第7話
スキル検証二日目。私は昨日と同様、裏庭にスキルの検証を行っていた。
昨日の検証から得た情報を用いて、『知識枠』の一つに火魔法をセットしようと試みる。スキルを発動させると、目の前に半透明の板が出現した。その中には白い線で囲われた五つの四角い枠が描かれている。
その枠の中に『火魔法』の文字を埋め込むと、埋め込んだ枠が黄色へと変化した。直感的に、魔法が使えるようになったと理解できた。
以前エリスが見せてくれたように、天に向けて右手の平をかざす。
「『
私の右手の平から放たれた火の玉は、上空へと飛んで行った。『分析』で自分のステータスを確認すると、魔力が20減っていた。どうやら『火球』の魔力消費量は10のようだ。
私はそのままの勢いで、もう一つのエクストラスキルを発動させた。
「『再構築』!」
目の前に白く輝いた『火球』の魔法式が浮かび上がっていく。『火球』=<火の玉を><敵に向かって><真直ぐに放つ>と書かれた魔法式。その中にある<敵に向かって>の項を消去し、再び右手の平を真上へ向けた。
「『
先程と同じように、『火球』は天へと向かって飛んで行く。しかし、一発目よりも数秒早く消えてなくなってしまった。
「おおお、凄いな!敵が居ない場所に向けて放つのだから、消しても問題ないと思ったのだが、まさか射程距離が短くなるとは!」
白く煙を上げる空を見つめながら、私は喜びの声をあげた。急いで『分析』を発動させ、魔力消費量を確認する。すると、二発目の『火球』は魔力消費量5で放つことが出来たと分かった。
「なるほど!項を消去する分、魔法の効果は減少してしまう。そのかわり魔力消費量は抑えることが出来るという訳か!」
この検証結果から、魔力消費量は項の数によって決定されるという仮定が生み出せた。上手く活用すれば、魔法の威力や効果を落とさず、魔力消費量を抑えることが出来るかも知れない。
そのまま様々な方法で検証を続ける事一時間。面白いことに、万能と思われていた『再構築』スキルにも制限があることが発覚した。
一つ目の制限は、魔法式を必ず成立させる必要があるということだ。
至極当然な話であろうが、あくまで変更可能な部分は項の中身だけ。その項で形成された魔法式と『火球』を等式で表さなければならない。つまり<火の玉を>の部分を<水の玉を>にすると『火球』は発動出来なくなってしまうのだ。
そしてもう一つの制限は、実現不可能な内容を書き込むことは出来ないというものだ。『火球』の項の中身を<絶命させる>や<死に至らしめる>という文言にすると、魔法は発動しなかった。
更に、この検証の最中に項の中身を出来る限り多くしようと試みたが、どうやら文字数の制限などは無いことがわかった。だがその一方で、文字を多くすればするほど魔力消費量は上がっていくということも分かった。
◇
「アレックス、今日もスキルの検証をしてるのか?」
「はい。とても面白い検証結果が出ていますよ。後で父上にもご説明いたします」
私が顎に手を当てながら思考を巡らせていると、父上が話しかけてきた。父上の後ろにはユグル兄様もいて、二人とも剣を所持している事から剣の訓練を行うことが分かる。
これは再構築した『剣術』スキルを試すいい機会ではないだろうか?そう思った私は、父上に頼み込んで訓練に参加させて貰うことにした。
「父上。『剣術』のスキルに関しても検証したいことがありますので、もしよろしければ私も訓練に参加させていただいても宜しいでしょうか?」
「ああいいぞ!しかし、アレックスのスキルは凄いな!まさか魔法も剣術も使えるようになるとはな!」
父上は私の提案を快く了承してくれた。それに加えて私の能力を喜んでくれている。私はメイドから木剣を渡してもらい、父上と対峙した。ユグル兄様も訓練の邪魔にならぬように傍で見守ってくれている。
「よし、準備は良いな!何処からでもかかってこい!」
父上が剣を構えて、私に向かって叫ぶ。私は剣を右手に握りしめて父上に向かって走っていく。ユグル兄様のように素早い動きは出来ないが、私なりの全力だ。そして父上の目の前で剣を振りかぶり、大きな声でスキル名を叫んだ。
「『
私が発したスキル名を聞いた父上は、行動を予測して身構えた。自分が知っている『強斬』であれば、この後私は一歩後ろへと下がり、そして自分目掛けて剣を振るってくると思ったのだろう。しかし、私は後ろへ下がることなくそのまま父上目掛けて剣を振り下ろした。
