第13話 50万円の剣

『品川ダンジョン』6層は5層から更に1ランク敵のレベルが上がる。

6層のボスは『グリーンウルフ』。

推奨討伐レベルは10。

徘徊型の魔物で、いつどこで遭遇するかは完全にランダムだ。

それ以外の一般魔物も8〜9レベ。

よって、きちんとレベル上げをしてから6層入りするべきと考え、私達は5層で4日ほど探索を続けた。


「よし、レベル上がった!」

「私も」

「GARU!」


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ライ

レベル:10(+1)

体 力:28

攻撃力:28

防御力:27

素早さ:27

魔 力:0/0

 運 :10

S P :6(+6)

スキル:剛力、破壊

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:セイラ

レベル:10(+1)

体 力:23

攻撃力:23

防御力:30

素早さ:23

魔 力:0/0

 運 :15

S P :8(+8)

スキル:テイム、バリア

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ガル

レベル:10(+1)

体 力:30

攻撃力:25(+3)

防御力:13(+3)

素早さ:30

魔 力:0/0

 運 :5

S P :0(-6)

スキル:爪撃、鋼の牙

ーーーーーーーーーーーーー


「これでようやく6層に行けるな!」

「新しいスキルも覚えてる!」

「破壊…って、どんな能力だ?」


調べてみたところ、『破壊』は物体を破壊する能力(非生物に限る)で、『バリア』は空中に半透明の盾を作る能力だった。

『鋼の牙』については検索してもヒットしなかったが、名前からして噛みつき攻撃の威力が上昇する能力だろう。


「早速6層に行くか?」

「そうしたいのは山々だけど、先に5層で能力検証が必要かな」




ということで、まず『破壊』の検証からスタート。


「破壊!」


ライが石ころに『破壊』を使うと、バギン!と音を立てて四つに割れた。


「おー!」

「こういう感じになるんだ。次はそこの木に使ってみて」

「生物は無理なんじゃないのか?」

「実験実験」


試しに使ってみたら、『破壊』は木にも効果があった。

幹に深い亀裂が入り、細めの木だったのでそのまま倒れた。


「すげー。けど、環境団体の人とかに怒られそう」

「ダンジョンの環境はどれだけ荒れても数日で元に戻るらしいよ」


検証のための1本目くらいは許してくれるだろう。


「次は地面に使ってみて」

「…大丈夫かな?」

「…念のため、私とガルは離れておこうか」

「俺は…?」

「流石に行使した人間が地割れに巻き込まれて死んだりはしないと思うよ。…多分」

「多分て!」


結果は地面に十字の亀裂が入っただけで、穴が空いたりはせず、もちろんライも無事だった。


「結構何でも壊せそうだね。敵の武器を破壊とかもできそう」

「でも、実際に触らないと破壊できないし、魔物本体も破壊できないってWakipediaに書いてあったから、戦闘中に使うのは難しくないか?」

「そんなことないよ。色々できると思う」

「例えば?」

「さっきみたいに木を倒して、敵の進路を塞ぐとか」

「環境団体の人とかに怒られそう」


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ライ

レベル:10

体 力:29(+1)

攻撃力:29(+1)

防御力:29(+2)

素早さ:29(+2)

魔 力:0/0

 運 :10

S P :0(-6)

スキル:剛力、破壊

ーーーーーーーーーーーーー




次に、私の『バリア』について検証。

『バリア』を出すには魔力を1消費するらしいので、まず魔力にSPを振った。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:セイラ

レベル:10

体 力:25(+1)

攻撃力:25(+1)

防御力:27

素早さ:25(+1)

魔 力:5/5(+5)

 運 :15

S P :0(-8)

