第12話 5層攻略
ダンジョン犯罪者達を追い払った後、私達は5層行き階段に避難して救助を待った。
予想では15分以上はかかると思ったが、実際には10分未満で救助の人がやってきた。
聞けば、ダンジョン管理センター内にはダンジョン内事件に備えて常に待機している人員がいるらしい。
「負傷者は1名ですか?」
「はい。脇腹を刺されて…一応止血はしたんですけど…」
ライは失血によりぐったりとして、顔面も蒼白。
早く病院へ連れていかないとまずい。
「ポーションも持ってきましたが、使いますか?」
「ください!」
「分かりました。ただ、ダンジョン内の負傷は自己責任のため、ポーションの代金はいただくことになります。その様子だと下級ポーションでは効果が薄そうなので、中級ポーションになるかと思いますが…」
「中級ポーションはいくらですか?」
「1瓶30万円です」
「…分かりました。今は持ち合わせがありませんが、地上に戻り次第必ず払います」
ライは中級ポーションを飲むと意識を取り戻した。
「…何だ…この苦い汁…」
「ライ!良かった!もう死んじゃうんじゃないかと…!」
「ピーマンみたいな味がする…不味い…」
その後、ライは病院に搬送されて入院。
傷自体はポーションで治っていたので、翌日には退院となった。
ダンジョン犯罪者の3人は無事に逮捕された。
私達も重要参考人として事情聴取を受け、警察署に収監されている3人の姿も確認した。
「間違いありません。あの3人です」
3人はこの後、検察から事情聴取を受け、起訴され、身柄を拘置所に移され、裁判を待つことになるという。
私達を襲った時の口ぶりから考えて初犯の可能性は低い。
仮に初犯でもライに対する殺人未遂の罪で実刑は免れないだろう。
「ただ、1つ問題があります」
ライが退院し、警察の事情聴取も終わった翌日。
私とライとガルは例によって『品川ダンジョン』に来ていた。
「お金がもうありません」
やはり中級ポーションの30万円が大きかった。
入院費と合わせて32万円が1日で消えたわけで、貧乏暮らしの上層探索者には痛い出費だった。
「ごめん…」
「ライのせいじゃないから謝らないで」
今までの稼ぎと幼少期のお年玉貯金を使い果たして何とか工面したが、預金口座はほとんど空になってしまった。
このままでは来月分の家賃すら払えない。
「入院費とかって犯罪者共に請求できないのか?」
「できるかもしれないけど、すぐには無理」
有罪判決が出るまで短くても数ヶ月、長ければ数年かかる場合もあるという。
家賃も水道光熱費もネット通信料も毎月末支払い。
100%間に合わない。
よって、何とかして10日以内に10万円以上を稼がなくてはならない。
「5層の魔石1つ800円とすると、毎日12.5個集める必要がある」
「毎日か…結構厳しいな」
「だから、レベルを上げてどんどん先の階層に進むしかないと思う」
「だな。ダンジョン犯罪者も中層以降にはまず出ないらしいし。さっさと11層を目指そう」
早く5層に行きたいところだったが、先に1層でゴブリンとスライムを5体狩った。
ガルの今日のご飯分だ。
『テイム』に関する情報は相変わらず乏しいが、Xwitterで検索をかけたらそれらしい情報が見つかった。
・エサは1番安い魔石でOK
・食べる量は魔物のサイズにもよるが、浅い階層の魔物なら1日5個くらいでOK
実際に昨日ゴブリンの魔石を5個あげて様子を見てみたが、特に問題はなさそうだった。
「よし、ガルのご飯も集め終わったし、5層へ行こう!」
「おお!」
そうして5層へ向かう途中、遭遇した魔物(『
ーーーーーーーーーーーーー
名 前:ライ
レベル:7(+1)
体 力:25(+2)
攻撃力:25(+2)
防御力:24(+2)
素早さ:24(+2)
魔 力:0/0
運 :10
S P :0(-8)
スキル:剛力
ーーーーーーーーーーーーー
これで全員レベル7になった。
5層の一般魔物は6〜7レベなので、同格以下の相手しかいなくなったことになる。
ボスの『ジャイアントフラワー』だけは推奨討伐レベル8で格上だが、移動速度の遅い魔物らしいから遭遇しても逃げられるはずだ。
5層の森フィールドに降り立ってすぐに、見慣れた魔物と遭遇した。
「お、スライム発見!」
5層のスライムは1層のスライムと違って『水弾』という魔法攻撃を放ってくる。
ステータスも全体的に上がっているはずだが、それでも所詮はスライムだ。
「おらっ!」
『水弾』を避けたライはスライム体内にある『核』を斧で両断した。
それでスライムは溶けて消えた。
「よし、魔石1個目!」
これで今日のノルマは残り11.5個
5層に来るまでに倒した魔物の魔石もあるので、残り11個でいいだろう。
私達はそれからも5層の魔物を狩り続けた。
「暴れ柳だ!」
「暴れ柳は規則的な回転を続けるから、見極めて懐に潜り込んで弱点の幹を攻撃!」
「首無し馬だ!」
「ガル、GO!」
「ゴブリンの群れだ!」
「森ゴブリンが混じってる!弓矢攻撃に気を付けて!」
「ダンジョンウルフだ!」
「ガル、いけそう?」
「GARU!」
ダンジョンウルフ対ガルの同種対決を制したところで、私達はレベルが上がった。
