第2章【1層】ダンジョン探索1日目

第6話 受付嬢に説明を受ける

ここは『品川ダンジョン』の地上1階部分にある『品川ダンジョン管理センター』。

私はここの受付嬢だ。




『品川ダンジョン』は5年前に出現した『最初のダンジョン』の1つ。

一般に開放されたのは3年前。

私の受付嬢歴も3年目だ。

今年で25歳。

独身。

彼氏もなし。

ちょっと焦り始めてきた。


『ダンジョン探索者なんて男ばっかりでしょ?出会いも多いんじゃない?』


とはよく言われるし、実際口説かれることも多い。

でも、探索者でまともな男って少ないんだよなあ…。

もちろん、まともな男もいないわけではないが、そういう人には大体既に相手がいる。




「すいません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」


その日受付にやってきたのは、初めて見る若い男だった。

金髪の天パで、身長は高いが、顔立ちにはまだ若干の幼さがある。


(高校生かな?)


ダンジョン探索は資格制で、年齢制限もある。

少し前までは下限20歳だったが、今は18歳まで入場可能となっている。

高校3年生ならギリギリOKだ。

そのうちもう少し引き下げられるかもしれない。

金髪君は厚手のコートに、派手な赤い柄シャツを着ていて、結構イケメンだった。


(でも、柄シャツに金髪か…)


既に頭悪そうな感じがあるな…。

でも、イケメンだわ…。


「はい、何でしょう」

「えっと…何だっけ?」

「『品川ダンジョン』について詳しく教えてください、でしょ」

「それです」


要領を得ない男の後ろから女が出てきてフォローに入った。

チッ…何だ彼女連れか…。


「講習は受けたんですけど、ダンジョンに入る前にもう少し詳しい話を聞いておきたくて」


2人とも見たことないと思ったが、やはり新人探索者だった。


(新人…だけど有望そうかな?)


初ダンジョン探索の前に下調べをしっかりする人は長続きする。

基礎中の基礎だけど、世の中には基礎のできない人間は結構いる。

3年受付をやった私の勘が、この2人には親切にした方がいいと告げていた。




「かしこまりました。まず、本ダンジョンは地下50層、もしくはそれ以上存在すると推定されている、未攻略ダンジョンです」


地下50層と言っても、品川の真下に広大な空洞があるわけではない。


「そちらの、赤いロープで囲ってあるところに、ダンジョンへ降りていく階段があります。階段の先は品川とは全く別の空間に繋がっています」


「異世界に繋がっている」などとよく言われるが、実際のところは不明だ。


「地下1層は草原ってネットで見たんですが、本当ですか?」

「その通りです。天井には青空も見えますから、初めての方は驚かれると思いますよ」

「おお!早く行ってみよう!」

「もう少し待って」

「はい…」


アホ男と慎重女のコンビって感じか。

いや、大型犬と飼い主?


「『品川ダンジョン』の現在の最高到達地点は地下30層です。25層に『ボス部屋』が確認されているため、50層まではあるだろうと考えられています」


『ボス部屋』は1階層に1体の魔物しかいない特殊な階層のことだ。

その魔物を倒さないと先へ進むことはできないし、上の階層に戻ることもできない。

ボス部屋が25層刻みで存在するとすれば、50層か75層か100層まであるだろう、と予想されている。




「他のダンジョンと同様、ダンジョン内部では魔物と呼ばれる特殊な生き物が出現します」

「『ゴブリン』とかだ!」

「そうですね」


魔物は多くが交戦的で、しかも肉食。

人を見ると襲いかかってくるし、ダンジョンを放置していると外界へ溢れ出てくるので、定期的な駆除が必要だ。

以前は国がダンジョンを一括管理していたが、国内のダンジョンが増えて管理が難しくなったため、現在では一般人にもダンジョン探索が可能となっている。


「『品川ダンジョン』には多種多様な魔物が出現します。地下1層には『ゴブリン』と『スライム』しか出てきませんが、2層からは『コボルト』や『オーク』等、計10種類の魔物が出現します」


