第3章【11層】レアイベント

第11話 ダンジョン犯罪者

「ガル、ちょっとじっとしていてね」


テイムした魔物には判別がつくように首輪を付けなければならない。

事前に分かっていたので、買っておいた青い首輪をガルに付けた。

ガルは首輪を嫌がって、後ろ脚で首元を何度も掻いていたが、外すこともできないので、そのうち諦めた。




「今日はこのまま4層で探索をしていこう」

「おー!」

「ヒヒッ、随分楽しそうじゃねえか」


突然、知らない男の声が割り込んできた。


「は?」


振り向くと人相の悪い小男が間近に立っていた。

何だこいつ?

いつの間に俺の後ろに立って…。

小男の手には短剣。

剣の先端は俺の脇腹にめり込んでいて見えなかった。


「は?」

「ヒヒッ、死にやがれ!」


刺された!?

理解すると、一瞬遅れて激痛がやってきた。


「ぐうっ…!!」

「ライ!?きゃっ!?」


木の陰から更に2人、やはり人相の悪い男達が飛び出してきた。

1人は大柄なスキンヘッドで、セイを突き飛ばして組み伏せ、馬乗りになった。

もう1人は派手な青髪で、ガルを蹴り付けた。


「GARU!!」

「あ、この狼避けやがった!」

「何やってんだ間抜け!」


セイに馬乗りになったスキンヘッドは両手でセイの首を絞めた。


「お、この女、近くで見たら超良い女じゃねえか!こいつは良い値段が付きそうだぜ!」

「ウグッ、アッ…!」

「GARU!!」

「てめえの相手は俺様だよ、狼野郎!」


青髪の男はガルを追って離れていく。

何なんだこいつらは。

まさか、『ダンジョン犯罪者』か!?




ダンジョン犯罪者。

2年前まではよくニュースで問題になっていた連中だ。

しかし、ダンジョン管理法ができてからはめっきりと数を減らした。

ってニュースで言ってたのに!


「くそっ!」

「おっと危ねえ!」


俺は右腕を振るって背後の男を突き飛ばそうとした。

しかし、受け止められてしまった。

こいつ、160cmくらいなのに、なんて力だ!


「ヒヒッ、お返しだオラッ!」


小男に殴り飛ばされて俺は地面に転がった。

痛え…!

6レベになった今の俺のフィジカルはアスリート級。

にも関わらずダメージが入るということは…。


(こいつ、俺よりもレベルが上か!?)


今は平日の昼間だから辺りに他の人影は無い。

くそ!

自分達で何とかするしかない。


「ウッ…!アッ…!」

「暴れんな暴れんな。なあに殺しゃしねえよ。ちょっと気絶させて、リュックに詰めて、港の倉庫まで運ぶだけだからよ」


スキンヘッドの背中にはデカいリュックが背負われていた。

人間1人くらいなら問題なく入りそうな大きさだ。


「あれ、こっちの男は殺していいんだよな…?」

「男なんかいらねえよ!さっさと殺っちまえ!」

「アイアイサー!」


スキンヘッドの指示で小男が短剣を振り上げた。

俺は身体を起こそうとしたが、


「うぐっ…!」


腹の傷が痛んで思うように動けない。


「死ねや!!」

「剛力!!」

「おべっ!?」


俺はスキルを発動し、迫る小男の顔面を蹴り付けた。

カウンターが顔面に入り、小男は後方へ飛んで気絶した。


「ああ!?何雑魚に負けてんだ間抜け!!」


レベルは向こうの方が上。

だけど、今ので気絶するならとんでもなく格上ってわけではなさそうだ。


(7レベか8レベか9レベか10レベか、多分そんなもんだ)


考えてみれば、上層で人間を狙って格下狩りやってるような連中だ。

めちゃくちゃ強いはずもない。

最初に背後を取られたのは何かのスキルの効果かもしれない。

『隠密』とか、何かそんな感じのやつ。




「ぐっ…!」


痛む脇腹を押さえて起き上がる。

激痛が走るが、歯を食いしばって耐える。


(レベル差がそこまでないなら、何とか撃退できるかもしれない)


