第28話 2位

数日で43層を抜け、44層へ。


「デビルオクトパスだ!」


海の中から冗談みたいな大きさの真っ赤な触手が伸びてきた。

『デビルオクトパス』という大ダコの魔物の手だ。

こいつは44層のボス魔物でもある。

悪魔クジラの時と同様、海面浮上に際して大量の海水が押し除けられて、大波が発生。


「またか!」

「ガル、お願い!」


ガルの『水操り』で水を弾いて大波を切り抜けると、全長10mを超える化け物タコの顔が見えた。


「さて…どう倒す?」

「とりあえず、触手1本落としてみようか」




俺が『雷弾』を当てると、触手の動きが止まった。

ゴムを連想させるグニャグニャした身体だが、特に絶縁体というわけではなかった。


「オラ!」


8本の触手のうち痺れて動かなくなった1本を斬り飛ばす。

緑色の血が盛大に噴出し、切断した触手が海面に落ちて飛沫を飛ばした。

よし、これなら普通に戦って勝てそう…。


「ライ!掴まって!」

「え、うお!?」


急にガルが走り出して、俺は危うく落っこちそうになった。

何が起きたのかと振り返ったら、切断したはずの触手が再生していた。


「再生能力持ちか!」

「リバイバルスライムみたいな無限再生ってわけではないらしいけどね」

「知ってたなら先に教えて!?」

「ボスくらいは自分でも調べておいた方がいいと思うの」

「それは…」


まあ…そうですね…。

ダメだ、俺が口喧嘩でセイに勝てるわけがない。

切り替えよう。

丁度いいところにデカいサンドバッグもあるし、あいつをボコボコにしてスッキリすることにする。


「で、結局どうする?無限再生じゃないなら、再生しなくなるまで斬り続けるか?」

「それが正攻法なんだけど、電撃が効くなら、律儀に相手する必要はないよね」

「つまり?」

「電撃で触手を止めて、その間に本体を攻撃」


シンプルで良し!




セイの『バリア』に飛び移って海面から離れ、デビルオクトパスから10mほど離れた空中に立った。

敵の触手も長いので、完全に攻撃範囲外というわけではないが、これだけ離れれば攻撃されても対処は容易だ。


「じゃあ、いくぞ!」

「本体を狙ってみて。触手でガードしてくると思うから、勝手に痺れてくれるはず」

「OK!雷弾!雷弾!」


相変わらず魔法の連射は2、3発が限界だ。

撃った後は一呼吸挟まなくてはならない。

時間にして数秒。

ただ、『雷弾』による痺れは5秒以上は続くので、そのうち全ての触手を行動不能にできるはずだ。


「雷弾!雷弾!」


セイの言った通り、本体を狙って攻撃すると触手がガードに回り、勝手に痺れて動かなくなった。

おかげで全弾命中。

時折、水魔法や触手攻撃を放ってくるが、水魔法はガルが無効化し、触手はセイの『バリア』で完全に防いだ。


「雷弾!雷弾!」

「そろそろ本体を攻撃しにいこう」

「まだ2本残ってるぞ?」

「身体の向こう側の触手なんて大した脅威じゃないよ。ガル、GO!」


実際、高機動のガルにとっては触手2本くらい何の問題もなく、一瞬で本体に迫り『爪撃』を叩き込んだ。

俺も斧で斬りつけようと思ったが、


「先に電撃を本体に撃って!」


という指示を受けたので、至近距離から『雷弾』を本体へ撃ち込んだ。

本体が痺れると触手も動かせなくなるようで、後はタコ殴りにしたらそのうち消滅した。




デビルオクトパスを倒したらレベルが上がった。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ライ

レベル:50(+1)

体 力:80

攻撃力:80

防御力:80

素早さ:80

魔 力:28/50

 運 :10

S P :28(+7)

スキル:剛力、破壊、雷弾、呼吸、投擲、帯電、放電、乱打、修復、蓄電

ーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーー

名 前:セイラ

レベル:50(+1)

体 力:70

攻撃力:30

防御力:100

素早さ:65

魔 力:46/90

 運 :15

S P :28(+8)

スキル:テイム、バリア、ヒール、転送、鷹の目、指揮、進化、騎乗、浄化、誘惑

ーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーー

名 前:ガル

レベル:50(+1)

体 力:90

攻撃力:84(+4)

防御力:60

素早さ:100(+3)

魔 力:25/40

 運 :20

S P :28(-7)

