第9話 ダンジョンウルフ

3層と4層を走り抜けて、5層到達。

フィールドは林から森に変わった。

5層のボスは『ジャイアントフラワー』。

推奨討伐レベルは8だ。

俺達ではまだレベルが足りないので、もし遭遇した場合は逃げなくてらならない。


「じゃあ、ダンジョンウルフを探そう!」

「元気良いな…」


セイは幼い頃から大の動物好きだったらしい。

だが、家の都合でペットを飼えなかったため、動物を飼うのは1つの夢だったんだとか。


「それにしたって、何で狼?」

「子供の頃にもの●け姫を見てから、大きな狼にモフッて埋もれるのに憧れていて」

「あー…」


ジ●リに性癖を破壊された人じゃったか…。




「魔物だ!」

「ホーンラビット!」


5層で初めて遭遇した魔物は『ホーンラビット』という角の生えたデカ兎だった。


「2人でいこう!格上かもしれないから気をつけて!」

「了解!」


5層の一般魔物は6レベか7レベ。

現在6レベの俺達にとっては同格以上の魔物しかいない。


「くらえオラッ!」

「GIIIIII!」


俺の斧攻撃はジャンプで簡単に避けられた。

こいつ、速いぞ!


「そっち行ったぞ!」

「はっ!」


セイの棒攻撃もやはり簡単にかわされる。


「GIIIIII!」


更に、ホーンラビットは一声叫んで、セイの方へ飛びついていった。

額の鋭い角による突き刺し攻撃だ。

セイは棒を横にしてホーンラビットを受け止め、突き刺されるのだけは何とか防いだ。


「きゃっ!?」


だが、そのまま後ろへ倒され、デカ兎に馬乗りにされた。

ピンチ…いや、これは逆にチャンスだ!


「セイ、そいつ捕まえとけ!」

「このっ!」


セイは棒を手放し、ホーンラビットの頭部を直接掴んだ。


「GIIIIII!?」

「うおおおおお!!」


動きの止まったデカ兎にサッカーボールキック!

ゴロゴロと転がった先で、フラフラと立ち上がった兎に、俺は思い切り斧を叩き込んだ。

デカ兎は一声鳴いてから消滅した。


「よし。セイ、無事か?」

「何とか…。やっぱり5層までくると相手も手強いね」


セイは起き上がり、身体に付いた汚れを払った。

背中の汚れを気にしていたので、手伝おうと近付きかけて、俺は止まった。


「どうかした?」

「服、破けてる」

「え、どこ?うわ、本当だ」


ホーンラビットに馬乗りにされた時、爪か何かが引っ掛かったのか、胸元の辺りが破けていた。

黒いシャツから少しだけ肌色が見えている。

セイは慌てて破れている部分を手で隠した。


「…何か見えた?」

「いや…特には…」


コートは1階の受付に預かってもらっている。

よって、今ここには上から羽織れる物はない。

流石にこの状態で探索は続けられないので、今日のところは引き上げることにした。


●ホーンラビットの魔石…770円




翌日もダンジョン入り。

連日のダンジョンアタックでかなり疲労が溜まっているが、現状ろくな収入が得られていないので、休むわけにもいかない。

専業探索者っていうのも大変だ。


「前方からゴブリン1!」

「うおら!」

「GOBU!?」


5層にもゴブリンは出てきた。

5層の魔物なので推奨討伐レベルは6以上。

だが、散々上の層で狩りまくった相手だったからか、かなり簡単に倒せた。




「あ、いた!」


そして、ついに俺達は『ダンジョンウルフ』と遭遇した。

森の中、30mくらい先で、灰色の狼が唸っていた。


「GARURURU…!」

「可愛い!」

「マジっすか…」


ダンジョンウルフは大型犬より一回り以上デカかった。

体高80cmくらいで、頭から尻尾の先までなら2mくらいありそう。


(正直、可愛くはないだろ…)


