第5話 休養日

『品川ダンジョン』は年中無休、24時間開放されている。

よって、毎日ダンジョン探索をすることも可能ではある。

しかし、ダンジョン探索者は定期的に休みを取らなければならない。

魔物との戦いには怪我が付き物で、怪我をしなくても疲労はどんどん溜まっていくからだ。




私達のパーティーは週休2日制。

木曜日と日曜日を休養日にしている。

そして、今日は日曜日だ。


「そーれ、行ってこーい!」

「GAUGAU!!」


今日は皆んなで『品川ダンジョン』の5層に来ている。

どうして休みの日にもダンジョンに潜っているかといえば、ガルの運動のためだ。

魔狼のガルは体高2m、体長4m。

これだけ大きいとドッグランでも窮屈なので(そもそも入れてもらえない)、ダンジョンに来て走らせるしかないのである。


「じゃあ、俺は寝るから、何かあったら起こして」

「分かった」


ライは木陰に広げたシートの上に寝転がった。

ガルを『テイム』したのは私なので、ライまで散歩に着いてくる必要は特にない。

でも、ライは毎回着いて来てくれる。


(たまの休みくらい好きに過ごしていいのに)


そう思うけど、一緒にいるのが嫌なわけでもないので、結局いつも皆んなで散歩にくる。




ガルの散歩コースは『品川ダンジョン』浅層せんそう(地下1層〜地下5層)だ。

浅層はどこも春の草原や林のフィールドなので、何なら外よりも過ごしやすい。

ライは寝ているし、ガルもどこかに走って行ったので、私もライの横に座ってのんびりする。


「いつ来ても晴れた春の日なのは良いよね」

「そうだなあ」


しばらく2人で日向ぼっこをしていたら、ガルが何かを咥えて戻ってきた。


「お帰り…って何それ、捕まえてきたの?」


ガルは半殺しにした血塗れのゴブリンを咥えていた。

ほのぼのピクニックから一気に猟奇的な状況になってしまったが、ダンジョン内の光景としてはこちらの方が正しい。


「食べてもいいよ」


許可を出すと、ガルはゴブリンの頭を潰して殺した。

ゴブリンの姿が灰になって消え、代わりに魔石が現れた。

ガルはそれを一口で食べた。

バリボリ。


「5層の魔石っていくらだ?800円?」

「そのくらいだね。今のはゴブリンだったから700円だけど」

「700円か。まあまあ良いもん食ってんな」


魔石を食べ終えると、ガルは私にすり寄ってきた。

頭や身体をグリグリと擦り付けてくる。

そのパワーの強いこと。

私は防御力を高めにしているから何ともないが、一般人ではじゃれつかれただけでも怪我をするだろう。

『テイム』した魔物は基本的に人を傷付けることはないが、本人に悪気が無い場合はその限りではない。


「GABU」

「痛え!」


今もライの脚を甘噛みしているけど、ライは普通に痛かったみたいで跳ね起きた。


「このクソ犬!」


ライが怒り、ガルが避ける。

いつものプロレスが始まった。

うんうん、今日も仲が良さそうで何よりだ。




プロレスが終わったら丁度お昼時だったので、昼食にする。

今日はカツサンドを作って持ってきた。

お茶も注いで、ガル用の魔石も袋から出す。

すると、食事の匂いに釣られたのか、茂みから黄色い猿が出てきた。

『イエローモンキー』という魔物だ。


「GARU!」

「UKIIII!?」


即座にガルが襲いかかり、一瞬で片付けた。


「ガル、ナイスー」


高レベル探索者である私達が浅層で危険な目に遭うことはない。

魔物の襲撃は度々あるけれど、全部ガルが倒している。

ガルも狩り遊びができて楽しそうだ。


「でも、今日はもう高い魔石食べたから、その魔石は回収するね」

「GARU…」


ガルの食事は1日あたり魔石10個。

1番安い魔石でも問題ないので、食費は大体1日1,000円。

月3万円くらいだ。

ちょっと高めの魔石を食べさせることもあるけど、結構体型に影響が出るので、与え過ぎは禁物である。




昼食の後は食休み。

ライはまた寝る体勢になって、ガルも寝転んで毛繕いをしている。

私はバッグからスマホを取り出して、ガルに向けた。

パシャリ。


「『毛繕い中のうちの狼』っと」


スマホでガルを撮って、それをXwitterにアップロードする。

アップしてすぐに数件の『いいね』が付いた。

今や私のXwitterはガルの画像を垂れ流す専用アカウントになっている。

その結果フォロワー数は爆増。

現在のフォロワー数は50万人越えだ。

その辺の芸能人やインフルエンサーよりも多くなってしまった。


"Lovely wolf"

"Such beauty"

"What a good looking wolf"


外国人からフォローされることも多い。

大体半分くらいは海外のフォロワーだろう。

動物の可愛さは簡単に国境を越えるなあ。




その後もゆったりとした時間が流れ、そろそろ帰ろうかなと思い始めた時のこと。


「ガル、どうかした?」


先ほどまで一心不乱に木の皮をベリベリ剥がして遊んでいたガルが、虚空を見つめて停止した。

鼻を高く掲げてスンスン臭いを嗅いでいる。

これはガルの『危機感知』スキルが発動している…のかもしれない。


「何かあったか?」


寝ていたライも起きてきた。


「分からないけど、行ってみようか」


シートを片付け、ガルを先頭にして歩き出す。

そして数分後、魔物に捕まっている探索者を見つけた。


「「うわあ…」」


見つけた魔物は『ジャイアントフラワー』という巨大花。

10本の触手で探索者を捕まえ、溶解液を浴びせて消化、吸収する魔物だ。

付いた異名が『エロ触手』。

人が捕まった場合、最初に溶かされるのが服であるため、そんな異名が付いた。

そして、私達の視線の先には全裸の男性が2人捕まっていた。


「…とりあえず、助けようか」

「日曜の昼間っから汚ないモノ見せんなよな…」


男性は2人とも高校生くらいに見えた。

股の辺りで棒状のものがブラブラと揺れている。


「俺が行くわ。セイはここで待ってて」

「お願い」


ライは歩いて近付いていく。

すぐに触手が襲いかかってきたが、全て斧で斬り飛ばして、溶解液にも一切かからない。

素早さに3倍以上も差があるので、まあ当然の光景である。

10秒もしないうちにジャイアントフラワーの本体に迫り、両断。

ジャイアントフラワーは消滅し、捕えられていた2人は地面に落っこちた。


「痛っ!?」

「た、助かった…のか?」

「何でもいいから早く前隠せよ」


2人は自分達が裸なことに気付き、慌てて股間を手で隠した。


「…何で勃ってるんだお前ら?変態か?」

「ち、違うんだ!」

「これは何か…勝手にこうなっちゃっただけで…!」


生物は命の危機に瀕すると子孫を残そうとするらしいけど…。

まあ、何にしても助かって良かったよ。

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