用語・人物紹介『その1』

◆登場人物◆

◇魔法使いの担当医『トリス・ケウス』◇

 本作の主人公

 『ケウス魔法医院』の医院長の一人娘。

 二十一歳。身長は160cm、体重は50kgと分かりやすい数字を維持している。

 やや細身だが、力持ち。

 魔力許容量がかなり少ない為、魔法を使う事は少ないが、簡易的な回復魔法であれば自己流で使えるようにはしている。魔法学校を首席で卒業している為、魔法に関しての知識は深い。

 両親から受け継いだ金色の髪の毛をやや長めに切りそろえて、後ろで一つ結びにしている。

 目の色は朱く、カサギとの初対面時にその綺麗さを褒められている。

 お洒落にはやや無頓着だが、両親に可愛らしく産んで貰った事については自覚しており、なるべく気にするようにはしているし、清潔感は常に保とうとしている。

 だが、錬金術が好きすぎるあまり、賃金は大体錬金術関連の物に消える。

 甘すぎる物は苦手だが、基本的にお菓子を好むので太りそうになる度に自分は医者なのだからと節制する日々を過ごしていた。


 幼少期から魔法医になる為の英才教育を受けて育ったが、元々の魔力量が少ない為に、高難易度の回復魔法は使えないという欠点をずっと抱えていた。

 両親よりも、名の知れた錬金術師であった祖母『ブレンディ・ケウス』に懐き、錬金術の手ほどきを受ける。

 どうやら才能はそちらの方にあったようで、魔法医よりも錬金術の勉強がしたいと思いながらも、両親に逆らえずに魔法医となった。

 しかし親の七光りとして魔法医院に就職した後、大した仕事もさせてもらえぬまま、ギストの担当医として隔離病棟に入れられる事となる。

 昔からストレス発散の為に剣の修行をしており、そこらへんの兵士あたりよりかはずっと強く、体力も多い。

 性格は明るく、ツッコミに回る事も多いが、環境のせいか友達はほぼいなく、よく壺と喋っていた。

 返事が無い事を嘆く事が多かったが、今は実際に喋る壺の使い魔がいるため、大満足の最中である。

 ギストと婚姻契約を結んだ。淡い恋心のようなものが芽生えているような気がしないでもないけれど、気恥ずかしくてあまり考えないようにしている。

 その割にはギストの事をギィくんと呼んだりと中々積極的な一面もある。



◇大魔法使い『ギスト・ケイオン』◇

 本作の準主人公。

 魔王を倒すべく作られた勇者パーティの大魔法使い。

 二十六歳。少し長めの黒髪に、青い目をしており、黒いローブを羽織っている。

 身長は174cm、体重は60kg程、かなりの細身だが、魔法以外に近接戦闘も出来る。

 口は悪いが根はかなり優しく、義勇心に満ちあふれているが、不器用。それが祟ってか勇者パーティーを追い出され、罪に問われる事となる。世界中が今この魔法使いの身柄を狙っている。

 才能の権化、そりゃあ気も強くなるというくらいには強力な魔法をバンバン放っても平気な程の魔力許容量がある。

 二十歳頃にトリスの祖母『ブレンディ・ケウス』に錬金術の教えを受けた事があるが、すぐに投げ出し、ブレンディからも魔法の道を極めるように口添えされた過去がある。

 やや童顔ではあるものの、容姿が良い為、女性にモテるが、誰も彼も自分自身の本質を見ようとしてくれない事に気付き、全員袖にしている。それに重なり勇者パーティーの惨状を見たせいで、やや人間不信気味になっていた。

 そんな時にトリスと出会う。それにより彼の心にも少しずつ変化が起きている事に、彼は未だ気付いていない。ただ、今まで出会った人間とは違うなという事だけは自覚している。

 カサギとはもう十年程の付き合いで、お互いがお互いを信用しきっている。実際、人間不信に陥っている時はカサギ以外とはまともに話をしないくらいには人間を嫌っていた。

 勇者パーティーにキレる前に説得を試みたが、その失敗も相まって、実はトリスと出会った時には相当自暴自棄になっていたようだ。出会った当初はトリスの事も適当に扱っていたが、身の上話を信じてもらえた事により、少しだけ心を開き始めていった。


 魔法の才能はマキュリアという世界の中で確実に一番と言っても申し分無いレベルであるが、技術にはまだ伸び代があり、ギスト自身も魔法を好んでいる為、まだまだ強くなる可能性を秘めている。

 大魔法使いという呼び名が、伝説という言葉に変わる日もそう遠くないのかもしれない。


◇イケボ鳥『カサギ』◇

 ギストの使い魔、カササギをモチーフとして顕現している。

 形態変化が出来、羽根のような小さい物から小鳥のような可愛らしい姿、大鳥のような巨大な姿まで自由に変化する。その実力はギストの使い魔だけあってかなりの物で、基本的に手加減していないと人間程度は軽く捻ってしまう。

