第31話  リーゼ様とは。

 リーゼ様がわたしに会いに来た。


 お母様(アニタ様)とお茶をしている時だった。


 公爵家に戻りお母様と、アクアのいる世界の話をしていた。

 陛下と会った時のことも話していると


「あの陛下が、そう……セリーヌに対しての態度少しは後悔しているのね」と呟いた。


 陛下はお母様を愛していた。だけど彼の態度は決して許されないと思う。わたしはぼんやりとしか覚えていないけどあの冷たい瞳はどう見ても愛情なんてなかった。


 お母様が許して再び愛し合えるのかしら?わたしとお母様を殺そうとした人。だけど死んでお母様と再会しようと考えていた人。


 わたしにはよく分からない。

 わたしなら……多分許さない。


 そんな話をしていたら侍女が部屋に入ってきた。


「あの……リーゼ様が訪ねて来られたのですがどういたしましょう?」


「わたくしに?約束もなく突然の訪問なんて失礼だわ」


「いえ、あの、クリスティーナ様にお話があるとのことです」


「ふうん、そう…………わたくし……隣の部屋でお茶をしたいと思っているの。クリスティーナはここでリーゼをぜひ迎えてあげてちょうだい」


「えっ?あ、あのっ」


「クリスティーナ、リーゼのお話をしっかり聞いて自分で判断して。わたくしは隣でゆっくりとお茶を飲んでいるから気にしないでちょうだい」


 お母様の顔がかなり怖かった。怒ってはいない。どちらかと言うととても冷たい目をしていた。


 有無を言わせずにお母様は隣の部屋へ行ってしまった。会いたくもないリーゼ様に会わなければいけない。それだけで気が重かった。


 そして心の準備が出来る前にリーゼ様は爽やかな笑顔で入ってきた。


「お久しぶりです、クリスティーナ様」


「ご無沙汰しておりますリーゼ様」

 わたしも頑張って作り笑いをして迎えた。


 リーゼ様が目の前のソファに座り、出された紅茶をゆっくりと飲み始めた。


 わたしはその姿を黙って……見ないように窓の外を見ていた。

 目が合えば何か言われそう……そう思っていると


「クリスティーナ様……みんなが探し回っていたことご存知ですか」


 ーー最初から責めてきた。


「えっ…あ、はい」


「今まで一人で離宮で生活していたのかもしれませんが、周りに迷惑や心配をかける事くらい考えて行動はしたほうがいいと思いますよ?」


 紅茶を飲むのをやめてカップを持ったままそう言うと、わたしが返事をするのを待っていた。


「迷惑?それは……」

 ーー何故リーゼ様に言われないといけないのかしら?


「ヴィルがずっと心配して貴女を探し回っていたのはご存知ないの?」


「わたしはお父様にきちんと行き先も伝えてありました。どうしてリーゼ様にそんなことを言われないといけないのか分からなくて……」


「わたしとヴィルの関係をご存知?」


「ヴィーに聞きました。幼馴染なんだと」


 唇を噛み、グッと堪えた。


「ふふ、それだけではないわ。わたし達は結婚を考えている関係なの。この前も彼の屋敷に泊まったのよ」


 ーーやっぱりヴィーが言ったことは違ってたんだ。二人は…もう……

 そう考えると涙が溢れてきそうになってグッと我慢して黙って話を聞くしかなかった。


「なのに彼ったらクリスティーナ様が居ないと言って落ち着いてわたしのそばに居てくれないのよ。せっかくゆっくりと一緒に過ごせる時間だったのに……貴女が居なくなっちゃうから!」


 リーゼ様はそう言うとわたしをキッと睨んだ。


「ヴィルと一緒に劇を見てその後二人で食事をして彼の屋敷に泊まって過ごす予定だったのに……」


「お二人の関係とわたしが居なくなったことは別の問題ではないのでしょうか?

 わたしは確かに一度この屋敷を出て行きましたがヴィーには関係のないことですしましてやリーゼ様にそんな風に言われる覚えはありません、わたしはわたしの考えがあって行動したまでですし」


 ーー確かにわたしが邪魔だと思ったしヴィーの恋愛を近くで見るのが嫌だったのは確かだけどそれで迷惑をかけたなんてこの人にだけは言われたくないわ。


「まあ見た目は儚くて大人しそうだけど、案外気が強いのね?

 だからヴィルに相手にされないのよ。ヴィルはずっとわたしのことを想ってくれていたの。貴女のお守りもそろそろ終わりにしてもらわなくっちゃ。わたしとの結婚も考えないといけないしね」


「ヴィーにはただの幼馴染だと聞いていますが?」我慢できなくなってヴィーに聞いた言葉通りに言ってみた。


「ヴィルが否定したの?もう仕方ないわね、彼は恥ずかしがってるのね」


「お二人のことはお二人で話し合ってください。わたしには関係のないことです、約束もなく無理矢理会いに来られたのはそんな話のためだったのですか?」


「まぁ失礼ね、年上のしかもヴィルが大切にしているわたしに向かってそんな言い方をするなんて……」


 その時ヴィーが「お呼びだと聞きました」と部屋に入ってきた。


 ーーわたしは呼んでいない。お母様が?


「ヴィル!」リーゼ様はソファから立つとヴィルに駆け寄り彼の腕に手を置き

「クリスティーナ様が酷いの、わたしを責めるの」と、瞳を潤ませ弱々しく話し出した。


 この人も最近よく見知った令嬢達と同じなのね。そう思いながら黙って二人のやり取りを見ていた。


 ヴィーはリーゼ様の手を腕からそっと離し

「リーゼ、君が今日この屋敷に来る予定は入っていないはずだが?」と聞いた。

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