第4話 4日目 扶余(プヨ)へ

トラベル小説


 朝8時にホテルをチェックアウト。今日はバス旅の日だ。ホテル前から高速バスでインチョン空港に行き、荷物預け所にスーツケースを預け、扶余行きの高速バスに乗り換えた。リュックに2日分の着替えを入れたので、結構かさばっている。でも、山歩きをする予定はないので、何とかなると思った。

 昼には扶余城跡に着いた。ここは朝鮮が3つに分かれていた時に百済(くだら・ペクチュ)の都だったところだ。韓流ドラマ「チュモン」の舞台である。

 駐車場から見ると小高い山だ。

「また山登りですかー!」

と木村くんが叫び声をあげた。

「昨日までと比べたらさしたる山じゃないわよ。頂上見えるもの」

と長谷川さんは救いの言葉を発したが、元気はない。

 案内板を見ると、それほど大きい城ではない。538年に造られた土城である。

正式な名前は「扶蘇山城(プソサンソン)」。駐車場近くの売店で荷物を預けるところがあるので、そこにリュックを預ける。200円ほど。サンドウィッチとドリンクだけを持って、いざ登山開始。といっても階段もすくなく、なだらかな道を30分ほど歩くと頂上に着いた。見晴らしはいい。下に川が流れており、その川下は白村江の戦い(663年)の舞台である。

 土塁の城なので、これといった城跡の魅力は少ない。ところどころに楼閣が建てられているが、後世のものか復元されたものである。頂上から少し下ったところに落花岩(ナッカアム)という名所があった。唐と新羅(しらぎ・シルラ)に攻められた百済の貴族や宮女たちは、ここから崖の下にある白馬江(ペンマガン)へと身を投げたのだ。百済の最後の瞬間を感じるところである。思わず手を合わせる。

 その下へ降りると、船着き場があった。再現された古代の船である。帆船であるが、実際にはエンジンで動いている。それに乗って、古代朝鮮の雰囲気を感じる。川から見ると、絶壁なので山城としては意味があったのだと思う。

 駐車場近くの船着き場に着き、バスターミナルにもどった。夕方にはソウルにもどり、また深夜バスに乗らなければならない。3時半のソウル行きに乗ることができた。

 午後6時、ソウルのバスターミナル着。10時のバスにはまだ時間があるので、地下鉄で新沙洞の肉典食堂(ユックチョンシックダン)に向かった。木村くんは以前に行ったことがあるので、乗り気まんまんだ。

 トンモクサルとサムギョプサルを注文。目の前でスタッフが焼き上げてくれる。できあがるまでは、パンチャン(小皿料理)を食べて待つ。焼き上がって、スタッフが小分けにしてくれた。

「なにこれ! これが豚肉なの!」

と長谷川さんが素っ頓狂な声をあげた。いつも冷静な彼女にはめずらしい。木村くんが

「でしょ。焼肉のイメージがかわるでしょ」

「そうね。今までは牛肉のハラミが一番おいしいと思っていたけど、それがくつがえったわね。周りがカリカリで、中がジューシーですよね。これ、豚肉のどこの部位なんですか?」

との長谷川さんの質問に対し、

「豚のあご肉ですよ。希少部位ですね」

「ですよね。日本では流通していないんですか?」

「新大久保で出しているみたいですけど・・日本ではふつうトントロっていう名前で出しているみたいだよ」

「肉の厚さがまるで違うけどね」

と木村くんが助け船を出してくれた。

 長谷川さんは、とてもなごやかな顔になり、ますます元気になり、饒舌になり、木村くんがたじたじになることもあった。


 バスターミナルに戻り、シャワールームで汗を流す。リフレッシュしてバスに乗車。優等バスと言われる横3列シートのバスで座り心地はビジネスクラスシートなみだ。それでも晋州までは4000円程度。韓国はバス旅が充実している。

 出発するとまもなく眠気がおそってきた。

 

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