 攻撃方法は羽根を撃ち出したり、翼で大風を起こしたり、単純に翼で相手を払い除けたりするが、その一撃一撃が非常に重い。撃ち出した羽根については使い魔であるため、ギストの魔力によってすぐに復活する。

 非常に渋く良い声をしており、主にトリスに気に入られているが、実体は鳥の姿なので毎回トリスは何とも言えない気持ちにさせられている。

 非常に丁寧な言葉遣いで喋るが、戦闘時は主のギストにも似た少し荒っぽい言葉使いになったりもする。

 正直主のギストよりもかなり純粋に良い性格をしている。ギストとは十年来の付き合いでいいコンビである。


◇愛してるよ『壺ちゃん』◇

 トリスの使い魔、トリスが愛した沢山の壺の破片をカサギが集め、細かく宿っていた魔力の残滓を以て顕現した。

 初回特典としてトリスに剣を与え、片言ではあるものの、喋る。

 壺は喋らないと常々悲しんでいたトリスに大きな喜びを与えた。

 その身体は非常に硬く、浮いている為に空中からの突進攻撃も中々に強い。

 純粋に錬金壺としての使用も出来、収納としての使用も出来る便利な使い魔である。

 出来ればもっと意思疎通が出来るようになればいいなぁと常々トリスに思われている為、時々トリスとおしゃべりの練習をしていたりする。進捗はどうですかと言われると「ムズイゼ」と答える。


◇道を示す人『ブレンディ・ケウス』◇

 トリスの祖母。享年七十五歳。生前はかなり名の知れた錬金術師だった。

 一時期弟子として指導を受けたギストからは大錬金術師とまで呼ばれている。

 魔力許容量の少ないトリスに対して錬金術師という道を示し、魔法の才能に溢れているギストには魔法使いという道を示した。

 かなり豪快な人物であったらしく、数年前に短期間しか会っていないギストでさえ言われた言葉を覚えている程に、印象的な事を言う。

 トリスはかなり彼女に懐いており、唯一の心の拠り所と言ってもいいような存在だった。

 彼女がトリスにお菓子を与えたからこそ、彼女はお菓子屋さんになりたいと思った。

 彼女がトリスに錬金術を教えたからこそ、彼女は錬金術師になりたいと思った。

 亡くなって尚、トリスの心の支えであり続ける彼女こそが、トリスにとっての本当の家族と呼べるのかもしれない。


◇かなしいひと『メール・ケウス』

 本編には未登場ではあるが、トリスの母であり、ルメスの妻。

 ケウス魔法病院の看護師長を勤めている弱々しい風貌の女性。

 実際、夫のルメスの言いなりになっており、娘のトリスに対してもルメスに言われた通りの教育を行うことしか出来なかった。本来は優しい人なのだが、それ以上に臆病だった。

 自白剤を飲んだルメスからは、トリス同様に酷い感情を吐露されており、トリスは彼女を思い、ルメスの発言が彼女に届かない事を祈りつつ、今までルメスと同じような見方で母を見ていた事を申し訳なく思った。

『ブレンディ・ケウス』の娘であり、トリスが隔離病棟にいる際、錬金関係の道具を要した時に口添えしたのはほかでも無いメールであった。彼女が口添えをしなければ、錬金術を嫌うルメスが決して許さなかった事だろう。


◇クズ『ルメス・ケウス』◇

 ケウス魔法医院の医院長。

 人間のクズ、私利私欲に塗れており、権力や金を好む。

 自分の力を誇示することに喜びを感じている反面、人に自分の悪い所を見せたくないという気持ちがかなり強く、常に偉ぶっていて、自分の地位を守り、その地位を高める事ばかりを考えている。

 目的の為に、魔力許容量の多いトリスの母と結婚し、トリスを産ませたが、トリスの魔力許容量が少ない事が分かり絶望し、彼女に辛く当たる日々を続けていた。

 最終的に自白剤を飲んだことによりトリスへの憎悪が爆発し、結果トリスからは「父とも思わない」と宣言されたが、そもそも彼自身、トリスを娘だと思った事など一度も無かった。

 笑える程のクズ。


◇クズ達『勇者パーティー』◇

 実力があるクズの集まり、元々ギストもその中で一緒に戦っていたが、あまりのクズさにギストがキレてしまい、鉄拳制裁を行った事でギストの立場は悪化。

 鉄拳制裁自体は良くない事ではあったが、実際勇者パーティーは街に付く度に支援という名の略奪とも取れるような行為を繰り返しており、貧乏な農村などでも同じような事を繰り返し、私腹を肥やしていた。

 なまじ戦闘力があるため冒険者ギルドからも魔物の討伐報酬を貰える為、よりその強欲さに拍車をかけ、最終的には高級な装飾品を身につける僧侶、女性を金で買う戦士、僧侶とイチャつき略奪を当たり前に行う勇者、そうしてそれを見かねて困った人にギルドからの討伐報酬を配るギストという図が出来ていた。