スキル:爪撃、鋼の牙、身体強化、風除け、柔軟、危機感知、進化、水操り、水流砲、2段ジャンプ

ーーーーーーーーーーーーー


いよいよ50レベだ。

MAX何レベなのかは知らないが、仮に100レベだとしたらこれでようやく折り返し地点。

全員新しいスキルも覚えたので、45層行き階段に向かって安全地帯内でスキル検証を行うことにした。


「雷弾!雷弾!雷弾!雷弾!雷弾!雷弾!おお、一度に6発も撃てるようになった!」


『蓄電』は事前に電撃を貯めておける能力だった。

階段まで移動する間の数分の『蓄電』で『雷弾』の連続射出回数は倍に増えた。


「これ家で1時間くらい貯めておいたら滅茶苦茶撃てるようになるんじゃないか?」

「帰ってから要検証だね」


『蓄電』は良スキルのようだった。




「『誘惑』は…『異性の魔物を興奮させるスキル』だって。挑発系のスキルの一種らしい」

「試しにガルに使って…みるのは危ないか…」


クソデカ狼のガルが発情して襲いかかってきたら大変だ。


「その辺の魔物にでも使ってみるか?いや、メスだったら不発になるか…」

「これ、人間には使えるのかな?」

「さあ?…え?」

「誘惑!」

「うっ!?」


セイは俺に『誘惑』を使ってきた。

何てことを!

という感情はすぐに消え、代わりに極度の興奮が脳を支配した。


「どう?」

「い、今すぐセイを押し倒したい!」

「GARU!」

「いってえ!?…はっ!俺は今何を…!?」


ガルに脚を噛まれたら正気に戻った。

『誘惑』の効果は痛みで打ち消すことが可能らしい。


「異性なら人でも魔物でも性的興奮状態にするスキルか…使い道はありそうだけど、使いどころを間違えたら大変なことになりそう」

「てか俺で試すな、俺で!」

「誘惑!」

「うっ!?」

「解除!」

「はっ!!」

「こんな感じで、術者の方でも任意解除できるみたいだから、まあ大丈夫かなって」

「全然大丈夫じゃないって!」




1番便利なスキルはガルの『2段ジャンプ』だった。

ジャンプ中、一度だけ足場が無くとも再ジャンプをすることができるスキルで、これによりガルは空中での機動性能が大幅に向上した。


「シーサーペントだ!」


探索を再開してすぐに45層のボスと遭遇した。

『シーサーペント』は巨大な海蛇だ。

初めは首長竜みたいなやつかと思ったが、よく見たら海面から出ているのは首ではなく、手足の無い大蛇の胴体部分だった。


「雷弾!」

「GISYAAAAAAAAAAAAA!?」


相変わらず『雷弾』はよく効いた。

しかし、動きを封じるまではできず、めちゃくちゃに暴れ回っているせいで近付くこともできない。


「斧投げるか?」

「的は大きいけど、クジラほどじゃないから、万一外した時の回収が大変なのでダメ。ガル、いけそう?」

「GARU!」


ガルはシーサーペントへ向けて走り出した。

シーサーペントは大口を開けて迎え撃とうとしたが、寸前でガルがジャンプをして回避。

更にガルは『2段ジャンプ』によって空中を蹴り、シーサーペントの背後に回った。


「GISHAAAAAAAAAAAAAA!!」

「バリア!」


シーサーペントは追いかけようとして首を回したが、『バリア』を足場にしてもう1回跳んだガルを捉えることはできなかった。

更にガルは『2段ジャンプ』を使用。

完全にシーサーペントの死角へと回り込んだ。


「オラッ!!」

「GARU!!」


シーサーペントの長い首(胴かも?)を俺とガルで斬りつける。

シーサーペントは必死に周囲を見回すが、『2段ジャンプ』と『バリア』で無限に宙を跳ね回るガルに追いつくことはできなかった。


「GARU!!!」

「GISHAAAAAAAAAAAAAA!?」


最後にはガルが『爪撃』を当ててシーサーペントの首を切断し、俺達の勝利となった。




2層分のボス戦を1日でやれば十分な成果だろう。

俺達は引き上げて地上1階受付にて魔石を清算した。


「もう45層のボスも倒しちゃったんですか!?」

「そうですね。あとはレベル上げしたら、海フィールドの攻略は完了です」

「凄いですね…4ヶ月で20層近く進むなんて…」

「そんなにですか?」

「上層中層ならまだしも、下層では聞いたこともないハイペースですよ!」


下層は山、沼、雪、海フィールドと、足元の悪いフィールドばかりだった。

普通に攻略していたら相当な時間がかかる、というのは想像に難くない。

全ては進化したガルに乗って、足場の悪さを無視できるようになったおかげである。


「ちなみに、あまり大きな声では言えないんですけど…」

「何ですか?」

「現在セイさん達は、レベルと探索進度的に、日本2位のパーティーになっていると思います」

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