と思ったが、セイは気に入ったらしいので、まあいいか。


「もうこっちに気付いてるな」

「狼系の魔物は素早さが高くて手強いらしいから、気を付けて」

「昨日の兎も速かったけど、まさかあれより速いのか?」


そうなると、倒すのはかなり大変そうだ。


「ちなみに、何か作戦とかは?」

「ある」




セイの指示で俺達は背中合わせに立った。


「これならどこから攻撃されても対応できるはず。素早さに振ってる分、防御力は低いらしいから、一撃入れられれば相当有利になるはず」

「なるほど」


2人とも長めの武器を持っているので攻撃範囲リーチではこちらが勝っている。

動きが速くても、背後を取られさえしなければ、先に攻撃できる可能性は高い。


「でも、あいつ警戒して近寄ってこないぞ」

「石投げて挑発してみる。いくよ!」


セイの投げた石ころは勢いよく飛んでいき、ダンジョンウルフのすぐ横を通過していった。


「ナイピー」


当たりはしなかったが挑発にはなったようで、ダンジョンウルフは唸りながら走って向かってきた。

30メートルはあった距離がものの数秒で潰される。

確かに、速い。


「そっち行ったぞ!」


走ってきたダンジョンウルフは俺を通り過ぎて、セイの方へ回り込んだ。


「GARURURU!!」


背中合わせを崩すわけにはいかないから、肩口から目だけで背後を見る。

ダンジョンウルフはセイに向かって襲いかかってきた。


「はっ!」


セイは棒を低く横薙ぎにした。

それをダンジョンウルフは跳び上がって避けた。


(まずい!)


初撃を外した。

敵の攻撃がくる。

そして、ダンジョンウルフはデカい。

ホーンラビットの時のように組み付かれたら大怪我は確実だ。


「読み通り!」


だが、セイは棒を回転させて、棒の尻側で空中にいるダンジョンウルフを殴った。


「GYAO!?」

「おお!」


いくら素早さが高くてもジャンプ中に回避行動は取れない。

セイは最初からこれを狙っていたのか。

殴られたダンジョンウルフはやや左に流れて着地。

すぐに後方へ飛び退ったが、そこで足が止まった。

ダメージありだ!


「うおおおお!」


俺は背中合わせをやめて、攻撃しにいった。

回復の時間は与えない。

俺の振るった斧はジャンプして避けられた。

しかし、問題はない。


「セイ!」


元々俺は攻撃を当てる気なんてなかった。

仲間にしようとする関係上、斧でぶった斬るのはまずいからな。


「はっ!!」


ダンジョンウルフの飛んだ先にはセイがいて、突き出した棒は狼の脳天にクリーンヒットした。




ダンジョンウルフが仲間になりたそうな目でこちらを見ている。

仲間にしますか?


はい/いいえ


▶︎はい


テレレレッテッテー!

ダンジョンウルフが仲間になった!


「やった!」

「おおー」


仲間になったダンジョンウルフはセイの前まで来てお座りをした。


「え、やだ、どうしよう、可愛い!!!」

「…」


セイのテンションがすんごい。

何とも言えない顔で眺めていると、セイは不用意に狼に触ろうとしたので、慌てて止めた。


「待て待て!こいつ、本当に仲間になってんのか?なってなかったら大変だぞ」


急に噛みつかれでもしたら死ぬ可能性大だ。


「大丈夫!見て、ステータス!」


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:セイラ

レベル:6

体 力:19

攻撃力:19

防御力:18

素早さ:18

魔 力:0/0

 運 :15

S P :0

スキル:テイム(済)

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ダンジョンウルフ

レベル:7

体 力:25

攻撃力:20

防御力:10

素早さ:25

魔 力:0/0

 運 :5

S P :0

スキル:爪撃

ーーーーーーーーーーーー


「おお、テイムすると魔物の分のステータスも見れるのか!」

「そう!しかもここ、『テイム(済)』になってるでしょ」

「確かに」


魔物を仲間にするとこういう表記になるのか。

それにこの書き方だと『テイム』できるのは1匹だけのように見える。

セイの予想は大当たりだったようだ。


「ね、触っていいでしょ?」

「…本当に攻撃してこないんだよな?」

「『テイムした魔物は基本的には人間を攻撃することはない』ってネットで見たよ」


危害を加えようとしたりしなければ襲ってくることはないらしい。

それならまあ、普通の犬とかと同じか。

若干不安だが、仲間にした以上ずっと触らないわけにもいかない。


「まあ、触ってみるか」

「お手!」

「いやいやいや…」


犬じゃないんだから…。

見ろよ、ダンジョンウルフ君もポカンとしてるぞ。


「仕込んでない芸をやらすのは無理だろ…」

「そうみたい。あ、先にやらなきゃいけないことがあった!」

「やらなきゃいけないこと?」

「名前を付けなきゃ!」


ああ、名前ね…。


「ポチとかでいいんじゃね」

「ライ?真面目に考えて?」

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