第19話
「全くもって意味が分からん。私は約束を果たしてくれと発言しただけなのに」
私は文句を垂れながらも、目的達成のためにロックスの街から二キロ程離れた森の中を一人歩く。
先日の一件で、ギルドマスターであるフランチェスカにライアスと共に説教された私だったが、結果的にBランク冒険者へと昇格をして貰えることになった。
残念ながら『条件』付きではあるが。
その『条件』というのが二つあり、一つがダイアウルフの討伐。二つ目が野盗集団の捕縛、もしくは殲滅である。この二つを一ケ月以内に達成すればBランク冒険者にしてくれるということで、渋々了承した。本来であれば無条件でなれたものを。
ということで、現在は一つ目の目的である、ダイアウルフ討伐を目指してこの森に来ているのだ。
ダイアウルフとはその名の通り、ダイアモンドのように美しく輝く毛色が特徴的なウルフの上位種である。脅威度的には、ウルフ、シルバーウルフに続く強さを誇っている。
ある程度深い場所まで歩いてきた後、私はライアスに見せて貰った新スキルを発動させた。
「『索敵』……居たな」
スキルを発動させたことにより、私の視界に一つの光が現れた。この光の先にダイアウルフが居るのである。
『索敵』は魔物や自分に敵意を持つ存在の居場所を把握することが出来るスキルで、魔法式は『索敵』=<自分の敵となる><存在の居場所を><認識する>というものだ。
今回は<存在の居場所を>を<ダイアウルフの居場所>に変換している。
このスキルは、冒険者ギルドでたむろしていた職業【盗賊】の男に頼み込んで見せて貰ったスキルだ。使い勝手は良いモノの、このスキルを使うために5つある知識枠のうち一つを潰さないとならないため、戦闘前にわざわざ知識枠の構成をし直さなければいけないのはかなり面倒ではあった。
そのまま光が見えた方向へと歩いていくと、女性の声が聞こえてきた。
「はぁ!」
「『火矢』!はぁ、はぁ……ソニア逃げて!」
「嫌よ!ソフィを置いて逃げられるわけないでしょ!」
様子を見てみるとダイアウルフとシルバーウルフ三体に囲まれている二人の女性冒険者の姿があった。私は既に標的が戦闘を開始していたことにショックを受けうなだれる。
冒険者のルールとして、先に獲物へ攻撃を仕掛けたものが全ての権利を得るのだ。今回の場合、私の標的であったダイアウルフの討伐権は彼女達のものになるのである。
「仕方ない、別のダイアウルフを探すか」
そう呟きながら立ち上がり、元来た道へと帰ろうとする。その時、大剣を振るっていた女性の方と目が合った。
「あ、あんた!見てないで助けなさいよ!」
魔物達の攻撃を上手に捌きながら女性が叫ぶ。その声を聞き、もう一人の女性が私の存在に気付き、少し安心したような表情を浮かべた。なぜ彼女がそんな顔をしたのか分からない私は、首をかしげながら聞きかえす。
「助ける?誰をだ?」
「私たちに決まってるでしょうが!見れば分かるでしょ!!」
見れば分かると言われ、目の前の状況を再確認するが、彼女達は私の討伐対象であるダイアウルフと戦っているようにしか見えない。よくよく見れば彼女達の身体は傷だらけで、ダイアウルフ側には目立った外傷はなかった。
「……もしかして苦戦してるのか?」
「だからそうだって言ってんでしょ!ック!はやく助けて頂戴!!」
大剣を振るい、シルバーウルフを吹き飛ばしながら私に助けを求める女性。彼女達が苦戦しているというのなら話は別だ。困っている女性は助けなければいけないとルナも言っていた。
「承知した。『火球』、『火球』、『火球』」
三発の火球をシルバーウルフ目掛けて放ち、一瞬の内に丸焦げにする。目の前で起きた出来事に思考が追い付いていないのか、彼女達は口を大きく開いて呆然としていた。
私はそのまま次の行動を開始する。シルバーウルフが殺されたことにより、怒りの雄叫びをあげるダイアウルフに対し、冷静にスキルを発動させた。
「『縮地』」
ロックスの街に到着した際に再構築し直した縮地を発動させ、ダイアウルフに認識されることなく奴の真後ろへと移動する。視界から私が消えたことにより、ダイアウルフは焦ったように首を右往左往させ始めた。