スキル:テイム、バリア

ーーーーーーーーーーーーー


「バリア!」


右手を突き出してスキル名を叫ぶと、手の平の少し先に半透明の四角い板が現れた。


「おー」


大きさは縦2m横1m。

出してから10秒ほどで溶けるように消えていった。


「バリア!バリア!バリア!」


3連続で『バリア』を出すと、3枚目を出した瞬間に1枚目が消えた。


「最大2枚までか」

「出せる場所は自由で、斜めや横にして出すこともできるけど、範囲は腕の先から1mまでが限界みたい」


また、ダンジョン攻略系サイトの情報によれば、『バリア』の固さは使用者の防御力に依存するらしい。


「この棒でバリアを叩いてみてくれる?」


私はライに6尺棒を渡した。


「思いっきりでいいんだな?」

「どうぞ」

「おらっ!いったぁ!?」

「ヒビも入ってない。中々の硬度だね」


ライが全力で殴ってもバリアは割れず、反動でライの腕の方が痺れた。


「次は斧使って本気でやっていいか?」

「どうぞ」

「剛力!うおらっ!!」


スキル込みのライの本気の攻撃は流石に防ぎ切れず『バリア』は中程まで斧に割られた。

しかし、中程まででライの斧も止まった。

ライの全力でも一応受け止めるくらいはできるようだ。


「納得いかねえ…もっかいやっていいか?」

「ダメ。残り魔力1しかないから」

「頼む!破壊スキルで破壊できるかやらせて!」

「それはまあ…やっておこうか。バリア!」

「よっしゃ、破壊!!」


『バリア』は『破壊』では壊せなかった。

魔法を破壊することはできないらしい。


「負けた…!」

「別に勝ち負けではないでしょ」




ガルの『鋼の牙』は思っていた通り噛みつきの威力を向上するスキルだった。


「ガル、GO!!」

「GARU!!」


丁度いいところにいたゴブリンに噛みつき攻撃を試すと、噛み付いた首が一瞬で千切れた。


「GOBU!?」


ゴブリンの頭は宙を舞って地面に転がって消滅した。


「うーん、グロいな!」

「よし、検証終わり!6層に行こう!」




6層は相変わらず森フィールドだった。

魔物を探して歩いて行くと、突然目の前を猪が走っていった。


「うお、何だ!?」

「ワイルドボア!」


『ワイルドボア』は私達には目もくれず、真っ直ぐどこかへ走り去っていった。


「何だったんだ…」

「猪突猛進ってことかな?この辺りは木が密集し過ぎて見通しが悪くて危ないね」

「もうちょい開けたとこ探して移動するか」


周囲を警戒しながら数分歩くと、木の生えていない広い空間を見つけた。


「何だこの岩」


中央に大きな岩があり、周りには木どころか草の一本も生えていない。


「見晴らしはいいね。とりあえず、ここを中心に動こうか」

「破壊」


バギン!

という大きな音に振り返れば、大岩が砕けていた。


「な、何やってんの!?」

「え、これ壊しちゃまずかった?」

「まずいに決まってるでしょ!」


これだけ特徴的な空間に、遠目からでも分かる大岩だ。

他の探索者もよく利用している場所に違いない。

ここを目印にダンジョン内の位置関係を把握している探索者もいるかもしれない。


(そんなランドマーク的な大岩を破壊するなんて!)


