしてガル君ですか?ちょっと見ない間に随分大きくなって…」


馴染みの受付嬢にも驚かれた。


「どうも成長期だったみたいで…」

「いやいやいやいや」




そのまま階段を降りてダンジョン入り。


「ステータス!」


まずは地下1層でステータス確認をする。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ガル

レベル:31

体 力:70(+10)

攻撃力:70(+10)

防御力:39(+10)

素早さ:80(+10)

魔 力:10(+10)

 運 :20(+10)

S P :0

スキル:爪撃、鋼の牙、身体強化、風除け、柔軟、危機感知、進化(済)、水操り

ーーーーーーーーーーーーー


「わ、凄く強くなってる!」

「おいおい、スキルも増えてないか?」


『進化(済)』は進化したことの証明だろうが、もう1つ『水操みずぐり』というスキルが増えている。


「水操り…検索したけど出てこない」

「水関係のスキルっぽいし、水辺に行って検証してみるか」


上層の水辺といえば9層の湖だ。

ということで、歩いて9層まで移動した。

移動中にも魔物は現れて、検証になるかと全てガルに倒させたが、レベル差がありすぎて全て瞬殺してしまい、何の検証にもならなかった。


「もう魔石5個集まったな」

「ガルのご飯って魔石5個のままでいいのかな?かなり身体が大きくなったけど…」

「確かに」


分からないことはとりあえずネットで検索。

この2年で『テイム』に関する情報もそこそこ出回るようになり、従魔の食事事情についても普通にヒットした。


・1日辺りの食事量(品川ダンジョン編)

