第3話 3日目 南漢山城へ

トラベル小説


 3日目の朝は、市庁裏まで歩き、プゴックチ(干しダラのスープ)を食べに行った。朝7時の寒さの中だが、行列ができている。30分ほど待って店の中へ入れた。木村くんと私は以前に来たことがあるが、長谷川さんは初めてだ。少し興奮している。

「これがソウルの朝食なんですね」

と感激している。木村くんだけでなく長谷川さんもお代わりしている。


 食べ終わってから、今日の目的地南漢山城に向かった。地下鉄を乗り継いで、8号線南漢山城入口駅で降りて、南漢山城公園まで行く。そこで、木村くんが

「ここからバスがあるみたいですよ。52番か9-1番みたいです」

と言ったが、バス停は分からなかった。(隣のサンソン駅にあった)

「ここを登ればいいんでしょ」

と長谷川さんが言ったので、我々は階段登りを始めた。永遠に続く感じがした。

1時間かかって尾根についた。階段の登りは終了だ。ここから尾根歩きとなる。

しばらく歩くと後ろからバスがやってきた。52番のバスだ。

「あーやっぱりバスで来ればよかったかな」

と木村くんの声。長谷川さんも

「さすがに疲れたわね。帰りはバスで帰ろうね」

とやさしく言っている。さすがに階段登りはきつかったみたいだ。

 20分ほどでバスターミナルに着いた。帰りのバス時刻を確かめて、ここからが本当の城めぐりだ。城壁に囲まれたほぼ中央にいるのだ。まずは北門をめざす。道は広くて歩きやすい。北門は小さいが、17世紀のままだ。

 南漢山城は秀吉との戦争の後、1637年、王位についた仁祖が清朝に逆らい、ここに47日間立てこもったのである。結果的には負けてしまうのだが、城壁の長さは12km弱。ソウル城郭とほぼ同じ広さだ。

 北門から西門に向かう道は、城壁沿いを歩く。ソウル城郭と違って内部からは1mほどの高さだ。外側からだと5mから10mの高さがある。土塁のまわりに城壁を作っているのである。冬だというのに多くの韓国の人たちがトレッキングをしている。

韓国人の健康志向はすごい。休日の郊外行きの電車の半数がトレッキングをする人たちでしめられていると言っても過言ではない。

 昼時だったので、ベンチに座ってサンドウィッチを食べていると、となりのベンチにいた韓国人のグループの人がみかんを一人1個ずつくれた。

「コマスミダ」(ありがとう)

と返したらニコッとしていた。韓国人のやさしさというか、情の厚さを感じた一コマだった。

 そこから1時間ほどで南門に着いた。高さが10mほど近くあり、城壁が連なっているので、今まで見た城門の中ではソウルの北大門と同じぐらい威容を誇っている。まさに南漢山城のハイライトである。しかし、二人とも無言だ。2日連続の歩きで、相当疲れがたまっている。

 バスターミナルまでもどり、サンソン行きのバスに乗り、地下鉄でソウルにもどった。ホテルに着いたら、そのまま寝込んでしまいそうなので、国会議事堂前で降りて花蟹堂(ハフェダン)に行った。亡き妻と行ったカンジャンケジャン(ワタリガニのしょうゆ漬け)の店である。

 5時の開店と同時に入ったので、店にはまだ客がいなかった。長谷川さんは日本でカンジャンケジャンを食べたことがあるそうだ。

「私が食べたのは、カニの足の部分で、シュパシュパと吸い尽くすもので、しょうゆの味しかしなかったわ。それが出てきたらがっかりだわね」

とあまり乗り気ではない。

「まあ、見ててください。そこらへんのカニ料理とはちがいますから」

と私は自信をもって言った。

 しばらくして、テーブルいっぱいにカニ料理がならんだ。二人とも目を見張っている。まずは、足の部分を口にいれる。

「おいしい。しょうゆの味が少ししかしなくて、甘味を感じるわ」

「そうですね。それに身がぎっしり入っています。まるでタラバみたいな量ですね」

「甲羅のところも食べてみてください。身を食べたら、そこに赤飯をいれて食べるんです。これがまたおいしいんです」

二人はまたもや無言となった。カニ料理の常であるが、夢中になってしまったのだ。

「どうですか? この料理はごはん泥棒と言われているんですよ」

「もう満足です」

「私も言うことありません」

「この店は先のおかみさんの出身の浜から毎日空輸してくるんだそうです。それで新鮮だし、いいカニしかださないということでした。前の店はNHKで紹介されたんですよ。それだけ値段も高いですけどね」

 一人4000円程度の食事となったが、1日1食おいしいものを食べるということはクリアできた。ただ、もう歩く気はなかったので、タクシーでホテルにもどり、すぐにベッドでダウンだった。

 

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