第22話
「着いたわよ」
足を止め、その場でしゃがみ込んだソニアが小さくつぶやく。私とソフィは彼女に続くようにその場へしゃがみ、視線の先を追った。そこには生い茂る草木に隠れ、一見では発見することも困難であろう洞窟の入り口があった。
「あそこが野盗の根城か」
「そうよ。オーウェンの村に行ったとき、村の人達が話していたから間違いないわ」
ソニアが洞窟を睨みつけながらそう告げる。私はそれに返事をすることもなく、『索敵』のスキルを発動させた。すると、視界の先に幾つもの光が出現する。この数を一人で相手にするのは骨が折れるな。
「どのくらい居たのですか?」
隣でしゃがんでいたソフィが心配そうに尋ねてきた。私は視線を洞窟から移すことなく淡々と答える。
「十五人だ。洞窟の入り口付近に二人、後は全員奥に居るようだな」
「多いですね……それで全部なのでしょうか?もし外で行動している者が居たら、挟まれてしまいますよ」
ソフィの言う通り、洞窟の中にいる十五人で全員という訳ではないのだ。ここで私が洞窟の中に一人で入るのは危険だろう。中にいる者たちが外部に連絡する手段を持っていないとは断言できない。だからと言って二人を危険にさらすわけにはいかないし、どうすべきか。
索敵の範囲を広げるのも一つの内だが、消費魔力が多くなってしまうため、戦闘の事を考慮するとその作戦は取りたくない。
「ねぇねぇ、行かないの?」
私達の話を聞いていなかったのか、ソニアが洞窟を指さしながら問いかけてきた。私は思わず彼女を見て鼻で笑ってしまう。ソフィも額に手を当てながらため息を零していた。私はソニアを無視し、ソフィへと声をかける。
「君は土魔法を使えるか?もし使えるのであれば私に見せてほしい」
ソフィに手を借りずとも、私が土魔法を知識枠にはめ込み『再構築』してしまえば良いのだ。入り口を土魔法で塞いでしまえば、後方から奇襲される心配は無くなるからな。
「すみません、私土魔法と闇魔法は使えないんです……」
「いや、君が謝ることではない。そうなると、外に出ている者達が帰ってくるまで待った方がよさそうだな」
私がそう告げると、ソフィは申し訳なさそうに頭を下げた。その一方でソニアが名案を思いついたという顔で洞窟を指さす。
「ねぇねぇ、アレックスの火球を洞窟の中にぶっ放せば良いんじゃない?中にいる奴ら全員丸焦げになるだろうし、爆発の衝撃で地崩れ起こして生き埋めになるでしょ!?」
「捕縛を諦めろと言う事か?中には軽犯罪者がいるかも知れんのだぞ?」
「だったら『索敵』で調べてみたら?ついでに野盗以外の人間が居ないことも確認しちゃえば良いのよ!もし居たのなら別の作戦を取ればいいんだし!」
ソニアの意見に従うのは少し癪ではあったが、彼女の作戦は実に合理的であった。単純な作戦ではあるが、戦闘を避けるという点ではこれ以上にない程に素晴らしい作戦である。
私は『索敵』のスキルを再構築し、野盗以外の人間が洞窟内部に居ないことを確認する。その後、再度『索敵』を再構築し、野盗の『索敵』を行った。
『索敵』=<悪意ある殺人を犯した><存在の居場所を><認識する>
項の中身をどう変換するかは悩んだが、重犯罪者を認識するために<悪意ある殺人を犯した>という内容に再構築した。結果は先程と変わらず、十五個の光が視界に現れる。
「どうでしたか?」
「ソニアの提案した作戦を実行する。少し様子を見ていてくれ」
二人に声をかけ、洞窟の方へと向かって歩き出した。気配を消し去り、洞窟の入り口を確認する。入り口付近にいたはずの二人は、洞窟の内部に向かって歩いていた。見張りの交代か、もしくは内部で何かがあったかは定かではないが、これを見逃す私ではない。
