第18話
ギルドマスターとやらのところへ着く間、私はライアスからの質問攻めにあっていた。どうやら私のスキルが気になって仕方がなかったらしい。
「つまり、お前さんのスキルは自分自身のスキルのみを再構築する事しか出来ないってわけか?」
「概ね間違いない。魔法式が組み込まれている物体で、私が所有権を持っている物であれば、再構築は可能だ」
「ほぉー、便利なスキルだな!おっと着いたぞ、ここだ。失礼します!」
ライアスが扉の前で立ち止まり、扉をノックしながら声をかける。すると、中から女性の声で返事が返ってきた。
「入れ!」
ライアスが扉を開けて、中へと入っていく。私の事も手招きしてきたので、ライアスの後に続き扉を閉じた。部屋の中には大きな机が一つ置いてあり、そこに一人の女性が座っていた。
「どうした、ライアス。その男は誰だ?」
「はい!この男はアレックスと申します!本日、冒険者登録の為にギルドに訪れてきました!先程、私が試験監督を務め、彼と実践戦闘を行ったところ、珍しいスキルを所持している事が発覚しましたのでご報告に参りました!」
ライアスの話を聞いた女性は、眉をピクリと動かして前のめりになった。そして私の方を睨みつけながら、ライアスに返事をする。
「珍しいスキル?なんだそれは」
「アレックス曰く、『再構築』という名のスキルだそうで、自分が所有するスキル等、魔法式で構築された物を再構築するスキルだそうです!」
ライアスの説明は、私の説明を半分以上省略した内容であった。その説明では、理解しろと言われても出来るはずがなかろう。まぁ私ならなんなく理解できるがな。
「なるほど、さっぱりわからんな。まぁ確かに聞いた事はないスキルだ。それで?その珍しいスキルを所持しているから合格にしろと?」
「いえ!彼が再構築した『火球』は、大広場の壁を破壊するほどの威力です!Fランク冒険者が放つ『火球』とは比べ物になりません!」
「ほぉ、それは凄いな!どうやってそれ程までの威力を手に入れるのだ?説明してみろ!」
女性は物珍しそうに私を見つめながら、私に命令してきた。初対面の相手に命令口調など、不快極まりない話だが、彼女は冒険者になる私にとって上司となる人間だ。仕方が無いが、言われた通りにするとしよう。
「私が所有する『再構築』というスキルは、端的に言ってしまえば、魔法式を書き換えるというスキルです。『火球』の魔法式は「火球」=<火の玉を><敵に向かって><真直ぐに放つ>という式で成り立っています。それを「火球」= <巨大な火の玉を><真直ぐに放つ>という式に変換しました」
「……するとなにか?お前は、自分が望んだ通りの魔法を作り上げる事ができると?」
私の説明を聞き、女性は信じられないといった様子で目を見開いていた。ライアスも「マジかよ!」と声を上げて隣で興奮している。先ほど同じ説明をしたというのに、どうやら脳みそから抜け落ちていたらしい。
興奮する二人を余所に、私は残念そうに首を振った。
「残念ながら制限はあります。実現不可能な文言が記載されていれば、魔法は発動しません。さらに、文字数が増えれば消費魔力も増加しますし、必要な魔力がなければ魔法は発動しません。万能というわけでは無いのです」
「……信じられん。実際に見せる事は可能か?」
「問題ありません。丁度『再構築』しようと考えていたスキルもありますので」
私は彼女達に視認できる様に、『身体能力向上』のスキルを再構築し始めた。私が右手を顔の前に持ってくると、青白い輝きを発した魔文字が浮かび上がってくる。それを見た二人は驚愕の表情を浮かべた。
「これが『身体能力向上』の魔法式です。<身体能力を><少しだけ><向上させる>という式になっています。これを<身体能力を><著しく><向上させる>という文言に書き換えます」
そう言いながら、魔法式を書き換えていく。ライアス達は、信じられないと言った様子で、私の指先を食い入る様に見つめていた。
魔法式を無事に書き終えると、スキルの発動を停止させる。それと同時に、私の目の前に浮かび上がっていた魔法式が輝きを失っていき、消滅していった。
「今ので『身体能力向上』のスキルを再構築しました」
「ど、どう変わったんだ?」
私は再構築の結果を確認するために、自分自身を『分析』にかける。
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【名前】 アレックス・グローリー