だが、奴の瞳に私の姿が再び映されることは無く、銀色に輝く奴の頭部はどさりと音を立てて地面に落ちていった。
「ふむ。やはり『身体能力向上』のスキルは凄まじいな。この私が攻撃用のスキルを発動させずにダイアウルフの首を落とすことが出来るとは」
ダイアウルフの首を刎ねた剣を鞘にしまいながら発した言葉に、我に返った女性冒険者が反応を示した。
「い、いまの何!?」
「あんな大きい『火球』今まで見たことないですよ……」
自分の得物をしまうことすら忘れ、呆然とした表情で見つめてくる二人。私はそんな彼女たちに言葉をかける。
「戦闘を開始したのは君達だが、ダイアウルフを討伐したのは私だ。この亡骸は私が貰っても構わないな?」
「え?い、いいわよ」
了承を得た私はダイアウルフの亡骸をアイテムボックスへと収納していく。ついでに丸焦げになった三体のシルバーウルフを収納していくと、彼女たちが武器をしまって近寄ってきた。
「あ、あの、先程はありがとうございました。貴方が居なければ私たちはダイアウルフに食い殺されていたでしょう……」
「本当に運が良かったわ。まさかこんなところにAランク冒険者が居るなんてね」
修道服のような恰好をした女性が腰に下げたバックから二つのビンを取り出し、一つを大剣の女性へと手渡す。そのまま緑色の液体を一気に飲み干して、眉間にシワを寄せた。
「ううっ……ポーションは本当に不味いですね」
「うっぷ……ありがとソフィ。そういえば自己紹介がまだだったはね。私の名前はソニア、この子はソフィよ。貴方の名前は?」
美しい造形の顔を歪ませながら私に手を伸ばしてくるソニア。私はその手を握り返し、彼女の問いに答えるとともに間違えを訂正した。
「私の名はアレックス・グローリーだ。それと訂正しておくが、私の冒険者ランクは現在Fだ。それでは失礼する」
そう言うと彼女の手を離し、この場を後にしようとする。これ以上彼女達と行動する理由が私には無い。『再構築』を発動させ索敵のスキルを状態へと戻していく。この後は街へと戻り、野盗の情報を収集しなければならない。時間に余裕があるとはいえ、油断は禁物だ。
「ちょ、ちょっと待って!あんたがFランク?何かの間違いでしょ?」
「そ、そうですよ!さっきの『火球』なんてEランクの私が足元にも及ばない威力でした!」
『縮地』を発動させようと剣の柄を握りしめた瞬間、その腕をソニアに掴まれた。その間に、ソフィも私の正面へと詰め寄ってきて私の顔数センチ前まで顔を近づけてきた。
「間違いではない。私の冒険者ランクは現在Fだ。それと『火球』については私のスキルで強化されているため、冒険者ランクは参考にしない方が良い」
「ほ、ほんとなの?ちょっと冒険者カード見せて頂戴よ!」
興奮気味に私の身体を激しくゆするソニアに対し、私は渋々冒険者カードを見せてやる。冒険者カードとは冒険者ギルドに登録した際に配布される身分証の事で、FからSまでの段階で色分けされているのだ。
フランチェスカから提示された条件を達成するまでの間、私の冒険者カードはFランクを現す白色のシンプルなものとなっている。二人はそんな素朴な私の冒険者カードに飛びつき、隅々まで確認していた。
ひとしきり確認を終えると、私にカードを返すことなく、二人は私に聞こえないように小声で会話を始めた。そして二人同時に深く頷いた後、私の方へ顔を向けてきた。
カードを受け取り、剣の柄を握ろうとするとソニアがとある提案をしてきた。中腰になり、膝に手を当て、胸を強調するような姿勢を取る。下から私の顔を見つめてくる、ソニアの顔を見て、これがルナの言っていた『上目遣い』だと理解した。
「ねえアレックスさん。もしよければ私たちとパーティーを組まない?」
「断る」
本物の『上目遣い』を見れたことに満足した私は、『縮地』を発動させてその場から消え去り、ロックスの街を目指すのだった。
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