上層の魔物:魔石5個

中層の魔物:魔石7個

下層の魔物:魔石9個


ガルは元々上層のダンジョンウルフだったが、今のこいつは明らかに別種の狼。

サイズ感で言ったら下層のサンダーウルフよりも全然デカい。


「魔石10個くらいあげてみようか?」

「だな。あとは様子を見て調整していけばいい」


魔石10個となると、全てゴブリンの魔石にしても1日1,000円。

1ヶ月で3万円か。


「ペットのエサ代としては高額だな」

「でも、大型獣の食費はそのくらいが相場らしいよ。ライオンとか」

「へー」




1時間くらい歩き、9層の湖フィールドに到着した。

林を抜けると、直径200mくらいの湖に出た。

ここで『水操り』という新スキルを試してみる。


「名前的には、まあ水を操るスキルだよな」

「とりあえず、使ってみよう。ガル、水操り!」


セイが言うとガルは湖へ向かって歩いて行った。

水面に足を着ける。

しかし、沈まない。


「おお、すげえ!」

「水の上を歩いてる!」


ガルはそのまま湖の真ん中まで歩いて行った。

すると、水中から何かがニョッキリと出てきた。


「あれは、ミズミミズだ!」


『ミズミミズ』は水棲の細長い魔物で、形状はウナギとかアナゴっぽさもある。

だが、色が紫なのでミミズにしか見えない魔物だ。

推奨討伐レベルは11。


「MIIIIIIII!!」


ミズミミズはガルへ向けて水の弾を放ってきた。

そして、水弾はガルに当たった。


「ガル!?」


レベル差を考えれば簡単に避けられるはずの攻撃。

しかし、ガルは避けずに受けた。


「MII?」


水弾の直撃を受けたが、ガルは無傷だった。


「今のは…防御力が上回った…?」

「いや、水系の攻撃無効なんじゃないか?サンダーウルフに雷弾撃ったらノーダメージだった時と似てる」

「GARU!!」

「MIIIIIIII!?」


ミズミミズはガルに噛みつかれて、一撃で消滅した。




その後も湖の魔物と数戦したが、ガルは無傷で完封した。

普通の攻撃は避けるが、水魔法攻撃は避けずに突っ込んでいく。

やはり水系の攻撃は完全に無効化できるようだった。


「水辺の戦闘では凄く頼りになりそうだな」

「いや、ここだとレベル差があり過ぎるから、まだ分からない」

「じゃあ、26層に行ってみるか」


しかし、ここから26層へ行くには、一度1層へ戻る必要がある。

魔物との戦闘を避けたとしても、30分くらいはかかる距離だ。

ちょっと億劫だな。


「ガルの背に乗って走れないかな?」

「え、それ本気で言ってる?」

「今のガルは馬よりもデカい。人間2人くらいなら普通に運べそうじゃないか?」

「でも、狼と馬では筋肉も違うし…いや、筋力はステータス補正でいけるかも…?」

「とりあえず、乗ってみようぜ!おい、ガル、背中に乗せてくれ」

「GARU!」


ガルは俺に唸ってきたが、セイが「乗せて?」と言うとスッと伏せて背中を差し出した。

この犬野郎…。


「うわ、思ったよりも高い!」


セイが跨るのを待ってから、ガルは身体を起こした。

筋力的には余裕そうだ。


「乗り心地は?」

「モフモフして気持ち良いよ!!」


うーん、セイのテンションが上がってきたな…。

まあ、いつものことか…。


「ちょっと走ってみる。ガル、GO!」


セイの合図で、ガルが走り出す。


「うわあんわあんわあんわあ!?」

「大丈夫か!?」

「揺れが、凄くて、結構、大変、かも!?」


側から見ていても、ガルの走りは全身をバネのようにしならせていて、乗るのには不向きそう。


「やっぱり馬のようにはいかないか…」


それでもセイは試行錯誤を繰り返し(座る位置を変える、抱き付く等)、何とか揺れの少ない方法を模索していた。


「ら、ライも乗ってみて。2人分の重量なら安定するかも」


ということで俺も乗ってみた。

ガルの高さと俺の座高分で視点がめちゃめちゃ高くなった。

3m近い高さだ。

普通に怖い。

前にセイ、後ろに俺という席順のため、俺はセイの身体に腕を回してしがみ付く格好になった。


「これ、逆の方が良くないか?」

「さっき検証して分かったんだけど、後ろの方が揺れが激しいんだよね…」

「おい、辛い方を俺に回すなよ」


後ろから抱き付くのはセクハラっぽくなって嫌じゃないだろうか?と思った俺の優しさを返してくれ。


「テストランついでに1層に向かおう。ガル、GO!」

「うお!?」


ガルは2人乗せても問題なく走った。

素早さ80のガルは最速で時速160km。

1層まで10分かからずに戻ってこれた。

なお、風の影響等は感じなかった。

ガルに『風除け』のスキルがあるからだろう。


「うっぷ…気持ち悪…」

「大丈夫?」


ただ、やはり揺れは激しかったので、俺は普通に酔った。


「セイは…平気そうだな…」

「防御力が高いからかな?あとは、ライが後ろから押さえてくれたから揺れが少なかったのかも?」

「…やっぱり乗る位置交代しない?」

「嫌」

「そのうち頭の上にゲロ吐くかもしれないぞ…」

「バリア張っておくわ」


ここで探索者ジョークとは…セイは本当に余裕そうだな…。

