友人

青藤

友人

 夢でございました。ささやかな夢でございます。とんと叶わぬ夢を願ったのではありませぬ。あの輝く世界をわたしも手にしたかったのです。道往くひとたちの笑顔は、それはもう宝石以上のうつくしさがありました。あゝわたしも欲しい。唯そう思っただけなのです。それからわたしは努力いたしました。わたしもあの輝く世界へと飛び込みたい、その一心で努力いたしました。毎朝鏡の前でニッコリとご挨拶の練習をいたしました。お話は不可欠ですから、好かれる会話術という、なんとも訝しげな書物を毎晩熱心に読みました。しかし、わたしはだめでした。わたしは努力ができても、才がなかったのです。どれだけ努力しても、わたしには手にすることができない世界があると知りました。そこで努力することをやめました。光り輝く世界とは無縁の人間がわたしです。夢でございました。ささやかな夢でございます。ひとりでも友人が欲しいという、ささやかな夢でございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

友人 青藤 @ao_fuji__

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