第17話 25層ボス部屋

階段を降りると、扉があった。


「この扉を潜ったら、ワイバーンを倒すまで外に出られなくなる、ってわけだ」

「とりあえず、中を見てみよう。扉が開いている間は戦闘は始まらないらしいから」


石造りの重たい扉を押し開けると、ボス部屋の中は広い洞窟になっていた。


「50〜60m四方ってとこか」


イメージとしては学校のグラウンドくらいか?

四方を岩壁に囲まれており、天井もドーム状。

完全に閉じた空間だ。

外に通じる道も、下へ降りる階段も無い。

そして、魔物の姿も無い。

ただ、洞窟の奥の方に、台座のような1段高くなっている場所がある。


台座あそこにワイバーンが出てくると見たね」

「ライ、扉は押さえておくから、先に瓦礫を作っておいて」

「了解」




俺はボス部屋の壁を『破壊』して周り、『転送』用の瓦礫を適当な距離感でばら撒いた。


「そういえば、破壊スキルで出口を作れたりしないかな?」

「試してみたら?破壊は魔力消費0なんだし」

「破壊!破壊!破壊!」


岩壁を『破壊』して掘り進んでみたが、どこまで掘っても何も出てこなかった。


(この岩壁、無限に続いてんのか?)


そう思い始めた時、


「お、何か出た!」


20mほど掘ったところで、壁の先に真っ暗な大穴が現れた。


「何かあったー?」

「何かデカい穴が空いてたー!」

「穴ー?」

「この穴って外に繋がってると思うかー?」

「この穴って言われても…ガル、ちょっと扉を抑えていてくれる?」

「GARU?」

「ここで『待て』しててね。『待て』」


ガルに扉を任せ、セイが謎の穴を調べにやってきた。


「うーん、スマホのライトで照らしても真っ暗なままか…」

「さっき試しに瓦礫を放り込んでみたんだけどさ」


ポイっ。

シーン…。


「ほら、音も無く吸い込まれてどっかに消える」

「…とりあえず、中に入るのはやめておいた方がいいと思う」

「やっぱそう思う?」


何の情報も得られていないが、何となく『空間の裂け目』的な穴に見える。

入ったら転移罠みたいに、どこかへ飛ばされるんじゃないだろうか?


「どこに繋がっているのかも分からないし、穴の向こう側から魔物が来たりしても困るから、もう一度埋めて塞いでおこう」

「まあ、ボス戦前だしな。検証してる場合じゃないか」




大穴を埋め直し、掘り進んできた20mの横穴を2人で戻った。


「あと他にやることは?」

「ボス部屋内の状況を踏まえて、一回打ち合わせ。あとは各種バフスキルを…」


バタン!


「「…」」


急に、何かが閉まるような大きな音がした。

俺達は嫌な予感を覚えた。

急いで横穴から顔を出すと、入り口の扉が閉まっていた。

そして、ガルがこちらへ走って来ていた。


「「ガルーーーーーー!?」」

「GARU!」


どうやら、ガルは1人で待っているのに耐え切れなくなっちゃったようだ。


「GYAOOOOOOOOO!!」


直後、天井付近から巨大なトカゲが降ってきた。

25層の主『ワイバーン』である。


「おいおい、ボス戦始まっちゃったぞ!」

「2人共、戦闘準備!」

「剛力!呼吸!帯電!」

「指揮!」


俺は斧を、セイは棒を構え、ガルは姿勢を低くした。

ワイバーンは予想通り、奥の台座に着地した。

全身紅色。

身体の大きさは俺達と同じくらい。

だが、その背中には身体より大きな翼が2本生えている。


「あいつ天井から降って来たよな?どこから湧いて出たんだ?」

「さあ…ワープ装置があるダンジョンだし、今更驚くほどのことでもないけど」




ワイバーンのいる台座までは50mほどの距離がある。

『雷弾』を撃ってもいいが、正直俺の射撃精度はそれほど高くない。


「ガル、GO!」


俺もガルも近接メインなので、とりあえず突っ込んで行って距離を詰める。

セイは後衛のサポート役だが、『バリア』も『転送』も有効射程が短め。

離れていると効果が無いので、俺達にやや遅れる形で着いてきた。

ワイバーンは上体を反らすと、胸の部分を大きく膨らませた。


火の息ブレスがくる!」

「いきなりかよ!?」

「バリア!バリア!」


俺は慌てて後退し、セイの張った『バリア』の裏に隠れた。


「GYAOOOOOOO!!」


ワイバーンの口から灼熱の炎が噴き出てくる。

当たったら大火傷確定の遠距離技。

だが、火炎は『バリア』にぶつかると、右方向へと流れていった。

攻撃を受け流すため、セイは初めから『バリア』を傾けて設置していたようだ。


「さっきポイズンスライムで学んだんだよね」

「セイ、ナイス!助かった!」




ブレスを受けて俺は後退したが、ガルは構わずに突っ込んでいった。


「GYAOOOOOOOOO!!」


ワイバーンはガルを狙って頭を動かし、ブレスの軌道を変えた。

炎の帯がガルを追いかけていく。

しかし、ガルの素早さの方が勝っていて、全く追いつかない。

『身体強化』と『風除け』により、ガルの最高時速は140kmを超える。

50m走なら1.3秒でゴールだ。


「GARU!!」


高速で回り込んだガルは側面からワイバーンに襲いかかり、『爪撃』で背中を抉った。


「GYAOOOOOOO!?」


悲鳴を上げつつも、ワイバーンは長い尾を振り回して反撃してきた。

ガルは即座に後退し、尻尾の叩きつけ攻撃から逃れた。


(チャンス!)


