第32話 ヴィーとリーゼ様と。
「リーゼ、話は聞いていた。一体どう言うことだ?」
ヴィーはリーゼ様の話に驚いていた。
「クリスティーナ様が言っていた俺とリーゼとの結婚をすると言う噂はリーゼが流していたのか?」
リーゼ様はまさかヴィーが話を聞いていたとは思っていなかったようで慌てていた。
「う、噂ではないわ。わたしは貴方をずっと結婚しないで待っていたの」
ーーリーゼ様は本当にずっとヴィーを待っていたの?それは嘘ではないのかもしれない。
「何言ってるんだ?リーゼには恋人がいただろう?」
ーー恋人って……ヴィーをずっと好きだったんじゃないの?
「違うわ。彼は友達よ!ヴィルのことをずっと好きだったの。だからクリスティーナ様のプレゼントだって買う時付き合ってあげてたんじゃない」
「俺が買いに行こうとしたら無理矢理ついて来て趣味が悪いとかそんなの喜ばないと言って俺が選んだものを否定していただけだろう?趣味が悪いって言うからクリスティーナ様が喜んでくれるならと頼んだだけじゃないか」
ーーそんな理由?リーゼ様とデート中に買ってるのだと思ってた。
「悪いけどクリスティーナ様に変な言いがかりはやめて欲しい。それに君はクリスティーナ様に対してよくもそんな態度をとれるな?元王女殿下で今は公爵令嬢であるクリスティーナ様に失礼だとは思はないのか?」
「だってアニタ様は何も言わないわ。わたしを家族のように受け入れてくれているからクリスティーナ様のことだってわたしが注意してあげても許されているのよ」
「姉上が注意しないのは多分クリスティーナ様にもっと高位貴族として行動をして欲しいと思っているからだ。なんでも言われるがままではこの社交界で生きてはいけない。
自分よりも地位の低い者達に対して対応出来るようになる事も必要だし時には冷酷でも正確な判断を下さなければいけない時もある。
……今回のようにね」
ーー冷酷な判断?
わたしはずっと黙って二人の話を聞いていたのに……二人がわたしを見た。
「クリスティーナ様、リーゼは貴女に対して不敬な態度を取りました。そして虚言を何度も言っております」
「は、はい……そうみたい……ですね?」
「クリスティーナ様……失礼を承知で言わせて頂きます。あなたの優しさは美徳です。しかし強くなければ愛し子としてこれからこの国を統べることは出来ません」
「えっ?ええ?わたしはそんなことしません!」
「何を言ってるんですか?廃嫡された王子達の代わりにこの国を守れるのは貴女しかいません」
わたしがアワアワしていると隣の部屋からお母様が現れた。
「ヴィル、貴方は勝手に話しを進め過ぎよ」
「姉上、しかし、クリスティーナ様は……」
「クリスティーナ、とりあえずリーゼのこと申し訳なかったわ。知っていてリーゼを放っておいたのは確かなの。まさかそのせいで貴女が姿を隠してしまうとは思わなかったわ」
「あっ、いえ、あの、リーゼ様から言われた事がショックだった訳ではないんです……わたしが居ることがヴィーにとって迷惑をかけていると思ったからで、ずっとヴィーには守ってもらったから幸せになって欲しかっただけなんです」
ーーヴィーが幸せにしている姿を見るのも辛かったし。
「リーゼの処罰はどうしたい?クリスティーナが決めなさい」
「………甘いとは言われても仕方がないのですが……出来れば今回は……公爵家の出入り禁止?とわたしとの接近禁止でどうでしょう?あ、あと、この前の令嬢達と同じ淑女としての再教育?なんてどうかしら?」
チラッと横目でお母様を見ると苦い顔をしてため息を吐いた。
ーーやっぱり駄目だった?
「クリスティーナにしては頑張った処罰だと思っていいのかしら?」
わたしは首を縦にブンブン振った。
「リーゼ、貴女は自分より身分の高い人に対しての礼儀のなさには呆れますがそれを放置したわたしにも咎はあります。二度とわたしの大切な娘に接近したら次はどこに行かされるかじっくりと考えてから行動しなさい。ヴィルは貴女と結婚したいなど生まれてこのかた一度も言ったことはありません」
「そんな……」リーゼ様はハラハラと涙を流した。
これがか弱い令嬢の泣き方なのね。わたしは感心しつつじっと見つめた。
「クリスティーナ様今この場とは違うこと考えているでしょう?」
小さな声でヴィーに囁かれ「そんなことないわ、わたしも今度泣く時はリーゼ様のようにしようと思って見ていただけだわ」
と言うとヴィーは呆れながらも真面目な顔で言った。
「貴女の泣くのを我慢する姿はどんな女性が泣く姿よりも心が痛みます、泣かないですむように俺が一生お守り致します」
わたしは恥ずかしさと嬉しさと………そしてずっと守って愛してくれる彼の優しさに胸が苦しくなった。
「………ありが……と…う」
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