第10話 ネーミングセンス

狼の名前なあ…。


「セイが捕まえたんだし、セイが決めろよ」

「じゃあ、モロ!」

「いやいやいや…」


もの●け姫のパクリじゃねーか。


「ダメかな?」

「まあ、別にいいけど…そもそもモロって名前もどうなんだよ」

「もっと可愛い方がいい?」

「…まずこいつはオスか?それともメス?」

「性別は…ステータス画面では分からないね」


仕方ない…。

チ●コ生えてるかどうか見るか。

俺はしゃがんで、ダンジョンウルフの股の辺りを確認した。


「GARURURU…!」

「うお、怒ったぞコイツ!」

「ライが変なところ見るから」


でも、これ以外に確認方法なくないか?

ちなみにオスでした。


「オスならかっこいい名前の方がいいかな?かっこいい名前…『ドグラ・マグラ』とか」

「何それ」

「夢野久作の小説」

「何か狼に関係あんの?」

「ない」


ないんかい。


「でも、狼関係の小説ってパッと思いつかない。真っ先に頭に浮かんだの『ゴン狐』と『バスカヴィル家の犬』だし」


それは狐と犬なのでは…?


「無理して小説から持ってこなくていいだろ。『ガルガル』言ってるから『ガル』で良いんじゃね?」

「ガル…確かにちょっと『マーナガルム』みたいな感じもあっていいかも」

「マーナ…何て?」

「マーナガルム。北欧神話の狼」


知らね。


「でも、神話の狼なら『フェンリル』の方が有名じゃない?」

「あー、そっちは何か聞いたことあるな」

「それなら『フェン』とか?」

「…もしかして、セイってネーミングセンス無い系?」

「え、フェンだめ?可愛くない?」


…まあ、可愛いかどうかは一旦置いておくとして。


「かっこいい名前にするって話はどうしたんだよ」

「…忘れてた。でも、やっぱり私が名付け親になりたい!」

「お好きなように…」

「待ってね、今すぐ決めるから。かっこいい名前…かっこいい名前…」


セイはしばらく考え込んで、こう言った。


「『白虎』!」

「虎じゃねーか」




結局、狼の名前は『ガル』に決まった。

セイは最後まで頑張っていたが、ダメだった。


「『ロンドン橋』!」


とか言い出したところでタイムアップを告げた。

橋じゃねーか。

セイにネーミングセンスは無かった。


「さて、4層に戻ってきたわけだが…」


俺達は一旦4層に戻った。

やはりまだ5層は早かった感じがあるし、ガルの能力も確認したい。

今のところは従順に俺達の後を着いてきているが、どのくらい言う通りに動くのかも分からない。

4層の魔物は5レベ前後。

格下の相手しか出ないから、検証するには丁度いい。


「いた!レッドスパイダーだ!」


4層の林を探索するうちに、木に引っ付いていた巨大な赤蜘蛛を発見した。

『レッドスパイダー』、推奨討伐レベルは5だ。


「狼1匹でも倒せんじゃね?」

「狼じゃなくガルって呼んで?」

「はいはい、ガルガル」

「ガル、いけそう?」


セイがそう言うと、ガルは言葉を理解したのか前に出ていった。




ガルの接近に気付いたレッドスパイダーは身体の向きを上下逆に入れ替えた。

頭の方を下に向け、地上の敵を警戒する構えだ。


(用心のために、俺も斧を構えておくか?)


そう思った瞬間にガルが動いた。

猛然と駆け出し、一気にレッドスパイダーへ近付いて行く。


「SHUUUU!!」


レッドスパイダーは口から糸を吐いて飛ばしてきた。

粘着力の高い糸で、絡め取られると一歩も動けなくなるが、ガルはその糸を簡単に避けて、レッドスパイダーが引っ付いている木の裏手へと回り込んでいった。

レッドスパイダーは背後を気にして右に頭を向けたが、ガルはグルっと木を回って左側面から襲いかかった。


「GARU!!」


飛びかかって、前足の爪でレッドスパイダーを切り裂く。


「SHUUUU!!?」


レッドスパイダーは腹を裂かれて地面に落ち、断末魔の叫びを残して消えていった。




「ガル、ナイスー!」

「一撃とは中々やるな。今のが爪撃か?」


格下相手ではあったが、無傷の完封勝利だ。

スピードを活かして背後に回り込み、死角から襲いかかって倒す。

シンプルだが、強い。


「あれ、レベル上がった。私の」

「え、マジ?」


ガルが魔物を倒すと、セイにも経験値が入るらしい。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:セイラ