と説教しようと思ったのだが、


「よくぞ岩を破壊してくれた!」


という聞き覚えのない声のために、私の説教は遮られた。

岩の中には、1本の剣があった。


「さあ、我を引き抜くがいい!勇者よ!」


しかも、その剣が喋っている。


「我が名はインテリジェンスソード!!!」

「うわ何だこいつ、キモ!」




『インテリジェンスソード』を自称する喋る剣を発見してしまった私達は、対応に困った。


「お、お主、今キモいと言ったか!?」

「剣が喋ってる…」

「やっぱ喋ってるよな、あれ…」


喋る剣は幅広のロングソードであり、刃を下に向けて地面に刺さっている。

刃の中心には赤い線が走っていて、喋る度に明滅していた。

持ち手の部分にも金や銀のごちゃごちゃとした装飾が施されていて、全体的に仰々しい。


「我のどこがキモいのだ!どこからどう見ても名剣の趣きであろう!」

「名剣に見えるかと言うと、うーん、まあ?」

「うーん、まあ!??」


なんて声の大きい剣なんだ…。

正直、うるさい。


「魔物かな?」

「破壊スキルで破壊できるか試してみるか。破壊できれば剣だった、無理だったら魔物ってことで」

「待たれよ!!!」

「うわ、うるさっ!?」

「GARURURU…!」


一際大きな声に私達はびっくりし、ガルは牙を剥いて唸った。


「お主ら、今、我を破壊しようとしたか…?」

「ダメなのか?」

「我を破壊するなんてとんでもない!我は世界に何本かしかない名剣中の名剣であるぞ!」

「何本かはあるのかよ」

「何本かはある!!!」


会話は成立している。

うるさいし、態度も大きいけど、攻撃してくる気配はない。

魔物ではなさそう…かなあ?


「とりあえず、検索してみる」

「…やれやれ、最近の若者は何でもかんでも検索に頼り過ぎる。インターネットに全ての情報が載っていると思ったら大間違いであるぞ」

「インターネット知ってんのかよ」

「うむ。我はインテリジェンスソードであるからして」

「ダメ、検索しても出てこない」

「マジか」

「であろう」


魔物でないなら武器?

しかも、検索にもヒットしない珍しい武器ということになる。

つまり、


「売ったら高いかも?」

「じゃあ、売るか」

「待たれよ!!!!!」




ロングソードの値段は1本数万円から数千万円までピンキリ。

普通の剣の相場でこれなので、世にも稀な喋る剣なら一体いくらになるのだろうか。


「低めに見積もっても10万円は下らないと思う」

「よし、売ろう」

「待たれよ!!!!!!!!」

「何だよ」

「我を売るだと?正気か?我、インテリジェンスソードぞ?」


仮に本当に名剣だとしても、私達には扱えない。


「私は棒使いだし」

「俺は斧使いだし」

「ハッ、斧に棒だと?笑止!そんなものは剣の足下にも及ばぬ雑魚武器よ!」

「よし、売ろう」

「待たれよ!!!!!!!!!」

「俺の経験上、人の好きな物をディスってくる奴にろくな奴はいない」

「そうだね」

「待たれよ!!!!!!!!!!!!!」


それに私達が使えない理由はもう1つあって…。


「シンプルにうるさいんだよね…」

「それな」

「そ、それは、我はインテリジェンスソード故、多少騒がしいのは勘弁してもらいたい」

「私達はギリギリ我慢できなくもないけど、うちにはガルがいるから…」


ガルはさっきからインテリジェンスソードに向かって唸りっぱなしだ。

狼は聴覚も鋭いので、騒がしい相手は苦手なのだろう。


「お、お主ら、本当に我を売るつもりなのか…?我は皆んな大好きインテリジェンスソードであるぞ?」

「今は丁度金欠だしなあ」

「剣よりもお金の方が…ね」

「なん………だと…………!??」


今回はご縁が無かったということで…。


「そんなお祈りメールみたいなことを言うのはやめるのだ!!!」

「何でお祈りメール知ってんだよ」

「我はインテリジェンスソードであるからして」

「直接触ると呪われるかもしれないから、布で包んで持っていこう」

「呪いの剣みたいな扱いはやめるのだ!!!」




今日の探索はそれまでにして、私達はインテリジェンスソードを1階受付に持って行った。


「喋る武器ですか…3年勤めていますが、初めて見ました」

「直接触ると何かあるかもしれないので、布ごとどうぞ」

「呪わないと言っておるのに!!!」

「鑑定に回しますので、後日査定結果をお伝えいたします」

「よろしくお願いします」


何度考えてもうちのパーティーにインテリジェンスソードは不要だったため、やはり売ってしまうことにした。


「貴様ら…!我を手放したことを後悔しても知らんぞお…!!!」

「いよいよ悪役の捨て台詞みたいなこと言い始めたぞ」

「高く売れると良いね」

「売れるか、あれ?」

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