第18話 あれはね、シベリアンハスキーって言うのよ

近所のコンビニで買い出し中、俺はある物を見つけた。


(こ、これは…!)


俺は即座にそのブツをカゴに入れ、いそいそとレジへ向かった。

あとついでに今週号の『週刊少年ジャソプ』も買ってと…。




「飲み物買ってきたー」

「ありがとう」


今日は中層踏破記念のプチ打ち上げ会。

コンビニから戻ると、既に出前の寿司は届いていた。

箸も醤油も小皿もテーブルに並べられていて、準備は万端。

セイはソファに座ってスマホで動画を見ていた。

ガルもソファの上にいて、セイに尻を付けて寝っ転がっている。

尻をくっ付けてくるのは信頼の証とか何とか。


「何見てるんだ?」

「『品川ダンジョン』下層の攻略動画」

「マメだなー」


ダンジョン探索者の中には探索の様子を撮影して動画サイトにアップしている人達がいる。

所謂いわゆる『ダンジョン配信者』だ。


「誰の動画?」

「『百鬼夜行』」

「武蔵さんのとこか」


以前俺達の救助に来てくれた武蔵さん達もダンジョン配信者だった。

彼らはトップ探索者でもあるので、アップしている動画は軒並み数十万再生超え。

今日本で最も有名なダンジョン探索者と言えば彼らかもしれない。


「この前、45層の攻略動画上がってたよな」

「ライも動画とか見るんだ?」

「そりゃあダンジョン系の動画くらいは見るよ」

「ふぅん、アイドル探索者とか?」

「攻略動画だけだって」


『アイドル探索者』はイケメンだけとか、美少女だけで構成された探索者パーティーのことを指す。

『歌って踊れてバトルもできる』がコンセプトだ。

まあアイドルと兼業になるので、下層まで潜れるようなパーティーは今のところいない。

中層突破した俺達の参考にはならないので、そういうのは見ていない。


「本当に?」

「マジで見てない」




ガサゴソ音を立てて、ビニール袋から買ってきた飲み物を取り出す。

お茶と炭酸飲料、あと一応シャンパンも買ってきた。

ただ、俺もセイも酒はそんなに飲まない。

俺は甘党だからビールが合わなかった。

セイは脳が鈍る感じがするから苦手らしい。

このシャンパンを誰が飲むのかは不明だ。


「「乾杯!」」


グラスを鳴らしたら、ガルも起きてきた。


「ガルもご飯にしようね」

「あ、実はスーパーで良い物見つけたんだよ」

「良い物?」

「ぴゅ〜れぴゅ〜れ、ワンピューレ!」

「犬用じゃん」


ガルは狼だが、戦闘時以外は犬と大差ない。

今も涎を垂らしながら大トロをガン見している。

もしかしたら猫なのかもしれない。


「犬用おやつに食いつくか試してみようぜ」

「前にドッグフード買ってみた時は食べなかったでしょ」

「まあまあ」


完全な悪ノリでガルの前にワンピューレを差し出してみた。

すると、ガルは凄い勢いでワンピューレに噛みついてきた。


「危なっ!?」


咄嗟に手を離して事なきを得たが、腕を持っていかれるかと思った…。

ガルは俺から奪ったワンピューレを狂ったように舐め回していた。


「食べるんだ…」

「めちゃめちゃ食ってるな…」


やっぱこいつ、ただのデカい犬なんじゃないか…?


(でも、ドッグフードは食べなかった…)


ということは、ワンピューレに何かヤバい成分でも含まれているのかもしれない…。


「いくら?」

「4本入りで200円」

「1本50円か。ゴブリンの魔石よりも安いね」


ガルはワンピューレを食べ切ると、舌で口の周りを舐めていた。

相当気に入ったらしい。


「今後のおやつはこれにしようか?」

「マジ?」


完全な悪ふざけのはずが、結果的にガルのおやつのバリエーションを増やした。




満足気なガルを横に置き、俺達も夕飯を食べる。


「寿司なんか久々だな」

「ずっと節約生活だったからね」

「金は結構貯まった?」

「今の貯金が600万円くらい」

「2年で600万かー」


…どうなんだ?


