第23話


 どうにかこうにか、ソフィとソニアと協力し、野盗の遺品を回収し終えた私は、無事にロックスの街へ帰還することが出来た。


 フランチェスカに野盗討伐の報告を行い、はれてBランク冒険者へと昇格することが出来た。一時はどうなる事かと思ったが、これで私の旅も楽になる事だろう。


「それでは本日より、アレックス様をBランク冒険者に昇格させて頂きます!そして、こちらが新しい冒険者カードになります!紛失しないよう、ご注意くださいね!」

「ああ、ありがとう」


 受付嬢から手渡された冒険者カードは、白色のシンプルだったものから、銀色に変わっていた。カードの縁にも少しばかりの装飾がされている。流石Bランク冒険者のカードと言った所か。


「それでは手続きは以上になります!本日は何か依頼を受けて行かれますか?」

「いや、依頼を受けるつもりはない。明日には王都へ向かう予定でいるからな」

「え!?アレックス様、王都に行かれてしまうんですか!?」

「そうだ。この街で出来る事はもう済んだし、野盗討伐などで旅の資金は貯まったからな」


 私の返事を聞いた受付嬢は、慌ててギルドの奥へと向かって走り出してしまった。話が終わったため、私はソニアとソフィが待つ外へ行こうとする。しかし、外へ出ようとする私をギルドの奥から走ってきたフランチェスカが呼び止めた。


「アレックス!少し待ちたまえ!」


 ギルドマスターであるフランチェスカが受付場に姿を現したため、その場は一気に騒がしくなった。正直面倒事は避けたいのだが、ギルドに所属する身として、ギルドマスターを無視するわけにはいかない。


「ギルドマスター、どうされました?」

「いや、なに。君が明日にはここを立つと聞いたのでな。君を疑ってしまった詫びとして、なにか私に出来ることは無いかと考えていたのだが……」

「気にしないでください。貴方はギルドを管理する役目をこなしていただけなのですから」

「そう言って貰えると助かる。だが、何もしないのでは私の気が収まらなくてな。これを君に渡しておこう」


 フランチェスカはそう言うと、白い封筒を手渡してきた。


「これは?」

「私から王都ギルドへの言伝みたいなものだ。君は冒険者登録をしてまだ間もないだろ?そのせいで、不当な扱いを受けないように、君の実力が私の折り紙付きだという内容を記してある」

「……お心遣いありがとうございます。有難く頂戴させて頂きます。それでは、また」


 フランチェスカに礼を言い、私はギルドを後にする。外に出ると、ソフィとソニアが何処か怪訝な顔で私を見つめて来た。何かあったのかと思い、私は彼女達に問いかけた。


「どうした、そんな顔をして。何かあったのか?」

「あの……いえ、なんでもありません」


 ソフィは何か言おうとしたが、一瞬ためらったあと顔を下に向けてしまった。私はそんな彼女の態度が気になりつつも、何でもないのであれば立ち止まる理由はないと歩き始める。だがソフィの代わりに意を決したソニアが私に話しかけて来た。


「盗み見するつもりはなかったんだけど……さっき、ギルドマスターから何か貰ってたじゃない?あれがなんだか気になっただけよ」

「なんだ見ていたのか。それがどうかしたのか?」

「野盗討伐の功績を鑑みて、ギルドマスターが貴方を上位パーティーに勧誘したのかと思ったのよ」


 そう言ってため息をつくソニア。同時にソフィも哀し気な表情を浮かべていた。どうやら二人は勘違いをしているらしい。


「それは君達の勘違いだ。そもそも、私は他人とパーティーを組むつもりはない。君達と仮のパーティーを組んでいるのも、約束を守っているだけに過ぎないのだから」

「本当ですか!?Bランクパーティーに入ることになったから、私達とのパーティーを解消して欲しいとか言いませんよね!?」

「君は私を馬鹿にしているのか?私は必ず約束を守る。だから安心しろ」

「……分かりました!」

 

 ようやく納得してくれたのか、ソフィは笑顔になって私の隣を歩き始めた。なぜ自分の行きたい場所に行かないのか、不思議で仕方がない。


 彼女達には明日この街を立つと伝えてある。三人で向かう以上、『縮地』移動は出来ないため、王都までは一週間ほどかかるはずだ。その為の準備をしておけと言ったはずなのだが、なぜか彼女達は私の隣を歩いていた。


 ソニアとソフィに挟まれる形で道を進んで行くと、あの日二人と約束を結んだ酒場の前にやってきた。


 二人はそのまま酒場の入り口に向かっていったため、私は食料の買い出しに向かおうとする。しかし、彼女達の細い4本の腕が、私の両腕を挟んで逃さなかった。


「さぁて!今日は飲むわよぉ!なんてたって、アレックスのおごりだからね!」

「何を言っているんだ、君達は。私は一言もそんな話はしていないぞ?」

「いいじゃないですか!ダイアウルフと野盗討伐の報酬がたんまりあるんでしょう?今夜くらい私達に贅沢させてください!」


 そう言って空いている席を探し始めるソフィ。私は力づくで彼女達の腕を引きはがし、アイテムボックスから金貨1枚を取り出してソニアに渡した。


「君達だけで食べるといい。私は明日の準備をしたらそのまま宿へ向かう」

「え、待ってください!折角なら一緒に──」

「明日遅れないようにな」


 ソフィの言葉を遮り、酒場を出ていく。酒場の中からソニアの騒ぎ声が聞こえて来た。彼女達が何のために私にすり寄ってきているか想像がつかないが、これ以上仲を深める必要も無い。私は自分の成すべきことを成す。ただそれだけだ。


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