「なに!!」
父上は慌てて私の剣を防御する。予測していた行動では無かったことから、父上は驚いていた。傍で見守っていたユグル兄様も父上と同じように声をあげて、目を見開いている。この二人を驚かせることが出来たということは、ひとまず私の検証も上手く行ったと言えるだろう。
「アレックス!今のはなんだ!『強斬』の動きではなかったぞ!」
父上が剣を鞘にしまい、私に詰め寄ってくる。私は落ち着いて父上の質問に答えた。
「父上が知っている『強斬』ですよ。ですが私のスキルで再構築してありますので、行動が通常の『強斬』とは違うのです。『強斬』は『強斬』=<攻撃力を少し高め><一歩後ろへと下がり><剣を振るう>という魔法式で成り立っています。その式の中にある<一歩後ろへと下がり>という項を消去したんです。だから私は後ろへ下がらずに攻撃できたんですよ」
「「......は?」」
私の答えに、父上もユグル兄様も合わせて変な声をあげた。昨晩の食事の際に家族には私のスキルについて話をしていたのだが、どうやら完全に理解してくれたわけではないようだ。
私は木剣を使って『強斬』の魔法式を地面へ書いていく。
言葉で説明して分からなくても、文字に起こせば理解は出来るだろうと思ったからだ。しかし、二人は地面に書かれた魔法式を見ても、私の言っている事が理解できていなかった。
「すまんが、アレックスの言うことはサッパリ分からん!だがお前の『強斬』スキルが私達のものと違うことは分かった!知らない者からすれば、お前の『強斬』を初見で見破れることは無いだろう!」
バシバシと私の肩を叩きながら、そう口にする父上。ユグル兄様も「凄いな!」と褒めてくれていた。私は二つ目の検証に移ろうと、再び父上に進言する。
「父上、もう一つ検証を行いたいスキルがありますので、宜しければもう一度手合わせをお願いしたいのですが」
「んー、私は別に問題ないがユグルの時間が減ってしまうからな。どうする、ユグル」
「私も問題ありません。寧ろアレックスが何をするのか見てみたいですし!」
「そうか!じゃあもう一戦やるかアレックス!」
ユグル兄様の承諾を得て、父上は再び剣を構える。それに反して、私は手に持っていた剣を鞘に戻し棒立ちの状態になった。不思議そうに私を見つめる父上に、私はお願いをする。
「では父上。私に向かって剣を振るってきてください。全力で構いません」
「いいのか?そんな棒立ちで避けれるとは思えんが……」
「大丈夫です。それを含めての検証ですので」
私の返事を聞いた父上は一呼吸した後、真直ぐ突っ込んできた。私は父上が行動を開始した瞬間にスキルを発動する。
「『居合<閃光>』」
スキルの発動と共に私の身体は自分の意志に反して、勝手に動作を開始する。目の前に振り下ろされそうになっている剣を回避するように、左側へと動き始めた。そして回避行動と同時に右手が剣を握りだす。
この『居合<閃光>』とはその名の通り剣術スキルで居合い技なのだが、勿論再構築を施している。『居合<閃光>』=<防御力を少し高め><敵の攻撃の瞬間><剣を振るう>という魔法式になっていたのを、『閃光』=<防御力を少し高め><敵の攻撃を回避し><剣を振るう>という魔法式に再構築したのだ。
その結果、私の身体は敵の攻撃を回避するために勝手に行動を開始した。制限はあるものの、万能すぎる『再構築』スキルに恐怖すら覚える。このスキルがあれば、世界の全てを知るという私の夢もきっと叶えられるだろう。
そう思っていたのも束の間、父上の剣が私の腹部を襲った。
「グエッ!」
思い切り振り払われた父上の剣により、私の身体は地面に倒される。さらに追い打ちをかけるかのように体中全身に激痛が押し寄せてきた。
「おい!アレックス!大丈夫か!!」
「アレックス!」
青ざめた表情で私に駆け寄ってくる父上とユグル兄様。
私は痛みで意識が遠のいていく中、ある結論を導き出すことに成功した。スキルは正しく発動されていた。父上の攻撃を回避しようとしていたのだから。問題があったのは私の肉体の方であった。
身体能力がスキルの効果を再現できる域までに達していなかったのだ。薄れゆく意識の中、ポツリと呟く。
「知識だけでは、足りないという事か……」
その言葉を最後に私の視界は真っ暗になった。
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