「結構頑張った方じゃない?ガルもいて、そこそこの広さの家に住んでることも考えると」

「それもそうか」

「そういえば、そろそろ更新の時期なんだけど、どうしよう?」

「ペット可でここより良い物件あるのか?」

「多分ない」

「じゃあ、更新したらいいんじゃね」

「そうだね。引越しも大変だし、お金もかかるし」

「ガルに荷物全部運ばせれば引越し費用0円にできるんじゃね?」

「流石に無茶でしょ…ライも一緒に運べば何とかなるかも?」

「セイも転送スキルを使えば運べそうだな?」

「じゃあ、2人が家の前まで運んでくれたら、私が転送で中に入れるよ」

「分かった、引越し屋に家の前まで荷物を運んでもらって、残りはセイが頑張る感じでいこう」

「それなら家の中まで運んでもらえばいいじゃん」

「確かに」


ゲラゲラ。

まあ、そもそも引っ越さないんだけどな。


「1番良いのは家買っちゃうことなんだけどね」

「600万じゃまだ無理か」

「職業『ダンジョン探索者』じゃローンも組めるか怪しいしね…現金一括払いでガルも住める広い家を買うなら、5,000万円くらいは必要かな?」

「10年くらい先の話かあ」

「下層で稼げるようになればもう少し早いと思うけどね」




食べ終わると、セイは洗い物をしに台所にいった。

手伝おうかと聞いたが断られたので、俺は買ってきたジャソプでも読んでいることにする。


「今週の巻頭カラーは『ダンジョン大戦』か」


現実にダンジョンが出現した結果、ダンジョン物のフィクション作品は激増した。

中でも『ダンジョン大戦』はダンジョン黎明期に始まった漫画で、連載期間8年、既刊30巻越えの大作である。

今は超特大ダンジョンである『銀河ダンジョン』の3万6千5百4十3層で主人公とボスが激突したところだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

迷宮将軍ドゴブリン「ククク…我はただのゴブリンではない…」

剣太郎「な、何だって!?ま、まさか、お前は…!」

迷宮将軍ドゴブリン「我こそは、激しい怒りによって目覚めた伝説のゴブリン…ド級のゴブリン、ドゴブリンだああああああああああ!!!」


【次号に続く…】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なんて熱い展開なんだ…!」


まさかここで第1話の『伝説のゴブリン』の伏線が回収されるとは思わなかった。

8年越しの伏線回収。

流石はダン・ジョンソン先生だ。

やはり天才か…。


「それ今週のジャソプ?」

「そう」

「後で『ダンジョン大戦』だけ読ませて」

「オッケー」


セイはあまり漫画とかを読むタイプではないが、『ダンジョン大戦』だけは毎週読んでいる。


「ダンジョン物だし、何かの参考になるかもしれないから」


と前に言っていたが、果たして参考になるんだろうか…。

この漫画、主人公の必殺技で星が1つ吹き飛んだりするんだけど…。


「今週の『ダンジョン大戦』も超面白かったぞ」

「あ、やめて!私ネタバレとかダメな人だから!」

「実は序盤の伏線があ〜」

「やめて!ガル!」

「GARU!!」

「うお!?ガル寄越すのは反則…ぐえええ!」


背後から不意打ちを受けた俺は、なす術もなく床に組み伏せられてラグマットになった。




翌日。

3人揃って『品川ダンジョン』に向かうと、途中で子供を連れた女性とすれ違った。


「わあ!おっきいワンちゃんいたー!」

「あら本当。あれはね、シベリアンハスキーって言うのよ」

「ブフゥッ!」


俺はうっかり吹き出した。


「ガル…お前、ハスキー犬だってよ…ププー!」

「GARU!!」

「まあ、狼っぽいもんね、シベリアンハスキー。でもサイズが全然違うから、せめてウルフドッグかアラスカンマラミュートって言ってほしかったよね」

「いや、その2つは俺も知らない」

「ええ?何で知らないの?ハスキーより一回り大きいのがアラスカンマラミュートで、更に大きいのがウルフドッグ。でも、ガルは更にもう一回り大きいけどね」

「お、『品川ダンジョン』見えてきたぞー」


セイの蘊蓄うんちくを聞き流しながらダンジョンに降りる。

まずは上層でガル用の魔石を集め、それが終わり次第26層直通階段で下層へと向かった。


「いよいよ今日から下層探索か」

「下層は魔物も強くなるし、フィールドも平地が無くなって難易度上がるから、今までよりも慎重に探索していこう」

「おお!」

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