第11話
「今日も順調に倒せているな。やはり、『火球』を五発から三発に変更したのが良かったようだ。魔力消費量も減少し、戦闘継続時間も長くなった。あとは魔力を使用しない戦闘方法で魔物を倒せるようになれば、最高なのだが」
地面に転がるゴブリンの亡骸を解体しながら一人呟く。
あれから三年が経過し、私は十五歳になった。
バン兄様は二年前に商人になるべく、ここから王都よりも遠い街に商人見習いとして旅立っていった。母上と父上は兄弟の中で一番手がかかったバン兄様が独り立ちを迎えたことで、凄く喜んでいた一方寂しがってもいた。なにせこの屋敷に残ったのが、三兄弟の中で一番手のかからない私なのだから。
私は一年前から森の奥に一人で行くことも許可され、既に両親から冒険者として生きる事を許されていた。その甲斐あってか、私のレベルは十に達し、ステータスも依然と比べて見違えるほどになっていた。
是非とも拝見してほしい。これが今の私のステータスだ。
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【名前】 アレックス・グローリー
【種族】 人間
【性別】 男
【職業】 知識者
【Lv】 10
【HP 】 1000/1000
【魔力】 1050/1050
【攻撃力】 F
【防御力】 F
【敏捷性】 F
【知力】 S+
【運】 A+
【スキル】
剣術
火魔法
水魔法
アイテムボックス
【エクストラスキル】
分析
再構築Lv1
知識枠Lv1(4/5)
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ぱっと見ても分からないかもしれないが、F-だったステータスが全てFに変わったのだ。見る影もなかった私の貧相な腕も、今では少し筋肉がついている。
だが未だにスキルを使わない通常の剣捌きでは、ゴブリンどころか、フーワラビットすら倒すことが出来ないのだからおかしいものだ。
「レベルは上がったからいいものの、やはり『再構築』と『知識枠』のレベルは上がらないか。何かしらの条件があることは確かなのだが、それが分からない。特定の魔物を倒せば良いのか、それとも何か道具が必要なのか……」
現状、出来る事が限られているため、私は頭の中で思考を巡らせることしか出来なかった。あと一年も経てば、この屋敷を出て王都へ行ける。そうすれば今よりももっと多くの知識を得ることができ、エクストラスキルについても何か分かるかもしれない。
顎に手を当てながら考え事をしていた、そんな時だった。嫌な風が頬を撫でる。
「嫌な風だな……血なまぐさい、獣臭に似た悪臭だ」
最近になって頻繁に匂ってくるようになった悪臭を感じた私は、周囲をくまなく観察する。何処かに獣の死体が放置されているのか、はたまたゴブリンやワーウルフ達が獣を食らっているのかは分からない。
だがそれにしても、日に日に悪臭の酷さが増していくのには嫌な寒気がしていた。
「この匂いが何によって発生しているのかはとても気になるところだが、それよりも私の鼻が耐え兼ねない。早く対処しないとここで狩りが出来なくなってしまう」
私は好奇心をそそられながらも、自身の検証の場を脅かす悪臭に敵意を抱いていた。一刻も早く対処し、素晴らしい草木の匂いを抱きしめたいと。そのため今日は、魔物狩りを早々に切りあげて悪臭の原因を探すことにした。
勿論道中で遭遇した魔物達は狩っていったが、悪臭の匂いが強くなる方へと進んでいく。しかし、一時間、二時間歩いても悪臭の元には辿り着かない。それになぜか三時間程歩き続けた時には、元居た場所に戻ってきてしまっていた。
「面白い!なんだこれは!悪臭が移動しているとしか思えない!もしかしてこの悪臭を発生させているのは行動可能な生物なのか?悪臭を発生させる魔物の存在は書物で見た覚えがあるが、確か地面に根を生やした植物型の魔物だったはずだ!」
悪臭に抱いていた敵意など胸の中から綺麗さっぱり失くしてしまった私は、屋敷へと戻り書物庫へとまっしぐらに走って行った。もしかしたら私が見ていない文献があるかもしれないと思ったからだ。
だがしかし、どの本を読んでも悪臭を放つ生物に関しては『ポイズンプラント』の名前が記載されているだけだった。
私は仕方なく、夕食時に父上に聞いてみることにした。父上と母上と私の三人で食べる食事は、バン兄様が居なくなってからというもの、日に日に会話が減っていた。私が二人を嫌いになったわけでもなければ、二人が私を嫌いになったわけでもない。特に話すことが無いから、会話が無いのだ。
◇
「父上。質問があるのですが、宜しいでしょうか」
私の言葉を皮切りに、約一ヶ月ぶりの家族の会話が始まった。父上も母上もどこか嬉しそうな顔をしている。
「何だ、アレックス!私に答えられることであればなんでも答えてやるぞ!」
「今日、狩りの最中に気になったことなのですが、森の奥で悪臭がしたのです。腐った匂いというわけでもなく、獣臭に何かの異臭を混ぜ込んだような匂いでした。元を探ろうと周囲を探索したのですが、原因は見つからなかったのです。何か知っていることはありませんか?」
私の話を聞いた父上は、嬉しそうな顔から一変して険しい顔を見せた。無言のまま深刻そうな表情を浮かべた後、今度は父上が私に質問をしてきた。
「悪臭と言ったが、どの程度のものだった?少し気になる程度か、それとも鼻が曲がる程か?」
「そうですね、我慢出来なくはないですが、長時間滞在するとなると不快になると思います」
「……そうか。恐らくだが、魔獣が発生した可能性が高い」
「魔獣?なんですかそれ!聞いたことがありません!」
父上の口から出た言葉に私は思わず身を乗り出す。この屋敷の中にあった書物には『魔獣』という文字など出てきたことが無い。そんな私に父上は『魔獣』について語り始めた。
「この世界には普通の動物以外にも、魔物と呼ばれる生物が居ることは知っているな?世界に満ちている『魔素』から出現すると言われている生物達だ。ゴブリンやワーウルフ、オーク等がこれに当たる」
「知っています!『魔素』の濃度が濃いところではより強力な魔物が生まれるのですよね!」
興奮を抑えることの出来ない私に対し、父上は淡々と話を続けていく。
「そうだ。『魔獣』とは、その『魔素』を普通の動物が取り込んでしまい、異常な進化を遂げてしまったモノの事を言うのだ。酷い獣臭がしたのはそのせいだろう。兎等であれば脅威ではないが、熊や虎が『魔獣』になるととんでもなく厄介な存在になる。この屋敷には『魔獣』についての書物が無かったからな。アレックスが知らなくても無理はない」
「なるほど!それで今回はどんな動物が『魔獣』になったのでしょうか?もしかして、匂いの強度で判別できるのでは?」
「そうだ。微かな獣臭であれば、ウサギや鳥などなろう。だが……今回の場合は熊の可能性がある。驚異度で言えばオーガレベルだな」
父上は腕を組みながらそう語る。そして、執事を呼ぶと何か耳打ちを始めた。執事が深く頷き、食堂から出ていく。その背中を見ることも無く、私は目の前に置かれた食事を口の中へと放り込んでいった。
私の頭の中は既に『魔獣』の事で埋め尽くされており、明日の狩りでどうやって『魔獣』と出会うか、ただそれだけを必死に考えていく。そして私は胸を高鳴らせながら食事を終わらせた。父上達の顔を見ることもせず、自室へと戻っていく。
この時、私は知らなかったのだ。熊の『魔獣』がどれだけ恐ろしい存在かという事を。
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