第16話 わたしだけが知らなかった。①
ーー川遊び楽しかったわ
“じゃあ、ここの公爵邸の庭に川を作ろう”
ーーえっ?やめてやめて!
“いくらなんでも冗談だよ”
ーーその冗談、アクアならやりかねないもの
“ここの家族はみんないい人。だからしないよ!さすがヴィーの家族”
ーーうん、そうだね。
ヴィーが何か悪いわけではない。なのに最近ヴィーを避けてしまっている。
どうしてもまだ気持ちがついていけない。
ヴィーがわたし以外と仲良くしている姿にも。
公爵家の騎士として働くヴィーは常に沢山の人といる。
ーー当たり前なのに。仕事だもの。
それからこの屋敷の使用人達とも仲が良い。いつも誰かに話しかけられて親しく話している。
わたしに見せる顔とは違い気取らずに楽しそうに話している。その度にわたしの心はズキズキと痛む。
時にはお母様の友人が娘を連れて屋敷に来ている。
その娘さん達はヴィーを見つけると頬を赤らめながら話しかけていた。ヴィーも仕事中なのか少し困った顔をしながらも優しい笑顔で応えていた。
どうしてそれを知っているのかって?
お母様が少しでもわたしが友人を作れたらいいのではと、わたしに声をかけたから。
サラがわたしを呼びにきたので仕方なく部屋を出て令嬢達がいる客間に行こうとして、見てしまったのだ。
ヴィーには婚約者はいないらしい。
だから令嬢達は見目麗しくカッコいい騎士であり侯爵令息で婚約者のいないヴィーは人気者なんだとか。
パトリックがジョーンと話している時にポロッと言った。わたしが本を読んでいる時で聞こえていないと思っていたみたい。
しっかりと聞こえていたけどね。
『クリスティーナ様の面倒を見るのが大変で結婚どころではなかったらしい』と。
パトリックはわたしの前では姉上と言ってくれるけど、多分普段の会話では『クリスティーナ様』なのだろう。
そりゃそうだ、突然『貴方の姉です』と言われても他人でしかないわたしを簡単に受け入れられるわけがない。
ジョーンは人懐っこいからか受け入れてくれているようだけど。
パトリックとわたしは一つ学年は違うけど実際は7か月しか年が変わらない。
どちらかと言うとパトリックの方が大人かもしれないわ。精神的にも見た目にも。
でもその時思ったの。
ヴィーはずっと無理していたのかな。
あの王城で、わたしを守るために休みも返上してそばに居てくれることが多かった。
幼い頃のわたしは特にヴィーに依存していた。
だってあの離れで一人でいるのは怖かったし寂しかったもの。
もちろんアクアが居てくれたから一人でもあそこで暮らせた。だけどヴィーは、わたしの目線に片膝を折りしゃがむといつもわたしの頭にポンッと手を置いて
『クリスティーナ様、辛い時はいつでも呼んでください。貴女を守るために僕はここに居るのですから』
その言葉にわたしはずっと支えられてきた。
何かあればヴィーが居てくれる。
心の拠り所だった。信頼から少しずつ恋心に変わっていった。
自覚したのは14歳の時。
たまに側妃達が嫌がらせで人を寄越す。
扉を蹴ったり大きな声で怒鳴ったり。
そんな時は奥の部屋で小さくなって隠れている。
もちろんアクアがそばで守ってくれている。
“あいつらの体の水分抜いてやる”
と言い出すのでいつもそれだけは止めた。
アクアが酷いことをするのはみたくない。優しい妖精のアクアに悪いことなんてして欲しくなかった。
ーーうん、特に水分抜くなんて……怖すぎるし。
今回は諦めが悪いのかいつもの護衛の人たちが近くにいないのかなかなかやめてくれなかった。流石に怖くてビクビクしていた。
いつ扉が壊されて中に入ってくるのか。そうなったらどうなるのか……とても怖かった。
そんな時外で悲鳴のような声が聞こえた。
「うわっ、いってえな。何すんだよ」
「剣なんか振り上げてくるな」
「やめろ!俺はまだ死にたくない!」
窓の近くに行って窓の下からそっと覗いた。
ヴィーが3人の男に向かって殴りつけていた。
「今度ここに来たらお前達殺してやるからな」
物凄く怖い顔をしていた。いつもわたしの前ではとても物腰優しいヴィーが。
その後鍵を開けて中に入ってきた。
ヴィーと団長は離れの鍵を持っていた。
「クリスティーナ様?どこですか?」
あんなに怖い顔をしていたヴィーが必死でわたしを探していた。
「ヴィー、ここだよ」
わたしを見つけたヴィーは
「よかった、無事だったんですね。心配しました」
そう言って抱きしめてくれた。
子供の頃は抱っこをせがめば、たまに抱っこしてくれたヴィーもいつの頃からか頭にポンッと手を置いて
「クリスティーナ様」と笑うだけになった。
そんなヴィーがこの時だけは抱きしめてくれた。
いつもなら護衛の人がすぐに助けてくれるのに今回たまたま誰もいなくて助けが遅くなったからヴィーは焦っていたみたい。
わたしはヴィーに抱きしめられてとても安心して思わず涙が出てしまった。
何があっても泣かないと思っていたのに、ヴィーがとても心配してくれたから、ホッとして涙が溢れてしまった。
それからはなんだかヴィーを見ると恥ずかしくて、いつもドキドキしてしまう。
これが恋なんだとその時初めて感じたのだった。
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