今、ワイバーンの注意はガルへ向いている。


(この間にコッソリ近付いて、接近戦に持ち込んで叩っ斬る!)


狙いはワイバーンの長い首。

あれを斧で両断できれば文句なく殺せる。


「GYAO!?」

「あ、やべ」


あと少しという位置で、ワイバーンは俺の接近に気が付いた。

足跡は極力殺したが、斧を振り上げた時の風切り音か何かで勘付かれたのかもしれない。


「構うか!くらえ!」


俺は大斧を振り下ろしてワイバーンの首筋を斬った。


「GYAOOOOOOOOO!!」

「浅いか!?」


ワイバーンは激怒し、大口を開けて噛みついてきた。

この至近距離、回避は間に合わない。


「転送!!」


せめて左腕で受けようとガードを固めたら、目の前に瓦礫が『転送』されてきた。

即席の岩の盾だ。


「ぐおっ!?」


瓦礫のおかげで噛み砕かれることはなかったが、瓦礫ごと頭突きをくらった俺は思いっきりぶっ飛ばされた。




「ライ、大丈夫!?」


壁際まで跳ね飛ばされた俺の元へセイが駆け寄ってくる。


「ぜ、全然大丈夫…」


直撃した左腕と、左半身全般が痛むが、まだ何とか戦える。

無事な右腕に力を込めたところで、ワイバーンの悲鳴が聞こえてきた。


「GYAOOOOOOO!?」

「GARURURURURU!!」


見れば、ワイバーンの背中にガルが乗って、『鋼の牙』を首筋に突き立てていた。

マウントを取った上に、完全に死角の位置。

ワイバーンも首を振ったり、尾を振ったりしているが、ガルを振り払うことはできないでいる。


「ヒール!」


この間に、セイの回復魔法で俺の左半身を回復。


「雷弾!」


俺は治った左腕で即『雷弾』を発射。

『雷弾』はワイバーンに直撃し、痺れでワイバーンの動きが鈍った。

ガルの噛みつきも継続中。

これは…。


(やったか!?)




完全に詰ませた。

そう思ったが、そこからワイバーンは思い切った行動に出た。


「GYAOOOOOOOOO!!」


ブレスを真下の地面に向けて放ったのである。

地面に当たった火炎は反射し、ワイバーン自身ごと頭上のガルを燃やした。


「GARU!?」

「ガル!離れて!」


熱さに弱いガルは堪らず飛び退った。

ワイバーンは天井付近まで飛び上がって逃げた。


(くそ、倒し損ねたか!でも、かなりダメージは入ったはず)


できれば今のうちに畳み掛けたい。

だが、空中にいるワイバーンへの有効な攻撃手段が無い。

『雷弾』なら届くが当たるかどうか。

それに、ブレスを吐かれたら多分撃ち負ける。

そうなると、やれることは1つだけだ。


「セイ、奥の手を使う!」

「分かった!バリア!」

「雷弾!」


俺は『バリア』の陰から『雷弾』を放った。


「GYAOOOOOOO!!」


ワイバーンはブレスを被せて『雷弾』を掻き消してきた。

強力な火炎放射。

だが、威力が強い反動か、ブレスを吹いてる間ワイバーンの動きは止まる。


「剛力!!」


俺は右腕に全筋力を集中させ、大斧を思いっきり振りかぶった。


「投擲!!」


『投擲』は物を投げた時の命中率が上がるだけのスキル。

だが、投げる物が大斧で、ピッチャーが『剛力』状態の俺なら、『雷弾』より遥かに強力な遠距離攻撃と化す。

回転しながら飛んでいった大斧は、火のブレスを掻き消してワイバーンの腹に突き刺さった。


「GYAOOOOOOO!!」


腹を裂かれたワイバーンは飛行を維持できず落ちてきた。

それでも、まだ消滅はしていない。


「しぶとい!」


流石はボス部屋の主。

だが、俺のターンはまだ終わっていないぜ!


「セイ!」

「転送!!」


セイの『転送』によって、ワイバーンに刺さった大斧が手元に帰ってくる。


「もう1発だ!投擲!!」


2度目の投げ斧はワイバーンの脳天に突き刺さった。




頭を割られて、ようやくワイバーンは消滅した。


「よっしゃ!」

「やったね」


喜んでいたら、奥の台座からバゴン!という音が鳴った。

見に行くと、台座の中央に穴が空いていて、その中には26層へ降りていくための階段があった。


「これで中層クリアか」

「そうみたい」


ワイバーンの魔石はガルが拾って持ってきた。


「ガルもお疲れ様。大丈夫?怪我してない?」


ガルは毛先が少し焦げた程度で、ほぼ無傷だった。


「じゃあ、1番ダメージもらったの俺か」

「大丈夫?」

「全然大丈夫。けど、ちょっと疲れたかも…」

「26層には1層直通階段があるらしいから、一旦26層へ降りて、それを使って今日は帰ろうか」

「賛成!」

「中層踏破のお祝いに、今日はお寿司でも頼む?」

「おお、大賛成!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る