第6話
ふたたびエディアに会ったのは同じ日の昼下がり、ハーブ畑でだった。
ハルはハーブの絵と名前が書かれた図鑑を手にハーブ畑をうろうろしていた。
読み書きの経験はない。が、ハーブの名前を表す文字の並びと読み方は昨日すべて覚えた。マクリーンに、まず畑にあるすべてのハーブの名前を言えるようになりなさい、と言われて。
メンドくさ、と思った。が、名前を覚えたら、次はそれぞれのハーブの効き目を教えてくれるというので、図鑑を持って畑に出た。
ひとつひとつのハーブの性質がわかれば、それらを組み合わせて体を癒す茶や呪いに使う粉末をつくれるらしい。実験を重ねてこれまでにない新しい薬をつくり出すこともできるそうだ。
ならば、身長を伸ばす薬をつくりたい。
放っておいても自分の背はこれからどんどん伸びるだろう。伸びないはずがない。だが、今現在、あの黒髪野郎に見下ろされるのが非常にムカつくのだ。
畑にはたくさんの種類のハーブがあって、花や葉の形が似ているものもあったが、ハルはさくさくと名前を覚えた。思ったよりも簡単で、さすが俺は天才だな、と再確認。
畑を一回りしてハーブから顔を上げたとき、誰かが林の小道をこちらに歩いてくるのに気がついた。
白いチュニックに褐色の脚衣──が、ふたり並んでいる。
どきっ、とした。
ふたりとも黒い髪で背の高さも同じぐらいだが。
片方はエディアだ。
やがて、エディアはハーブ畑の木戸を開け、畦道をハルのそばまでやってくる。
「やあ、ハル」
エディアは、にっ、とハルに笑いかけた。
まとめていた髪は下ろして、背中で緩く束ねている。ティアラはないが、薄青の小さなブーケは髪の結び目に飾られていた。
ローズマリー。ハルは、覚えたての花の名前を、心に呟く。
小さな花束の他に身を飾るものはなく、少年の衣服を着ているのに、やっぱり可愛い。だが──俺より背が高い。
ちょっと動揺した。城で対面したときはエディアが玉座に座っていたから見上げるのは当然だと思っていたのだが。
同じ地面に立っても、気持ち見上げなければならないとは。
「……何しに来た」
とりあえず、つっけんどんに言った。
応じたのは、エディアではなくて──。
「君、もう少し言葉遣いを学んだら?」
エディアの隣に立つ黒髪野郎が、ため息をついて言っていた。
いたのか、こいつ。なんでいるんだ。さっきも今も、エディアのそばに。
「うるせえ。俺が学ぶのは魔法なんだよ」
「つまり、我々はともにマクリーンに学ぶ兄弟弟子なのだな」
言い返した言葉に、エディアがすかさずかぶせてきた。とても楽しそうに。
「ハルは何歳だ?」
笑顔で聞かれて、
「十三……」
素直に答えてしまう。──たぶん、の年齢を。
「ディアナムと同い年じゃないか」
エディアは嬉しそうに隣の少年をふり向いた。
少年は特に嬉しそうにはならない。ハルもまったく嬉しくない。
「私は十四歳だ」
自分の胸に手を当ててエディアが言ったので、しまった十四にすれば良かった、という後悔が胸をよぎっている。
いや、十五歳でも良かったかもしれない。どうせ何歳かなんて知らないんだから。……なんて思っていたら、エディアの片腕がいきなりハルの肩を抱いた。
もう一方の腕は黒髪の少年の肩に回っていて。
エディアの腕にぐっと力がこもって肩が押され、少年の顔が目の前に来る。ハルもびっくりしたが、少年も驚いた顔をしている。
すぐ横で、エディアの笑顔がハルと少年を交互に見た。
「弟子同士、仲良くしような!」
少年とハルは、ほとんど同時に口を開いていた。
「エディアがそう言うなら──」
「──しねえよっ」
少年がむっとした視線をハルに向け、ハルは少年をにらみ返す。
ふたりから腕を離したエディアが、その様子を見て可笑しそうに笑っていた。
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