そして、魔物は倒されると消滅し、死体の代わりにドロップアイテムを残す。


「ドロップアイテムは魔石でも『レアドロップ』でも奥の買取所で換金が可能です」


魔石の買取価格は100円から。

元の魔物によって大きさや質が変わり、基本的には深い層の魔物の魔石ほど高く買取を行っている。


「私達は専業探索者を目指しているのですが、何層まで潜ればいいとか目安はありますか?」

「明確に決まっていることではありませんが、最低でも中層までは行けるようになった方が良い、と言われています」

「どっからが中層なんだっけ?」

「11層だって言ってたでしょ」

「11層か…そこそこ近そうか?」

「でも、ほとんどの探索者が上層までしか行けないらしいよ」


その通りだ。

探索者の8割以上が上層までで探索をやめる。

中層以降に進めるのは才能のある人か、もしくは運の良い人だけだ。




「ダンジョン探索者は魔物と戦うために武器の携行が認められています。奥の部屋では武器の販売も行っておりますので、お持ちでなければそちらでお買い求めください」

「お勧めの武器はありますか?」

「私も詳しいわけではありませんが、長めの武器が良い、と言われていますね」


人気があるのは断トツでロングソードだ。

だが、実際に持ってみると結構重たいので、初心者にオススメとは言えなかったりする。


「初めは棒や槍が良いかと思います。1層のゴブリンなどは棒で叩くだけでも倒せますから」


扱いやすい安価な武器で慣らしてからロングソード等に買い替えるのが一般的な流れだ。

初めは短剣やナイフでも良い。


「銃とかも売ってんのかな?」

「それは…日本では出回っておりませんので…」


海外のダンジョン探索には使われていたりするらしいけど、日本にはない。

それに、1層のゴブリンの魔石は1つ100円だから、銃弾代で赤字になるだろう。


「じゃあ、弓矢とかは?」

「弓道経験者が武器として持っていくことはあります。弓術スキルを発現した人のために、奥の販売所でも一応売ってはいますが…」


しかしまあ、1番人気はやはり刀剣類だ。

魔物を倒すと付着した血も消滅するから、剣は結構長持ちする。




「あと、ステータスについて聞きたいんですけど」


私は1枚の表を彼らに見せた。

表には平均的な初期ステータスが記載されている。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:平均

レベル:1

体 力:10

攻撃力:10

防御力:10

素早さ:10

魔 力:0/0

 運 :10

S P :0

スキル:

ーーーーーーーーーーーーーー


「能力値は0からスタートで、10で一般的な成人男性並み、20でアスリート級、30で人間の限界値、そこから先は超人級と言われています」


例えば素早さ40なら最高時速80kmくらいで走れるようになるらしい。

車並みのスピードである。


「レベルは全員1からのスタートで、レベルが上がるごとにSPステータスポイントを獲得します。獲得したSPを自分で割り振ることで探索者は強くなっていく、という流れになります」

「ステータスの上限は?」

「それは未だ分かっておりません。上限100という説をよく聞きますが、世界中の誰もそこまで到達していないので、不明です」


そして、レベルを上げていくと、基礎能力とは別にスキルを覚えることがある。


「中には『魔法』を覚える方もいますね」

「おお!魔法使えるようになったら熱いな!早くダンジョン行こうぜ!」

「もう少し待って」

「はい…」


スキルの種類も無数にあり、中には『外れスキル』や『レアスキル』と呼ばれるものもある。




「ご存知かと思いますが、ダンジョン内での事故、怪我等は全て自己責任です。もちろん犯罪行為は刑事罰の対象になります」


2年前に『ダンジョン管理法』が制定されたので、ダンジョン内の犯罪も日本の法律で裁けるようになっている。


「他の探索者の迷惑になるような行為はくれぐれもお控え願います」

「「はい」」


その後も『安全地帯』とか『行動限界地点』とか『転移罠』とか『魔物暴走スタンピード』とか色々と教えて、説明は終了。


「武器どうしようか?」

「俺は絶対に剣だね!」

「私は腕力に自信ないから棒にしておこうかな」


2人は仲良さそうに会話しながら、奥の武器売り場へと歩いていった。

はぁ…。


(私も金髪のイケメン彼氏が欲しいわ…)

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