第5章【31層】無謀なダンジョンアタック

第21話 ソロ探索

ガルはよくやった。

ガルがいなければ、セイは多分死んでいただろう。

先に逃げた俺の位置からでは、セイを助けることはできなかった。

主人を身体を張って護り抜いた。

従魔として完璧な仕事だった。

ただ、あいつの1番偉かったところは別にあって…。




26層の山フィールドに1人で降り立つ。

目的はもちろん、ガルを治すための上級ポーションの入手だ。

入手方法は高レベル魔物からのレアドロップのみ。

レアドロップの発生率は確か1%だから…。


(なるべく深い階層で、とにかく魔物を倒しまくるしかない)




平日の昼間だったから周囲に他の探索者はいなかった。

完全に1人だけのダンジョン探索。

自分の足音や、木々の騒めく音が、やけに大きく聞こえた。

そして、山に入ってすぐに魔物と遭遇した。


「GAOOOOOOOO!!」

「いきなりボス戦かよ」


現れた魔物は『オークジェネラル』。

右手には金棒を持ち、全身を重そうな鎧で武装している。

将軍ジェネラルというが、部下がいるわけではない。

単にオークの上位種という意味なので、相手も1体だ。


「まあ、ソロで戦えるか試すには丁度いいか」


オークジェネラルの推奨討伐レベルは30。

俺のレベルは31だ。

格下のこいつに勝てないようでは、上級ポーションなんて夢のまた夢。


「剛力!帯電!呼吸!」


俺は全てのバフスキルを発動し、オークジェネラルに踊りかかった。


「一撃で倒す!!!」




〜10分後〜




「ゼー…、ゼー…!」


泥沼の戦いの末、俺はようやくオークジェネラルを倒した。

辛勝だった。


「く…結構ダメージ食らっちまった…初っ端に突っ込んでいったのがまずかった…」


初っ端、大斧をフルスイングしたら簡単に避けられ、カウンターの裏拳で顔面を吹き飛ばされた。

普通に意識が飛びかけた。

ピヨピヨ状態では戦えないので、ダメージが抜けるまで逃げ回り、『呼吸』スキルで無理やり持久戦に持ち込んで、どうにか倒したが…。


「ガルとセイがいないと、こんなにキツいのか…」


ガルがいれば、スピードで撹乱して隙を作ってくれただろう。

セイがいれば、的確な指示とサポートを貰って無傷で勝てただろう。

俺の『大斧ブン回し戦法』は2人がいて初めて成立する戦い方だったらしい。


◾️残体力61→51


「あ、受付でポーション買ってくるの忘れた」


今まで持っていたポーションは全てガルに使ってしまった。

セイもいないから、回復系のスキルもない。

回復手段0だ。


(ソロでこれは、まずいか…?)


ちょっと悩んだが、結局そのまま進むことにした。

この探索は金策も兼ねている。

高いポーションを買うのは躊躇ためらわれた。

『呼吸』スキルにも微弱な回復効果があるので、それで何とか誤魔化して進もう。




砂利敷きで足元の悪い登り坂の途中、俺は黄色い狼と遭遇した。

名前は『サンダーウルフ』。

推奨討伐レベルは29だ。

坂道の上から、俺のことを見下ろしている。


「よりによって、魔狼かよ…」


ガルと同種の魔物だ。

戦いづらい…。


(セイだったら戦えなかったかもしれないな…)


だが、俺はセイと違って、それほど動物が好きなわけではない。


「向かってくるなら、倒すぞ」

「GARURURURU!!」


サンダーウルフは唸り声を上げて駆けてきた。


「雷弾!」


俺は迎撃のために『雷弾』を放った。

命中。

しかし、サンダーウルフは全く怯まずに突っ込んできた。


(電撃が効かない!雷狼だからか!?)


一気に距離を詰められる。

俺は牽制のために大斧を振り回した。

だが、サンダーウルフはジグザグ走行で斧を避け、俺の背後に回り込んできた。


「そうくると思った!」


これは魔狼のいつもの攻撃パターン。

ガルもよくやるやつだ。

読んでいた俺は背後へ向けて蹴りを放った。

だが、これもまた寸前で避けられた。

サンダーウルフは坂道の下へ大きく飛び退き、そこで一旦足を止めた。


「分かってはいたけど…速ええな、ウルフ系は」




3分後。

戦いはまたしても長期戦の様相を呈していた。

しかも、今回はこっちが負けそうになっている。


(ダメだ、完全にスピードで負けてる!)


レベルは俺の方が上。

しかし、素早さはサンダーウルフの方が上だ。

目で追えないほどの速さではないが、微妙に避け切れなくて、細かい傷が少しずつ増えていく。

対するサンダーウルフは未だ無傷。


(体力もあって攻撃力もあって素早さは俺より高い…なら、防御力は低いはず。一撃入れれば勝てるはず。でも、その一撃が入らねえ!)


どうしても大振りになる大斧と、素早さ重視のサンダーウルフでは、そもそもの相性が悪そうだった。


「GARURURU!!」

「ぐうっ!?」


斧を避けられると必ず隙ができてしまう。

そこにサンダーウルフの噛みつき攻撃や爪撃が来る。

分かっていても避けきれない。


「うおおお!!」


無理して斧をぶん回せば一時的に追い払うことはできるが、それだけだ。

せっかく距離を開けても『雷弾』が効かないので、遠距離攻撃もできない。

近くの木を『破壊』して木片を『投擲』してみたりしたが、まあ当たらない。

いっそ逃げようかとも思ったが、素早さで負けているので、それも無理。


(どうする、どうすればいい!?)


