第17話

 日々は静かに、そして賑やかに流れていった。

 静かなのはマクリーンと過ごす時間だ。静かで張りつめた魔法を学ぶ時間。

 最初はすぐにマクリーンに追いつき追い抜く予定だったのだが、学べば学ぶほどマクリーンのすごさがわかってくる。やっとマクリーンのすごさが理解できるレベルになった、ということだ。

 術式は真似できるのだけれど、パワーが桁違いで、正直、へこむ。

 マクリーンはそんなハルに静かに微笑む。

 ──ハルには光より闇の力が合うのです。あなたの闇がどんな憎しみや悲しみも飲み込めるくらいに深く強くなったら、闇の力で魔法を使いなさい。そうすれば、魔力の強さは私とたいして変わらないでしょう。

 ……というようなことを何度か言われたが、闇が深くなるとか強くなるとか、どういうことなのか未だにわからない。

 そのときが来たら『もう闇の魔力を使ってもいいですよ』と教えてくれるんだろうか。

 賑やかなのは、エディアや王子が小屋にやってくるときだ。

 新しい魔法を覚えたときや魔力が強くなったなと感じたとき、ハルは王子に勝負を挑むのだが、まだ一勝も上げていない。

 でも、地面に倒れた自分にエディアが心配そうに駆け寄ってくるのは悪くない。それを見る王子が不快そうな表情になるのもいい。なので、たいしたダメージがない場合も、負けると痛そうに地面に倒れ伏すことにしている。

「ハル、少し白々しくないか?」

 なんて、王子が文句をつけるときもあるが、口ゲンカなら、負けない。互いに悪口を言い尽くしてにらみ合っているのを、エディアに朗らかに宥められて終わる。

 エディアの髪にはふたつの花束がひとつにまとめて飾られるようになった。

 花を摘むハーブ畑や花を届けるバルコニーの下で、王子と鉢合わせすることはある。嫌味の応酬が朝の挨拶だ。

 いつの間にか季節がひと巡りして、さらに時が流れた。

 ハーブ畑の上を吹く風が涼しくなり始めた頃、エディアがマクリーンの小屋に現れない日が増えた。

 それまでもエディアに王の名代としての執務があると王子がひとりで小屋に来ることはあったが、王子もあまり来なくなった。

 王の病状が良くないらしかった。

 未来を夢に見るふたごの夢見がそろって弔いの鐘が鳴り響く夢を見た──という噂が城内で囁かれたのを、ハルの操る風が拾ってきた。

 ふたごは王に仕えているが、その夢は王ではなくエディアに伝えられたようだ。

 お覚悟を、と。

「死ぬの?」

 というハルの問いに対するマクリーンの答えは、

「人は誰もいつかは命を終えます」

 だった。

 そりゃそうだ、とハルは思った。誰だっていつか死ぬ。

 だけど、想像もしなかった。マクリーンも死ぬなんて。

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