レベル:7(+1)

体 力:19

攻撃力:19

防御力:18

素早さ:18

魔 力:0/0

 運 :15

S P :9(+9)

スキル:テイム

ーーーーーーーーーーーーーー


「俺のレベルは…上がってないな」

「ライはテイムしてないからかな?」

「まあ、そりゃそうか」


話しているうちに、ガルがレッドスパイダーの魔石を拾って戻ってきた。


「あ、魔石持ってきてくれたの?偉いね〜!」


セイはガルに抱きついて、頭と背中を撫で回した。


「よーしよしよしよし」


毛皮に埋もれ、超笑顔である。

まあ、楽しそうで何よりだよ…。


「きゃっ!?」


などと考えていたらセイがガルに押し倒された。


「セイ、大丈夫か!?」


人間は攻撃しないんじゃなかったのか!?

と一瞬焦ったが、よくよく見ると攻撃しているという感じではなかった。

ガルはセイの上で一心不乱に全身を擦り付けている。


「これは…じゃれついているだけ…か…?」

「モゴモゴ…」


セイは毛皮に埋もれて何かモゴモゴ言っている。

本当に大丈夫か?

窒息とかしないかこれ?


「が、ガル、ちょっと待って!待て!お座り!」


セイの指示でガルは戯れつくのをやめ、セイは解放された。


「無事か?」

「だ、大丈夫…」

「本当か?肌ちょっと赤くなってるぞ」

「思ったより、戯れつく力が強くて…」


強めに肌を擦られて赤くなったらしい。

大型獣の戯れつきは人間にはダメージになるようだ。


「これは…早急に防御力を上げる必要がありそうだね…」

「戯れつかせないって選択肢は…」

「ない」

「そっすか…」


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:セイラ

レベル:7

体 力:20(+1)

攻撃力:20(+1)

防御力:23(+5)

素早さ:20(+2)

魔 力:0/0

 運 :15

S P :0(-9)

スキル:テイム

ーーーーーーーーーーーーーー




やや問題はあったが、戦闘力については申し分なかった。


「言うこともちゃんと聞くみたいだな」

「でしょ?」


今もガルは指示通りに「待て」をしている。

「お座り」はしていないが。


「そういえば、ダンジョンウルフってエサは何食うんだ?」

「魔物のエサは魔石でいいらしいよ」

「石食うのか…。1個じゃ足りないよな?」

「それは…分からない」

「おいおい」

「とりあえず、この魔石食べさせてみようか」


4層の魔物の魔石なら500円〜600円ぐらいだ。

一食分のペットフード代にしては高いが、ものは試しか。


「ガル、食べていいよ」


セイが魔石を差し出すと、ガルは勢いよく噛みついた。

バリバリ!


「うっかり腕ごと持っていかれそうな怖さがあるな…」

「ちょっとびっくりした…念のため、手渡しで魔石をあげるのはやめておいた方がいいかも?」


とりあえず、エサは魔石で良さそうだ。

あとは…。


「こいつ、結構デカいけど、家はどうする?」

「…どうしよう」


現在住んでいる家は探索者用に品川に建てられたマンションだ。

安い賃貸で、六畳一間。

犬小屋と考えたら広いが、ずっと閉じ込めておくには狭い。


「そもそもペットOKのマンションだっけ?」

「確かダメだったような…」

「おいおい、どうすんだこいつ」

「…探索用の武器の持ち込みはOKだから、ガルも武器枠で何とか…」


おいおい…。


「分かった。ペット可の広い家に引っ越そう。今すぐはお金無いから無理だけど、なるべく早く中層入りして、安定した収入を得て、引っ越す」

「それまでは?」

「バレないように飼う」

「このデカい狼を?バレないように?」


無理じゃねえ…?


「日中はダンジョンで運動させて、家にいる間はなるべく寝ていてもらおう」


こうして、俺達の当面の目標が定まった。

一言でまとめるなら「金稼ぎ」である。

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