俺ももうちょっと防御力上げようかな…。




それから26層行きの直通階段を降りて、山フィールドに出た。

ここからは高レベルの魔物と戦い、超強化の入ったガルの戦力を確認する。

なお、俺達は既にガルの背中から降りている。

緊急時以外ではあまり乗りたくない感じだった。


「オークジェネラルだ!」


山道に出ていきなり26層ボスと遭遇。


「よく出てくるな、こいつ」

「ガル、始めはガルだけで戦ってみてくれる?後から私達も参戦するから」


セイの指示通り、ガルは単騎で前に出た。


「GAOOOOOO!!」


雄叫びを上げるオークジェネラル。

それに対し、ガルは真っ直ぐに突っ込んで行った。

走ってくるガルに向けて、オークジェネラルが棍棒を振り下ろす。

ガルは寸前で方向転換して、棍棒を避けた。

そして、オークジェネラルの背後に回る。


「GARU!!」

「GAOOOOOO!?」


背中に『爪撃』を叩き込まれて、オークジェネラルの身体が反り返った。

鎧ごと背骨をへし折られたようで、オークジェネラルは消滅した。


「おいおい、ワンパンかよ…」

「これは…思ったより強くなってるかも」




続けて、『ナックルベアー』(ボクシングスタイルの大熊)と『山ゴブリン』(腕だけがムキムキのアンバランスなゴブリン)の順に戦った。

しかし、どちらもガルが単騎で瞬殺。

ボス魔物をワンパンKOしたガルに、一般魔物では相手にならなかった。


「さて、27層」

「前はここで酷い目に遭ったから、落石には注意して行こうね」


頭上を警戒しながら進むと、『山大百足』、『双頭の蛇』、『食人木』の順で魔物に遭遇した。

それら全てをガルが単騎で瞬殺。


「またワンパン…」

「28層にも行ってみる?」


28層に行くと、またしても初っ端からボス戦だった。

28層ボスは山姥。

推奨討伐レベル32で、格上の魔物だ。


「GARU!!」

「UGYAAAAAAAAA!?」


しかし、これもガルが単騎で瞬殺してしまった。

同格以上を狩りまくったので、ガルとセイはレベルアップした。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:セイラ

レベル:32(+1)

体 力:50

攻撃力:30

防御力:71(+1)

素早さ:50

魔 力:55/55(+5)

 運 :15

S P :0(-6)

スキル:テイム、バリア、転送、ヒール、不動心、指揮

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ガル

レベル:32(+1)

体 力:70

攻撃力:70

防御力:46(+7)

素早さ:80

魔 力:10

 運 :20

S P :0(-7)

スキル:爪撃、鋼の牙、身体強化、風除け、柔軟、危機感知、進化(済)、水操り

ーーーーーーーーーーーーー


これで俺達は全員32レベになった。


「俺達もそろそろ戦うか?」

「うーん、でもまだガルだけで余裕なんだよね…」


もう少し能力検証をすることにして、ガルだけでの戦闘も続行。


「ビッグフットだ!」


『ビッグフット』は毛深い大猿のような人のような魔物。

推奨討伐レベルは31で格下。

つまり、瞬殺であった。




29層ボスのハーピーは推奨討伐レベル33。

その上ランダム出現のため、本来なら適正レベル以下で29層に行くべきではない。

しかし、俺達は構わず29層に降りていった。


「キマイラだ!」


『キマイラ』は獅子の頭に、鹿の角が生えて、背中に鳥の翼を持ち、蛇の尻尾が生えている、ごちゃ混ぜ生物だ。

推奨討伐レベルは32。

本来なら俺達3人がかりで戦う相手だが…。


「GARU!!」


やはりガルだけで倒せてしまった。


「しかも、29層は30層行き階段が近いんだよなあ」

「行っちゃう?」

「流石にレベル上げしてからの方が良くないか?ボスのハーピーにも勝てるか分からないし…」

「ここでハーピーを探すより30層で33レベの一般魔物と戦ってみる方が早くない?」

「確かに…」


で、俺達は30層に降りた。

30層は今までの階層主が全て出現する魔境。

オークジェネラルも岩石魔人も山姥もハーピーも出てくるし、ついでに25層ボス部屋のワイバーンも一般魔物として出る。


「右からワイバーン!」

「流石に援護するぞ!雷弾!」


俺の放った『雷弾』は簡単に避けられた。

だが、その隙にガルが距離を詰めて飛び掛かり、ワイバーンの翼を捥いで落とした。


「GYAOOOOOOOO!?」


飛べないワイバーンはただの大トカゲ。

ガルはマウントを取り続け、『爪撃』で首を刎ねて倒した。


「いや、強過ぎだろ…」

「31層行っちゃう?」

「それは流石に…どうなんだ?」

「まあ、別日にしようか。私達も耐寒装備を整えてからの方が良い気がするし」




翌日、31層の雪フィールドに行ってみた。

遭遇した『氷の鳥』はガルが単騎で倒した。


「クソ強ええ!うちの狼!」

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