【種族】 人間
【性別】 男
【職業】 知識者
【Lv】 18
【HP 】 1800/1800
【魔力】 1850/1850
【攻撃力】 A+
【防御力】 A+
【敏捷性】 A+
【知力】 S+
【運】 A+
【スキル】
火魔法
水魔法
剣術
アイテムボックス
身体能力向上
【エクストラスキル】
分析
再構築Lv2
知識枠Lv1(5/5)
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その結果、先程までゴブリンよりも貧弱だった私の体は、オーガのような肉体へと変貌を遂げていた。まぁ見た目は何も変わっていないのだが。
「先程まで私の攻撃力はF+でしたが、現在は攻撃力、防御力、敏捷性ともにA+になっています。ああ、体力の方も上昇していますね」
身体能力向上は攻撃力と防御力、敏捷性のみに影響を及ぼすと思っていたのだが、体力まで上昇するとは嬉しい誤算だ。これ程のステータスがあれば、Sランク冒険者になるのも時間の問題だろう。
ギルドマスターと呼ばれた女性に、私は自分のステータスカードを渡す。私の言葉が嘘ではないという事を理解して貰うためだ。
カードを渡されたギルドマスターは、目を通した後、口を大きく開いて黙り込んでしまった。
「……ステータスはSランク冒険者級か。君の目的は一体なんだ?」
「目的?冒険者として報酬を受け取りながら、世界中を旅する事です。あとは両親に仕送りをおくることですかね」
「本当か?君ほどの実力があれば、不可能な事などないはずだ。何か目的があるのではないか?」
疑った目で私を睨みつけるギルドマスター。私には嘘をつく必要が無いというのに、能力だけで判断されてしまうとは。今後はステータスを偽るスキルを手に入れるか、相手にステータスを見せるときは、『身体能力向上』のスキルを一度再構築する必要があるな。
「本当にありません」
「……申し訳ないが、『真理の石版』を使用させてくれ。街を滅ぼすことが出来る能力を持った者が、今更冒険者になるなんて、何かあるとしか思えんくてな」
そう言うとギルドマスターは『真理の石板』を取り出した。そこで私が犯罪者ではないという結果が出たため、私を冒険者に登録することを拒否することは出来ないということになった。
「君が犯罪者でない以上、我々は君の冒険者登録を拒否することは出来ん。だがくれぐれも変な気は起こさないでくれたまえ。いいな?」
溜息を零しながら私たちを部屋の外へと追い出そうとするギルドマスター。私はライアスの背中に手を置き、約束を守らせるために彼女の方へと押しやった。
「そのですね、マスター……実はアレックスと約束をしておりまして」
「なんの約束だ?」
「いやぁ、さっきやった戦闘試験で俺を戦闘不能にしたらBランク冒険者への推薦状を書いてやるって約束を……」
ライアスが最後まで言葉を続ける前に、マスターが握りしめていたペンがボキりと二つに折れ、彼女の周りに黒いオーラが現れた。そのオーラとは裏腹に彼女は穏やかに微笑んでいる。
「ライアス……いつから貴様はそんなに偉くなったんだ?」
「ヒィィ!す、すいません!まさかこいつにやられるなんて思ってもみなかったんです!!」
「ふざけるなぁぁ!!冒険者が相手を見た目で判断するなど言語道断!!その油断で命を落とすとなぜ分からんのだ!!」
ギルドマスターが机を殴りつけ、上に並べられていた書類が奇麗に空中を舞っていく。ライアスはいつの間にか両膝とおでこを床にこすりつけ、ガタガタと身体を震わせていた。彼女の怒りの矛先はライアスから俺へと移り、ゆっくりと言葉を告げられた。
「はぁ……君もまさかそんな約束がまかり通るとは思っていないだろうね?」
先程と同様に、穏やかな笑みを作りながら語られた言葉には脅迫に似たような感情が込められていた。「思っていません」と言え、と言われている気分だ。ライアスも涙を流しながら俺に懇願するかのように顔を上下に動かしている。
俺はライアスに向けて一度頷き、彼女の方へと視線を戻して口を開いた。ライアスの表情がパアッと明るくなる。
「約束は約束です。私をBランク冒険者にしてください」
この発言の後、ロックスの街に今日一番の怒号が響き渡ったと言う。
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