30 仲間が増えました
「なんで僕がこんなところに」
「ジ、ジルベール様と一緒にお食事……!」
エズラの面接が終わった後、ルロワ家の食卓には珍しく六名が着席していた。
本日採用となったエイヴァとエズラ、それからヘイデンとジルベール、エリンとリュドヴィックだ。
「ジルとエイヴァが王都に戻る前に話をしておきたかったからよ」
「わたくしがジルベール様の部下だなんて……!」
エイヴァは花のような笑顔を見せる。ジルベールもさすがに隊長の娘の前では静かにしているようだ。黙々と食べている。
採用された喜びを語るエイヴァの隣でエズラはぶつぶつと不満をつぶやいていた。
「僕は配達なんてしないぞ」
「こいつ、ドラゴンに乗れないんだ」
エズラの頭をがっしり掴んでヘイデンは笑った。
「乗れないんじゃない、嫌いなだけだ」
「高所恐怖症なんだ」
ヘイデンの言葉にエズラはムッとしたまま黙り込む。リュドヴィックは親近感がわいたが、自分の威厳のために黙ることにした。
「エズラは、頭はいいんだけどなあ。なんにせよ体力もなければ、こんな調子だから人望もない」
「おい」
「取り繕っても仕方ないだろう」
「ちょうどいいわ。私、そういう人を求めていたのよ」
エリンが嬉しそうな顔をすると、エズラは気味が悪いものを見るようにエリンをじっと見た。
「ああ心配しないで。エズラには、配達はしてもらわない。あなたは私たちと一緒にドラゴン事業の中核を担ってほしいの。今後どういう事業を運営していくか、あなたの頭脳を活かすことができるわ」
「よくわかっているようだな、僕のことを」
エズラは口元を緩ませて、ずり落ちかけている眼鏡に触れた。
「こないだ王都に行ったときの、あーなんだったかな。不快すぎて名前も忘れたけど。あいつと話して、思ったのよ。そういう人も欲しいって」
「なるほど」
「それは褒められている気がしないんだが」
エズラが微妙な表情になると、ヘイデンが肩をバシッとたたく。
「まあよかったじゃないか! エズラは王都の貴族への憧れもあるんだ。第一王子の下で働けるなんて光栄だろう!」
「ふん、憧れではない。僕は実際に貴族の血を引いているんだ」
「そうそう、こいつの母親は元々貴族令嬢でな。王都に派遣した正騎士と結婚して今は両親共にルロワに住んでる。エズラはルロワ生まれルロワ育ちだが」
「まあそうだったのね。そう思うと王都にもルロワと関わりのある人もいるのね」
エリンはそのあたりの事情を知らなかった。エイヴァのように王都に出て行ったルロワの人間もいれば、エズラの母親のように王都からルロワ島に移り住んだ者もいる。
「わたくしの友人にもいますわよ。王都に派遣されたルロワドラゴン騎士団をお父様に持つ友人が。彼はこのまま王都に住み続けて、学園卒業後は王立騎士団の訓練生になるらしいですわ」
「へえ。今度王都に行ったときに、ルロワに縁がある人たちに会ってみようかしら」
「ルロワに縁がある者をまとめておきます」
エリンの思い付きにジルベールが涼やかな声で答えた。速達便に直接影響は与えなくても今後何かの参考にはなりそうだ。
「わたくしもお手伝いしますわ! 頑張ります!」
エイヴァはやる気満々だが、エズラは相変わらずふてくされたままだ。
「エズラ。あなたの力が必要なんだけど、どうかしら? 一緒にやってくれる?」
エリンが確認すると、エズラは表情は変わらず頷いた。
「僕の力が必要なら貸してやってもいい。だが言っておくが、別に僕は元第一王子の下で働けることを光栄だと思っていない。島のバカたちは、大恋愛やらロマンスやらなんとか言ってたが、一国の王が、恋愛のために王位を譲ってこんな島にくるか? ありえないだろう。まったくバカバカしいし、なんて責任感のない人間だと思ったね。誰がそんな男に仕えることを誉れだと思うんだ」
エズラが早口で語るから、面々は呆気にとられた。エズラは気にすることなく続ける。
「だけど見てみれば、どうだ。国を捨てるほどの大恋愛をしているとはとても思えないな」
エズラは片眉を上げて、エリンとリュドヴィックを見た。
「そうだな、何かやらかしたんだろう。それで処罰を受けることになって……ああ、そうだ。島流しだな。大方国王がこの島を流刑地とみなした。そんなところだろう。まあどちらにしても、尊敬するに値しないね。どうしても僕の力が欲しいのなら、助けてやってもいいが」
エズラの語りに圧倒されていたが、リュドヴィックが声を出して笑い始めた。
「エリンがエズラを推した理由がわかったよ。いいな、僕もエズラを採用したいよ」
リュドヴィックは気を悪くする様子もなく笑っている。予想外の反応だったらしくエズラはきまり悪そうな表情に変わる。
「思った通り、ね。でもそういう人が欲しかったのよ」
エリンもにっこり微笑むから、ますます居心地が悪そうになる。
「エズラ……! そうだよ、わかってくれるかい? エリンとこの男は大恋愛なんかじゃないんだ! 国王におしつけられただけなんだよ! わかってくれて嬉しい。私もこんな男がエリンのパートナーとしてでかい顔をしているのは心底気に入らないんだ。でもこの島の人間ときたら皆賛成で……! 君のこと、心の友と呼ばせてもらってもいいかい?」
仲間を見つけた喜びでジルは涙をうるませている。
「なんなんだ、こいつらは」
「ははは。エズラのことを受け止めてくれる人がいるじゃないか! よく働けよ!」
「みなさま、とっても明るい方ですわね……!」
「あの男、アレでいいのか?」
「ええ、もちろんジルベール様はエリン様のことになると少々興奮されると噂は聞いておりましたの。実際に拝見できて、新しい一面を知ることが出来てとっても嬉しいですわ……!」
げんなりしているエズラをヘイデンが「よかったなあ!」とまた背中を叩く。
「まずはドラゴン速達便を成功させましょうね!」
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