しかし、作戦を考えてくれるセイも、スピード勝負で負けないガルも、今この場にはいなかった。




戦闘開始から5分ほどが経過。

一方的に攻撃を受け続けた俺は、全身血まみれになっていた。


「はぁ…はぁ…帯電!」


1分で切れてしまう防御力バフを、切れる度に掛け直す。


(まずいな…体力も魔力も結構使っちまった…)


バフ込みなら防御力は足りているようで、急所さえ守っていれば大ダメージは防げた。

しかし、それも限界のようだ。


(うっ、目眩が…血を流し過ぎたか…?)


段々身体が重くなり、力も入らなくなってきた。

このままでは失血死。

もしくは、弱って防御しきれなくなったところに致命傷をもらって死ぬ。

オークジェネラル戦みたいな持久戦は不可能。

それなら…。


「呼吸!剛力!」


一か八かの短期決戦だ。

次の一撃に全てを賭けるしかない。


「GARURURURURU!!」


覚悟を決めた俺に、サンダーウルフが突っ込んできた。

最早フェイントも無く、真っ直ぐに向かってくる。

直線の軌道は読みやすい。

俺は右腕一本で大斧を振り下ろした。

しかし、やはり、当たらない!


「GARURURU!!」


サンダーウルフは大斧を避けて左に回り込み、側面から噛みついてきた。

俺は左腕を前に出して、急所だけは守った。

鋭い牙が左腕に突き刺さる。

瞬間、激痛が全身を駆け巡った。


「ぐっ…うおおおおおおおおお!!!」


でも、これなら死にはしない。

仕方ないから、左腕はくれてやる。


「代わりに、その脚置いていけ!!」


俺は右腕に持った大斧をサンダーウルフの腹にぶち込んだ。


◾️残体力51→21




上級ポーションは、欠損直後でなければ失われた部位を治すことはできないらしい。


(でも、そこに代わりの脚があれば、何か上手いことくっ付いたりするんじゃないか?)


馬鹿な俺にしては冴えた考えだと思った。

が、サンダーウルフのドロップアイテムは魔石だった。


「くうっ…」


犠牲にした左腕が死ぬほど痛む。

出血が酷く、感覚はほとんど無くなっている。

俺はハンカチを取り出し、包帯代わりに左腕へ巻きつけた。


「片腕だと巻きにくい…」


セイがいれば…と今日何度目かも分からないことを考えた。

巻き終えて、少し歩くと、27層へ降りる階段を見つけた。


◾️残体力21→24(休憩)




階段を降りると、また山の裾野に出た。


「28層行き階段は山の上の方だっけ…」


階段で休みはしたものの、今の状態で長距離登山はキツいな…。

28層目指して山を登っていくと、木々の間に蠢く影を見た。


「何かいる」


植物が多くて見通しの悪い道に、ウニョウニョと蠢く触手系の魔物がいた。

『ハードプラント』だ。

長く太い緑色の蔓自体が本体。

どこを斬ってもダメージになるので、全身急所みたいな奴だが、蔓は10本あるので数本斬ったくらいでは死なない。

推奨討伐レベルは30。


「手数多い系か…左腕死んでんだけど、いけるか…?」


左腕はもう盾にするくらいしか使い道がない。

連戦で体力消耗も激しいし、血も流し過ぎた。

階段でチョコを食べて鉄分は摂ったが、気休めだ。

これ以上の失血はできない。


「そうだ、こいつはサンダーウルフじゃないんだった」


相手が雷系の魔物でないなら『雷弾』は効くはず。

敵はまだこちらに気が付いていない。


「雷弾!雷弾!」


左腕が使えないので、斧を持った右腕から『雷弾』も撃った。


「GISYAAAAAAAA!?」


普段と違って人差し指の先から撃ったが、的がデカかったので2発共命中した。

痺れている間に近付いて、蔓を2本切断する。


(うっ…腕が痛え!?)


最早、自分の攻撃の反動にすら痛みが発生した。

痛みに呻いていると、ハードプラントは痺れから復帰し、無事な8本の蔓で攻撃を仕掛けてきた。


「雷弾!雷弾!」


蔓を避けながら『雷弾』を撃ち込んで痺れさせる。

痺れて隙ができたところに、大斧を叩き込む。

続けてもう1本!


(雷弾は1度に2発まで、残る蔓は6本!)


2本ずつ斬っていけば、あと3セット分だ。


「全身急所だから雷弾の効きが良いなぁ!」




サンダーウルフ戦では役立たずだったが、ハードプラント戦では『雷弾』がよく効いた。

全ての蔓を切断すると、ハードプラントは魔石に変わった。


「ぐうっ…!!」


ノーダメージの完勝だったが、腕の痛みは悪化。

ずっと『呼吸』も使っているのに、たった1戦で息が上がった。


「そんで、今回もレアドロは無しか…」


レアドロップの確率は1%。

100体倒して1回あるかないか。

倒した魔物はこれで3体目だ。


◾️残体力24→19

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