 ギストの人間不信に拍車をかけた人物達である、万死に値するような事をしているが、本人達には自覚が無く、マキュリア全国から大きな支持を得ている為に、やりたい放題は続いている。

 逆に言えば、それを黙認している裏にいる国をどうにかしなければコイツらを止める事は出来ないのかもしれない。

 魔王を倒すのが先か、村々が貧困で潰れていくのが先か、怪しいくらいにはクズ達の集まりである。

 ギストがキレるのも当然の事だが、勇者パーティーの後ろ盾はどうやらギストの口封じを狙っているようだ。


◇大変ですよね『警備員さん』◇

 隔離病棟の警備をしているお兄さん。

 笑顔が素敵に見えるが、その実もうどこかしらがぶっ壊れていて笑顔以外の表情を見せない。

 「大変ですね」が口癖だが、実際に一番大変なのはこの人の精神状態かもしれない。

 ただし、人の心はちゃんと持っており、自白剤を飲んだルメスの独白を聞いた際にはトリスの事を不憫に思い、独房へと連れて行く時にトリスが鞄を持ち込むのを見てみぬフリをしてあげていた。

 それに気付いたトリスによって、その後のお咎めが無いように病院の脱出時にカサギによって外に連れて行かれる。その後どうなったかは不明にしろ。きっと何とかなったと、とりあえずトリスは信じている。働くって大変ですよね。警備員さん、お疲れ様です。



◇ドシシ?ドドシ?『ドドシ』◇

 新聞を配ってるおっちゃん、オレンジジャムを大量にくれる。

 善人であり、筋肉隆々であり、非常に豪快である。

 ケウス魔法医院から逃げ出したトリスとギストに対しても、友好的な態度を見せてくるくらいの胆力も持っている。中々いい塩梅のおっちゃんであるが、笑い方が独特すぎる。

『ドシシ』と笑うが、名前は『ドドシ』である。

 


◆用語紹介◆

◇世界『マキュリア』◇

 魔物が跋扈し、魔王が存在する剣と魔法の世界。

 その世界には意思があり、世界であり神でもある。

 魔法により意思の疎通が可能であるが、かなり高等魔法の部類に入る為、ギストのような大魔法使いでない限り世界、及び神であるマキュリアに干渉する事は不可能とされている。

 北部には『ウィントニア』という街があり、ケウス魔法医院が存在する。

 魔王が倒された時に年号が変化し、主に年月は魔王暦と呼ばれる。

 マキュリアは常に魔王が存在する世界であり、魔王は必ず子を残し、自分が倒された後もその子が魔王になるまでは魔物達に隠されて力を蓄えさせる。大体魔王暦20年頃から魔王の活動が活発になり、勇者パーティーが組まれるようになる。

 前魔王暦は33年で終了し、現魔王暦は21年となっている。

 

◇魔法◇

 マキュリアのほぼ全人類が使えるであろう奇跡の類。

 炎を出す、氷を出す、水を出す、様々な魔法が存在し、子供達はそれらを学ぶ学校に通う事になる。

 剣技などを学ぶ場もあるにはあるが、実際の所、マキュリアでは魔法を使うという事が常識化している為、生きる為にまず必要なのは魔法を学ぶ事である。

 魔法を使う為には魔力が必要とされ、人が蓄えていられる魔力の許容量は生まれた時に決まる。

 それはある種目に見える才能のような物で、多ければ多い程強力な魔法を使うことが出来るが、少なければマキュリアという世界は非常に生きにくい世界となる。

 

◇錬金術◇

 旧時代の神秘と呼ばれる、魔法が発達しきっていなかった頃に魔法の代わりに使われていた技術。

 魔法はこの数十年で急激な進歩を遂げており、それに伴って錬金術は廃れていった。

 だが、出来る事は魔法とほぼ変わらず、手間が必要という事以外に代わりはない。

 しかし往々にして人間は手間を嫌い、楽な方に流れる物である。

 よって殆どの人間は錬金術を旧時代の物と認識し、魔法の習得へと流れていった。

 魔法の才能の権化であるギスト・ケイオンのような存在は世界を震撼させるが、トリス・ケウスのような錬金術師は冷たい目で見られる事が多い。事実ルメスのように錬金術を過激な程に嫌う人間も存在する。

 だが、錬金術という奇跡は、未だその最奥まで至ってはいない。

 旧時代の神秘は、その本来の力を手に入れられないまま人々に忘れられてしまった。

 世界で一番の魔法使いがギスト・ケイオンであるならば、世界で一番の錬金術師はもしかしたらトリス・ケウスなのかもしれない。

 そう言ってもいいくらいに、錬金術を学ぶ人間は少ない。

 トリスの生まれは非常に悲しい物ではあるが、それでも錬金術師を志した彼女は、もしかすると未だ誰も辿り着いていない旧時代の神秘の最奥に辿り着ける可能性を秘めているのかもしれない。

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