第17話

 受付嬢に言われた通り、右奥の道をまっすぐに突き進んでいくと、突き当たりに大広場が現れた。そこでは数名の冒険者達が各々の武器を払い、鍛錬に励んでいる。


 私は受付嬢と同じ服を着ている男性を見つけると、受付嬢に言われた通りに声をかけた。


「冒険者登録の試験に来た、アレックスだ。早速で悪いが試験をしてほしい」

「ん?もしかして試験希望者か!?そーかそーか!じゃあさっさと始めるか!おーい、すまんが今から冒険者登録の試験を始める!中央を開けてくれ!」


 男性が声をかけると、中央で鍛錬していた冒険者達が隅の方へと移動していく。私は男性の後ろについて歩いていった。


「よーし!早速だが試験内容を伝えるぞ!内容は俺とお前で一対一の実戦戦闘を行い、俺が合格と判断できたらお前は合格だ!まぁつまり、負けたからといって不合格にはならないって事だな!」

「なるほど。実戦戦闘ということは、なんでもありなのか?真剣や殺傷能力のある魔法の行使など、制限はどの程度あるのだ?」


 私が問いかけると、試験管の男性はニヤリと笑みを浮かべた。


「悪いが剣は刃を潰したものを使ってくれ!魔法は基本的になんでもありだ!まぁ極大魔法とか覇級クラスの魔法は使わんでくれよ?この辺が吹き飛んじまうからな!」

「承知した」

「武器はあそこの棚から好きなもんをえらんでくれ!」


 男性が指を差した方向を向くと、壁に武器がズラリとかかっていた。短剣から大剣、斧や槍までありとあらゆる武器が取り揃えてある。私はその中から普段使っている獲物に近い剣を選択して、中央へと戻っていった。


「じゃあ試験を開始する!お前が戦闘不能になるか、降参するまで試験は続けるぞ!俺の方から試験を中断させることは無いから、満足行くまでやってくれ!」

「ん?それでは貴様が戦闘不能になった場合はどうするんだ?」


 私の問いかけに対し、男はぽかんと口を開けたまま固まる。自分が戦闘不能になることなど無いと思っているのだろうが、私の『魔法』はレッドベアーを一撃で倒せるほどの威力を持っている。


 男を殺してしまった場合でも私は合格になれるかどうか、確認しておかないとまずいと思ったのだ。


「は?……アハハ!!考えたこともなかったぜ!まぁそうだな、俺が戦闘不能になったら試験は勿論合格!なんならBランク冒険者への推薦状も書いてやるよ!」

「本当か!!?それなら問題ない!さっさと試験を始めよう!」

「そうだな!おっと、自己紹介を忘れてた!俺の名前はライアスだ!元Bランク冒険者で今はロックスの街のギルドで働いている!それじゃあ……はじめだ!」


 ライアスが声を上げた瞬間、私は目の前に向かって火魔法を放った。


「『火球』!」


 再構築済みの火球をライアス目掛けで放つ。


 再構築のレベルが上がったことにより、より効率の良い魔法式を描けるようになった。その結果、消費魔力を抑えつつも、威力を高めることに成功したのだ。通常の物より大きいサイズの火球にライアスは一瞬驚いた表情を見せたものの、軽々と火球を避けてみせた。


「よっと!どんどんこい!」

 

 ライアスが私をおちょくる様にピョンピョンと跳ね回る。火球じゃ速度が足りなかった様だ。今度は火矢にしようと、奴に向けて手をかざした瞬間、私の火球が大広場の壁へ着弾した。


 ドガァァァァァァァン


 轟音が鳴り響き、壁は破壊され外の景色が丸見えになっていた。


「「「……はぁぁぁぁぁ?」」」


 試験監督であったライアスだけでなく、試験を見守っていた冒険者達が、一斉に声を上げた。全員の視線が破壊された壁に集中している。その隙に、縮地を発動させ、ライアスの目の前に移動し彼の腕めがけて剣をふるった。


「『強斬』!」

「ぐぁぁ!!」


 再構築された『強斬』スキルはライアスの腕をへし折り、そのままの勢いでライアスを吹き飛ばした。


「いっだぁぁ!ちょっと何してくれんだ!不意打ちじゃねぇか!」

「不意打ち?貴様が呆けているのが悪いのだろうが。この試験を実践戦闘と言ったのはそちらだぞ?私は貴様の隙を狙っただけだ」


 事実を伝えると、ライアスは苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべた。だがすぐにハッと目を見開き、私が破壊した壁を指さして口を震わせ始める。


「そ、そう言われると何も言えないんだが……そんなことより!今の魔法は何だ!?火球のレベルじゃないぞ!少なくとも帝級レベルの威力だ!」

「今のは間違いなく火魔法の『火球』だ。私のスキルで再構築してあるため、通常のモノとは比べ物にならない威力になっているがな」


 今回使用した火球は、レッドベアーに放った時と同じ魔法式になっている。Bランク冒険者と言っていたので、その位の威力が必要だと思ったのだが、過剰攻撃だった様だ。


「再構築?そんなスキル聞いたこともない!」

「私のスキルだ。魔法式で構成されたモノに対して使用することが出来る。今回の場合『火球』の魔法式を適切な魔法式へと再構築したのだ」

「いや、意味がわからないって!そんなスキル聞いたこともないし、見た事もないぞ!」


 私の話が信じられないのか、ライアスは腕が折れていることなど忘れて勢いよく立ち上がると、私の顔を折れた方の腕で指さしてきた。本人は真直ぐに向けているつもりなのだろうが、ライアスの人差し指は地面に向かって伸びている。


 その様子に少し笑いそうになるも、私は真剣なまなざしでライアスを見つめた。


「そんな事は知らん。現に私はそのスキルを所有し、『火球』の魔法式を再構築している。貴様も今しがた見た火球がそれなのだ。それよりも、試験は合格なのか?」

「合格だよ!いててて、骨折れてるじゃねぇか!こりゃハイポーション飲まなきゃ治らないな」


 ライアスは私に折られた方の腕を摩り、腰につけている鞄から小瓶を取り出した。


「合格か……勿論Bランク冒険者への推薦状は書いてくれるのだよな?」

「あー書く書く。書くのは良いけど、ギルドマスターに会ってからにしてくれよ!お前のスキルについて報告しないといけないからな!」

「わかった。それでいい」


 予定とは違ったが、晴れて冒険者になる事が出来た。更に上手くいけばBランク冒険者になれる。そうなれば、依頼を達成した時の報酬も格段に増え、父上と母上に仕送りをすることが出来るな。


「あークソまずい!」


 ハイポーションを飲んだライアスが、苦虫を噛み潰したような顔をしながら呟く。だが私にへし折られたライアスの腕はみるみるうちに元の形へと戻っていった。


「凄いな!ハイポーションを飲んだ人物は初めて見るが、こんなにも簡単に骨折を治せるとは!」

「ポーションは切り傷程度、ハイポーションは骨折、フルポーションは死にかけでも元気になるって覚えとけ!」

「そのくらい知っている!エリクサーは死人も生き返る、だったな!」

「ああそうだ!まぁエリクサーなんて見る機会もねぇだろうよ!そんな事より、ギルドマスターのところ行くぞ!」


 ライアスは元に戻った腕を振り回しながら、大広場を出ていく。その後に続くように私も大広場を後にした。


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