第15話 想いは本気なのに。
あれから刺繍をしたり本を読んだりと過ごして出来るだけ部屋から出る事はやめた。
部屋から出ないわたしを心配してジョーンとパトリックが度々部屋を訪れてくれる。
「姉上、体調でも悪いのですか?」
「えっ?違うわよ、わたし元々王城でも部屋で過ごすことが多かったの……もう庭のお手入れもしなくていいし……」
「庭?」
「セリーヌ園……わたしのお母様が愛したお庭なの。ずっと守ってきたんだけど、もうあの場所には戻れないから……」
“アクアがいつもお水をあげに行ってる”
ーーありがとうアクア。だけどもうあそこに行くことはできないのよね。
あの場所にいい思い出はない。
だけど、お母様の庭は大好きな場所だった、
怖いことも嫌なこともあったけどヴィーがいつも顔を出してくれて団長さん達が会いに来てくれて楽しい時間もたくさん過ごした。全てが嫌だったわけではない。
生まれ育った場所はやはり忘れられない落ち着く場所でもある。
あれからなんとなくヴィーと会うことを避けてしまっている。
自分の知らないヴィーがいることに戸惑い、リーゼ様に嫉妬している。
ヴィーが好きなのはわたしの勝手なことなのに、気持ちを押し付けるつもりはないのに、でもやっぱりショックで今は会いたくない。
「姉上がこの部屋にいたいのなら僕もここで勉強するよ」
「えっ?わたしのことは気にしないで」
「せっかく姉弟になったのに、それにあと半月もしたら僕たちはまた隣国へ帰らないといけないんだ。留学中だからね」
「せっかく仲良くなれたのに寂しいわ」
「姉上は学校へ行ったことはあるの?」
「わたしは……王城から出たのは今回が初めてだもの。この前パトリックが街に連れて行ってくれたのが初めてのお買い物だったし……外の世界はわたしにとっては小説の中のお話と変わらなかったの。でも現実はもっと鮮明でとても綺麗なものだったわ。街並みも道も歩く人々もみんな同じに見えても全く違う。人々の顔がね、一人一人違うの。表情も違っててとても楽しかったわ」
「姉上……次は一緒に川遊びに行きましょう」
「川?たくさんのお水が流れているのよね?絵本で子供の頃見たことがあるわ、絵でしか見たことがないから本物ってとても興味があるわ」
“僕も行く、ティーナと遊ぶ”
ーーうん一緒に行きましょう
「行ってみたいわ」
もうヴィーと関わらないようにしようと思っていたくせに外に出たいとつい思ってしまった。
だから護衛は今回もサムをお願いした。
「どうしたのあれだけヴィルが大好きだったのに」
お母様にそう言われると、やはりそうなんだろう。自分ではそんなつもりもないのにみんなが知っている。
でもその好きは恋愛の好きではなくて兄を大好きなブラコン的な感じで見られている気がする。
わたしの好きは本気の愛しているの好きなのに。
ヴィーとはあまりにも近くにいすぎて今更感が強くて………それにわたしは16歳でヴィーは28歳。わたしの好きは憧れからだと思われていても仕方がないのよね。
ヴィーだってわたしのことを大切に思ってくれてはいるけどそれは妹のような気持ちからだとわかっている。
馬車を走らせること30分。
川遊びが出来る流れがゆるやかな場所へとやってきた。
「うわぁ冷たい!」裸足になって少しだけ水に足をつけてみた。
川の水の冷たさに驚いた。
“ティーナ、川は突然深くなるから気をつけて”
ーーそうなの?
“うん、それに突然流れが速くなるところもあるよ”
ーーなんだか怖いのね?
“ちゃんと気をつければ大丈夫、僕がいるしね”
ーーアクアが居てくれるだけで心強いわ。
「姉上!気をつけてくださいね」
「うん、今アクアにも言われたわ」
「アクア様?今も近くにいらっしゃるんですか?」
ジョーンが目をキラキラさせてわたしの近くを見回した。
「すぐそばにいるわ」
「あーー、全く見えない。一度でいいから会ってみたいのに」
するとアクアが久しぶりの挨拶をした。
「うわっ」顔に突然水をかけられて驚くジョーン。
「ジョーン驚かせてごめんなさい。アクアがよろしくって挨拶をしたの」
「え?このお水ってアクア様?うわっ、本当に?嬉しいです」
ジョーンはそれから見えていないので全然違う場所に話しかけているのだがアクアはその姿が気に入ってジョーンの前に行きニコニコしている。
ーー少しだけヤキモチ。
わたしってアクアを取られるのも嫌だしヴィーが幼馴染と楽しそうにしているのも嫌なんて我儘過ぎる。
自分で自分に怒る。
わたしの世界が広がるのは今まであったものがなくなってしまうものなんだと改めて感じた。
もうあの離れに戻れない。
時が経てばこの胸の痛みも無くなるのだろうか……
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