2章 ドラゴン派遣サービス始めます!

28 ドラゴン事業を盛り上げてくれる人、大募集


 本日もルロワ家の館に島民が訪れていた。

 結婚式から五日後。一緒にドラゴン事業を盛り上げてくれる人、大募集! というわけで。採用試験をルロワ家で行っているのである。


 まず、領地経営については執事長のエドに大部分を任せることにした。今までもブルーノの補佐として任せていたこともあるし、信用もある。使用人はかなりの数がいるのでエドが抜けても大きな問題はない。エドの補佐も数名つけて、新しい執事長も立てた。

 次に、ドラゴン速達便の実行部隊。つまり速達便を実際に配達する人とドラゴンについては、以前から決めている。騎士団の中でも優秀な若い人材を三名。それから中年の夫婦。騎士団で正騎士を務めていた男性と、その妻は森でドラゴンの飼育を担当してくれていた女性だ。彼らは王都の王立騎士団に拠点を置き、普段は訓練に参加させてもらいながら仕事が入れば、速達便の仕事を行う。

 そして貴族への営業担当としてジルベール。普段は王立騎士団の一員として過ごし、週に何時間か貴族に速達便の案内をすることになっている。


 ここまでは、皆特別優秀な人ばかりだ。元々執事長として、ルロワドラゴン騎士団正騎士として、活躍をしていた人たちを起用した。

 

 ここからは、そうではない。

 現状、活躍ができていないひと、もっと活躍できるひとを採用する。リュドヴィックとエリンはそう決めた。


 今後のドラゴン事業を支えてくれる役割を募集する。

 二人が細かい雑務をしなくてもいいように、書類作成や経費計算などの事務手続きを進める者。

 将来的にジルベールに代わり営業を担当する者。

 そして。新規事業を発案してくれるような者。これはもし当てはまる人がいれば、というくらいだが。


 まず結婚式の日に来てくれた島民に用紙を配って、その場で記入してもらった。

 現在就いている仕事と、その仕事に対するやりがいと不満。本当はどんな仕事をしたいと思っているか。ルロワ島に対する想いなど。

 結婚式でなぜこんなものを書かされるのかと不思議な顔をしているたが、皆素直に記入をしてくれた。


 それを基に、二人が話を聞いてみたいと思った島民にこの場に来てもらうよう通達をしたのだ。

 五十名を超える島民と話をすることになっている。人数が多いので二日に分けて話をすることにした。

 

 面接会場の応接間から、一人の少女が出て行ったのを確認するとソファで隣に並んだリュドヴィックとエリンは顔を見合わせて頷いた。


「感じがいいな」

「リュドもそう思った? アンはすごく気が利くのよ。きっといい仕事をしてくれると思うわ」

「将来性もありそうだ」

「やる気もあるわね」

「事務担当だな」

「うん、そうしましょう」


 ルロワ家でメイドをしている十七歳の少女を事務担当として合格、とした。

 一応事務担当は二、三名で考えているが、どうせどこも人材は有り余っているのだ。いいと思った人材は全員採用しようと決めている。これから事業はどんどん大きくなっていくのだから(予定)、人数は多めに取っていてもいい。二人はそう考えた。


「次の方ー」


 エリンが声をかけると、応接間に入ってきたのはエドだった。同時に何やらいい香りがする。


「旦那様、奥様。休憩の時間です。昼食をお持ちしました」

「あ、もうそんな時間だった? ありがとう」


 長丁場となるので、一旦昼休憩の時間を挟んでいた。この時間は島民も訪れない。運んできてもらった軽食を食べながら二人は午前の振り返りをすることにした。


「今のところ、事務担当は二名決まったわね」


 午前に訪れた島民は真面目な者が多かった。このまま今の仕事を続けてもらった方がいいと思う人が多く、採用には至らなかった。その中でも新しいことに挑戦してみたいと思っていて、普段の仕事が細やかで丁寧なものを事務担当とすることにした。

 

「なかなか営業担当に向いている者はいないな」

「そうねえ。営業担当に関しては外部からスカウトした方がいいかもしれないわ」


 エリンはパンを齧りながら言った。ルロワの民はほとんど全員がルロワで生まれ、ルロワで育ち、旅行以外でルロワから出ることはない。王都に行ったこともなければ、貴族社会のことを知らない島民にはなかなか貴族向けの営業担当は難しい。


「あとは、こう、奇才! みたいな人が欲しいわね」

「そうだな」


 リュドヴィックはどちらかというと、秀才タイプでアイデアマンではない。エリンはもう何年もドラゴン事業について考えているので新しい風も欲しいところだ。


「あ」


 エリンは唇を拭こうとしてテーブルの上のナフキンに手を伸ばしたところで、リュドヴィックの手と重なった。リュドヴィックはグラスを取ろうとしていたらしい。


「す、すまない」

「こちらこそ」


 手が触れただけで、二人はぎこちなくなる。

 あの夜から二人の関係は何ひとつ進展していない。今も寝室で眠るのはエリンだけで、リュドヴィックは自室で眠っている。あれから夜に寝室で話をすることもためらわれて、夕食を終えた後はさっさと眠っている。

 表面上大きな変わりはない。だけど、以前と違うのは確かで。距離が近づくと、お互いやけに意識してどきまぎしてしまうのだ。


 なんとなく距離ができた昼食を終えると、二人は試験を再開した。

 午後は事務担当が新しく一名決まったのみで、大きな進展はなく採用一日目は終了した。


 

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