セイは首を絞められながらも抵抗していて、まだ落とされてはいない。

防御力を高めにしたのが効いているのかも。

ガルは…と見れば、青髪の男の攻撃を避けまくっていた。


「ちょろちょろすんな、この!」


青髪男が剣を振るうが、ガルに避けられて空を切った。

ガルの素早さは25。

人間ならトップアスリート級だ。

1対1なら簡単には捕まらないだろう。

それなら…。


「いてて…あれ、何がどうなったんだ…?」


俺が立ち上がるのと、蹴り飛ばした小男が目覚めるのはほぼ同時だった。

俺はダッシュで近寄り、右手で小男の足首を掴んだ。


「ヒッ?」

「剛力!!」


『剛力』によって俺の攻撃力は28になる。

腕力だけならヘビー級ボクサー並みだ。

こいつは小男だから体重は60kg以下だろう。

つまり、片腕でもぶん投げられる。


「ぶっ飛べ!!!」

「ヒエエエエ!?」

「ぐおっ!?」


小男は狙った通りに飛んでいって、スキンヘッド野郎に衝突した。

2人は揉みくちゃになって地面に倒れ、セイは首締めから解放された。


「げほっ!ごほっ!」

「ガル!セイを助けに行け!」


俺の指示を聞き、ガルは青髪男の横を抜けてセイの元へと走っていった。

そして、セイの服を噛んで引っ張り、俺の元へ走ってきた。




「ああ!?何で2人ともやられてんだよ!?」


遅れて状況に気付いた青髪男が叫んだ。


「て、てめえが狼なんかにチンタラやってるからだ!早くどけ、間抜けえ!」

「痛え!どくから、殴らないでくれよ!」


スキンヘッドと小男が起き上がろうとする。

しかし、その前にセイが動いた。


「ゲホッ、ゲホッ!」


咳き込みながらもスマホを取り出し、カメラを起動してスキンヘッド達を撮影。


「あ、てめえ、何撮ってんだ!」


そして、すぐにRINEを起動し、『品川ダンジョン公式アカウント』をタップして、今撮った写真を送信した。

そのままアカウントページに飛んでワンタッチで地上1階の受付に電話。

トゥルルル!


『はい、こちら「品川ダンジョン」1階受付…』

「助けて!地下4層でダンジョン犯罪者に襲われています!相手は3人組!人相は写真に撮って画像を送った!場所は5層行き階段近くの林の中!」

『ええ!?だ、大丈夫ですか!?』

「いいから早く救助を寄越して!!」

『わ、分かりました!すぐに手配します!』


それで通話は終了。

セイが復活してから通話終了までわずか10数秒のことであった。


「この、クソ女!!」

「ケホッ…ちなみに、これは親切心で教えてあげるんだけど、警察が通報から現場に到着するまでの平均時間は約7分。都内に限ればもっと早いでしょうね」


セイはスマホをしまって立ち上がった。

武器の6尺棒は襲われた時に取り落とした。

よって、無手。

しかし、堂々と立ち上がって犯罪者共を見下ろした。

その立ち姿からは明確な意志が感じられる。

あと7分耐えれば、こちらの勝ちだ!




「…くそっ!覚えてやがれ!」


そう言うと、スキンヘッドは後方へ走って逃げ出した。


「ええ!?逃げるんすか!?」

「あいつら放っていくのかよ!?」

「うるせえ!やりたきゃてめえらでやれ!」


そのやり取りで他2人も逃げ始めた。


「待て!うぐっ…!」

「大丈夫!?」


無理に動いたり、50kg超の小男をぶん投げたりした結果、俺の腹の傷は盛大に血を吹いていた。

くっそ痛え!


「無茶しないで、じっとしてて!」

「でも、あいつらが…あと7分足止めすれば…」

「…7分っていうのは嘘だよ。外なら7分でも、ダンジョンの4層まで降りてくるには更に10分か15分はかかるはずだから」


ああ…言われてみれば…。

流石に15分も足止めするのは無理があるか…。


「いっつぅ…!」

「後のことは警察とかに任せよう。傷を見せて。応急セットに包帯もあるから、止血できないかやってみる」

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