ーーーーーーーーーーーーー
名 前:ライ
レベル:8(+1)
体 力:26(+1)
攻撃力:26(+1)
防御力:26(+2)
素早さ:26(+2)
魔 力:0/0
運 :10
S P :0(-6)
スキル:剛力
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
名 前:セイラ
レベル:8(+1)
体 力:22(+2)
攻撃力:22(+2)
防御力:25(+2)
素早さ:22(+2)
魔 力:0/0
運 :15
S P :0(-8)
スキル:テイム
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
名 前:ガル
レベル:8(+1)
体 力:28(+3)
攻撃力:20
防御力:10
素早さ:28(+3)
魔 力:0/0
運 :5
S P :0(-6)
スキル:爪撃
ーーーーーーーーーーーーー
なお、ガルのSPは自動で割り振られていた。
ランダムなのか、何か規則性があるかは現状不明。
「レベルも上がったし、ボスを倒しに行こう!」
「おお!」
私達はジャイアントフラワーを探して歩いた。
ほとんど移動しない魔物なので、ネットの情報を元に探せばすぐに見つかった。
「ところで、こいつのあだ名知ってるか?」
「まあ、一応…」
ジャイアントフラワーのあだ名は『エロ触手』。
10本ある触手に捕まってしまうと、触手から分泌される溶解液に服を溶かされ、裸にされて吊るされるらしい。
「まあ、捕まらなければいい話だよ。こっちは3人。バラバラの方向から攻めて、1人触手3本ずつ相手にすれば何とかなるはず」
「俺はいいけど、セイの武器は棒だろ?大丈夫か?」
「もし捕まったら、裸にされる前に助けて」
「…」
「想像しないで」
緑色の森の中、目立つ真っ赤な花が特徴のジャイアントフラワーを3人で囲んだ。
事前の下調べで、触手の届かない位置にいる間は攻撃してこないことが分かっている。
腕まくりをし、私が手を挙げて合図すると、ジャイアントフラワーの背後に回ったライとガルが反応した。
「3、2、1、GO!」
「うおおお!!」
「GARU!!」
私達は3方向から一斉に飛び出した。
ジャイアントフラワーの注意はまず正面の私に向いた。
5本の触手がまとめて飛んでくる。
(予定より多い!けど、これはこれで良し!)
決定打の無い私に敵戦力が集中するのはむしろ好都合。
私は棒を振るって応戦し、なるべく敵の注意を引きながら時間稼ぎに徹した。
「うおらっ!」
「GARU!」
「KYAPIIIIII!?」
その間にライとガルが背後から迫り、ジャイアントフラワーの本体である花部分を斬り裂いた。
ジャイアントフラワーは悲鳴のような音を発して、慌てて触手を後方へ回した。
こちらに残った触手は3本。
後方へ7本。
(これもこれで良し!)
打ち合わせ通りの状況になったので、ここからは各々触手3本ずつをノルマとして戦う。
飛んできた1本の触手を棒で叩き落とし、2本目を頑張って避けた。
しかし、3本目が左腕に巻きついてきた。
「うっ!」
すぐに溶解液らしき白濁液が分泌される。
事前に腕まくりをしていたので服にはかかっていないし、チリチリとした感覚はあるが防御力を高めにしているから痛みもほぼない。
「く、このっ!」
しかし、引っ張ってみても解けそうにない。
これでは次の触手攻撃を避けることができない。
ライもガルも向こうで触手の対処に追われていて、助けには来れない。
「それなら、こう!!」
私は右腕一本で棒を持ち、槍投げの要領で投擲した。
6尺棒は真っ直ぐに飛び、ジャイアントフラワーの花の中央に開いた穴へ突き刺さった。
「KYAPIIIIII!!?」
あの穴が口だとしたら、喉の奥を棒で思い切り突かれたような状態だろう。
触手を弾いた時とは明らかに違う反応だ。
やはり弱点は本体か。
左腕の縛りも緩んだので、振り解いて後退。
飛んできた2本の触手の攻撃もギリギリで避けることができた。
「うおら!!」
「GARU!!」
ライとガルが触手3本のノルマをクリアして私の方へ走ってきた。
「無事か!」
「何とか」
「触手はあと…」
「4本かな」
「よし、あとは俺とガルでやる。セイはそこで待っててくれ!」
「ごめん、任せる」
ライとガルは再びジャイアントフラワーに向かっていき、残り4本の触手を全て断ち切った。
「よし!魔石ゲット!」
「2人共ナイス!お疲れ様!」
「結構大変だったな。何気に初ボス討伐か。セイは怪我してないか?」
「うん。一回左手を触手に捕まったけど」
「おいおい」
「平気だよ。腕まくりしておいたから服も溶けてないし」
「でも、腕にまだ溶解液残ってるぞ」
「あれ、本当だ?」
魔物を倒せば血も体液も全て消えるはず。
だが、溶解液は残ったままだった。
「何でだろう?体液じゃなくて、魔法的な何かなのかな?」
何となく汚そうな感じがしたので拭おうとしたら、ガルがやってきて匂いを嗅いだ。
「あ、こら!汚いから舐めちゃダメだよ!」
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