『火球』の魔法式を再構築し、魔力を度外視した内容へと変えていく。以前レッドベアーを倒した時に使った式が<巨大な火の玉を><敵に向かって><真直ぐに放つ>であったのに対し、今回は<超巨大な火の玉を><真直ぐに放つ>というモノだ。
二項を再構築出来るようになったため、一項を減らした分消費魔力は減少し、尚且つ威力は上昇させることが出来るであろう。まぁ放ったことが無いため、どの程度減るかは分からないが、物は試しというやつだ。
「さて、どうなるものやら……『火球』!」
洞窟に手のひらを向けて『火球』を放つと、レッドベアーの時よりも一回り大きいサイズの火球が飛んで行った。数秒後、洞窟の中で爆発が起こり地崩れが発生する。落ちて来た岩で入り口が埋まり、洞窟の形は見る影もなくなった。
「『索敵』」
生存者の確認をするために『索敵』を発動させる。十五個あった光は三個までに減少しており、程なくして三個の光も消えてなくなっていった。
「終わったな」
初めて人を殺したのだが、自らの手を汚したという感覚も特になく、私は二人が待機している林へと戻って良く。その間にも自身を分析し、先程の火球の消費魔力を確認していた。1500あった魔力が1360に減っている。今回放った『火球』の消費魔力は140と言う事か。
「ど、どうですか!生存者はいましたか?」
戻ってきた私にソフィが心配そうに声をかけてきた。ソニアは爆発が起こった洞窟を見て騒いでいる。
「いや、全員の死亡を確認した。これで野盗の殲滅という条件は達成だ」
「そうですか!やりましたね、アレックスさん!」
ソフィの労いの言葉に、私は素っ気なく『ああ』とだけ言葉を返した。ソニアの作戦というのが少し不満だが、お陰で私はBランク冒険者に昇格することが出来る。後は冒険者ギルドに戻り、報告すれば終了だ。
「ロックスの街に帰還するぞ」
二人に声をかけ、歩き出そうとしたが、その歩みはソニアの口から出た言葉によって止まることとなった。
「ねぇ、アレックス!野盗の得物とか遺品とか持って帰らないの?」
「君は馬鹿なのか?洞窟が塞がっている以上、回収など出来るはずがなかろう」
ソニアの言葉を鼻で笑うが、彼女が次に口にしたのは思いもしない言葉だった。
「そうよね!でも良いわね、報告だけで良いんだから!本当は野盗の遺品とかそういうので、討伐を確認するのよ?」
「……なんだと?それは本当か!!」
勢いよく振り返り、思わずソニアを睨みつけてしまう。
野盗の遺品が必要だと?そんなことフランチェスカは言っていなかった。野盗を捕縛もしくは殺害したら報告してくれと言っていただけだ。
だから私はソニアの作戦を実行したのだ。だが彼女の言ったことが確かであるなら、ロックスの街に行ったところで意味は無い。
「ほ、本当よ!だってそうじゃなきゃ嘘つけちゃうでしょ!」
「……失態だ」
自分の浅はかさに、私は思わず額に手をやった。ソニアを責めたい気持ちにもなったが、私が確認を怠ったのが問題なのだ。Bランク冒険者への昇格に目をやるばかりに詳細な部分を蔑ろにしてしまった。
「戻るぞ。洞窟の岩を取り除いて野盗の遺品を回収する」
溜息を零しながら洞窟の方へと走り出す。
「はぁ!?嘘でしょ!報告すればいいだけなんでしょ!」
「そんなこと私は言っていない。安心しろ、私達はパーティーなんだ。一緒に協力して頑張ろうではないか。そうだろ、ソフィ?」
つい先日、彼女が私に向けてかけた言葉を今度は私が彼女に向けて投げかける。
「……発言を取り消すのは有りですか?」
「却下だ」
背後から深いため息と怒号が聞こえてきたがそれを無視して発掘作業を開始するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます